更新日:2025.05.01
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2023年10月1日より「インボイス制度」が開始されるのに伴って、電子インボイス推進協議会「EIPA(エイパ)」が発足。電子インボイスの標準仕様を策定・実証し、普及させることを目指して活動を始めました。
しかし、電子インボイスはこれまで日本にはなかった仕組みです。「どんなものか分からない」「導入した方がいいの?」と迷っている方も多いのではないでしょうか。
実際、2021年に経理担当者1000名を対象として実施されたアンケート調査では「電子インボイスに向けて社内で具体的な準備を始めている」と回答したのはわずか20%でした。[注1]
そこで今回は、電子インボイスとはどのようなものかを詳しく解説するとともに、電子インボイスを導入するメリットもご紹介します。
[注1]PRTIMES:【調査レポート】コロナ禍でも働き方が変わらなかった経理は8割以上!日本の経理をもっと自由に、「経理1000人に聞いた請求書電子化と働き方に関する実態調査 2021」 を実施
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000190.000001047.html
電子インボイスを理解するためには「インボイス制度」の理解が不可欠です。ここではインボイス制度の成り立ちや仕組みを解説した上で、電子インボイスとは何かをご紹介します。
インボイス制度とは消費税の仕入税額控除を受ける際に登録事業者による「適格請求書(インボイス)」の保存が必要となる制度です。
事業者が納める消費税は「課税売上に係る消費税額(売上税額)」から「課税仕入れ等にかかる消費税額」を差し引いて計算されます。この差し引かれる「課税仕入れ等に係る消費税額」を「仕入税額控除」といいます。
例えば、消費税が10%のとき、A社が1000万円の商品を販売すると、顧客からは商品代+消費税として1000万円+100万円が支払われます。
A社は消費税分100万円を利益とは分けて預かります。この預かった100万円が「課税売上に係る消費税額」です。
一方、A社がB社から商品を800万円で仕入れた場合、A社はB社に80万円の消費税を支払います。
これが「課税仕入れ等に係る消費税額」です。そして、A社が最終的に税務署に支払う消費税額は「100万円-80万円=20万円」となるわけです。
ところが消費税は2019年10月の増税と軽減税率の導入に伴い、「軽減税率(8%)」と「標準税率(10%)」から
成る複数税率に変わりました。従来の区分記載請求書では、商品にどちらの税率が適用されているか分かりづらく、「課税仕入れ等に係る消費税額」の計算が難しくなりました。これでは仕入税額控除ができません。
そこで、正確な適用税率や消費税額を伝える事項が詳細に記載されている適格請求書が導入されたのです。[注2]
[注2]国税庁:適格請求書等保存方式の概要―インボイス制度の理解のために―[PDF]
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/0020006-027.pdf
電子インボイスとは「電子化された適格請求書」を指します。日本では紙・FAXによるアナログ処理が多く、事業者の生産性向上の妨げとなっていました。
それを問題視し、適格請求書の電子化から、事業者の業務のデジタル化を加速させようと考えたのがEIPA(電子インボイス推進協議会)です。
EIPAでは国際標準規格「Peppol(ペポル)」をベースに、日本の法令や商慣習に合わせるために必要な追加要件を整理した上で、事業者間で共通的に使える電子インボイスシステムを構築できるよう目指しています。[注3]
[注3] EIPA 電子インボイス推進協議会:電子インボイスとは
https://www.eipa.jp/peppol
デジタルインボイスは、請求書をデジタルデータ化した広い概念で、PDFやクラウド発行データも含みます。一方、電子インボイスは、国際標準仕様「Peppol」に準拠し、システム間で直接やり取りする請求データを指します。デジタルインボイスが形式や流通方法に幅があるのに対し、電子インボイスは共通規格で自動連携できるのが特徴です。特にインボイス制度対応を見据え、電子インボイスの普及が今後期待されています。
項目 | デジタルインボイス | 電子インボイス |
---|---|---|
定義 | 「請求書情報をデジタルデータ化したもの」の総称。 PDF、画像、クラウド上のデータも含む広い概念。 |
「標準化されたデータ形式で送受信されるインボイス」。 特にPeppol(ペポル)仕様に準拠したデータ交換を指す。 |
