更新日:2025.11.28

ー 目次 ー
請求書の控えをついなんとなく保管していませんか?
実は、法人は原則7年(会社法では10年)、個人事業主は5年または7年の保管が法律で義務付けられています。
さらに、電子取引データは2024年から紙保存ができず、電子帳簿保存法に沿った管理が必要です。
この記事では、保管期間の違いから電子保存の実務ポイント、インボイス制度での注意点までわかりやすく解説します。
請求書の控えとは、取引先に発行した請求書と全く同じ内容を、発行者側で保管しておくための書類のことです。
請求書を発行した側(受注側)は、この「控え」を一定期間保存することが法律で義務付けられています。なぜなら、請求書の控えは単なるコピーではなく、事業の取引が正しく行われたことを証明する重要な「証憑(しょうひょう)書類」の一つだからです。
日々の取引を正確に記録し、税務調査や取引先とのトラブルに適切に対応するためにも、控えの適切な管理はすべての事業者にとって不可欠と言えます。
請求書の控えは、事業運営において以下のような重要な役割を担っています。これらは、円滑な経営とコンプライアンス遵守の基盤となります。
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役割 |
具体的な内容 |
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取引内容の証明 |
「いつ、誰に、何を、いくらで提供したか」という取引の事実を客観的に証明する第一の証拠となります。 |
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売掛金の管理 |
発行した請求内容を正確に把握し、入金確認や未入金の際の督促をスムーズに行うための元データとなります。 |
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税務調査への対応 |
売上が正しく計上されていることを証明する根拠資料です。税務調査の際に提示を求められた場合、これがないと売上の信憑性が疑われる可能性があります。 |
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会計処理の正確性担保 |
経理担当者が会計ソフトへ入力する際の元情報となり、正確な帳簿作成に欠かせません。 |
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経営状況の分析 |
過去の取引実績を振り返り、売上の傾向や取引先ごとの実績を分析するための基礎資料として活用できます。 |
もし請求書の控えを適切に保管していなかった場合、事業者はさまざまなリスクに直面する可能性があります。特に税務や取引先との関係において、深刻な問題に発展するケースも少なくありません。
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リスクの種類 |
具体的な内容 |
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税務上のリスク |
税務調査で売上計上漏れを指摘され、追徴課税や過少申告加算税、悪質な場合は重加算税といったペナルティが課される恐れがあります。また、青色申告の承認が取り消される可能性もゼロではありません。 |
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取引上のトラブル |
取引先から支払いがない、あるいは金額に相違があるといったトラブルが発生した際に、自社の正当性を主張するための客観的な証拠がなく、不利な立場に立たされる可能性があります。 |
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資金繰りの悪化 |
どの取引先からいくら入金されるべきかを正確に把握できず、売掛金の回収漏れにつながります。結果として、キャッシュフローが悪化し、経営を圧迫する原因となります。 |
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社会的信用の低下 |
書類管理が杜撰であると見なされ、金融機関からの融資審査でマイナスの評価を受けたり、取引先からの信用を失ったりするリスクがあります。 |
請求書の控えを保管する期間は、法律によって定められています。この保管期間は、法人が対象なのか、それとも個人事業主が対象なのかによって異なります。また、個人事業主の場合は確定申告の方法によっても変わるため注意が必要です。
ここでは、それぞれのケースにおける正しい保管期間を詳しく解説します。
法人の場合、請求書の控えは原則として7年間保管する義務があります。
