更新日:2025.12.26

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近年はコスト削減や業務効率化の流れも強まり、領収書を電子化したいと考える中小企業や個人事業主が増えています。
ただ、電子領収書をどう作れば良いのか、法律上どこまで認められるのか、保存方法に特別なルールがあるのかなど、運用面で不安を抱えるケースも少なくありません。さらに、ツール選びや印紙税、改正電子帳簿保存法との関係まで踏み込むと、何を基準に判断すべきか迷う場面も出てきます。
本記事では、電子領収書の作成方法から導入のメリット、実務で必要となる保存ルールまで、初めての人でも理解できるよう順序立てて解説します。
電子領収書とは、PDFなどの電子データとして作成し、メール送付や共有リンクを通じて取引先へ交付する領収書のことです。紙の領収書と同じく取引の証拠書類として扱われますが、課税文書対象の文書ではないため収入印紙が不要となりコスト削減につながります。
企業の経理担当者やフリーランス、個人事業主の間で導入が進んでいる背景には、次の3点が関係しています。
2024年1月以降、電子で受け取った書類は電子データのまま保存しなければならなくなり、従来の「紙に印刷して保管する」運用は法的に認められなくなりました。そのため、領収書も含めた日々の経理書類をデジタルで扱う重要性が高まっています。
電子領収書を作成する際は、法的に有効な書類として認められるための必須項目を押さえる必要があります。 基本項目と適格請求書として発行する場合に必要な項目について解説します。
通常の領収書として電子データを発行する場合、紙の領収書と同じように、以下の基本項目を網羅することが必要です。
まず書類のタイトルに「領収書」と明記し、宛名には取引先の正式名称を記載します。「上様」の表記よりも、可能な限り正式名称を記載することをおすすめします。実務上宛名を特定できることが望ましく、税務調査でも説明しやすいためです。
領収日は実際に金銭を受領した日付を入力し、金額は桁区切りを使って見やすく表します。また、改ざん防止の観点から「¥」や「-」などを付けて表記すると安全性が高まります。
但し書きは「お品代」のように曖昧な表現ではなく、「書籍代」「備品代」など具体的な内容を記載すると明確です。さらに、発行者情報として事業者名・所在地・連絡先を明記します。これらは法人・個人事業主を問わず必要な項目であり、テンプレートやクラウドツールを使う場合でも記載漏れがないか必ず確認しましょう。
仕入税額控除の対象となる取引では、電子領収書を適格請求書(インボイス)として発行する必要があります。 この場合、通常の項目に加えてインボイス特有の情報を追加します。具体的には以下のとおりです。
また、標準税率10%の取引と軽減税率8%の取引が混在する場合、それぞれの金額と税額を明確に示す必要があります。
インボイス制度開始以降、インボイス要件を満たしていない領収書では取引先が仕入税額控除を受けられないため、発行者には正確な対応が必要です。
なお、タクシーや小売店など、一部の事業者は一定条件のもと「適格簡易請求書(簡易インボイス)」を発行できます。この場合も登録番号と税率の区分は必要ですが、記載事項の一部が簡略化されます。
電子領収書の主な作り方は以下のとおりです。
それぞれについて詳しく解説します。
紙の領収書をスキャンしてPDF化する方法は、移行期の一時的な対応としては利用できますが、電子領収書の作成方法としては基本的に推奨されません。紙で発行した時点で印紙税が発生するため、後からPDF化しても非課税のメリットは得られないからです。
また、保存時には電子帳簿保存法の要件を満たす必要があり、解像度やカラー保存、タイムスタンプ付与などの追加対応が求められます。紙と電子の二重管理となり、手間やコストも増えるため、新規発行には不向きです。過去の紙領収書を電子保管するなど限定的な用途に留めるのが現実的です。
WordやExcelのテンプレートを利用して領収書を作成し、PDF形式で保存する方法は、小規模事業者でも導入しやすい電子領収書の発行手法です。
テンプレートに沿って宛名、日付、金額、但し書き、発行者情報などの必須項目を入力し、必要に応じてインボイス対応の情報(登録番号や税率区分)も追加します。
重要なポイントは、完成後のファイルを必ずPDF形式に変換することです。編集可能なWord・Excelのまま送付すると改ざん防止の要件を満たさず、電子帳簿保存法における真実性の確保ができません。
PDF化後は、取引日や金額が一目でわかる規則的なファイル名を付け、専用フォルダに整理します。また、検索性を確保するために別途索引簿を作成し、取引先・金額・日付などを一覧化しておくと保管要件に適合しやすくなります。
電子帳簿システムを利用する方法は、電子領収書の発行と保存を効率的におこなえる手法です。
システム上に取引情報を入力するだけで、インボイス制度や電子帳簿保存法の要件を満たしたPDFを自動生成でき、メール送付や共有リンクの発行まで一括でおこなえます。
さらに、会計システムとの連携により、領収書発行と売上計上を一度の操作で済ませられるため、入力の二重化を避けられます。
事業規模が大きい企業や月間発行件数が多い場合はもちろん、今後電子化を前提に業務を効率化したい事業者にとって、実務負担の少ない選択肢といえるでしょう。
