更新日:2026.08.28

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結論から言うと、法律上の原則では「支払側(代金を支払う側)」が負担すると定められています。ただし、これはあくまで原則です。実際のビジネスシーンでは、取引先側が負担するケースも少なくありません。
この章では、なぜ支払側が負担するのが原則なのか、その法的根拠と、例外となるケースについて詳しく解説します。
請求書の振込手数料を支払側が負担する原則には、明確な法的根拠があります。それが民法第485条です。
この条文では、「弁済の費用について別段の意思表示がないときは、その費用は、債務者の負担とする。」と定められています。少し難しい言葉ですが、ビジネス取引に置き換えると以下のようになります。
| 条文の用語 | ビジネス取引での意味 |
|---|---|
| 弁済 | 代金を支払うこと |
| 弁済の費用 | 振込手数料など、支払いに伴って発生する費用 |
| 別段の意思表示 | 当事者間での特別な取り決め(契約など) |
| 債務者 | 代金を支払う義務を負う人(支払側) |
| 債権者 | 代金を受け取る権利を持つ人(受取側) |
つまり、民法第485条は「当事者間で特別な取り決めがない限り、支払いのためにかかる振込手数料は、支払い義務のある側(支払側)が負担しなさい」というルールを定めているのです。
法律上の原則は「支払側負担」ですが、双方の合意があれば、受取側(請求書を発行した側)が手数料を負担することも可能です。実際のビジネスでは、以下のようなケースで受取側が負担することがあります。
| 負担者 | 根拠・主なケース | 具体例 |
|---|---|---|
| 支払側(原則) | 民法第485条 | 契約書や請求書に手数料に関する記載が特にない場合。 |
| 受取側(例外) | 当事者間の合意(特約) | 契約書や発注書に「振込手数料は貴社にてご負担ください」といった一文が明記されている場合。 |
| 受取側(例外) | 商慣習 | 業界や特定の企業間の長年の取引慣行として、受取側が負担することが暗黙の了解となっている場合。 |
| 受取側(例外) | 受取側の都合 | 受取側が指定した金融機関が特殊で、支払側の手数料負担が過大になる場合など。 |
なお、発注側が受注側に一方的に手数料負担を強いる場合は、2026年1月に施行された中小受託取引適正化法(取適法。従来の下請法)に抵触する可能性があります。事前の書面合意がある場合に限り、実費の範囲内で差し引けるという整理になります。
振込手数料の負担については、後々のトラブルを避けるためにも、取引を開始する前に双方で合意しておくことが最も重要です。
ここでは、相手方に手数料の負担をお願いする際の具体的な交渉術や、契約書・請求書への記載方法を例文付きで解説します。
振込手数料の負担をお願いする場合、最も効果的なタイミングは取引条件を決定する「取引前」です。一度取引が始まってから条件を変更するのは難しいため、見積もりや契約の段階で明確に伝え、合意を得ておきましょう。交渉の際は、以下のポイントを意識することが大切です。
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| 高圧的な表現を避ける | 「手数料は貴社負担です」といった一方的な表現ではなく、「誠に恐れ入りますが、振込手数料はご負担いただけますようお願い申し上げます」のように、丁寧な依頼の形をとりましょう。 |
| 理由を添える | なぜ手数料の負担をお願いしたいのか、可能な範囲で理由を伝えると相手の理解を得やすくなります。例えば、「商品価格をできる限り抑えるため、手数料のご協力をお願いしております」といった説明が考えられます。 |
| 書面に残す | 口頭での合意だけでなく、メールや契約書など、必ず書面の形で証拠を残しておくことがトラブル防止につながります。 |
新規取引先に見積書を送付する際など、手数料の負担について事前にお願いするためのメール例文です。状況に応じて適宜修正してご活用ください。
件名:【株式会社〇〇】お見積書送付のご案内
株式会社△△
経理ご担当者様
いつもお世話になっております。
株式会社〇〇の佐藤です。
先日はお打ち合わせいただき、誠にありがとうございました。
ご依頼いただきました件のお見積書を添付ファイルにてお送りいたしますので、
ご査収ください。
なお、誠に恐縮ではございますが、お振込みいただく際の振込手数料につきましては、
貴社にてご負担いただけますようお願い申し上げます。
ご不明な点がございましたら、お気軽にお問い合わせください。
引き続き、何卒よろしくお願い申し上げます。
─────────────────
株式会社〇〇 営業部 佐藤 太郎
住所:〒100-0001 東京都千代田区〇〇1-2-3
電話:03-1234-5678
Email: taro.sato@example.com
─────────────────