この期間は、主に「税法」と「会社法」という2つの法律に基づいて定められており、それぞれの法律で要求される期間が異なる点を理解しておくことが重要です。安全な事業運営のためには、より長い期間が定められている法律に合わせて保管するのが一般的です。
法人税法では、請求書を含む帳簿書類の保管期間を「事業年度の確定申告書の提出期限の翌日から7年間」と定めています。例えば、3月31日が決算日の法人の場合、確定申告の提出期限は通常5月31日ですので、その翌日である6月1日から7年間保管する必要があります。
ただし、青色申告法人で赤字(欠損金)が生じた事業年度、または青色申告書を提出しなかった事業年度で災害損失欠損金が生じた場合には、保管期間が10年間に延長されますので注意しましょう。
一方、会社法では「計算書類及びその附属明細書」について、作成時から10年間の保管を義務付けています。請求書は取引の証拠となる重要な書類であり、この附属明細書に含まれると解釈されるのが一般的です。
税法上の7年間と会社法上の10年間、どちらを優先すべきか迷うかもしれませんが、コンプライアンスの観点から、より長い会社法の10年間保管しておくと安心です。
個人事業主の場合、請求書の控えの保管期間は、青色申告か白色申告かによって異なります。ご自身の申告方法に合わせて、適切な期間保管するようにしてください。
青色申告を行っている個人事業主の場合、請求書や領収書などの現金預金取引等関係書類は、原則として7年間の保管が必要です。保管期間の起算日は、その年の確定申告の提出期限の翌日からとなります。
ただし、例外として、前々年分の事業所得および不動産所得の金額が300万円以下の方は、保管期間が5年間となります。
白色申告を行っている個人事業主の場合、請求書や領収書などの書類は5年間の保管が義務付けられています。こちらも起算日は、確定申告の提出期限の翌日から5年間です。
以下に、法人と個人事業主の保管期間をまとめましたので、参考にしてください。
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対象者 |
申告・法人区分 |
保管期間 |
根拠法 |
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法人 |
- |
原則7年(※1) |
法人税法 |
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法人 |
- |
10年(※2) |
会社法 |
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個人事業主 |
青色申告 |
原則7年(※3) |
所得税法 |
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個人事業主 |
白色申告 |
5年 |
所得税法 |
※1 欠損金が生じた事業年度等は10年間。
※2 計算書類等の附属明細書として10年間。安全のため10年保管が推奨されます。
※3 前々年分の所得が300万円以下の場合は5年間。
2022年1月に改正された電子帳簿保存法により、請求書控えの管理方法は大きく変わりました。特に、電子メールやクラウドサービスを通じて受け取った請求書(電子取引データ)は、紙に出力しての保存が認められず、電子データのまま保存することが義務化されています。
ここでは、法律の要件を満たすための正しい管理術を解説します。
電子帳簿保存法における電子データの保存方法は、大きく「電子帳簿等保存」「スキャナ保存」「電子取引データ保存」の3つに区分されます。請求書の控えがどの区分に該当するのかを理解することが、適切な管理の第一歩です。
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区分 |
対象となる書類の例 |
概要 |
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電子帳簿等保存 |
会計ソフトで作成した仕訳帳、自社発行の請求書の控え(電子作成) |
PC等で最初から一貫して電子的に作成した帳簿や書類を、データのまま保存する方法 |
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スキャナ保存 |
紙で受け取った請求書や領収書 |
紙の書類をスキャナやスマートフォンで読み取り、画像データとして保存する方法 |
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電子取引データ保存 |
メールで受け取ったPDFの請求書、Webサイトからダウンロードした請求書 |
電子的に授受した取引情報を、電子データのまま保存する方法(義務) |