対象範囲 | 電子データでやりとりするすべての請求書。 | Peppolに準拠したネットワークを介した完全電子取引。 |
実態 | 例:PDFをメールで送る、クラウドサービスで請求書を発行する。 | 例:事業者間でPeppolネットワークを使ってXMLデータで請求情報をやり取りする。 |
法的文脈 | 電子帳簿保存法やインボイス制度に対応すればよい。 | 国が推奨する標準仕様として、今後普及が期待される。 |
キーワード | PDF請求書、クラウド請求書、電子保存。 | Peppolインボイス、標準電子取引。 |
Peppol(Pan-European Public Procurement Online)は電子文書をネットワーク上でやり取りするための国際標準規格です。
● 電子インボイスだけでなく、様々な文書をやり取りできる
● ネットワークに加入している政府機関や企業とスムーズに商取引が可能
● 操作がシンプルで導入しやすい
などのメリットから、Peppolを導入する国は広がり、現在はヨーロッパ各国をはじめ、世界30ヶ国以上で採用されています。[注3]
[注3] EIPA 電子インボイス推進協議会:電子インボイスとは
https://www.eipa.jp/peppol
「電子インボイスのことは分かったけれど、導入して何かいいことはあるの?」という疑問を抱いた方に向けて、ここでは電子インボイスの5つのメリットをご紹介します。
インボイス制度では、仕入税額控除額を計算するために、適格請求書に記載されたデータを会計システムに入力していく必要があります。紙の請求書のデータを1つ1つ手作業で入力するのは大変です。
また、最近ではEDI(請求書等の電子データ交換システム)を導入している企業も増えてはきましたが、各社が独自のEDIを使用しているため、規格が統一されておらず、せっかくデータとして受け取っても、わざわざ紙に印刷して手入力するような手間がかかることもありました。
しかし、EIPAでは事業者間で共通的に使える日本標準仕様の電子インボイスの構築を目指しています。シームレスにデータが連携されることで、受け取った請求書のデータ入力や支払い、仕訳税額控除額の計算など、あらゆる業務を効率よく進められるようになります。
電子データで請求書をやり取りする場合、「改ざんされるのではないか」と心配する方もいるかもしれません。
電子インボイスでは、改ざんを防止する措置として、適格請求書発行事業者登録番号を属性として付与した電子署名(eシール)の導入をはじめ、非改ざん性やデータの完全性を高める取り組みを検討しています。
そのため、従来の電子署名やタイムスタンプよりも安全にデータのやり取りができるのです。
電子インボイスのベースとなる「Peppol」は、様々な国で導入されており、今後も広がっていくことが予想されます。そのため、国内企業との取引で用いている電子インボイスをそのまま海外企業との取引でも使えるようになります。海外企業と効率よく取引できるため、世界での競争力も高まることが期待されています。
売手として交付した適格請求書の写しや、買手として受け取った適格請求書は「課税期間の末日の翌日から2月を経過した日から7年間」保存する必要があります。
紙の請求書でやり取りしていると膨大な量になり、保管場所などに困ってしまうこともあるでしょう。また、過去の請求書を見つけ出すのも大変です。しかし、電子インボイスであれば、保管場所は不要ですし、探したいデータがあればすぐに検索できます。[注2]
[注2]国税庁:適格請求書等保存方式の概要―インボイス制度の理解のために―[PDF]
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/0020006-027.pdf
経理は会社に届いた請求書をもとに業務を行わなければならないため、テレワークや在宅勤務が難しいことも多いです。2021年に実施された調査では、新型コロナウイルスの影響によりテレワークが推奨されてからも、「希望しても在宅勤務は週1日もできない」と回答した経理担当者が約83.4%にも及んでいます。[注1]
しかし、電子インボイスが導入されれば、システム上でデータにアクセスできるため、出社しなくても請求書業務をこなすことができます。
電子インボイスの概要やメリットについて解説しました。もちろん、紙の適格請求書も認められますが、複数税率による複雑な計算や膨大な書類の管理などの手間を省くことで、企業の生産性も高まります。
2023年10月1日のインボイス制度開始に向けて、適格請求書発行事業者に登録するとともに、電子インボイスの導入もぜひ検討しておきましょう。