更新日:2025.12.01

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取引先から現金で支払いを受ける際、「請求書の書き方は振込の時と同じで良いのだろうか」「インボイス制度にはどう対応すればいい?」など、疑問や不安を感じていませんか?本記事を読めば、請求書の必須項目や「現金払い」の明記方法はもちろん、インボイス制度の記載要件、領収書や収入印紙の扱いといった現金払い特有の注意点まで解説します。請求書発行に関するあらゆる悩みを解決し、スムーズな取引を実現するためにぜひ最後までご覧ください。
この章では、現金払いの取引における請求書の役割と、他の支払方法との違いについて詳しく解説します。
「その場で現金を受け取るのに、なぜ請求書が必要なのだろう?」と疑問に思う方もいるかもしれません。しかし、たとえ現金手渡しの取引であっても、請求書の発行は双方にとって非常に重要です。主な理由は以下の3つです。
企業間取引で多く使われる支払方法には、「現金払い」と「銀行振込」があります。それぞれに特徴やメリット・デメリットがあり、取引の内容に応じて選ぶことが大切です。
現金払いは、対面で即時決済ができるのが大きな利点です。手数料がかからず、その場で受け取れるため未回収リスクが低い一方で、支払いのたびに時間や場所の調整が必要です。記録は主に領収書で行われますが、持ち運びや安全面にも注意が必要です。
銀行振込は、オンラインで完結できるため場所を選ばず、通帳や明細に記録が残るのが便利です。ただし、金融機関の営業時間に左右され、着金までに時間がかかる場合があります。また、振込手数料が発生し、通常は支払う側が負担します。
支払方法を明確にするうえで重要なのが「支払い条件」です。これは、支払いの方法・期日・場所・負担する手数料の扱いなどを定める項目で、取引トラブルを防ぐためにも必ず文書化しておく必要があります。特に現金払いでは、支払い日時や場所を事前に合意し、遅延や紛失リスクを防ぐ工夫が欠かせません。
現金払いの請求書も、基本的な書き方は銀行振込など他の支払方法の場合と大きく変わりません。しかし、現金払いならではのポイントを押さえておくことで、取引先とのやり取りがよりスムーズになります。ここでは、請求書の見本とともに、各項目の書き方を具体的に解説します。
まずは、現金払いに対応した請求書の見本をご覧ください。以下の必須項目が漏れなく記載されているかを確認しましょう。
請求書
株式会社〇〇御中
いつもお世話になっております。
下記の通り、現金払いにてご請求申し上げます。
請求日:2025年10月30日
請求番号:INV-1023
支払方法:現金払い(当日手渡し)
支払期日:2025年11月5日
支払場所:御社事務所にて
請求金額:50,000円(税込)
【内訳】
・商品A(単価10,000円 × 3点)......30,000円
・商品B(単価5,000円 × 4点)......20,000円
------------------------------
合計金額:50,000円
備考:
・支払時に領収書を発行いたします。
・お支払い後の返品・返金はお受けできませんので、ご了承ください。
株式会社サンプル
〒000-0000 東京都〇〇区〇〇1-2-3
TEL:03-0000-0000
担当:営業部 山田
このように、基本的な項目に加えて「支払方法」を明確に記載することが重要です。以下、それぞれの項目について詳しく見ていきましょう。
請求書を発行する事業者(自社)の情報を正確に記載します。誰が発行した請求書なのかを明確にするための重要な項目です。
これらの情報は、取引先が問い合わせをする際にも必要となります。
請求の対象となる取引が行われた年月日を記載します。請求書の発行日と混同しやすいですが、インボイス制度では「課税資産の譲渡等を行った年月日」の記載が求められるため、商品やサービスを提供した日付を正確に書きましょう。取引が複数日にわたる場合は、「YYYY年MM月分」のように記載することも可能です。
提供した商品やサービスの内容を具体的に記載します。「品名」「単価」「数量」「金額」などを項目ごとに分け、何に対する請求なのかが一目でわかるようにしましょう。軽減税率(8%)の対象品目がある場合は、その旨がわかるように「※」などの記号をつけて明記する必要があります。
金額の内訳と合計金額を記載します。トラブルを避けるためにも、以下の項目を分けて記載するのが一般的です。
合計金額は、取引先に支払ってもらう最終的な金額となるため、特に目立つように記載すると親切です。
請求書を送付する相手方の氏名または名称を正確に記載します。会社宛ての場合は「御中」、個人宛ての場合は「様」といった敬称を正しく使い分けましょう。部署宛てに送る場合は、「〇〇株式会社 経理部 御中」のように記載します。
いつまでに代金を支払ってもらうのか、支払いの期日を明記します。現金手渡しの場合でも、「YYYY年MM月DD日」のように具体的な日付を記載するのが基本です。事前に取引先と合意した期日を記載しましょう。
現金での支払いを希望する場合、その旨を請求書に明記する必要があります。振込先を記載しないことで現金払いを促す方法もありますが、より明確に伝えるためには以下のいずれかの方法で記載しましょう。
請求書の下部などに設けられる備考欄に、支払方法について記載する方法です。シンプルで分かりやすいのが特徴です。
【記載例】
請求書のフォーマット自体に「支払方法」の欄を設け、そこに「現金」と記載する方法です。振込先の記載欄と並べて設けることで、どの支払方法を指定しているかが一目でわかります。
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支払方法 |
詳細 |
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支払方法 |
現金 |
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振込先 |
(空欄または「ー」を記載) |
2023年10月1日から開始されたインボイス制度(適格請求書等保存方式)に対応する場合、従来の請求書の記載項目に加えて、以下の項目を追記する必要があります。自身が適格請求書発行事業者である場合に必要となります。
税務署から通知された適格請求書発行事業者の登録番号を記載します。アルファベットの「T」と13桁の数字で構成される番号です。請求書発行者の氏名や名称の近くなど、分かりやすい場所に記載しましょう。
【記載例】