会計ソフトや請求書発行システムを利用して、自社で電子的に作成した請求書の控えなどが対象です。これらのデータを紙に出力せず、電子データのまま保存する場合に適用されます。保存にあたっては、使用しているシステムの概要書を備え付け、データが整然とした形式で明瞭に出力できる状態を保つ必要があります。
取引先から紙で受け取った請求書を、スキャナやスマートフォンで撮影して電子データとして保存する方法です。スキャナ保存を行うには、タイムスタンプの付与や、解像度(200dpi以上)、カラー画像での読み取り(一般書類の場合)などの要件を満たす必要があります。データの訂正や削除の事実を確認できるシステムを利用している場合は、タイムスタンプの付与が不要になるケースもあります。
メール添付のPDFや、ECサイトからダウンロードした請求書など、電子データでやり取りした取引情報が対象です。この区分は、2024年1月1日からすべての事業者に対して電子データのまま保存することが義務化されました。保存する際は、以下の「真実性の確保」と「可視性の確保」の両方の要件を満たす必要があります。
真実性の確保(いずれかを満たす)
可視性の確保(すべてを満たす)
取引先から紙で受け取った請求書の控えは、従来通り紙のまま保管するか、スキャナ保存の要件を満たして電子データとして保管するかを選択できます。
紙のまま保管する場合は、税務調査などで速やかに提示できるよう、整理してファイリングすることが重要です。「取引先別」「月別」など、自社で管理しやすいルールを決めて一貫した方法で保管しましょう。ファイルやバインダーの背表紙に年度や取引先名を記載しておくと、後から探しやすくなります。
一方、スキャナ保存を選択すれば、保管スペースの削減や検索性の向上といったメリットがあります。ただし、前述したタイムスタンプや解像度などの要件を遵守する必要があるため、対応する会計ソフトやファイル管理システムを導入することを検討しましょう。
請求書の控えを管理する上で、多くの方が疑問に思う点や、いざという時に困るケースがあります。ここでは、請求書の控えに関するよくある質問とその回答をまとめました。日々の業務の参考にしてください。
請求書の控えを紛失してしまった場合でも、慌てずに対処することが重要です。まずは、本当に紛失したのか、社内の別の場所やデータフォルダに保管されていないかを再度確認しましょう。
それでも見つからない場合は、取引先に連絡し、請求書の再発行を依頼するのが最も確実な方法です。再発行を依頼する際は、紛失した事実を正直に伝え、丁寧にお願いすることが大切です。取引の証拠として、また税務調査の際に提示を求められる重要な書類ですので、速やかに行動しましょう。
万が一、再発行が困難な場合は、銀行の振込明細書や取引に関するメールのやり取りなど、取引の事実を客観的に証明できる他の書類を代わりに保管しておくことも一つの方法です。ただし、これらはあくまで代替手段であり、正式な請求書の控えと同等の効力を持つわけではないため、基本的には再発行を依頼することを推奨します。
2023年10月1日から開始されたインボイス制度(適格請求書等保存方式)によって、控えの管理方法も一部変更点があるため注意が必要です。
売り手側(適格請求書発行事業者)は、発行した適格請求書の写し(控え)を保存する義務があります。これは、紙の控えだけでなく、電子データで保存することも可能です。控えには、発行した適格請求書と同じ内容(登録番号、適用税率、消費税額など)が記載されている必要があります。
買い手側は、仕入税額控除の適用を受けるために、取引先から受け取った適格請求書を保存しなければなりません。つまり、売り手・買い手双方にとって、インボイス制度に対応した請求書(およびその控え)の適切な保存が、消費税の納税額に直接影響する重要な業務となります。
結論から言うと、法律上、請求書およびその控えに印鑑(角印など)を押すことは義務付けられていません。印鑑がなくても、請求書としての効力に影響はありません。
しかし、日本の商習慣として、多くの企業が請求書に角印を押しています。これは、その請求書が企業によって正式に発行されたものであることを証明し、書類の信頼性を高めるためです。また、偽造防止の役割も果たしています。
請求書の控えへの押印も同様に法的な義務はありません。「控」というスタンプを押したり、原本と同じように角印を押したりするのは、あくまで社内での管理上、原本と控えを区別しやすくするためや、社内ルールに基づいている場合がほとんどです。電子請求書の場合も同様で、電子印鑑は必須ではありません。
請求書の控えは、単なる記録ではなく、取引の信頼を支える大切な証拠です。法人は7年(会社法では10年)、個人事業主は5年または7年の保管が基本です。
さらに今は、電子取引データの電子保存が必須となっています。「とりあえず保管」から一歩進んで、自社に合った管理方法を整えれば、税務調査にも慌てず安心です。今日から少しずつ、正しいルールで整えていきましょう。