更新日:2025.11.28

ー 目次 ー
イラスト制作の請求書、どう書けばよいのか迷っていませんか?
本記事では、請求書に必ず記載すべき基本項目から、具体的な書き方の見本、さらに著作権や二次利用料の扱い方までを詳しくご紹介します。この記事を読めば「安心してクライアントに提出できる請求書」が自分で作れるようになります。信頼されるプロとして、ぜひ正しい知識を身につけていきましょう。
ここではまず、記載漏れや間違いがないよう請求書に必ず記載すべき必須項目を確認していきましょう。
誰が誰に対して請求するのかを明確にするための基本情報です。発行者であるあなた(イラストレーター)の情報と、支払主であるクライアント(宛先)の情報を正確に記載します。
請求書を管理し、いつの取引に対するものかを明確にするための情報です。これらの日付は、クライアントとの契約内容に基づいて設定します。
「何の対価としていくら請求するのか」を具体的に示す、請求書の中核部分です。誰が見ても取引内容がわかるように、品名、数量、単価、金額を明確に記載します。
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品名 |
数量 |
単価 |
金額 |
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Webサイト用キービジュアル制作料 |
1 |
50,000 |
50,000 |
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SNS配信用キャラクターイラスト制作料 |
3 |
10,000 |
30,000 |
上記のように、複数のイラストを納品した場合は、項目を分けて記載すると親切です。「イラスト制作一式」とまとめるのではなく、具体的な内容を記載することで、クライアントにとっても分かりやすい請求書になります。
請求する金額の内訳を正確に記載します。特に消費税や源泉徴収税は、計算間違いが起こりやすいポイントなので注意が必要です。
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項目 |
説明 |
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小計 |
請求内容の金額(税抜)を合計した額です。 |
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消費税 |
小計に対してかかる消費税額です。課税事業者の場合は、適用税率(10%など)も明記しましょう。 |
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源泉徴収税 |
クライアントが法人の場合、報酬から天引きされる所得税です。対象となる報酬(デザイン料など)の場合に記載します。税額は「(小計+消費税)×10.21%」で計算するのが一般的です。 |
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合計金額 |
最終的にクライアントに振り込んでもらう金額です。「小計+消費税-源泉徴収税」の計算結果を記載します。 |
報酬を確実に受け取るために、振込先の口座情報を正確に記載します。また、備考欄を活用して補足事項を伝えることもできます。
【振込先情報】
口座名義は、銀行口座に登録されている通りに、フリガナまで正確に記載することが重要です。
【備考欄】
振込手数料をどちらが負担するかを明記しておくと、後のトラブルを防げます。「誠に恐れ入りますが、振込手数料は貴社にてご負担くださいますようお願い申し上げます。」といった一文を添えておくと丁寧です。また、納期や納品形式など、取引に関する補足事項を記載するのにも役立ちます。
フリーランスのイラストレーターとして活動する上で、特に注意したいポイントが3つあります。これらのポイントを押さえることで、未然にトラブルを防ぐことができます。
多くのイラストレーターがペンネームや活動名義で仕事をしていますが、請求書を発行する際は注意が必要です。
クライアントが報酬を振り込む際、経理上「請求書の発行者名」と「振込先口座の名義」が一致している必要があります。名義が異なると、振込エラーになったり、クライアントの経理担当者を混乱させたりする原因となります。
この問題を避けるため、請求書には本名とペンネームを併記するのが最も確実な方法です。屋号で活動している個人事業主の場合は、屋号付きの口座を開設し、請求書にも屋号を記載するとスムーズです。
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ケース |
請求書への記載例 |
備考 |
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ペンネームのみで活動 |
山田 花子(ペンネーム:hanako illustration) |
振込先口座の名義は「ヤマダ ハナコ」であることを明確にします。 |
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屋号で活動 |
hanako illustration 代表 山田 花子 |
屋号付きの銀行口座(例:hanako illustration 山田 花子)を開設しておくと取引が円滑になります。 |
イラスト制作の取引で特にトラブルになりやすいのが、著作権やイラストの使用範囲に関する認識の相違です。
請求書は、取引内容を改めて確認する書類としての役割も果たします。事前にクライアントと合意した内容を備考欄などに明記し、後のトラブルを防止しましょう。
具体的には、以下の項目について記載することをおすすめします。これにより、「納品したイラストが想定外の用途で使われていた」「何度も修正を依頼されて困っている」といった事態を防ぐことができます。
