更新日:2025.01.30
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取引先との契約で振込をおこなう際には手数料が発生します。しかし、事業者のなかには、振込手数料の支払いをお互いのどちらが支払うかで悩んでいる方も少なくありません。また、適格請求書の保存と会計処理の記帳方法について迷う事業者も多くいます。
基本的には、インボイス制度でも振込手数料は買い手側が支払います。しかし、お互いの同意があれば、どちらが支払いをしても問題ありません。
本記事では、インボイス制度における振込手数料と仕訳方法を解説します。
振込手数料とは、銀行などを利用して代金を支払う際に発生する手数料のことです。民法第485条では、基本的にお金を支払う人が、手数料も一緒に払うことになります。
第四百八十五条 弁済の費用について別段の意思表示がないときは、その費用は、債務者の負担とする。ただし、債権者が住所の移転その他の行為によって弁済の費用を増加させたときは、その増加額は、債権者の負担とする。 |
しかし、取引当事者で取り決めがあった場合は、どちらが負担しても問題ありません。
もし、例外的な取り決めをおこなう場合は、必ず書面で残しておくことをおすすめします。とくに、はじめて取引をおこなう取引先であれば、お互いの考えをきちんと確認して約束を交わすことでトラブルを未然に防げます。
これは取引における基本的なルールとして広く認識されており、インボイス制度が導入された後も変更はありません。
インボイス制度は、消費税に関する請求書の記載や保存などの対応方法を決めたルールです。「適格請求書等保存方式」にしたがって、取引内容や消費税率、消費税額などの所定の要件が記載された「適格請求書(インボイス)」を発行し、保存が定められています。取引先は、適格請求書を受け取ることで仕入税額控除が受けられます。
振込手数料に関するルールは、インボイス制度が開始しても今までと同じ取扱いです。
代金を振り込む際、場所や方法によって手数料がかかります。また、銀行やネットバンキングでの支払いの場合は適格請求書を受け取ります。どのタイミングで何が必要なのか理解しておくことで、実際に振込をする際にスムーズに進められるでしょう。
ここでは、振込手数料の負担が必要となる状況を紹介します。
ATMで代金を振り込む際に、手数料がかかります。しかし、3万円より少ない金額の場合は自動販売機特例の対象となるため、適格請求書の発行は必要ありません。
自動販売機特例とは、自動で料金の受け渡しができる機械において商品販売が3万円より少ない場合に、インボイスが免除される制度です。
なお、帳簿への保存は必須なため必ず記載しましょう。
借方 |
貸方 |
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買掛金 |
30,000円 |
普通預金 |
30,000円 |
支払手数料 |
400円 |
普通預金 |
400円 |
銀行での支払いでも振込に手数料がかかるため、適格請求書を受け取る必要があります。振込すると、窓口で適格請求書が受け取れるため、必ず保管しましょう。
しかし、金融機関での取引が多くなり、適格請求書の保存が難しい場合は以下の2点があれば問題ありません。
帳簿への記載は必要になるため必ず保存しましょう。
借方 |
貸方 |
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買掛金 |
30,000円 |
普通預金 |
30,000円 |
支払手数料 |
400円 |
普通預金 |
400円 |
ネットバンキングで振込をした場合も、適格請求書を保存します。ネットバンキングが電磁的記録で適格簡易請求書を渡してもらえる場合には、ダウンロードして保存しましょう。
しかし、同じ手数料の支払いを繰り返す場合、一定の基準を満たすのであれば、ダウンロードをしない状態でも仕入税額控除の適用ができます。
借方 |
貸方 |
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買掛金 |
30,000円 |
普通預金 |
30,000円 |
支払手数料 |
400円 |
普通預金 |
400円 |
基本的に振込手数料は支払う側が負担します。しかし、お互いの同意によってはどちらが振込手数料の支払いをしても問題ありません。双方とも支払方法と仕訳方法を理解しておくことで、売り手側が手数料を引き受けた際にスムーズに進められるでしょう。
ここでは、売り手側が振込手数料を支払った場合の仕訳の記入例を3つのケースで解説します。
まず、売上値引きとして商品の代金から振込手数料を引いて支払う方法が挙げられます。例えば、商品が30,000円で振込手数料が400円の場合は以下のとおりです。
つまり、買い手側が手数料分を値引きする対応をおこないます。この場合、支払う側は29,600円のみ振り込めばいいので、余計な手間がかかりません。
売り手側は売上の一部を返還しているため、通常は買い手側に対して「適格返金請求書」の発行が必要です。しかし、今回は返金額が1万円未満となるため、インボイスの義務がなくなります。
借方 |
貸方 |
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買掛金 |
29,600円 |
普通預金 |
30,000円 |
支払手数料 |
400円 |
普通預金 |
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基本的に振込にかかる手数料は買い手側が払います。しかし、売り手側が支払う手数料を買い手側が立て替えて振込をしたものとしても問題ありません。この場合、売り手側は手数料分を引かれた金額が振り込まれます。
また、売り手側は以下の2点を買い手側から受け取ります。
注意点として、ATM振込の場合は自動販売機特例によりインボイスが不要となります。
借方 |
貸方 |
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買掛金 |
29,600円 |
普通預金 |
30,000円 |
支払手数料 |
400円 |
普通預金 |
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振込手数料を「サービス料金」として扱い、処理する方法もあります。この場合、売り手側はサービス料金とした手数料分を引かれた金額が振り込まれます。
【例:商品が30,000円で手数料が400円の場合】
買い手側がインボイス制度に登録していた場合は、売り手側も仕入税額控除を受けられます。
借方 |
貸方 |
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買掛金 |
29,600円 |
普通預金 |
30,000円 |
支払手数料 |
400円 |
普通預金 |
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基本的に手数料は買い手側が払います。しかし、お互いの話し合いで決めた場合、売り手側でも支払いができます。そのため、事前に振込手数料の責任の所在を決めておくことが必要です。適切に理解しておくことで、契約後のトラブルを抑えられるでしょう。
ここでは、振込手数料の負担を決めるための方法を2つのケースで紹介します。
新規取引先と振込手数料の負担を話し合う適切なタイミングは、契約書の作成前です。お互いの同意が取れた後に契約書に明記すると、後々のトラブルを未然に防げます。
契約書には「振込手数料は〇〇が負担する」と明記しておきましょう。
もし、契約書を作成した後になると再度、契約書の制作に時間がかかったり、契約内容の開始に時間がかかったりしてしまいます。トラブルを避けるためにも事前に話し合いをしておきましょう。
継続取引先との振込手数料負担の変更は慎重に交渉しましょう。一方的に手数料の負担を要求すると、関係性に影響を及ぼす可能性があるためです。
もし、今まで振込手数料を負担していたが、今後は取引先が対応してほしいと考えた場合は以下の交渉から入りましょう。
あくまで対等な立ち位置として、検討してもらえるよう提案することがおすすめです。
本記事では、インボイス制度における振込手数料の責任と記帳に必要な仕訳方法を解説しました。
振込手数料の支払いは帳簿への仕訳方法が必要です。しかし、振込方法や負担者によって以下の対応が異なります。
それぞれの方法を理解することで、実際に対応する際にスムーズになるでしょう。また、原則として買い手側が振込手数料を支払いますが、お互いの話し合いで決めた場合はどちらが負担しても問題ありません。
トラブルに発展しないように取引先と十分に話し合いましょう。