更新日:2024.06.03
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適格請求書とは、仕入税額控除を受けるために必要な項目を記載した請求書や納品書などの書類です。売り手が買い手に対して、消費税額や適用税率などを伝えることを目的としています。しかし「適格請求書の発行が必要になるケースが分からない」「適格請求書の発行方法が分からない」とお悩みの方は多いのではないでしょうか。
インボイス制度では、消費税率10%のみの場合でも原則的に適格請求書を発行しなければなりません。今回の記事では、適格請求書の書き方や押さえておくべきポイントを詳しく解説します。適格請求書なしで仕入税額控除を受けられるケースも紹介しているので、自社でインボイス制度を導入している経理担当の方はぜひ参考にしてください。
インボイス制度が導入されたことで、仕入税額控除を受けるためには適格請求書が必要になりました。そのため消費税率が10%のみの場合でも、取引先から求められたときは適格請求書の交付義務があります。ただし税率8%の対象品目がないときは、軽減税率の合計金額は記載しなくて問題ありません。
一方で取引に税率10%の対象品目がなく8%だけの場合は、請求書内に軽減税率対象品目のみである旨を明記しなければなりません。税率によって適格請求書へ記載するべき項目が異なるため注意が必要です。
適格請求書のフォーマットに決まりはなく、自社の様式で発行することができます。しかし以下の項目が記載されていない場合、適格請求書として認められないため注意が必要です。
書類作成者の氏名または名称および登録番号 |
適格請求書を発行する側の事業者名または登録番号を記載する。 |
取引年月日 |
取引を行った日付を記載する。 |
取引内容(軽減税率の対象品目である旨) |
「※」などの記号を使用し、軽減税率の対象品目を明記する。 |
課税資産の譲渡等の税抜価額又は税込価額を税率ごとに区分して合計した金額及び適用税率 |
税率10%と8%に分けて、それぞれ合計の取引金額・適用税率を記載する。 |
税率ごとに区分した消費税額等 |
税率10%と8%に分けて、それぞれ合計の消費税額を記載する。 |
書類の交付を受ける事業者の氏名または名称 |
適格請求書を交付してもらう側の事業者名を記載する。 |
適格請求書発行事業者への登録時に番号が発行されます。法人の事業者は「T+法人番号」、個人事業主や法人番号がない事業者は「T+固有番号(13桁)」が登録番号となります。
仕入税額控除を受けるためには、原則的に適格請求書が必要です。しかしすべての事業者が発行できるわけではありません。適格請求書発行事業者に登録していない場合は発行できないため、取引前に確認しておきましょう。ここでは、適格請求書で押さえておくべき以下4つのポイントを解説します。
買い手側の業種によっては、通常よりも記載項目が少ない適格簡易請求書が認められるケースもあります。売り手側はポイントを押さえたうえで、適切な書類を発行することが大切です。
適格請求書・適格簡易請求書を発行できるのは、適格請求書発行事業者登録を行った課税事業者のみです。納税地を所轄する税務署に申請書を提出し、審査を経て登録されます。登録されていない課税事業者や免税事業者は、買い手から求められたとしても適格請求書を発行できません。
また免税事業者が適格請求書を発行するためには、まず「消費税課税事業者選択届出書」を提出して課税事業者になる手続きが必要です。(※1)適格請求書発行事業者として登録された日の売上分から、消費税の納税義務が発生します。
※1 免税事業者が登録を受けるためには、原則として消費税課税事業者選択届出書を提出し、課税事業者となる必要がある。ただし登録日が令和5年10月1日から令和11年9月30日までの日の属する課税期間中である場合には登録申請に関する経過措置の適用により、消費税課税事業者選択届出書を提出しな くても登録を受けることが可能。
以下のような不特定多数の人を顧客とする業種は、適格簡易請求書が認められています。
適格簡易請求書は簡易インボイスとも呼ばれており、相手の氏名や名称の記載が必要ありません。理由として、請求書を発行するたびに確認するのが難しいことが挙げられます。
必要事項が不備なく記載されている場合は、レシートや領収書も適格簡易請求書として有効となります。ただし手書きの領収書は書き間違い・不正が生じやすいため、機械で発行された書類の方が税務上の信頼性は高いです。
