更新日:2025.12.01

ー 目次 ー
車検の請求書は、法定費用や整備費用など項目が複雑で、「どう作ればいいか分からない」「インボイス制度への対応はどうするの?」とお悩みの事業者の方も多いのではないでしょうか?この記事では、車検の請求書の正しい作り方を初心者向けに5つのステップで分かりやすく解説します。本記事を読めば、作成者も依頼者も、安心してやり取りできる車検請求書の知識が身につきます。
車検にかかる費用は、大きく分けて「法定費用」「車検基本料」「整備費用」の3つで構成されています。この章ではそれぞれの費用の性質を理解を深めるため解説していきます。
法定費用とは、国や保険会社に支払う法律で定められた費用のことです。この費用は、どの業者に車検を依頼しても金額は一律で、消費税がかからない「非課税」扱いとなります。
法定費用は主に以下の3つで構成されています。
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項目 |
内容 |
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自動車重量税 |
車両の重量やエコカー減税の有無、新車登録からの経過年数に応じて課される国税です。車検時に次の車検満了日までの期間分をまとめて納付します。 |
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自賠責保険料 |
自動車損害賠償責任保険の保険料で、加入が義務付けられている強制保険です。次の車検までの24ヶ月分(または25ヶ月分)を支払います。普通自動車や軽自動車など、車種によって保険料が異なります。 |
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印紙代(検査手数料) |
自動車検査証の交付など、国に支払う検査手数料です。指定工場(民間車検場)で手続きを完結させるか、認証工場が運輸支局に車両を持ち込むかによって金額が若干異なります。 |
車検基本料とは、車検を依頼するディーラーや整備工場、ガソリンスタンドなどの業者に支払う基本料金のことです。業者ごとに料金設定が異なり、サービス内容にも差があります。この費用は「課税対象」となります。主な内訳は以下の通りです。
業者によっては、これらの項目をまとめて「車検基本料金」として提示している場合もあります。
整備費用とは、24ヶ月点検の結果、保安基準を満たすために必要な修理や、安全性を維持するための予防的な部品交換にかかる費用です。車両の状態によって金額が大きく変動し、こちらも「課税対象」となります。
具体的には、以下のような項目が含まれます。
整備費用は、依頼者の確認と合意なしに進められることはありません。通常、点検後に見積もりが提示され、承諾を得てから作業が実施されます。
ここでは、車検の請求書を作成するための基本的な手順を5つのステップに分けて、具体的に解説します。
最初に、誰が誰に対して発行した請求書なのかを明確にする情報を記載します。これは取引の基本であり、正確さが求められる部分です。
発行者情報には、自社の正式名称(屋号)、所在地、電話番号を記載します。インボイス制度に対応する場合は、適格請求書発行事業者の登録番号も忘れずに記載しましょう。
宛名には、車検を依頼されたお客様の氏名または会社名を正確に記載します。法人のお客様の場合は「御中」を、個人のお客様の場合は「様」を付けます。トラブルを避けるため、「上様」などの曖昧な表記は使用しないようにしましょう。
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記載項目 |
記載内容の例 |
ポイント |
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発行者情報 |
株式会社〇〇モータース 〒123-4567 東京都〇〇区〇〇1-2-3 TEL: 03-1234-5678 登録番号: T1234567890123 |
住所は郵便番号から正確に。登録番号はインボイス発行時に必須です。 |
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宛名 |
鈴木 一郎 様 〇〇商事株式会社 御中 |
お客様の氏名・会社名は間違いのないよう、車検証や顧客情報で再確認します。 |
次に、どの車両の車検費用を請求するのかを特定するための情報を記載します。これにより、お客様は自分の車の請求書であることを一目で確認できます。
車両情報として、主に「車種名」「登録番号(ナンバープレート)」「車台番号」を記載します。これらの情報は車検証に記載されている通りに、正確に転記することが重要です。
また、車検実施日や車両の預かり日も明記すると、いつの作業に対する請求書なのかがより明確になります。
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記載項目 |
記載内容の例 |
ポイント |
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車種名 |
トヨタ プリウス |
メーカー名と車名を記載します。 |
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登録番号 |
品川 300 あ 12-34 |
ナンバープレートの情報をそのまま記載します。 |
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車台番号 |
ZVW50-1234567 |
車両を個別に識別する番号です。間違いのないよう慎重に転記します。 |
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車検実施日 |
2023年10月26日 |
実際に車検を行った日付を記載します。 |
