更新日:2025.04.30
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インボイス制度の導入により、個人事業主やフリーランスからの仕入れについても、消費税の控除可否や取引時の対応が重要になっています。この記事では、「インボイスは個人からの仕入れでも必要か?」という疑問に対し、制度の概要からルール、リスク対策、実務対応までを徹底的に解説します。個人との取引が多い企業や経理担当者にとって、今後の仕入先選定や帳簿管理に欠かせない情報をわかりやすく整理しています。
※なお、会計用語としては「仕入れ」ではなく「仕入」と表記することが一般的ですが、本記事では一般の方により多く検索されている「仕入れ」の "送り仮名を含む表記" で統一しております。
インボイス制度(適格請求書保存方式)は、売手が買手に対して消費税の仕入税額控除を可能にするために、一定要件を満たした請求書(インボイス)を交付する制度です。企業や個人事業主を問わず、課税事業者であれば登録申請を行うことで「適格請求書発行事業者」になることができます。
そのため、個人であっても消費税の課税事業者として登録を行い、インボイスを発行することは可能です。たとえば、フリーランスのデザイナー、ライター、カメラマンなどの個人事業主であっても、インボイス発行を行っていれば、仕入先として仕入税額控除が可能になります。
個人からの仕入れで問題になるのが、相手が「免税事業者」である場合です。免税事業者とは、消費税の課税売上高が1,000万円以下であるなどの条件に該当し、消費税の納税義務が免除されている事業者を指します。これに該当する個人の場合、インボイス制度に登録していない場合が多く、インボイスの発行ができません。
インボイス制度において重要なのは、「個人か法人か」よりも「インボイス登録事業者か否か」が仕入税額控除の判断材料となることです。つまり、個人であってもインボイス発行事業者であれば課税事業者として取引先からの仕入税額控除は可能ですし、法人であってもインボイス未登録であれば控除の対象にはなりません。
ただし、実務上個人との取引は口頭やメールでのやりとりになりやすく、請求書や契約書の形式が整っていないことも多いです。そのため、仕入税額控除を適用するには、インボイスの記載事項に対応した書類を確実に受け取る必要があります。
例えば、以下の項目が記載されていなければ適格請求書として認められません。
項目 |
説明 |
登録番号 |
適格請求書発行事業者に付与されるTで始まる13桁の番号 |
取引年月日 |
実際の取引が行われた日付 |
取引内容 |
提供された役務や供給された商品の内容 |
税率ごとの対価の額 |
消費税率の区分ごとの金額(例:10%、軽減8%) |
税率ごとの消費税額 |
それぞれの税率に対応した消費税の額 |
書類の交付者氏名 |
インボイス発行事業者としての責任者名や屋号 |
以上の内容を踏まえると、個人からの仕入れであっても適格請求書発行事業者であれば、法人との取引と同様にインボイスが交付されるため、仕入税額控除が可能になります。しかし、インボイスが交付されない個人(未登録や免税事業者)との取引については、慎重な判断が求められます。
特に取引が継続的で年間仕入額が大きいケースでは、将来的な控除制限の影響を考慮し、仕入先の見直しやインボイス登録の依頼等の対応を検討する必要があります。
個人からの仕入れで、その個人がインボイス登録事業者でなくインボイスを発行できない場合には、通常の仕入税額控除は適用されません。特に、免税事業者である個人(課税売上高が年間1,000万円以下などに該当する者)からの仕入れについては、適格請求書が発行されないため、消費税の控除対象にはなりません。
インボイス制度には、経過措置期間が設けられており、導入当初から段階的に控除制限が強化されます。2023年10月1日から2026年9月30日までの3年間は、免税事業者等のインボイス未発行者との取引においても、一定割合の仕入税額控除が認められます。
期間 |
仕入税額控除可能割合 |
2023年10月1日 〜 2026年9月30日 |
80% |
2026年10月1日 〜 2029年9月30日 |
50% |
2029年10月1日以降 |
控除不可 |
このように、段階的に控除可能な割合は下がり、最終的にはインボイスなしの取引では消費税の仕入税額控除が完全に不可となります。経過措置期間中であっても、取引金額が大きくなれば実質的なコスト負担が増加するため、早めの対応が推奨されます。
インボイス制度における登録事業者かどうかは、国税庁が提供している「適格請求書発行事業者公表サイト(インボイス制度対応サイト)」で検索できます。事業者名や登録番号を入力することで、登録の有無や登録番号、有効期間などを無料で確認できます。
特に、個人事業主やフリーランスとの取引においては、法人に比べて未登録の場合も多いため、初回取引時には必ず相手に登録状況を確認し、証拠としてメールや書面などに記録を残しておくことが望ましいです。
仕入税額控除を適用するためには、取引時に受け取る適格請求書(インボイス)に必要な項目が網羅されていることが重要です。契約書や請求書の形式は自由ですが、次の記載内容が欠けていると税務署から否認される可能性があります。
項目 |
内容の説明 |
① 適格請求書発行事業者の氏名または名称 |