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記載項目 |
記載例 |
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著作権の帰属 |
※制作物の著作権は、制作者である山田花子に帰属します。 |
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使用範囲(利用媒体・期間など) |
※本制作物の使用は、株式会社〇〇のWebサイトおよび公式SNSアカウントでの掲載に限定します。(使用期間:2024年12月31日まで) |
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修正回数 |
※納品後の修正は2回まで無償対応とさせていただきます。3回目以降の修正は、別途追加料金が発生いたします。 |
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二次利用について |
※パンフレットやグッズなど、事前に合意した範囲外での二次利用をご希望の場合は、別途お見積もりとなりますのでご相談ください。 |
請求書を送付するタイミングは、クライアントとの契約内容によって異なりますが、一般的には「イラストを納品し、クライアントの検収が完了した後」が基本です。
取引先によっては「月末締め翌月末払い」など、社内ルールが定められている場合も多いため、作業を開始する前に必ず確認しておきましょう。
メールで送付する際は、ビジネスマナーとして以下の点に配慮すると、クライアントに丁寧な印象を与え、その後のやり取りもスムーズに進みます。
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項目 |
ポイントと具体例 |
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メールの件名 |
一目で内容がわかるように「【ご請求書】〇〇のイラスト制作費の件(自分の氏名や屋号)」などと記載します。 |
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本文 |
宛名、挨拶、何の請求書であるか、添付ファイル名、支払期限を明記します。 |
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添付ファイル |
ファイル名は「【20240531】株式会社〇〇様御請求書_山田花子.pdf」のように、「日付」「宛名」「内容」「発行者名」を入れると管理しやすくなります。 |
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送付状 |
郵送を求められた場合は、請求書に送付状を添えるのが丁寧なマナーです。 |
ここでは、これまでに解説した必須項目や注意点を踏まえ、実際の請求書の見本をご紹介します。各項目に何を書けばよいのか、具体的な文言や金額の記載方法を確認し、ご自身の請求書作成にお役立てください。
以下は、個人事業主のイラストレーターが発行する請求書の一般的な記載例です。インボイス制度(適格請求書等保存方式)に対応した形式になっています。
請求書
宛先:株式会社〇〇 御中
発行日: 2023年10月26日
請求書番号: 20231026-001
支払期限: 2023年11月30日
発行者
屋号:サンプルイラスト工房
氏名:鈴木 一郎
登録番号:T1234567890123
〒150-0002
東京都渋谷区渋谷〇-〇-〇 サンプルビル101
電話番号:090-1234-5678
メールアドレス:suzuki.ichiro@example.com
下記の通りご請求申し上げます。
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品名 |
数量 |
単価 |
金額 |
|
Webサイト用キービジュアル制作料 |
1 |
80,000 |
80,000 |
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キャラクターデザイン料(1点) |
1 |
50,000 |
50,000 |
|
追加修正費(3回目以降) |
1 |
10,000 |
10,000 |
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小計 |
140,000円 |
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消費税(10%) |
14,000円 |
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源泉徴収税額 |
-14,294円 |
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合計金額 |
139,706円 |
お振込先
〇〇銀行 渋谷支店(店番号 123)
普通預金 1234567
口座名義:スズキ イチロウ
備考
・本制作物の著作権は鈴木一郎に帰属します。
・二次利用をご希望の場合は、別途ご相談ください。
・お振込み手数料は、貴社にてご負担いただけますようお願い申し上げます。
イラストレーターの請求書で特に迷いやすいのが、請求内容の内訳です。
「イラスト制作一式」とまとめて記載することも可能ですが、「制作料」「使用料」「修正費」などに分けて記載することで、クライアントに対して料金の透明性を高め、信頼関係の構築につながります。
それぞれの項目をどのように記載するか、具体的な例を見ていきましょう。