領収書を電子データで受け取った場合、紙で受け取った場合のそれぞれの保存方法と、要件を満たすための実務対応について整理します。
【関連記事】【法人】領収書の保管期間は基本7年|場合によっては10年まで伸びるケースも! | 請求ABC

メール添付やダウンロードURLで受け取った電子領収書は、2024年1月以降、すべての事業者において電子データのまま保存することが義務化されています。紙に印刷して保管する方法は認められておらず、以下のように電子帳簿保存法が定める要件を満たす必要があります。
【電子帳簿保存法の主な要件と実務対応】
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要件 |
内容 |
実務上の対応例 |
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真実性 |
データが改ざんされていないこと |
● タイムスタンプ付与 ● 訂正削除履歴が残るシステム利用 ● 事務処理規程の整備 |
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可視性 |
画面で内容を確認でき、必要に応じて出力できること |
PC画面での表示、プリンターでの即時出力体制 |
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検索性 |
条件でデータを検索できること |
日付・金額・取引先で検索できる管理方法 |
なお検索性に関しては、基準期間の売上高が5,000万円以下の事業者であれば、税務職員からの求めに応じてデータを提出できる体制があれば、厳密な検索機能を備える必要はありません。
電子領収書は、紙と異なり「受け取った時点で保存ルールが決まる」点が重要です。対応を誤ると法令違反となる可能性があるため、早めに保存方法を整えておきましょう。小規模事業者であれば、以下のような簡易的な方法でも対応できます。
クラウド会計ツールを利用すれば、真実性・可視性・検索性のすべてを自動的に満たせるため、電子領収書の保存にかかる負担は軽くなるでしょう。

取引先から紙の領収書を受け取った場合、そのまま紙で保管しても問題ありませんが、スキャナ保存制度を活用すれば電子管理に統一でき、保管効率が向上します。スキャナ保存は義務ではありませんが、電子データで受領した領収書とまとめて管理できる点がメリットです。
スキャナ保存では、200dpi以上の解像度でカラー読み取りを行い、タイムスタンプ付与または事務処理規程の整備が必要です。専用スキャナやスマートフォン撮影の利用も認められており、社員が撮影して経費申請するワークフローにも適用できます。
データ化後、保存要件を満たしていれば紙の原本は廃棄できますが、スキャンが正しく行われているか確認したうえで破棄することが重要です。特に感熱紙のレシートは時間とともに文字が消えるため、早めの電子化が望まれます。
電子領収書を導入した際に企業・個人事業主が享受できる主な効果を、コスト面・事務負担・DX推進という3つの観点から整理して紹介します。
電子領収書を導入すると、印紙税や郵送代などのコストを削減可能です。
印紙税は「紙の課税文書」にのみ課税されるため、PDFなどの電子データは課税対象外とされています。国税庁も公式に電子データは非課税と明示 しており、法的にも明確に位置づけられています。さらに紙代や印刷代、郵送費、封筒代といった周辺コストも不要になるため、年間数万円以上の削減につながるケースもあるでしょう。
ただし、電子で作成した領収書でも「紙に印刷して原本として交付」した場合は課税文書として扱われ、5万円以上の取引では収入印紙が必要となる点に注意しましょう。
電子領収書を導入することで、経理業務の時間削減につながります。従来の紙の領収書では、作成・収入印紙の貼付・封入・郵送手配と、多くの手作業が発生していました。
電子領収書であれば、必要項目を入力してPDFを生成し、そのままメールで送付するだけで発行及び送付手続きが完了です。
また、発行データは自動で保存されるため、紙のファイルをめくって探す必要がなく、紛失リスクも低下します。会計システムとの連携によって仕訳の自動作成も実現できるため、入力ミスや記載漏れも防止できます。
電子領収書の導入は、単なる紙の削減にとどまらず、企業全体のデジタルトランスフォーメーション(DX)の基盤となります。
電子化された領収書はデータとして蓄積されるため、売上分析や顧客管理、入金予測など、経営判断につながる情報として活用可能です。
たとえば、発行データを集計することで顧客別の売上構成、商品・サービスごとの売れ行き、月間・四半期トレンドなどを瞬時に把握でき、キャッシュフロー予測の精度向上にも寄与します。優良顧客の抽出や販売戦略の策定にも活用でき、バックオフィス業務のみならず営業・マーケティング領域にもメリットが広がるでしょう。
電子領収書は発行側だけでなく、受け取る側にとってもメリットがあります。保存スペースの削減、紛失防止、経理効率の向上といった受領側の具体的なメリットについて解説します。
電子領収書を受領すると、紙の領収書のようにキャビネットやファイルを大量に用意する必要がなくなり、保管スペースを削減できます。法人は7〜10年、個人事業主は5〜7年の保存義務があるため、紙のまま保管する場合は膨大な収納が必要です。