契約書や利用規約に振込手数料の負担について、明確に記載しておくのが一番安心です。契約書などに明記された取り決めには法的な効力があるため、将来的なトラブルを防ぐことができます。
「支払条件」や「費用負担」といった項目に、以下のような一文を加えましょう。
【契約書の記載例】
第〇条(支払条件)
2. 乙が甲に本契約に基づく金銭を支払う際に生じる振込手数料その他の費用は、乙の負担とする。
契約や事前のメールで合意が取れていても、支払い担当者が見落としてしまうケースも考えられます。そのため、毎回発行する請求書にも手数料負担に関する一文を記載しておくことをお勧めします。記載場所は、振込先口座情報の下や、備考欄が一般的です。
請求書の備考欄に記載する際の文例をいくつか紹介します。相手先との関係性や状況に合わせて使い分けましょう。
| 種類 | 文例 |
|---|---|
| シンプル | お振込手数料は、貴社にてご負担をお願いいたします。 |
| 丁寧 | 誠に恐れ入りますが、お振込手数料は貴社にてご負担くださいますようお願い申し上げます。 |
事前に手数料負担の取り決めをしていたにもかかわらず、相手方の負担分が差し引かれて入金されるケースは少なくありません。このような場合、慌てて連絡するのではなく、まずは冷静に状況を確認することが重要です。
今後の取引関係を良好に保つためにも、この章では丁寧かつ適切な対応方法を解説します。
対応方法に入る前に、前提として押さえておきたい点があります。
取引先が振込手数料を差し引けるのは、事前に書面で合意している場合に限られます。しかもその範囲は、実際に負担した実費までです。合意がないまま一方的に差し引く行為は、代金の減額にあたる可能性があります。
この点に関わる法律が、2026年1月1日から施行された「中小受託取引適正化法(取適法)」です。従来の下請法が改正されたもので、名称だけでなく内容も見直されました。
| 主な変更点 | 内容 |
|---|---|
| 適用対象の拡大 | 従来の資本金基準に加え、従業員基準(300人・100人)が追加されました |
| 一方的な価格決定の禁止 | 受注者から価格協議の求めがあった場合に、協議に応じない、必要な説明を行わないといった対応が禁止されました |
つまり、差し引かれた分について話し合いたいと申し入れた場合、相手はそれに応じる必要があります。以下の手順で冷静に対応を進めてください。
取引先に連絡する前に、まずは自社側に認識違いやミスがないかを確認します。
感情的になって連絡してしまうと、万が一こちらに非があった場合に信頼関係を損なう原因にもなりかねません。以下のポイントを一つずつチェックしましょう。
| 確認項目 | チェックするポイント |
|---|---|
| 契約書・発注書 | 取引開始時に交わした契約書や発注書に、振込手数料の負担に関する記載があるかを確認します。ここに明記されていれば、交渉の際の有力な根拠となります。 |
| 請求書の記載 | 発行した請求書の備考欄などに「振込手数料は貴社にてご負担をお願いいたします」といった一文が記載されているかを確認します。 |
| 入金額と差額 | 実際の入金額と請求額を照合し、差額が振込手数料の金額と一致するかを確認します。金融機関や振込方法によって手数料は異なるため、一般的な金額と大きく乖離していないかも見ておきましょう。 |
| 過去の取引履歴 | 継続的な取引がある相手の場合、過去の入金状況を確認します。これまでの取引で手数料がどのように処理されていたかは、交渉の方向性を決める上で重要な情報です。 |
自社側の確認を終え、やはり取引先に手数料を負担してもらう必要があると判断した場合、次は相手方への連絡です。不足分を請求する際は、高圧的な態度にならないよう、言葉遣いに細心の注意を払いましょう。
連絡手段は、記録が残るメールが基本です。電話で連絡する場合でも、後から確認できるよう、やり取りの内容をメールで送付しておくと安心です。
相手に不快感を与えず、スムーズに意図を伝えるためには、以下のステップで構成するのがおすすめです。
| ステップ | 内容 |
|---|---|
| 1. 入金へのお礼を伝える | まずは「〇月〇日付のご請求につきまして、ご入金を確認いたしました。誠にありがとうございます。」のように、入金していただいたことへの感謝を伝えます。 |
| 2. 客観的な事実を伝える | 次に「ご確認しましたところ、請求額〇〇円に対し、〇〇円の差額が生じているようでございます。」と、金額を明記して事実を伝えます。この時点では、手数料が引かれたと決めつけない表現が適切です。 |
| 3. 原因の確認と自社のスタンスを提示する | 「恐れ入りますが、こちらの差額は振込手数料でございましょうか。誠に恐縮ではございますが、弊社では振込手数料をお客様にご負担いただいております。」と、相手に確認を促しつつ、自社のルールを丁寧に伝えます。 |
| 4. 今後の対応をお願いする | 最後に、不足分の支払いを依頼します。「つきましては、差額〇〇円の追加のお振込みをご検討いただけますでしょうか。」と、相手にお願いする形で締めくくります。 |
