更新日:2025.12.01

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請求書を発行した際、「この振込手数料はどちらが負担するのが正しいのだろう?」と疑問に思った経験はありませんか?取引先から手数料を差し引いて入金され、対応に困っている方もいるかもしれません。本記事では、請求書の振込手数料は原則どちらが負担するのか、取引先に手数料負担をお願いする際の交渉術や請求書への書き方、コピペで使えるメール例文、手数料を差し引かれた場合の具体的な対処法、自社が負担する場合の勘定科目「支払手数料」を使った仕訳例まで、実務で必要な知識がすべてわかります。
結論から言うと、法律上の原則では「支払側(代金を支払う側)」が負担すると定められています。ただし、これはあくまで原則です。実際のビジネスシーンでは、取引先側が負担するケースも少なくありません。
この章では、なぜ支払側が負担するのが原則なのか、その法的根拠と、例外となるケースについて詳しく解説します。
請求書の振込手数料を支払側が負担する原則には、明確な法的根拠があります。それが民法第485条です。
この条文では、「弁済の費用について別段の意思表示がないときは、その費用は、債務者の負担とする。」と定められています。少し難しい言葉ですが、ビジネス取引に置き換えると以下のようになります。
つまり、民法第485条は「当事者間で特別な取り決めがない限り、支払いのためにかかる振込手数料は、支払い義務のある側(支払側)が負担しなさい」というルールを定めているのです。
法律上の原則は「支払側負担」ですが、双方の合意があれば、受取側(請求書を発行した側)が手数料を負担することも可能です。実際のビジネスでは、以下のようなケースで受取側が負担することがあります。
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負担者 |
根拠・主なケース |
具体例 |
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支払側(原則) |
民法第485条 |
契約書や請求書に手数料に関する記載が特にない場合。 |
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受取側(例外) |
当事者間の合意(特約) |
契約書や発注書に「振込手数料は貴社にてご負担ください」といった一文が明記されている場合。 |
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受取側(例外) |
商慣習 |
業界や特定の企業間の長年の取引慣行として、受取側が負担することが暗黙の了解となっている場合。 |
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受取側(例外) |
受取側の都合 |
受取側が指定した金融機関が特殊で、支払側の手数料負担が過大になる場合など。 |
もし、下請事業者に対して親事業者が一方的に手数料負担を強いるような場合は、下請法に抵触する可能性もあるため注意が必要です。
振込手数料の負担については、後々のトラブルを避けるためにも、取引を開始する前に双方で合意しておくことが最も重要です。
ここでは、相手方に手数料の負担をお願いする際の具体的な交渉術や、契約書・請求書への記載方法を例文付きで解説します。
振込手数料の負担をお願いする場合、最も効果的なタイミングは取引条件を決定する「取引前」です。一度取引が始まってから条件を変更するのは難しいため、見積もりや契約の段階で明確に伝え、合意を得ておきましょう。交渉の際は、以下のポイントを意識することが大切です。
新規取引先に見積書を送付する際など、手数料の負担について事前にお願いするためのメール例文です。状況に応じて適宜修正してご活用ください。
件名:【株式会社〇〇】お見積書送付のご案内
株式会社△△
経理ご担当者様
いつもお世話になっております。
株式会社〇〇の佐藤です。
先日はお打ち合わせいただき、誠にありがとうございました。
ご依頼いただきました件のお見積書を添付ファイルにてお送りいたしますので、ご査収ください。
なお、誠に恐縮ではございますが、お振込みいただく際の振込手数料につきましては、貴社にてご負担いただけますようお願い申し上げます。
ご不明な点がございましたら、お気軽にお問い合わせください。
引き続き、何卒よろしくお願い申し上げます。
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株式会社〇〇
営業部 佐藤 太郎
住所:〒100-0001 東京都千代田区〇〇1-2-3
電話:03-1234-5678
Email: taro.sato@example.com
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契約書や利用規約に振込手数料の負担について、明確に記載しておくのが一番安心です。契約書などに明記された取り決めには法的な効力があるため、将来的なトラブルを防ぐことができます。
「支払条件」や「費用負担」といった項目に、以下のような一文を加えましょう。
【契約書の記載例】
第〇条(支払条件)
2. 乙が甲に本契約に基づく金銭を支払う際に生じる振込手数料その他の費用は、乙の負担とする。
契約や事前のメールで合意が取れていても、支払い担当者が見落としてしまうケースも考えられます。そのため、毎回発行する請求書にも手数料負担に関する一文を記載しておくことをお勧めします。記載場所は、振込先口座情報の下や、備考欄が一般的です。
請求書の備考欄に記載する際の文例をいくつか紹介します。相手先との関係性や状況に合わせて使い分けましょう。
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種類 |
