更新日:2025.11.28

ー 目次 ー
請求書の「単位」は、たった一文字でも取引の伝わり方が変わります。「個・台・時間・件・一式...どれが正解?」と迷ったご経験はありませんか?
単位は、品目の実態や契約形態を相手と共有するための約束事です。適切に選べば、確認の往復や経理の行き違いがぐっと減ります。
品目別の使い分け、「一式」を安全に使うコツ、インボイス制度下の注意点などを実務でそのまま使える形で整理いたします。
請求書を作成する際、品名や数量、金額と並んで重要になるのが「単位」です。この章では、なぜ請求書に単位の記載が必要なのか、その基本的なルールと書き方について解説します。
請求書に単位を記載することは、法律で厳密に定められているわけではありません。しかし、正確な取引の証拠として、また取引先との信頼関係を築く上で不可欠な要素です。単位の記載には、主に以下の3つの重要な役割があります。
請求書における単位は、一般的に明細欄の「数量」のすぐ右隣に記載します。多くの請求書テンプレートでは、あらかじめ「単位」の項目が設けられています。
以下は、一般的な請求書の明細欄の記載例です。
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品名 |
数量 |
単位 |
単価 |
金額 |
|
A4コピー用紙 |
10 |
冊 |
500円 |
5,000円 |
|
Webサイト保守作業 |
5 |
時間 |
8,000円 |
40,000円 |
もし専用の「単位」欄がない場合は、「数量」の欄に「10冊」のように数字と単位を併記するか、「品名」の欄に「A4コピー用紙 10冊」と記載する方法もあります。どの方法で記載するにしても、取引相手にとって分かりやすい形式を心がけることが大切です。数量と単位は必ずセットで記載し、取引内容に最も適した単位を選びましょう。
請求書に記載する単位は、取引する品物やサービスの内容によって多岐にわたります。ここでは、具体的なケースごとにどのような単位を使えばよいのかを、品名例とともに一覧でご紹介します。
形のある商品や製品、備品などを取引する際には、その性質や数量、梱包状態に合わせて単位を使い分けます。最も基本的な単位から、複数の品物をまとめる際に便利な単位まで、具体例を見ていきましょう。
商品を一つひとつ数える際に使う、最も一般的な単位です。取引する品物の形状や特徴に合わせて選びます。
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単位 |
読み方 |
主な用途・品名例 |
|
個 |
こ |
事務用品、電子部品、食品など、汎用的に使われる。 |
|
台 |
だい |
パソコン、プリンター、自動車、機械類など。 |
|
本 |
ほん |
ペン、飲料、ケーブル、ネクタイなど、細長いもの。 |
|
枚 |
まい |
書類、用紙、Tシャツ、皿など、薄く平たいもの。 |
|
冊 |
さつ |
書籍、雑誌、資料、ノートなど、綴じられたもの。 |
|
着 |
ちゃく |
スーツ、コート、ドレスなど、衣類。 |
|
足 |
そく |
靴、靴下など、対になっている履物。 |
|
m |
メートル |
布、ケーブル、テープなど、長さで測るもの。 |
|
kg |
キログラム |
食材、原料、化学薬品など、重さで測るもの。 |
複数の商品をまとめて1つの単位として扱う場合や、梱包単位で取引する場合に用います。単価と数量の関係が明確になるように使いましょう。
|
単位 |
読み方 |
主な用途・品名例 |
|
セット |
せっと |
文房具セット、ギフトセット、工具セットなど、関連商品を組み合わせたもの。 |
|
箱 |
はこ |
飲料(1箱24本入)、部品(1箱100個入)など、箱単位での取引。 |
|
式 |
しき |
システム機器一式、イベント用資材一式など、複数の物品をまとめて提供する場合。 |
|
ロット |
ろっと |
製造業などで、同一条件で製造された製品のまとまり。 |
コンサルティングやシステム開発、デザイン制作といった形のないサービス(役務提供)を取引する際には、作業の実態に合わせて単位を決定します。契約形態に応じて、時間や作業量、プロジェクト全体を単位として扱います。
作業時間や契約期間に応じて料金が発生する場合に用いる単位です。特に専門的な業務委託契約などでよく使われます。
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単位 |
読み方 |
主な用途・品名例 |
|
時間 |
じかん |
コンサルティング料、会議参加費、時給制の作業費など。 |
|
日 |
にち |
現場作業費、研修講師料、日当での業務サポートなど。 |
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月 |
つき |
システム保守費用、顧問料、Webサイト運用管理費など、月額契約のサービス。 |
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人日 |
にんにち |
システム開発や工事などで、1人の作業員が1日作業した場合の作業量。「3人日」は3人が1日、または1人が3日作業したことを示す。 |
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人月 |
にんげつ |
人日と同様の考え方で、1人の作業員が1ヶ月作業した場合の作業量。大規模なプロジェクトで使われる。 |
作業の完了や成果物の納品をもって1つの単位とする場合に用います。プロジェクト単位や成果物単位での契約に適しています。
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単位 |
読み方 |
主な用途・品名例 |
|
件 |
けん |
記事執筆、データ入力、アンケート調査など、作業単位が明確な業務。 |
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式 |
しき |
Webサイト制作一式、ロゴデザイン制作一式、イベント企画運営一式など、複数の作業工程を含むプロジェクト全体。 |