もし差額が少額で、追加の振込を依頼するのが難しい場合や、相手との関係性を優先したい場合は、「今回はこのままで結構でございますが、次回以降、振込手数料をご負担いただけますと幸いです。」といった形で、将来的なルール遵守をお願いするのも一つの方法です。
振込手数料を負担する場合、支払った手数料は経費として正しく会計処理する必要があります。経理上のルールを理解し、正確な帳簿付けを心がけましょう。
ここでは、振込手数料の適切な勘定科目と具体的な仕訳例について解説します。
銀行などに支払う振込手数料は、経費の勘定科目「支払手数料」として処理するのが一般的です。支払手数料は、商品やサービスの対価そのものではなく、事業を行う上で付随して発生する費用であるため、損益計算書上では「販売費及び一般管理費(販管費)」に分類されます。
もし社内で経理ルールが統一されていない場合、金額が少額であることから「雑費」として処理するケースも見られます。しかし、会計処理の継続性の観点からは、一度決めた勘定科目を使い続けることが重要です。そのため、今後も継続的に発生する振込手数料については、「支払手数料」として一貫して処理することをおすすめします。
ここでは、実際に振込手数料を自社で負担した場合の仕訳例を見ていきましょう。今回は、買掛金55,000円(税込)を普通預金から支払い、その際に振込手数料440円(税込)が同じ口座から引き落とされたケースを想定します。
この取引は、買掛金という負債の減少、支払手数料という費用の発生、そして普通預金という資産の減少として記録します。
| 借方 | 貸方 |
|---|---|
| 買掛金 55,000円 | 普通預金 55,440円 |
| 支払手数料 440円 |
なお、自社が振込を行って手数料を負担した場合、その手数料は課税仕入れに該当し、仕入税額控除の対象となります。上記の例では、支払手数料440円を税込金額として処理しています。会計ソフトでは税区分を「課税仕入」に設定します。
ただし、売手として振込手数料を差し引かれた場合は扱いが異なります。この場合は課税仕入れではなく「売上げに係る対価の返還等」として処理する方法が一般的です。詳しくは次章で解説します。
振込手数料の負担は、消費税の処理にも影響します。特に売手が負担する場合、選ぶ処理方法によって必要な書類が変わるため、事前に方針を決めておくことが大切です。
原則どおり買手(支払側)が振込手数料を負担する場合、特別な対応は必要ありません。買手は金融機関から受け取ったインボイスを保存し、通常どおり仕入税額控除を適用します。
売手側は請求額の全額が入金されるため、消費税上の処理も発生しません。
売手が負担する場合、つまり買手が振込手数料を差し引いて入金してくる場合は、その差額をどう扱うかを決める必要があります。国税庁は3つの方法を示しています。
| 処理方法 | 内容 | 必要な書類 |
|---|---|---|
| ①売上値引きとして処理 | 差し引かれた額を「売上げに係る対価の返還等」として扱う | 原則は返還インボイスの交付が必要。ただし税込1万円未満は交付義務が免除される |
| ②課税仕入れとして処理 | 差し引かれた額を自社が支払った手数料として扱う | 買手が金融機関から受け取ったインボイスと、買手が作成した立替金精算書の交付を受ける必要がある |
| ③経理は支払手数料、消費税は対価の返還等 | 帳簿上は支払手数料としつつ、消費税法上は①として扱う | 帳簿に対価の返還等に係る事項の記載が必要。通常の支払手数料と判別できるよう勘定科目のコードを分ける |
実務で選ばれることが多いのは①です。振込手数料は通常1万円未満に収まるため、返還インボイスの交付が免除されるからです。②は買手から書類を取り寄せる必要があり、取引先が多いほど現実的ではありません。
注意したいのが判定の単位です。この免除は1つの請求や債権の単位ごとに判定します。個々の商品ごとではありません。
たとえば1商品あたり100円の値引きであっても、1回の請求全体で1万円以上になる場合は、交付義務は免除されません。振込手数料の相殺だけであれば1万円を超えることはまずありませんが、値引きや返品と合算される場合は確認が必要です。
なお、買手が金融機関のATMで振込を行った場合は、自動販売機特例の対象となるため、インボイスの保存自体が不要になります。
処理方法の選び方や仕訳の詳細については、次の記事で詳しく解説しています。
インボイス制度では振込手数料の相殺に注意!知らないと損する会計ルール
民法第485条に基づき、原則として手数料は「支払側(債務者)」が負担します。しかし、実際のビジネスシーンでは取引上の慣習などから「受取側(債権者)」が負担するケースも少なくありません。手数料に関するトラブルを未然に防ぐためには、取引を開始する前にどちらが負担するのかを定めておくことが最も重要です。万が一、手数料を差し引いて入金された場合は、まず契約内容を再確認し、相手方に丁寧に連絡して確認・交渉しましょう。本記事がお互いが納得した上で取引を進める手助けになれば幸いです。