更新日:2024.06.02
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インボイス制度の開始により、仕入税額控除を受ける事業者は適格請求書が必要になりました。しかし「消費税率10%のみの場合の書き方が分からない」「消費税額を計算する端数処理の方法が分からない」とお悩みの方は多いのではないでしょうか。
今回の記事では、適格請求書内の品目が消費税率10%のみのフォーマットを紹介します。消費税額の端数処理や適格請求書の発行時における注意点も解説するので、自社でインボイス制度を導入している経理担当の方はぜひ参考にしてください。
適格請求書とは、売り手が買い手に対して正確な適用税率や消費税額などを伝えるための書類です。買い手側が仕入税額控除を受ける際は、インボイス制度により適格請求書が必要となります。ただし適格請求書は従来の区分記載請求書と記入項目が異なるため、経理担当の方は違いを理解しておくことが大切です。ここでは、適格請求書の定義と区分記載請求書との違いを見ていきましょう。
適格請求書はインボイスとも呼ばれており、必要な項目を記載した書類のことです。売り手が適格請求書発行事業者に登録している場合、買い手に対して交付義務があります。買い手は適格請求書を売り手に発行してもらうことで、仕入税額控除の適用が可能です。
仕入税額控除とは、仕入れや経費にかかる消費税を差し引くことで二重課税を防ぐ制度です。事業者が納税する消費税額は、「売上時の消費税額−仕入れ時の消費税額」で算出できます。
インボイス制度が開始される前は、経過措置として区分記載請求書が使用されていました。適格請求書と区分記載請求書の記載項目の違いは、以下のとおりです。
適格請求書 |
区分記載請求書 |
|
発行事業者の氏名または名称 |
◯ |
◯ |
登録番号 |
◯ |
× |
取引年月日 |
◯ |
◯ |
取引の内容(軽減税率対象品目の場合はそうであることが分かる旨の記述) |
◯ |
◯ |
税率ごとの取引の税抜金額または税込金額の合計額 |
◯ |
◯ |
税率ごとに区分して合計した税抜額及び税込額と適用税率 |
◯ |
× |
税率ごとに区分した消費税額等 |
◯ |
× |
書類を受け取る事業者の名称 |
◯ |
◯ |
適格請求書は区分記載請求書より、必要な項目が3つ多くなります。登録番号は適格請求書発行事業者になると、税務署から通知されます。法人は法人番号、個人事業主や法人番号がない事業者は固有番号が割り振られ、どちらの場合も「T+13桁の番号」になるのが特徴です。
適格請求書のフォーマットは決まっておらず、自社の様式で発行することができます。ただし記載項目に不備があると、適格請求書として認められないため注意が必要です。経理であれば誰でも発行できるように、社内でフォーマットを統一しておくことをおすすめします。
消費税率10%のみの適格請求書のフォーマットを作成する際は、以下の項目を入れるようにしましょう。
引用:適格請求書等保存方式の概要 -インボイス制度の理解のために-
適格請求書内の品目が消費税率10%のみの場合は、軽減税率の合計額の記載は不要です。
小売業や飲食業など不特定多数の人を顧客とする業種は、適格簡易請求書が認められています。項目に不備がなければ、レシートや領収書であっても適格簡易請求書として有効です。ここでは、消費税率10%のみの場合のフォーマットを紹介します。
適格簡易請求書は「課税仕入れの相手方の氏名又は名称及び登録番号」の記載が不要となります。また「税率ごとに区分した消費税額等」と「適用税率」に関しては、いずれか一方の記載で問題ありません。消費税率10%のみの場合、レシートを適格請求書として使うためには以下の項目が必要です。
引用:適格請求書等保存方式の概要 -インボイス制度の理解のために-
レシートは紙で受領するのが一般的ですが、最近はスマートフォンに対応した電子レシートも普及されつつあります。購入した商品の明細をエクセル上でデータ化しやすく、経費精算の業務効率化につながります。
領収書もレシートと同じ項目が記載されていれば、手書き・電子に関わらず適格簡易請求書として扱うことができます。ただし手書きの領収書の場合、税務調査や経費精算などで書き間違え・不正の有無を確認される可能性が高いです。
また適格簡易請求書となる領収書が手書きの場合は、「売り手側は登録事業者なのか」「簡易インボイスが認められている事業者なのか」もチェックの対象となります。
適格簡易請求書を発行できる業種や事業者は限られています。条件を満たしていない事業者が適格簡易請求書と誤認されるような書類を交付すると、罰則を受けることになります。経理担当の方はこの章で説明する内容を確認して、自社が条件を満たしているのか把握しておきましょう。
不特定多数の顧客に向けて売買を行う業種は、適格簡易請求書の発行が認められています。具体的な業種は以下のとおりです。