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回 |
かい |
セミナー開催、研修実施、定期メンテナンスなど、実施回数で数える業務。 |
|
P |
ページ |
Webデザイン、パンフレット制作、翻訳作業など、ページ数に応じて料金が決まる業務。 |
請求書の単位の中でも特に便利なのが「一式」です。複数の品目や工程をまとめて計上できるため、請求書をシンプルにできます。しかし、その手軽さゆえに使い方を誤ると取引先とのトラブルに発展する可能性もあります。
ここでは、「一式」が活躍する具体的な場面と、使用する上での重要な注意点を解説します。
「一式」は、個別の単価や数量で計算するのが難しい業務や、複数の作業をまとめて一つのプロジェクトとして提供する場合に特に有効です。事前に取引先と合意した上で、双方にとって分かりやすい請求を行うために活用されます。具体的には、以下のようなケースで使われることが多くあります。
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便利なケースの分類 |
具体的な使用例 |
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プロジェクト単位の業務 |
ウェブサイト制作一式(企画、デザイン、コーディング、テストを含む) システム開発一式(要件定義、設計、開発、導入支援を含む) |
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コンサルティングや制作業務 |
コンサルティング業務一式(市場調査、分析、報告書作成を含む) パンフレットデザイン制作一式(デザイン、コピーライティング、入稿データ作成を含む) |
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作業や工事 |
イベント会場設営一式(部材費、人件費、運搬費を含む) 店舗内装工事一式(材料費、施工費、諸経費を含む) |
このように、成果物や提供する役務全体に対して価格が設定されている場合に「一式」を用いると、請求書の明細が煩雑にならず、すっきりとまとまります。
「一式」は便利な反面、取引の透明性が低くなるという側面も持っています。後々のトラブルを避けるためにも、以下の点に注意して使用しましょう。
最も重要なのは、請求書を発行する前に「一式」での表記について取引先の合意を得ておくことです。見積書や契約書の段階で、金額の内訳を提示し、請求時に「一式」とまとめることを伝えておくとスムーズです。
取引先によっては、経理処理の都合上、詳細な内訳を必要とする場合があります。「一式」と記載した請求書とは別に、品目や作業内容、単価、数量などを記載した内訳書や明細書を添付するのが親切であり、信頼関係の構築にもつながります。これにより、取引の透明性を担保できます。
例えば、デザイン料(源泉徴収の対象)と印刷費(対象外)をまとめて「パンフレット制作一式」として請求すると、全額が源泉徴収の対象と判断される可能性があります。源泉徴収の対象となる業務と対象外の費用が混在する場合は、請求書上で項目を分けるか、内訳書で明確に区分する必要があります。
インボイス制度(適格請求書等保存方式)では、適用税率や税率ごとに区分した消費税額等の記載が求められます。提供する商品やサービスに標準税率(10%)と軽減税率(8%)のものが混在している場合、「一式」という表記だけでは要件を満たせません。この場合は、「一式」と記載した上で、税率ごとの対価の額と消費税額を請求書内に明記するか、詳細な内訳書を添付する必要があります。すべての取引が単一の税率であれば、「一式」の記載でも問題ありません。
請求書の単位について、日々の業務で疑問に思いがちな点をQ&A形式で解説します。特に間違いやすいポイントや、法改正に伴う変更点などを確認しておきましょう。
結論として、数量が「1」の場合でも単位の記載は必ず必要です。数量欄に「1」とだけ記載されていても、それが「1個」なのか「1時間」なのか、あるいは「1式」なのかが取引相手に正確に伝わらないためです。
単位を省略すると、取引内容についてお互いの認識にズレが生じ、後々のトラブルに発展する可能性があります。例えば「コンサルティング 数量:1」と記載した場合、1時間分の契約なのか、1案件としての契約なのかが不明確です。請求書は取引内容を証明する重要な書類ですので、信頼性を担保するためにも、数量が1であっても「件」「時間」「式」などの単位を必ず明記するようにしてください。
請求書に記載した単位を間違えてしまった場合、二重線や修正テープなどで訂正することは避け、原則として請求書を「再発行」するのが最も望ましい対応です。訂正した請求書は、改ざんと見なされるリスクがあり、経理上の信頼性を損なう可能性があります。
もし単位の間違いに気づいたら、以下の手順で対応しましょう。
誠実かつ迅速な対応が、取引先との信頼関係を維持する上で重要です。
2023年10月1日から開始されたインボイス制度(適格請求書等保存方式)において、単位の書き方自体に新たなルールが設けられたわけではありません。これまで通り「個」「台」「式」「件」などの単位を使用できます。
ただし、インボイス制度では適格請求書の記載要件として「課税資産の譲渡等の内容(軽減税率の対象品目である旨)」を明確にすることが求められます。特に、軽減税率(8%)と標準税率(10%)の商品が混在する取引では、どの品目がどちらの税率に該当するのかを請求書上で明確に区別しなければなりません。
このため、品目ごとに数量と単位を正しく記載することの重要性が、以前よりも増しています。取引内容を正確に証明し、税率ごとの合計額を正しく計算するためにも、単位の記載はインボイス制度の要件を満たす上で不可欠な要素と言えます。
単位は「数量のラベル」ではなく、取引内容の共通認識をつくる大事なピースです。形ある物は個・台・本・枚にし、役務は時間・日・月・件を基準に、プロジェクトで束ねるなら一式を使いましょう。ただし内訳の用意と事前合意をお忘れなく。
インボイス制度下でも単位のルール自体は変わりませんが、品目ごとの区分(税率・数量・単位)を明確にしておくほど、税務・経理は滑らかになります。明日からの一枚がより誤解のない一枚になるように、記事をご活用ください。