更新日:2026.09.30

ー 目次 ー
事務所の家賃や税理士の顧問料、リース料などを口座振替で支払っていると、毎月の請求書や領収書が発行されないことがあります。
「請求書がないと仕入税額控除を受けられないのでは」と不安に思う経理担当者の方も多いのではないでしょうか。
結論からいうと、登録番号などが記載された契約書と、口座振替の記録が残る通帳などをあわせて保存すれば、請求書なしの口座振替でも仕入税額控除を受けられます。
この記事では、国税庁のQ&Aの考え方をもとに、口座振替でインボイスの要件を満たす方法、契約書に必要な記載事項と足りない場合の通知書、2023年9月以前からの契約の扱い、相手が免税事業者・登録を取り消した場合の対応、売手側がやるべきことまでを解説します。
インボイス制度(適格請求書等保存方式)では、買手が仕入税額控除を受けるために、原則として売手が交付した適格請求書等と帳簿の保存が必要です。
ただし、適格請求書として必要な記載事項は、1枚の書類にすべて書かれている必要はありません。相互の関連が明確な複数の書類で記載事項を満たしていれば、それらをあわせて保存することで要件を満たせます。
| 問い | 答え |
|---|---|
| 請求書がもらえない口座振替でも控除できるか | できる。登録番号などが記載された契約書と、取引日が分かる通帳などをあわせて保存する |
| 口座振込の場合は何を保存するか | 契約書と、銀行が発行・提供する振込金受取書や振込明細等 |
| 契約書に登録番号等が書かれていない場合は | 売手から不足している事項の通知を受け、契約書と一緒に保存する |
| 相手が免税事業者の場合は | 経過措置により一定割合を控除できる。2026年10月1日からは70% |
| 居住用住宅の家賃は | 消費税が非課税のため、仕入税額控除のためのインボイス対応は不要 |
口座振替による支払いでは、契約時に取り決めた金額が毎月自動的に引き落とされます。
家賃や顧問料などの継続取引では、契約書を交わした後は取引のたびに請求書や領収書が発行されず、支払いの記録だけが通帳や入出金明細に残るケースがあります。
一方、仕入税額控除のために保存する適格請求書には、登録番号、税率ごとの対価の額と適用税率、税率ごとの消費税額等などの記載が必要です。
通帳だけではこうした情報を確認できないため、「請求書がない口座振替では仕入税額控除できないのではないか」という問題が生じます。
国税庁は、口座振替・口座振込による家賃の支払いについて、適格請求書に必要な記載事項を1枚の書類だけで満たす必要はなく、相互の関連が明確な複数の書類で満たしてもよいとしています。
たとえば、契約書に取引年月日以外の必要事項が記載されており、実際に取引した年月日を通帳の口座振替記録で確認できる場合は、契約書と通帳をあわせて保存することで適格請求書の保存要件を満たせます。
通帳だけを保存しても足りません。登録番号や税率、消費税額などが確認できる契約書・通知書等と、実際の取引年月日が分かる通帳等を組み合わせて保存するのがポイントです。
請求書が発行されない継続取引では、支払方法や売手側の対応によって、主に次の3つの方法があります。
| 方法 | 保存する書類 | 向いている場面 |
|---|---|---|
| ①契約書と通帳を保存 | 必要事項の一部が記載された契約書+口座振替の記録がある通帳等 | 契約書に登録番号等が記載されている、または通知書で補完できる場合 |
| ②契約書と振込明細を保存 | 契約書+銀行が発行・提供する振込金受取書や振込明細等 | 口座振替ではなく、自分で毎月振り込んでいる場合 |
| ③一定期間分の適格請求書を交付してもらう | 半年分・1年分などをまとめた適格請求書 | 契約書の記載事項が不足しており、売手がまとめて発行してくれる場合 |
最も基本的なのが、契約書と口座振替の記録が残った通帳等を組み合わせる方法です。
たとえば事務所家賃の場合、契約書には貸主の名称と登録番号、取引内容、月額の対価、適用税率、消費税額、借主の名称などを記載します。
毎月の取引年月日は契約書ではなく、実際に口座振替された日付が記録された通帳等で確認します。
契約書:登録番号・取引内容・月額・税率・消費税額などを確認
通帳:実際の取引年月日・支払金額を確認
契約書と通帳のどちらか片方だけでは必要事項を満たさないため、両者を関連付けて確認できる状態で保存しておきましょう。
自動の口座振替ではなく、毎月自分で振り込んでいる場合も考え方は同じです。
必要事項が記載された契約書とあわせて、銀行が発行・提供する振込金受取書や振込明細など、実際に振込みを行った年月日と金額を確認できる資料を保存します。
ネットバンキングで振り込んだ際に振込明細を電子データで受け取った場合は、電子帳簿保存法の電子取引データとして適切に保存してください。
適格請求書は、取引のたびに1枚ずつ交付する必要はなく、一定期間分の取引をまとめて交付することも認められています。