事業者の正式名称を記載(屋号可、法人名・代表者名) |
② 登録番号 |
「T+13桁の番号」で始まるインボイス登録事業者の番号 |
③ 取引年月日 |
実際に取引が行われた日または対象期間 |
④ 取引内容(軽減税率対象かどうか) |
商品やサービスの内容、軽減税率対象であれば明記 |
⑤ 税抜き金額または税込み金額と適用税率 |
8%、10%など税率ごとに区分し、合計金額を記載 |
⑥ 消費税額 |
税率ごとに区分された消費税額 |
⑦ 書類の交付年月日 |
発行日を明記(通常は請求書の日付と同一) |
これらの記載が不足していると、適格請求書として認められません。取引先が個人事業主であっても、これらの要件を満たす請求書を発行しているかを確認することが重要です。
免税事業者やインボイス未登録の個人からの仕入れについては、インボイスの交付がされないため、経過措置期間中は「帳簿及び一定の記載要件を満たす請求書等」によって仕入税額控除を受けることができます。
そのため、支出の事実を証明する書類(領収書、見積書、注文書、契約書など)を正確に保管しておくことが求められます。このような書類には、次のような情報を明記する必要があります。
項目 |
記載内容 |
取引年月日 |
実際に仕入れが行われた日 |
取引の相手方の氏名または名称 |
個人の氏名または屋号 |
取引内容 |
仕入れた商品の品目、数量、金額 |
対価の額(税抜または税込) |
支払った金額と消費税区分の明記 |
相手のインボイス登録の有無 |
未登録である旨を記録 |
加えて、代金の支払いに関しては、銀行振込明細や電子決済の記録なども、証拠書類として役立ちます。キャッシュレス決済や請求書発行システムを活用することで、証拠能力が高まります。
インボイス非対応の個人からの仕入れでは、仕入税額控除が適用できないため、実質的な仕入コストの増加につながる可能性があります。とくに、経過措置終了後の2029年10月以降は、控除額がゼロになるため、実質的な消費税の負担が企業側にのしかかることになります。
このような状況に備え、以下のような交渉や価格見直し策が考えられます。
すべての個人事業主がインボイス制度の登録に前向きとは限りません。とくに免税事業者である小規模事業者は、登録による納税義務の発生を懸念する傾向があります。そのため、過剰な圧力とならないよう慎重な態度とフェアな交渉姿勢が求められます。
まずは、該当取引先に対して制度の趣旨と影響を丁寧に説明し、インボイス登録を促すことが重要です。具体的には、登録を行わない場合に依頼側(発注側)が被る不利益、具体的には仕入税額控除ができずコストが実質的に増加するリスクがあることを伝える必要があります。
そのうえで、以下のような交渉の進め方が考えられます。
交渉ステップ |
対応内容 |
ポイント |
① 制度説明 |
インボイス制度や控除対象要件について正確に伝える |
相手が制度を誤解しているケースもあるため、丁寧な対応が必要 |
② 登録の提案 |
登録にかかる実務負担・税負担をシミュレーションして提示 |
登録済みであることが今後の取引条件の一部になると説明 |
③ 契約再締結の協議 |
価格・支払い条件等の変更の検討 |
登録をしないことを選択した場合の価格交渉に発展することあり |
ただし、免税事業者であることによって経済的・実務的デメリットが大きいと判断した個人事業主も少なくありません。そのような場合は、今後の取引継続可否の判断も避けられないテーマとなります。
個人からの仕入れ先がインボイス登録を行わない場合、長期的に継続的な取引関係を続けるためには、契約内容の見直しや最悪の場合は取引停止の判断が必要になるケースもあります。これは、企業側が仕入税額控除を行えないことによる実質的なコスト増に直結するためです。
こうしたリスクに対しては、以下のような管理策を講じることが望まれます。
また、公平性を保つ観点から、インボイス制度上不利な立場にある免税事業者に対して、対価の適正性を確保する取り組みも重要です。社会的には、「インボイス・ハラスメント」と呼ばれる事案も発生しており、一方的な契約解除などは長期的な信用低下にもつながりかねません。
よって、透明性あるコミュニケーションを心がけつつ、社内規定やガイドラインを用いて、リスクと倫理の両面に対応できる方策を整備していく必要があります。
インボイス制度により、購買部門と経理部門との連携の重要性が増しています。特に、個人との取引が多い業種(建設業、クリエイティブ業、農業、ライター業など)では、各案件ごとのインボイス登録状況や、仕入税額控除の可否などを正確に管理する体制整備が欠かせません。
そのため、次のような連携強化の取り組みが必要です。
また、会計ソフトや経理システムのアップデートも必要です。現行のシステムが適格請求書の要件に対応しているか、不足があれば追加開発やクラウド会計システムへの乗り換えなども検討しましょう。
さらに、税理士や外部の会計事務所と連携し、毎月の処理状況をレビューしておくことで、後々の税務調査などにおけるリスクを軽減することができます。
インボイス制度の影響により、個人からの仕入れにも適格請求書の有無が重要な意味を持つようになりました。
今後は、取引先の登録有無を正確に把握し、必要な書類整備とともに、仕入先との関係見直し・価格交渉を検討する必要があります。
早めの対応が、余計なコスト負担や取引トラブルを防ぐ鍵となります。