また、支出の中身が分からず経理処理できないケースもあるので、可能な限り手書きの領収書は避けましょう。レシートや領収書が発行されてない場合は、以下の書類などで代用できます。
上記の書類も同様に、記載項目を満たしていれば適格簡易請求書として扱うことが可能です。
適格請求書は売り手・買い手に関わらず、交付した日または提供した日が属する課税期間の末日の翌日から2ヶ月を経過した日から7年間の保存が義務付けられています。たとえば、2023年11月1日に適格請求書を発行した場合、課税期間の末日は2023年12月31日となります。
課税期間の末日の翌日は2024年1月1日であり、2ヶ月後は2024年3月1日です。つまり2024年3月1日から7年間保存しなければなりません。また2022年1月に施行された改正電子帳簿保存法によって、データで交付された請求書はそのままの状態で保存することも義務付けられているため注意が必要です。
インボイス制度の導入により原則として、仕入税額控除を受けるためには適格請求書が必要です。ただし以下のような取引は、適格請求書がなくても仕入税額控除が適用されます。
引用:適格請求書等保存方式の概要 -インボイス制度の理解のために-
適格請求書がなくても仕入税額控除を受けられるのは、基本的に請求書などを交付するのが困難な取引です。また、一定の規模以下の事業者が行う課税仕入れにかかる支払い対価の額が1万円未満の取引も、経過措置として帳簿を保存すれば仕入税額控除が認められます。
経過措置に該当するのは基準期間(※1)の課税売上高が1億円以下、特定期間(※2)の課税売上高が5,000万円以下の事業者です。令和5年10月1日から令和11年9月30日までの間に行う課税仕入れが対象となります。1万円未満は1商品ごとの金額ではなく、1回の取引でかかる税込金額によって判断します。
※1 原則として個人事業者は前々年、法人は前々事業年度
※2 原則として個人事業者は前年の1月1日から6月30日まで、法人は前事業年度開始の日以後6月の期間
消費税率10%のみの適格請求書を発行する際は、以下3つの点に注意が必要です。
インボイス制度に対応した適格請求書は、記載項目に加えて消費税における端数処理の方法も異なります。注意点を押さえ、いつでも正確な適格請求書を発行できるようにしておきましょう。
適格請求書は電子データでの交付も可能ですが、専用システムが必要になります。システムの導入にはコストがかかるものの、紙代や郵送代など不要なコストの削減につながります。またクラウド上に適格請求書が保存されるため、内容や送信履歴の確認が容易です。
適格請求書を保管するスペースが不要で、紛失するリスクが少ないこともメリットとして挙げられます。ただし電子インボイスの場合は、電子帳簿保存法に準じて保存しなければなりません。
書類が複数枚に分かれている場合でも、全体で記載項目を満たしていれば適格請求書として有効となります。ただし納品書番号を請求書に記載するなど、各書類の関連性を明確にしなければなりません。関連性が明記されていない場合、適格請求書と認められない可能性があるため注意が必要です。
適格請求書の消費税額は、1つのインボイスにつき税率ごとに1回ずつ端数処理を行います。切り上げ・切り捨て・四捨五入など、具体的な処理方法は事業者で決めることができます。また税抜・税込金額どちらを採用するのかも事業者の判断に委ねられているため、社内で統一しておくことが大切です。
税抜金額から消費税額を算出する場合は、合計額に10%をかけて端数処理を行います。商品ごとに10%をかけて合計する計算方法は、適格請求書では認められていないため注意が必要です。税込金額から算出する場合は、合計額に10/110をかけた金額に端数処理を行います。
適格請求書はインボイス制度の導入により、仕入税額控除を受けるために必要になった書類です。軽減税率の対象品目がなく税率10%のみの場合でも、適格請求書を発行しなければなりません。ただし小売業や飲食店業など不特定多数の人が顧客となる業種は、簡略化した適格簡易請求書でも認められます。
売り手側が適格請求書・適格簡易請求書を発行するためには、適格請求書発行事業者の登録が必須条件です。免税事業者の場合は、まず課税事業者になる必要があります。また適格請求書には独自の端数処理や記載項目があるので、経理担当の方はしっかりと理解しておきましょう。