「不特定かつ多数の者に資産の譲渡などを行う事業」は、個々の事業の性質によって判断します。たとえば相手方の氏名または名称などを確認せず、取引条件などを事前に提示して不特定多数の人に販売などを行う事業が該当します。
適格請求書・適格簡易請求書を発行できるのは、適格請求書発行事業者に登録している課税事業者のみです。税務署に申請書を提出し、審査を受ければ自社でも発行できるようになります。ただし申請できるのは課税事業者だけであり、免税事業者は対象外となります。
免税事業者が適格請求書を発行する場合は、まず消費税課税事業者選択届出書による手続きが必要です。ただし適格請求書発行事業者の登録日が令和5年10月1日から令和11年9月30日までの日の属する課税期間中である場合は経過措置が適用され、課税事業者になるための手続きが省略されます。
適格請求書の消費税額を計算する際は、端数処理のルールに沿って行う必要があります。誤った方法で端数処理をしてしまうと、不備なく記載されていても適格請求書として無効となります。ここでは、消費税額における正しい端数処理の方法を見ていきましょう。
適格請求書の消費税額を計算するときは、1つの適格請求書に対して税率ごとに1回ずつ端数処理を行うというルールがあります。具体的には対価の額を税率ごとに合計してから、10%もしくは8%をかけて端数処理を行います。
端数処理には切り上げ・切り捨て・四捨五入があり、事業者が選択可能です。ただし混乱を避けるためにも、社内で端数処理の方法を統一する必要があります。
商品ごとに端数処理で求めた消費税額を、税率ごとに合算する方法は認められていないため注意が必要です。ただし参考として、商品ごとの消費税額を記載するのは問題ありません。また税抜金額をもとに消費税額を計算する方法が一般的ですが、税込金額をもとに求めることも可能です。
しかし税込金額で計算するときと同様に、商品ごとの消費税を計算したあとに合算する方法は認められていません。税率ごとに合算した金額に対して、10/110または8/108(軽減税率の場合)をかけた金額に端数処理を行いましょう。
買い手が仕入税額控除を受けるためには売り手に適格請求書を発行してもらうだけでなく、法令に準じて保存する必要があります。ここでは、適格請求書を発行・保存するときの以下3つのポイントを解説します。
適格請求書がなくても仕入税額控除が認められるケースがあるので、経理担当の方はポイントを押さえておきましょう。
適格請求書はチャットやメールなど、電子で交付することもできます。紙で発行するときと記載項目は変わりませんが、専用システムの導入が必要になります。導入にはコストがかかるものの適格請求書の発行がスムーズになり、業務効率化につながる点がメリットです。
また内容や送信履歴を確認しやすく、紙の保管場所も必要ありません。適格請求書の紛失リスクも最小限に抑えられるため、システム導入によって様々なメリットを享受できます。
原則的に買い手が仕入税額控除を適用するためには、売り手に適格請求書を発行してもらう必要があります。ただし以下の取引については、適格請求書の交付が困難な場合は帳簿保存のみで仕入税額控除を受けることが可能です。
引用:帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる場合 / 帳簿の保存
また帳簿には、以下の項目を記載する必要があります。
引用:帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる場合 / 帳簿の保存
上記の項目に不備がある場合は、帳簿を保存していても仕入税額控除を適用できないため注意しましょう。
適格請求書発行事業者は、電子帳簿保存法に沿って適格請求書を保存する必要があります。電子帳簿保存法は適格請求書や領収書などの管理に関する負担を軽減するために、国税関係の書類を電子データとして保存できる法律です。
具体的には「電子帳簿等保存」「スキャナ保存」「電子取引」の方法が採用されています。電子データとして保存した書類は、必要なときにすぐ出力できる状態を維持しましょう。また電子帳簿保存法によって、検索の際に取引年月日や範囲の指定などを条件として設定できるようにしておく必要があります。
適格請求書のフォーマットに指定はないものの、必要な項目はすべて記載する必要があります。ただし消費税率10%のみの場合は、軽減税率の合計額の記載は不要です。経理担当の方であれば誰でも発行できるように、社内でフォーマットを作成しましょう。適格請求書を発行するたびに一から作成する手間がなくなるため、業務効率化につながります。
また消費税額を計算するときの端数処理は、事業者が切り上げ・切り捨てなどの方法を選択できます。担当者によって方法が異なると混乱を招きやすいため、社内で端数処理のルールを統一しておくのがおすすめです。可能な限りルールを設けることで、担当者に関わらず正確な適格請求書を作成できるようになります。