請求書の中心となる部分です。お客様が費用の内訳を理解しやすいように、「法定費用」「車検基本料」「整備費用」の3つに大別して記載するのが一般的です。各項目の金額、数量、単価を分かりやすく示しましょう。
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項目 |
内容 |
単価 |
数量 |
金額 |
備考 |
|
法定費用 |
自動車重量税 |
24,600円 |
1 |
24,600円 |
非課税 |
|
自賠責保険料 |
17,650円 |
1 |
17,650円 |
非課税 |
|
|
印紙代 |
1,800円 |
1 |
1,800円 |
非課税 |
|
|
車検基本料 |
24ヶ月定期点検料 |
15,000円 |
1 |
15,000円 |
課税対象 |
|
検査・代行手数料 |
10,000円 |
1 |
10,000円 |
課税対象 |
|
|
整備費用 |
エンジンオイル交換(工賃込) |
5,000円 |
1 |
5,000円 |
課税対象 |
|
ブレーキパッド交換(部品・工賃) |
12,000円 |
1 |
12,000円 |
課税対象 |
このように、どの作業にいくらかかったのかを一つひとつ丁寧に記載することで、請求内容の透明性が高まります。特に、追加で発生した整備費用については、どの部品を交換したのかが分かるように具体的に書くことが大切です。
内訳を記載したら、最終的な請求金額を計算します。ここで重要なのは、課税対象の費用と非課税の法定費用を分けて計算することです。
まず、「車検基本料」と「整備費用」など課税対象となる項目の合計額(小計)を算出します。次に、その小計に対して消費税を計算します。最後に、算出した消費税額と課税対象の小計、そして非課税である法定費用の合計額を足し合わせ、最終的な「ご請求金額」を明記します。
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計算項目 |
|
|
課税対象額小計(車検基本料+整備費用) |
42,000円 |
|
消費税(10%) |
4,200円 |
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非課税対象額合計(法定費用) |
44,050円 |
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ご請求金額(合計) |
90,250円 |
金額の計算ミスは信頼を損なう原因となります。必ず二重にチェックするようにしましょう。
最後に、お支払いに関する情報を明確に記載します。これにより、スムーズな入金を促し、入金遅延などのトラブルを防ぎます。
支払期限は、「YYYY年MM月DD日まで」のように具体的な日付を指定するのが親切です。「発行後1ヶ月以内」といった表記でも問題ありませんが、お客様が分かりやすいように配慮しましょう。
振込先情報には、「銀行名」「支店名」「口座種別(普通・当座)」「口座番号」「口座名義(カナ)」を正確に記載します。また、「振込手数料はお客様にてご負担をお願いいたします。」といった一文を添えておくと、手数料に関する認識の齟齬を防げます。
2023年10月1日から開始されたインボイス制度(適格請求書等保存方式)は、車検事業者にとっても無関係ではありません。特に法人や個人事業主のお客様に対しては、相手方が仕入税額控除を受けるために、要件を満たした適格請求書(インボイス)の発行が必須となります。
ここでは、従来の請求書との違いや、車検業界特有の注意点を解説します。
インボイス制度に対応した請求書を作成するには、従来の請求書の記載項目に加えて、以下の項目を正確に記載する必要があります。特に「登録番号」や「税率ごとの消費税額」が重要なポイントです。
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記載項目 |
インボイス制度での記載要件 |
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適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号 |
事前に税務署へ申請し取得した、「T」から始まる13桁の登録番号を記載します。 |
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取引内容(軽減税率の対象品目である旨) |
「車検基本料」「エンジンオイル交換」など、具体的な作業内容を記載します。軽減税率(8%)の対象品目がある場合は、その旨がわかるように明記します。 |
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税率ごとに区分して合計した対価の額(税抜又は税込)及び適用税率 |
標準税率(10%)の対象となる金額の合計と、適用税率「10%」を記載します。 |
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税率ごとに区分した消費税額等 |
標準税率(10%)で計算した消費税額を明記します。端数処理は、税率ごとに1回までと定められています。 |
車検の請求書をインボイスとして発行する際には、特有の注意点があります。特に消費税が課税されない「法定費用」の扱いは、間違いやすいポイントなので正確に理解しておきましょう。
車検費用に含まれる「自動車重量税」「自賠責保険料」「印紙代(検査手数料)」は、税金や保険料であるため消費税の課税対象外(不課税)です。そのため、インボイスの消費税計算に含めてはいけません。請求書上では、課税対象である車検基本料や整備費用とは明確に欄を分けて記載し、法定費用の合計金額には消費税がかからないことを明記する必要があります。