そのため、契約書に必要事項が不足している場合は、半年分や1年分の家賃・顧問料等をまとめた適格請求書を交付してもらう方法もあります。
ただし、毎回または一定期間ごとの発行は売手側の事務負担になります。継続取引では、契約書と通知書を整備して通帳と組み合わせて保存する方法のほうが運用しやすい場合があります。
契約書と通帳で対応する場合、適格請求書の6つの記載事項が全体として満たされているか確認します。
| 適格請求書の記載事項 | どの書類で満たすか | 確認ポイント |
|---|---|---|
| ①売手の氏名または名称と登録番号 | 契約書または通知書 | 登録番号(T+13桁)が記載されているか |
| ②取引年月日 | 通帳・振込明細等 | 口座振替・振込みを行った年月日が分かるか |
| ③取引内容 | 契約書 | 物件名・室番号・顧問業務など、取引内容を特定できるか |
| ④税率ごとに区分した対価の額と適用税率 | 契約書または通知書 | 月額と適用税率が確認できるか |
| ⑤税率ごとに区分した消費税額等 | 契約書または通知書 | 月額の消費税額等が記載されているか |
| ⑥買手の氏名または名称 | 契約書 | 自社名が正しく記載されているか |
インボイス制度開始前に作成した契約書では、貸主の登録番号、適用税率、消費税額等が書かれていないケースがあります。
こうした不足事項は、売手から別途通知を受け、契約書とあわせて保存することで補えます。
2023年9月30日以前から継続している契約で、契約書に適格請求書として必要な事項が不足している場合は、売手から不足事項の通知を受け、契約書とともに保存します。
通知の名称や様式に決まりはなく、「通知書」「覚書」「インボイス登録番号のお知らせ」などの形で構いません。
| 通知書に記載する項目 | 記載例 |
|---|---|
| 売手の名称・登録番号 | 株式会社〇〇不動産 登録番号 T1234567890123 |
| 対象となる契約 | 2020年4月1日付 賃貸借契約(〇〇ビル3階) |
| 適用税率・対価の額 | 月額賃料 110,000円(10%対象・税込) |
| 消費税額 | 消費税額 10,000円 |
| 通知日・買手の名称 | 2026年〇月〇日 〇〇株式会社 御中 |
通知が届いていない場合は、買手側から依頼して問題ありません。
依頼例
インボイス制度への対応のため、現在の契約に係る適格請求書発行事業者の登録番号、適用税率および消費税額等が確認できる書面をご共有いただけますでしょうか。
登録番号等の通知をメール本文やPDFなどの電子データで受け取ることもできます。
電子メール等を通じて授受した取引情報は電子帳簿保存法上の電子取引に該当するため、原則として電子データのまま保存します。
契約書が紙で、登録番号等の通知だけをメールで受けた場合は、紙の契約書と電子データの通知を関連付けて確認できる状態にしておきましょう。
国税庁のQ&Aでは家賃が例として示されていますが、契約に基づいて継続的に代金決済が行われ、取引の都度請求書等が交付されない課税取引についても、複数の関連書類によって適格請求書の記載事項を満たせるかを確認します。
| 取引の例 | 保存する書類の例 | 注意点 |
|---|---|---|
| 事務所・店舗・駐車場の賃料 | 契約書(+通知書)+通帳 | 住宅の貸付けに該当する家賃は非課税。事業用建物や施設としての駐車場等は課税取引となる |
| 税理士・社労士等の顧問料 | 顧問契約書(+通知書)+通帳 | 金額が毎月変動する場合は、請求書や一定期間分の適格請求書等で確認できる運用にする |
| コピー機・車両等のリース料 | リース契約書(+通知書)+通帳 | リース会社が別途登録番号等の案内を発行している場合はあわせて保存する |
| システム保守料・サブスクリプション | 利用契約・申込書(+通知書)+通帳 | 管理画面で適格請求書を取得できる場合は、そのデータを保存する |
| 団体の会費 | 会費案内・契約内容等+支払記録 | 対価性がない会費は消費税の課税対象外。具体的なサービスの対価となる会費は課税関係を確認する |
口座振替の相手が適格請求書発行事業者ではない場合や、継続取引の途中で登録が取り消された場合は、適格請求書による全額の仕入税額控除はできません。
ただし、インボイス未登録事業者からの課税仕入れについては、一定期間、仕入税額相当額の一部を控除できる経過措置があります。
たとえば、インボイス未登録の個人の大家へ課税対象となる事務所賃料を支払っている場合、適格請求書を受け取ることはできません。
しかし、令和8年度税制改正後の経過措置によって、2031年9月30日までは一定割合を仕入税額控除できます。
| 期間(取引日で判定) | 控除できる割合 | 月額11万円・消費税相当額1万円の場合 |
|---|---|---|
| 2023年10月1日〜2026年9月30日 | 80% | 8,000円 |
