更新日:2024.06.03
ー 目次 ー
インボイス登録していない事業者(免税事業者)が取引先の場合、取引を続けるほど損失が大きくなる可能性があります。
できることなら課税転換(インボイス登録)してもらい、取引を続けたいと考える経営者もいらっしゃるでしょう。
しかし、課税転換を依頼しても拒否されるケースは少なくありません。本記事では、インボイス登録していない免税事業者との取引について、次のポイントを詳しく解説します。
▼この記事で解説する内容
|
これを読めば、免税事業者の視点と損失を回避するための正当な方法がわかります。交渉に役立つ知識となるので、ぜひ参考にしてください。
インボイス登録していない事業者(免税事業者)から仕入れをしても、仕入税額控除ができません。つまり、消費税の納税額が大きくなるということです。
引用元:国税庁「取引先からインボイスをもらえない?」
経過措置期間があるため2029年9月30日までは一定の割合で仕入税額控除できますが、2029年10月1日から控除できなくなります。
2029年10月1日以降にインボイス登録事業者と免税事業者から、同額の仕入れをおこなった場合の納税額の違いを表で確認します。
仕入れ先 |
インボイス登録事業者 |
免税事業者 |
仕入れ価格(税込) |
330円 |
330円 |
①消費税額(税率10%) |
30円 |
30円 |
消費者に商品を販売した価格(税込) |
550円 |
550円 |
②消費税額(税率10%) |
50円 |
50円 |
仕入税額控除 |
可(①-②) |
不可 |
消費税納税額 |
50円-30円=20円 |
50円 |
上表のように、同じ仕入れ価格ならインボイス登録事業者との取引の方が、消費税納税額を軽減できるためお得です。
多くの企業は登録(課税転換)してほしいと望むでしょう。しかし、免税事業者が登録しないのには理由があります。
▼主な理由
|
インボイスに登録すると消費税を納税する課税事業者になります。免税事業者からすれば手取りにできていた消費税額分を失うだけで、登録するメリットがほとんどありません。
免税事業者がインボイス登録するのは、登録しないことによるデメリットが免税のメリットを上回ったときです。免税事業者視点のメリット・デメリットは次のとおりです。
インボイス |
メリット |
デメリット |
登録する |
売上税額を仕入税額が上回ったときに還付を受けられる |
・消費税を納めなければならない ・適格請求書発行の手間がかかる |
登録しない |
消費税を納めなくてよい |
・クライアントから取引を停止される可能性がある ・課税売上が1,000万円以上になると選択できない |
次のケースに該当する場合は免税事業者のままでいる方が有利といえます。
仕入がない業種(サービス・スキルの提供など)仕入先が免税事業者クライアントから切られる心配がない(特許・特殊な技術があるなど)顧客が一般消費者で適格請求書を求められない課税売上が1,000万円以上になる見込みがない |
免税事業者から適格請求書発行事業者(インボイス登録)に転換すると、次のような事務処理が増えます。
事務処理にかける時間が増える分、利益に直結する活動ができなくなると考える免税事業者もいるでしょう。とくに個人事業主の場合、自らの時間が奪われることで売上を損なうリスクが高くなります。
インボイス対応にかかるコストには次のようなものがあります。
金銭的なコストだけでなく、適切な運用のための時間や手間といったコストもかかります。対応のためのコスト・リソースを割けない事業者の場合、インボイスに対応したいと考えていても現実的にできないケースがあるということです。
ただし、金銭的なコストについては補助金制度があるため、全額が費用負担になるわけではありません。「取引先にインボイス登録してもらうためにはどうしたら良いですか?」の項目で詳しく解説します。
インボイス登録していない取引先に関するよくある質問3つに回答します。
▼ここでわかること
|
取引先を変えずに損をしない方法を大きく分けると次の3種類です。
取引先が課税転換してくれれば、インボイス開始前と同じように仕入税額控除できます。また、取引先が課税転換を拒否した場合でも、消費税相当額を値引きしてくれれば損失は生じません。
どちらも拒否されたときは、自社製品の販売価格の見直しや他のコストカットを模索する必要があります。
なお、課税転換と値引きについては依頼または交渉なら問題ありませんが、強要すると違法になるため注意が必要です。事例をみておきましょう。
事例 |
違法性 |
見積段階で消費税額分の値引きが可能かどうか交渉した |
問題ない |
発注後あるいは納品後に消費税額分の値引きを要求した |
下請法違反 |
発注後あるいは納品後に消費税額分の支払いを拒否した |
下請法違反 |
取引を継続する見返りに、消費税額相当分の無償労働(スタッフの派遣など)を要求した |
下請法違反 |
課税転換を求め、価格交渉には応じなかった |
下請法違反 |
課税転換を求め、拒否した事業者に取引価格の引き下げを強要した |
独占禁止法違反 |
取引先の免税事業者に対して、課税転換(インボイス登録)を求めること自体は問題ありません。次のような文面で依頼しましょう。
▼文面の例 |
ただし、登録を強要するニュアンスを含めると違法になる可能性があります。インボイス登録を求めた事例と違法性は次のとおりです。
事例 |
違法性 |
課税転換(インボイス登録)を求めた |
問題ない |
課税転換を求め、拒否すれば取引価格の引き下げると通達した |
独占禁止法違反 |
課税転換を求め、拒否すれば取引をやめると通達した |
独占禁止法違反 |
なお、取引先の懸念事項が対応にかかる金銭的なコストを負担できないことのみであれば、補助金制度を紹介することで登録を前向きに考えてもらえる可能性はあります。補助金の種類と対象は次のとおりです。
補助金の種類 |
対象 |
補助対象 |
補助金額 |
IT導入補助金 |
中小企業・小規模事業者等 |
ITツールの導入 |
・~50万円 |
PC・タブレットの購入 |
~10万円(補助率1/2) |
||
レジ・券売機の購入 |
~20万円(補助率1/2) |
||
小規模事業者持続化補助金 |
小規模事業者等 |
・税理士相談費用 |
50~200万円(補助率2/3) |
免税事業者であることを理由に仕入れを止めること自体は違法ではありません。親事業者にも取引先を選ぶ権利があるからです。
ただし、タイミングと過程によっては違法となる可能性があります。免税事業者に対する行為の事例と違法性を表で見てみましょう。
事例 |
違法性 |
見積を確認したうえで発注を見送った |
問題ない |
課税転換を求め、拒否されたことを理由に発注しなかった |
問題ない |
発注後にもかかわらず一方的に取引を中断した |
下請法違反 |
課税転換するまで商品の納入を拒否した |
下請法違反 |
免税事業者からの仕入れでは仕入税額控除ができず、消費税納税額が増えるため損です。
同じ物を同じ金額で仕入れるなら、インボイス登録事業者を取引先に選ぶ方が節税できます。他社でも代替可能な物を仕入れるなら、仕入先の変更を検討しましょう。
免税事業者に課税転換を求めることは問題ないため、既存の取引先と交渉するのも選択肢の一つです。課税転換ができなくても、値引きをしてくれる可能性はあります。
ただし、要求する際に強要するニュアンスが含まれると違法になるリスクがあるため、伝え方には注意が必要です。迷ったときは弁護士をはじめとする専門家に相談しましょう。