文例 |
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シンプル |
お振込手数料は、貴社にてご負担をお願いいたします。 |
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丁寧 |
誠に恐れ入りますが、お振込手数料は貴社にてご負担くださいますようお願い申し上げます。 |
事前に手数料負担の取り決めをしていたにもかかわらず、相手方の負担分が差し引かれて入金されるケースは少なくありません。このような場合、慌てて連絡するのではなく、まずは冷静に状況を確認することが重要です。
今後の取引関係を良好に保つためにも、この章では丁寧かつ適切な対応方法を解説します。
取引先に連絡する前に、まずは自社側に認識違いやミスがないかを確認します。
感情的になって連絡してしまうと、万が一こちらに非があった場合に信頼関係を損なう原因にもなりかねません。以下のポイントを一つずつチェックしましょう。
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確認項目 |
チェックするポイント |
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契約書・発注書 |
取引開始時に交わした契約書や発注書に、振込手数料の負担に関する記載があるかを確認します。ここに明記されていれば、交渉の際の有力な根拠となります。 |
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請求書の記載 |
発行した請求書の備考欄などに「振込手数料は貴社にてご負担をお願いいたします」といった一文が記載されているかを確認します。 |
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入金額と差額 |
実際の入金額と請求額を照合し、差額が振込手数料の金額と一致するかを確認します。金融機関や振込方法によって手数料は異なるため、一般的な金額と大きく乖離していないかも見ておきましょう。 |
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過去の取引履歴 |
継続的な取引がある相手の場合、過去の入金状況を確認します。これまでの取引で手数料がどのように処理されていたかは、交渉の方向性を決める上で重要な情報です。 |
自社側の確認を終え、やはり取引先に手数料を負担してもらう必要があると判断した場合、次は相手方への連絡です。不足分を請求する際は、高圧的な態度にならないよう、言葉遣いに細心の注意を払いましょう。
連絡手段は、記録が残るメールが基本です。電話で連絡する場合でも、後から確認できるよう、やり取りの内容をメールで送付しておくと安心です。
相手に不快感を与えず、スムーズに意図を伝えるためには、以下のステップで構成するのがおすすめです。
もし差額が少額で、追加の振込を依頼するのが難しい場合や、相手との関係性を優先したい場合は、「今回はこのままで結構でございますが、次回以降、振込手数料をご負担いただけますと幸いです。」といった形で、将来的なルール遵守をお願いするのも一つの方法です。
振込手数料を負担する場合、支払った手数料は経費として正しく会計処理する必要があります。経理上のルールを理解し、正確な帳簿付けを心がけましょう。
ここでは、振込手数料の適切な勘定科目と具体的な仕訳例について解説します。
銀行などに支払う振込手数料は、経費の勘定科目「支払手数料」として処理するのが一般的です。支払手数料は、商品やサービスの対価そのものではなく、事業を行う上で付随して発生する費用であるため、損益計算書上では「販売費及び一般管理費(販管費)」に分類されます。
もし社内で経理ルールが統一されていない場合、金額が少額であることから「雑費」として処理するケースも見られます。しかし、会計処理の継続性の観点からは、一度決めた勘定科目を使い続けることが重要です。そのため、今後も継続的に発生する振込手数料については、「支払手数料」として一貫して処理することをおすすめします。
ここでは、実際に振込手数料を自社で負担した場合の仕訳例を見ていきましょう。今回は、買掛金55,000円(税込)を普通預金から支払い、その際に振込手数料440円(税込)が同じ口座から引き落とされたケースを想定します。
この取引は、買掛金という負債の減少、支払手数料という費用の発生、そして普通預金という資産の減少として記録します。
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借方 |
貸方 |
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買掛金 55,000円 |
普通預金 55,440円 |
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支払手数料 440円 |
なお、振込手数料にかかる消費税は、原則として「課税仕入れ」に該当します。そのため、消費税の仕入税額控除の対象となります。上記の例では、支払手数料440円は消費税込みの金額として処理しています。会計ソフトを利用している場合は、税区分を「課税仕入」に設定することで自動的に計算されます。
民法第485条に基づき、原則として手数料は「支払側(債務者)」が負担します。しかし、実際のビジネスシーンでは取引上の慣習などから「受取側(債権者)」が負担するケースも少なくありません。手数料に関するトラブルを未然に防ぐためには、取引を開始する前にどちらが負担するのかを定めておくことが最も重要です。万が一、手数料を差し引いて入金された場合は、まず契約内容を再確認し、相手方に丁寧に連絡して確認・交渉しましょう。本記事がお互いが納得した上で取引を進める手助けになれば幸いです。