| 2026年10月1日〜2028年9月30日 | 70% | 7,000円 |
| 2028年10月1日〜2030年9月30日 | 50% | 5,000円 |
| 2030年10月1日〜2031年9月30日 | 30% | 3,000円 |
| 2031年10月1日以降 | 0% | 0円 |
経過措置を利用する場合は、区分記載請求書等と同様の事項を確認できる書類と、経過措置の対象であることを記載した帳簿の保存が必要です。
口座振替の継続取引では、契約書などで取引内容や対価を確認し、通帳等で各取引の年月日・金額を確認できるようにしておきましょう。
請求書等が毎回交付されない継続取引では、取引途中で相手が適格請求書発行事業者でなくなっても、その旨の連絡がなければ買手側が気づきにくいという問題があります。
国税庁も、必要に応じて適格請求書発行事業者公表サイトで相手方の登録状況を確認するよう案内しています。
| 確認のタイミング | 確認する内容 |
|---|---|
| 契約時・通知書受領時 | 通知された登録番号を公表サイトで確認し、名称や登録年月日を確認する |
| 決算期末など定期的に | 継続的な口座振替先について、取消年月日・失効年月日の有無を確認する |
| 2026年10月の税区分変更時 | インボイス未登録先を洗い出し、経過措置の控除割合を80%から70%へ切り替える |
継続契約では、「適格請求書発行事業者でなくなった場合は速やかに通知する」と契約書や覚書に記載しておくと、登録状況の変更を把握しやすくなります。
口座振替で代金を受け取る売手側も、適格請求書発行事業者であれば取引先が仕入税額控除できる状態を整えておく必要があります。
特に家賃や顧問料のように請求書を毎月発行しない取引では、新規契約時から必要事項を契約書へ入れておくと、その後の事務負担を減らせます。
| 対応 | 内容 |
|---|---|
| 新規契約書に必要事項を記載 | 登録番号、税率ごとの対価の額と適用税率、消費税額等を記載しておけば、取引先は契約書と支払記録を組み合わせて保存できる |
| 既存契約には通知書を送る | 契約書に不足している登録番号等を通知する。メールやPDFによる通知も可能 |
| 必要に応じて一定期間分の適格請求書を交付 | 半年分・1年分などをまとめて交付できる。交付した適格請求書の写し等は原則7年間保存する |
| 登録状況が変わった場合は取引先へ連絡 | 登録取消し等で相手の仕入税額控除に影響する場合は、実務上、早めに取引先へ共有しておくとトラブルを防ぎやすい |
住宅の貸付けに該当する家賃は消費税が非課税なので、仕入税額控除のためのインボイス保存は必要ありません。
一方、事務所・店舗・倉庫など事業用建物の賃料は課税取引です。
自宅兼事務所については、賃貸借契約上どのような用途で貸し付けられているかなどによって課税関係が異なる場合があります。住宅としての貸付けに該当するかを契約内容から確認してください。
原則としてできません。
通帳は実際に支払いを行った年月日や金額を確認できますが、適格請求書発行事業者の登録番号、適用税率、消費税額等までは確認できません。
それらの情報が記載された契約書や通知書等とあわせて保存する必要があります。
一定規模以下の事業者であれば、税込1万円未満の課税仕入れについて、一定事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除を受けられる「少額特例」を利用できる場合があります。
対象となるのは、基準期間の課税売上高が1億円以下、または特定期間の課税売上高が5,000万円以下の事業者で、適用期間は2029年9月30日までです。
1万円未満かどうかは一回の取引単位で判定します。
契約書に取引年月日以外の適格請求書の記載事項がそろっており、実際の取引年月日を通帳等で確認できる場合は、毎月別途請求書を受け取らなくても、これらをあわせて保存することで要件を満たせます。
ただし、契約途中で賃料や顧問料、税率などが変更された場合は、変更後の内容を確認できる覚書・通知書・適格請求書等を追加で保存してください。
請求書や領収書が毎回発行されない口座振替でも、登録番号、適用税率、消費税額等が記載された契約書と、口座振替の取引年月日が分かる通帳等をあわせて保存すれば、仕入税額控除の要件を満たせます。
2023年9月30日以前からの契約で、契約書に登録番号などの記載が不足している場合は、売手から不足事項の通知を受け、契約書と一緒に保存しましょう。
また、相手がインボイス未登録事業者の場合は、経過措置によって一定割合の仕入税額控除を受けられます。2026年10月1日からは控除割合が80%から70%へ下がるため、継続的な口座振替先についても税区分を確認しておく必要があります。
取引の途中で売手の登録が取り消される可能性もあるため、請求書が毎回交付されない取引ほど、登録番号や登録状況を定期的に確認する運用を整えておきましょう。