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品名 |
内容 |
記載のポイント |
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制作料(作画料) |
イラストを描く作業そのものに対する対価です。「〇〇用イラスト制作料」「キャラクターデザイン料」のように、何を作ったのかが具体的にわかるように記載します。 |
最も基本的な請求項目です。作業時間やイラストの複雑さ、タッチなどを考慮して設定します。 |
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使用料(ライセンス料) |
制作したイラストをクライアントが使用する権利への対価です。「Webサイト掲載」「商品パッケージ使用」など、使用範囲を明記するとより丁寧です。 |
制作料と使用料を分けることで、料金体系が明確になります。二次利用が発生した際に、追加の使用料を請求しやすくなるメリットもあります。 |
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修正費(追加料金) |
契約時に定めた無料修正の回数を超えた場合に発生する追加料金です。「追加修正費(3回目以降)」のように記載します。 |
事前に「修正は2回まで無料、3回目以降は追加料金が発生します」と伝えておくことで、無制限の修正要求を防ぎ、トラブルを回避できます。 |
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ディレクション費 |
企画の提案や打ち合わせ、進行管理など、作画以外の業務が発生した場合に請求する費用です。 |
大規模なプロジェクトや、クライアントとのやり取りが複雑な場合に設定することがあります。 |
クライアントとの契約内容に応じて、どの項目を記載するかを判断しましょう。
ここでは、イラストレーターが請求書を作成する際によく抱く疑問について、Q&A形式でわかりやすく解説します。
二次利用料や著作権譲渡料が発生する場合は、イラスト制作料とは別の項目として明確に記載することが重要です。事前に双方で合意した内容を、請求書の品名欄に具体的に記載しましょう。
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項目 |
記載内容の例 |
補足 |
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二次利用料 |
イラスト二次利用料(Webサイト掲載分) |
利用媒体や範囲を具体的に記載するとより丁寧です。 |
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著作権譲渡料 |
イラスト制作物に関する著作権譲渡料 |
契約書の内容と一致しているか確認が必要です。 |
これらの項目を「イラスト制作料」とは別行に立てて記載し、それぞれの単価と金額を明記します。事前の見積書や契約書の内容と相違がないように、必ず確認してから発行してください。
結論から言うと、請求書なしでの取引は避けるべきです。
たとえクライアントから「不要」と言われた場合でも、必ず請求書を発行しましょう。
請求書は、取引があったことを証明する重要な証憑書類です。請求書がないと、以下のような問題が発生する可能性があります。
もしクライアントに請求書が不要と言われた場合は、「経理処理の都合上、発行させていただいております」などと伝え、理解を求めましょう。請求書の発行は、フリーランスとして自身の事業を守るための基本です。
残念ながら、支払期限を過ぎても入金がないケースは起こり得ます。
その場合は、感情的にならず、段階的に冷静に対処することが大切です。まずは相手の状況を考慮し、丁寧な確認から始めましょう。
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ステップ |
対処法 |
ポイント |
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第1段階 |
メールで確認の連絡 |
高圧的にならないよう、「行き違いでしたら申し訳ありません」と一言添え、請求書の控えを添付して支払状況の確認を依頼します。 |
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第2段階 |
電話で直接確認 |
メールで返信がない場合、経理担当者などに直接電話で連絡します。入金予定日を具体的に確認しましょう。 |
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第3段階 |
督促状の送付 |
電話でも進展がない場合、支払いを催促する「督促状」を送付します。証拠が残る「内容証明郵便」を利用するのが効果的です。 |
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第4段階 |
法的措置の検討 |
最終手段として、弁護士などの専門家に相談の上、支払督促や少額訴訟といった法的措置を検討します。 |
多くの場合は第1段階のメールでの確認で解決しますが、万が一に備えて対処法を知っておくことで、落ち着いて対応できます。
イラスト制作の請求書は、単に報酬を受け取るための書類ではなく、クライアントとの信頼関係を築くための大切なツールでもあります。発行者情報や請求内容といった必須項目を正しく記載するのはもちろん、著作権の範囲や二次利用料、修正回数などを明記することで、後々のトラブルを未然に防ぐことができます。特にフリーランスの方は、ペンネームと口座名義の不一致や源泉徴収税の扱いなど、細かな点に注意が必要です。