更新日:2024.12.24
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インボイス制度では、1枚の請求書内で異なる税率の消費税を扱うことがあるため、混乱の原因になります。同じ請求書であっても記載方法も決まっているため、ルールどおりの対応が必要です。
請求書を発行する経理担当者は、業務をスムーズに進めるために、正しい計算方法やミスの生じやすい箇所の把握が重要です。
本記事では、インボイス制度における消費税の計算方法について、インボイス制度や消費税の基礎知識もあわせて解説します。
インボイス制度とは、2023年10月1日からはじまった複数税率に対応した消費税に関する仕組みです。制度に対応するためには、定められた項目を記載する「適格請求書(インボイス)」が必要です。
なお、インボイス制度では「仕入税額控除」が受けられ、これは売上時の消費税から仕入時の消費税を差し引けるようになります。また、適格請求書を発行するためには、適格請求書発行事業者に登録しなければいけません。
インボイス制度導入前は、計算方法や申告内容によって納付すべき消費税額を過少申告できる状況が存在していました。しかし、インボイス制度の導入により、適切な税額計算と適格請求書に則った納税が求められるようになり、納めるべき消費税額をごまかすことが難しくなっています。
多くの事業者は、適格請求書発行事業者への登録や適格請求書の作成など、インボイス制度に対応した業務をおこなわなければいけません。
適格請求書を発行する際、インボイス制度の要件を満たすためには、定められた6つの項目(※)を記載しなければいけません。
適格請求書の要件は1枚の書類で満たすのが原則です。ただし例外もあり、複数の書類でインボイス制度の要件を満たしている場合、それらの書類を1点の適格請求書として扱えます。
(※)参考:国税庁「インボイス制度について」
インボイス制度の導入によるルール変更は、事業者に大きな負担を与える可能性があるため、業務負担を軽減する目的で経過措置が設けられました。この経過措置により、導入後一定期間は帳簿と従来の請求書の保存をおこなうことで、免税事業者からの仕入れでも仕入税額控除を受けることが可能です。
ただし、この控除額は段階的に減少します。2026年9月までは控除額が80%、2029年9月までは50%に引き下げられ、2029年10月以降は適格請求書がない場合、仕入税額控除を受けられません。
出典:日本税理士会連合会「インボイス制度実施に当たっての経過措置について」
2019年10月1日から、消費税率が8%から10%に引き上げられると同時に、軽減税率制度が導入されました。この制度では、標準税率(10%)と軽減税率(8%)が共存し、それぞれ異なる内訳が設定されています(※)。
軽減税率の適用対象は、酒類を除く食料品や週2回以上発行される定期購読の新聞に限定されています。
なお、これらの内訳は、納税額を計算する際に重要な要素です。とくに、税率部分は仕入税額控除や納税計算に直接影響を与えるため、正確に理解しておく必要があります。
(※)参考:国税庁「消費税の軽減税率制度」
インボイス制度の導入により、消費税の計算方法に変更が生じました。消費税を正しく納付するためには、新しい計算方法を正確に理解することが重要です。
ここでは、インボイス制度における消費税の計算方法について解説します。
インボイス制度導入前は、品目ごとに小数点以下を切り捨てる端数処理が認められていました。しかし、制度導入後は税率ごとに端数処理をおこなわなければいけません。
また、消費税額の計算方法は、2つのパターンがあります。
1つ目は税抜金額をもとにする方法です。標準税率と軽減税率それぞれの対象品目の税抜金額を合計します。その合計金額に、それぞれの税率(10%または8%)を掛けて消費税額を計算します。
2つ目は、税込金額をもとにする方法です。標準税率の税込金額の合計に「10/110」を掛け、軽減税率の税込金額の合計に「8/108」を掛けて計算します。
インボイス制度導入前は、1年間の総税込金額をもとに消費税を計算する「割戻し計算」が一般的でした。インボイス制度導入後は、「積み上げ計算」が新たに選択可能となり、計算方法の選択肢が広がりました。
積み上げ計算とは、適格請求書ごとに計算した消費税額を一つひとつ積み上げて、最終的な納付税額を求める方法です。売上税額(売上時の消費税)をどちらで計算するかによって、仕入税額(仕入時の消費税)の計算方法も変わるため注意しましょう。
出典:国税庁「適格請求書等保存方式の下での税額計算 2ページ」
積み上げ計算は適格請求書ごとに計算するため、正確性が高くなる一方で計算作業が増えます。ただし、場合によっては積み上げ計算の方が消費税額が低くなる可能性があるため、適切な計算方法の選択が重要です。
適格請求書の要件は、複数の書類で満たすことが可能です。その場合、消費税計算における端数処理のルールが変わるため注意が必要です。
ここでは、1枚の請求書と4枚の納品書を例に挙げて、複数枚の書類をまとめて1点の適格請求書として扱う際の計算方法について解説します。なお、端数処理は1種類の書類でおこなうのがポイントです。
このケースでは、納品書には取引内容を日付ごとに記載し、請求書には登録番号や税率ごとに区分した消費税額、および適用税率を記載します。
計算方法は、1枚の適格請求書の場合と変わりません。具体的には、各納品書に記載されている税込金額を合計し、その金額をもとに消費税を計算します。
出典:国税庁「消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A」113ページ
納品書で消費税を計算する場合、税率ごとに端数処理をおこなう点は変わりませんが、納品書ごとに計算をおこなう必要があります。たとえば、4枚の納品書がある場合、それぞれの納品書について税率ごとに消費税を計算し、4回端数処理をおこないます。
なお、4枚の納品書で計算した消費税の合計を、請求書に記載することも可能です。
出典:国税庁「消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A」115ページ
インボイス制度の経過措置(※)では「積み上げ計算」と「割戻し計算」の2つの方法から、消費税を計算可能です。
取引ごとの税込金額をもとに消費税額を計算する「積み上げ計算」では、以下の計算式を使用します。
取引全体の支払対価の合計金額をもとに消費税額を計算する「割戻し計算」では、以下の計算式を使用します。
「積み上げ計算」と「割戻し計算」で計算した結果、小数点以下の数字が生じた場合は、切り捨てや四捨五入をおこないます。
なお、ここで紹介した計算式は、2026年10月まで適用される控除率(80/100)をもとにしたものです。2026年10月から2029年9月までは控除率が50%に引き下げられるため、新たな数値(50/100)で計算する必要があります。
(※)参考:国税庁「経過措置」
参考:国税庁「免税事業者等からの課税仕入れに係る経過措置を適用する場合の税額計算」
本記事では、インボイス制度における消費税の計算方法について、インボイス制度や消費税の基礎知識もあわせて解説しました。
インボイス制度は、消費税を正確に納付するための重要な仕組みで、事業者には適切な消費税の計算方法を理解し、実務に活かすことが求められます。とくに、適格請求書の保存や端数処理のルールなど、制度に対応するための準備は欠かせません。
消費税の計算やインボイス制度に不安がある場合は、専門家への相談や会計システムの導入が有効です。正確な対応を心がけ、適切に消費税を納付することで、トラブルを未然に防ぎ、円滑な事業運営を目指しましょう。