電子領収書であればクラウドの利用により場所を取らず、低コストで保管できるため、紙の保管にかかるスペース代やオフィス賃料の削減にもつながります。取引先に電子領収書での送付を依頼し、既存の紙領収書もスキャナ保存で電子化すれば、保管環境を改善できるでしょう。
電子領収書のメリットは、データとして安全に保管でき、改ざんや紛失のリスクを低減できる点です。
電子データで管理すれば、訂正や削除の履歴が自動で記録されるため、内容の信頼性が高く、不正な書き換えは極めて困難です。さらに、サービスによっては復元機能が備わっていることも多く、万が一の操作ミスがあっても安心して管理できます。
また、日付・取引先・金額などで検索できるため、必要な領収書をすぐに見つけ出せる点もメリットです。クラウド保存とバックアップを併用すれば、データ管理の安全性はさらに高まり、日々の経理業務をより安心して進められるでしょう。
電子領収書は、会計システムと連携することで経理業務を効率化できる点がメリットです。紙の場合、内容確認、金額の入力、ファイリング、月末集計まで、すべてが手作業で時間も手間もかかります。
電子領収書であれば、PDFや画像データを会計システムにアップロードするだけでOCR機能が日付・金額を自動抽出し、AIが勘定科目を提案します。そのため、領収書の枚数が多い場合でも、入力作業にかかる時間を削減でき、日常的な経理業務の負担を軽減することが可能です。
従業員の経費精算もスムーズになり、スマートフォンで領収書を撮影して申請できるため、経理担当者は承認するだけで処理が完了します。
電子領収書をスムーズに導入するためには、単にツールを導入するだけでなく、関係者の理解や内部統制、運用フローの見直しなど、組織全体での準備が欠かせません。 電子領収書導入時に押さえておくべき重要なポイントを解説します。
電子領収書への移行を円滑に進めるには、取引先への事前連絡と合意形成が欠かせません。
紙の領収書を前提とした経費精算ルールや社内規程を持つ取引先も多く、一方的に電子化を進めるとトラブルにつながるおそれがあります。そのため、移行の1〜2ヶ月前を目安に通知をおこない、業務効率化や紛失防止といった目的を丁寧に説明しましょう。
紙での発行を希望する取引先には個別対応を検討し、将来に備えて契約書へ電子交付を認める条項を盛り込むことも有効です。
電子領収書は編集や複製が容易なため、改ざんや二重発行を防ぐ仕組みの整備が重要です。
電子帳簿保存法でも「真実性の確保」が求められており、具体的にはタイムスタンプ付与、訂正削除履歴が残るシステムの利用、または事務処理規程の整備によって対応します。
取引量が多い場合は履歴管理機能を備えたシステムが有効ですが、小規模事業者であれば国税庁のひな形を使った規程整備でも要件を満たせます。連番管理や承認フローの設定も、不正防止に効果的です。
電子領収書は、日付・金額・取引先の3項目で検索できる状態にしておく必要があります。これは税務調査時に必要なデータを速やかに提示するための要件です。
クラウド型の書類管理サービスや電子契約システムでは、検索機能が標準搭載されていることが多く、導入するだけで対応できます。一方、売上規模の小さい事業者は検索要件が緩和されるため、ファイル名の統一やExcelでの一覧管理といった簡易的な方法でも対応可能です。自社の規模に合った管理方法を選びましょう。
電子領収書の導入は、単なるペーパーレス化ではなく、業務フローそのものの見直しを意味します。
紙では個人単位で完結していた作業も、電子化によりデータ共有や権限管理が必要になります。そのため、作成・承認・保存を誰がどのタイミングでおこなうのかを明確にし、責任の所在を整理することが重要です。
紙の流れをそのまま電子に置き換えるのではなく、データの特性に合わせて再設計しましょう。まずは一部部署で試行し、課題を洗い出しながら段階的に広げると定着しやすくなります。
電子領収書を保存するには、電子帳簿保存法が求める「可視性」を確保する環境が必要です。具体的には、データを画面で確認でき、必要に応じて出力できるディスプレイとプリンターを備えておくことが求められます。
ただし、特別な設備投資が必要になるケースは少なく、多くの場合は既存のPCやプリンターで対応可能です。操作説明書も付属資料やメーカーサイトのPDFで問題ありません。重要なのは、税務調査時に速やかに表示・出力できる体制を維持しておくことです。
電子領収書は、印紙税の削減や郵送・保管コストの解消など、紙の領収書では得られない多くのメリットがあります。
発行側は作成・送付・保存の作業を効率化でき、受領側は保管スペースの確保や紛失リスクといった悩みを一気に解決可能です。また、電子帳簿保存法との相性も良く、検索性の向上やデータ活用による業務改善にもつながります。
ただし、導入時には取引先との合意形成や改ざん防止策、社内フローの見直しなど、押さえておくべきポイントも存在します。これらを適切に整えれば、電子領収書は企業のDXを加速し、経理業務を大幅に最適化できる強力なツールになるでしょう。
コスト削減と業務効率化を同時に実現したい企業・個人事業主は、早めの電子化を検討することをおすすめします。 経理業務の効率化について詳しく知りたい人は以下の資料もぜひご覧ください。