インボイス制度では、消費税の端数処理(切り捨て、四捨五入など)は、一つの請求書につき各税率ごとに1回ずつと定められています。例えば、複数の10%対象の整備項目がある場合、それぞれの項目で消費税を計算して端数処理するのではなく、10%対象の合計金額に対して消費税を算出し、その最終的な金額に対して1回だけ端数処理を行います。
適格請求書発行事業者の登録番号に誤りがあると、その請求書はインボイスとして認められず、お客様が仕入税額控除を受けられなくなる可能性があります。請求書を発行する際は、自社の登録番号が正しく記載されているか、必ず確認しましょう。番号は国税庁の「適格請求書発行事業者公表サイト」でも確認できます。
車検が完了し、請求書を受け取ったら、すぐに支払手続きをする前に必ず内容を詳細に確認しましょう。特に、事前の見積もりから金額が大きく変わっている場合は注意が必要です。「思わぬ高額請求」や「依頼していない整備」といったトラブルを避けるためにも、これから解説する2つのポイントをしっかりと押さえておきましょう。
車検を依頼する際は、事前に見積書を取得するのが一般的です。請求書が届いたら、まず手元にある見積書と内容を照らし合わせ、各項目で金額に大きな相違がないかを確認してください。特に注意して見るべき項目は以下の通りです。
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確認項目 |
チェックポイント |
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法定費用 |
自動車重量税、自賠責保険料、印紙代(検査手数料)のことです。法律で定められた金額のため、基本的には見積書から変動することはありません。 |
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車検基本料 |
24ヶ月定期点検料や測定検査料、事務手数料などが含まれます。業者によって料金設定が異なるため、見積書通りの金額かを確認します。 |
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整備費用 |
部品交換や追加の整備作業にかかった費用です。見積もり時から変更が発生しやすい項目なので、特に注意深く確認が必要です。 |
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合計金額 |
消費税を含めた最終的な支払総額です。見積書の合計金額と一致しているか、相違がある場合はその理由が明確になっているかを確認しましょう。 |
もし金額に相違点や不明な点があれば、支払う前に必ず車検を依頼した業者へ問い合わせ、納得できる説明を求めましょう。
見積もり金額よりも請求金額が高くなる主な原因は、追加整備の発生です。安全に車を乗り続けるために必要な整備もありますが、原則として、業者が追加整備を行う際は、必ずオーナーへ内容と費用を連絡し、承諾を得なければなりません。
請求書に記載されている「エンジンオイル交換」「ブレーキパッド交換」「タイヤ交換」といった整備項目や部品代が、事前に電話や対面で説明を受け、自身が依頼した内容と一致しているかを確認してください。「勝手に整備されて費用を請求された」という事態を防ぐためにも、見覚えのない項目がないか、一つひとつ丁寧にチェックすることが重要です。万が一、承諾した覚えのない整備項目が記載されていた場合は、速やかに業者へ連絡し、事実確認を行いましょう。
車検の請求書を発行するタイミングに法的な決まりはありませんが、一般的には車検が完了し、車両を依頼者に引き渡す際に発行します。
整備内容と最終的な金額が確定した時点で作成し、その場で支払いを求めるケースが多いためです。ただし、法人顧客との取引などでは、後日郵送や電子送付となる場合もあります。
はい、問題ありません。
請求書の作成には、インターネット上で無料でダウンロードできるテンプレートや、会計ソフトに搭載されているテンプレートを活用すると効率的です。ただし、テンプレートを使用する際は、自社の情報(登録番号など)やインボイス制度に対応した項目が漏れなく記載できるか、事前に必ず確認しましょう。
発行した請求書(の控え)は、法律で定められた期間、保管する義務があります。法人か個人事業主かによって根拠となる法律と期間が異なります。
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区分 |
保管期間 |
根拠法 |
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法人 |
原則7年間 |
法人税法 |
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個人事業主 |
原則5年間 |
所得税法 |
上記の期間は、その事業年度の確定申告書の提出期限の翌日から数えます。なお、法人の場合、欠損金が生じた事業年度においては、保管期間が10年間に延長されるため注意が必要です。
はい、電子請求書(PDFファイルなど)として発行することも可能です。ペーパーレス化によるコスト削減や業務効率化につながります。ただし、電子データで請求書を発行・保存する場合は、電子帳簿保存法の要件を満たす必要があります。また、トラブルを避けるため、事前に取引先(依頼者)から電子請求書でのやり取りについて承諾を得ておくとスムーズです。
車検費用は、消費税が不課税となる「法定費用」と、課税対象の「車検基本料」「整備費用」の3つで構成されています。請求書を作成する際は、この内訳を明確に区別して記載することが基本です。2023年10月から始まったインボイス制度に対応するためには、適格請求書発行事業者としての登録番号や、税率ごとの消費税額などを正しく記載する必要があります。結論として、法定費用は消費税の課税対象外であるため、課税取引である整備費用などとは明確に分けて合計金額を計算し、請求書に記載しなければなりません。本記事で解説したポイントを押さえ、円滑な取引にお役立てください。