登録番号:T1234567890123
取引内容について、適用される消費税率(10%または8%)を明記します。さらに、税率ごとに区分した消費税額と、その合計額をそれぞれ記載する必要があります。これにより、買い手側が仕入税額控除を正確に計算できるようになります。
【記載例】
請求書を現金払いで処理する際は、銀行振込などとは異なる特有の注意点が存在します。ここでは、現金払いの請求書を発行する際に押さえておくべき4つの重要なポイントを解説します。
取引先へ訪問して現金を受け取る、あるいは支払う際には、ビジネスマナーを守ることが信頼関係の維持につながります。まず、必ず事前にアポイントメントを取り、訪問日時を確定させましょう。突然の訪問は相手の業務を妨げる可能性があるため避けるべきです。当日は清潔感のある服装を心がけ、丁寧な言葉遣いで対応します。
現金の受け渡しの際は、金額に間違いがないか、必ず相手の目の前で一緒に確認することが重要です。お札は向きを揃え、封筒やクリアファイルなどに入れて持参すると、より丁寧な印象を与えられます。
現金払いにおいて、領収書は「代金を受け取った」ことを証明する極めて重要な書類です。現金を受け取る側(請求書発行者)は、必ず領収書を準備しておき、代金と引き換えに相手方へ渡してください。領収書がないと、相手方は経費として計上できず、支払い側は二重請求のリスクを懸念することになります。
領収書には、宛名、受取金額、但し書き、日付、発行者の名称・住所・連絡先を正確に記載します。請求書と領収書はセットで管理することを徹底し、スムーズな取引を心がけましょう。
領収書に記載された受取金額が5万円(税抜)以上の場合、印紙税法に基づき収入印紙を貼付する必要があります。これは、金銭の受領事実を証明する「課税文書」に対して課される税金です。収入印紙を貼り忘れると、過怠税が課される可能性があるため注意が必要です。
収入印紙を貼付した後は、再利用を防ぐために必ず印鑑または署名で消印(割印)をします。受取金額に応じた印紙税額は以下の通りです。
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領収書の受取金額(税抜) |
印紙税額(収入印紙の金額) |
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5万円未満 |
非課税 |
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5万円以上100万円以下 |
200円 |
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100万円超200万円以下 |
400円 |
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200万円超300万円以下 |
600円 |
なお、クレジットカード払いの場合は金銭の直接の受領ではないため、受取金額が5万円以上でも収入印紙は不要です。その際は領収書に「クレジットカード利用」と明記します。
個人事業主やフリーランスが特定の業務の報酬を受け取る場合、支払う側(発注者)には源泉徴収の義務が生じます。源泉徴収とは、報酬から所得税などをあらかじめ天引きし、本人に代わって国に納税する制度です。
源泉徴収の対象となる報酬には、原稿料、デザイン料、講演料、弁護士や税理士など特定の資格を持つ人へ支払う報酬などが含まれます。自身が提供するサービスが対象となるか不明な場合は、事前に取引先や税務署に確認しましょう。
源泉徴収の対象となる取引では、請求書に請求金額の内訳として、源泉徴収税額を明記する必要があります。これにより、支払う側が納税額を正確に把握でき、スムーズな支払い処理につながります。
はい、請求書と領収書を一枚にまとめた「請求書兼領収書」として発行することが可能です。特に、その場で支払いと受け取りが完了する現金払いの取引では、双方の手間を削減できるため便利な方法です。
請求書兼領収書を発行する場合、請求書と領収書、それぞれの役割を果たすための記載事項をすべて含める必要があります。具体的には、以下の項目を網羅するようにしましょう。
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項目種別 |
主な記載事項 |
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請求書としての項目 |
発行者の氏名または名称と登録番号(インボイス発行事業者の場合)、取引年月日、取引内容、税率ごとに区分した合計額、書類の交付を受ける事業者の氏名または名称など |
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領収書としての項目 |
「上記の金額を正に領収いたしました」といった支払受領の事実を示す文言、領収日、領収金額 |
なお、請求書兼領収書は領収書としての効力も持つため、記載された受取金額が5万円(税抜)以上の場合は、収入印紙を貼付する義務が生じる点にご注意ください。
現金払いの取引であっても、請求書をPDFなどの電子データで発行することは法律上問題ありません。事前にメールなどで請求書を送付し、後日現金で代金を受け取る、という流れも一般的です。
ただし、電子データで請求書を発行する際は、必ず事前に取引先の承諾を得ることが重要です。相手方の社内ルールによっては、紙の原本での受け取りを必須としているケースもあるため、一方的に電子データで送付するのは避けましょう。
また、電子データで発行・受領した請求書は、電子帳簿保存法の要件に従って保存する義務があります。これは発行側・受領側双方に適用されるため、適切に管理できる体制を整えておく必要があります。
現金払いと電子請求書を組み合わせる際は、トラブル防止のために、以下の点を事前に確認しておくことをおすすめします。
なお、請求書に記載すべき必須項目については、紙で発行する場合と電子データで発行する場合で違いはありません。
現金を手渡しで受け取る取引であっても、取引内容や金額を明確にする証拠として、請求書の発行は非常に重要です。請求書の基本的な記載項目は振込の場合と変わりませんが、支払方法が「現金払い」であることを備考欄や専用の欄に明記することがポイントです。また、2023年10月から始まったインボイス制度に対応するためには、適格請求書発行事業者の登録番号や、税率ごとの消費税額といった項目の記載が必須となります。ぜひ本記事の内容を参考にして、日々の業務にお役立てください。