更新日:2026.01.21

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昨今は人材不足による現場の余力低下が、請求書の宛名間違いや記載漏れ、検収遅延による支払処理の滞留といった形で、請求・支払の周辺工程からじわじわと経理へ波及し始めています。にもかかわらず、「今のところ致命的ではない」と受け止めていないでしょうか。
一方で、完全失業率2.5%・有効求人倍率1.25倍というタイトな雇用環境が続くなか、経理には会計基準・税務・社内ルールなど幅広い専門性が求められます。加えて業務が特定担当者に寄りやすい性質もあり、対応を先送りにすると、月次決算の遅れ、支払ミス、監査対応の停滞が連鎖しやすくなります。
本記事では、経理が直面しうるリスクを整理したうえで、今から着手できる備え(業務改善・標準化・受領プロセス整備・育成)を具体的に解説します。
※本記事は厚生労働省 「令和7年版 労働経済の分析 ─労働力供給制約の下での持続的な経済成長に向けて─」を加工して作成
こんな方にオススメ
この記事を読むと···
経理業務は、足元で人員が足りているように見えても、欠員や負荷増に耐えられる設計になっているかは別問題です。採用で穴を埋める発想が成立しにくい環境が続くなか、経理は専門性と社内固有ルールの両方が必要で、立ち上がりにも時間がかかります。
さらに、フロント部門の余力が落ちると、請求に関する例外処理や社内調整が増え、経理が最後の受け皿になりがちです。表面上は滞りがなくても、手戻りの増加やリードタイムの長期化として静かに積み上がり、締めの局面で負担が跳ね上がることも珍しくありません。
だからこそ、今の段階で 業務の棚卸し・標準化・育成方針の見直しを進めておくことが、安定運用の土台になります。
経理部門は「人数が揃っていて、日々の処理が回っている」状態だと、リスクが見えにくくなります。ただ、その状態が将来も続く保証はありません。
背景には、(1)前工程の余力低下が例外対応を増やすこと、(2)雇用環境のタイト化が長期化していること、(3)経理特有の属人化が「小さな詰まり」を「大きな障害」に変えうること、の3点があります。
この章では、現場起点の波及、労働市場の見通し、経理の構造的リスクを順に整理します。
現場や営業の体制が薄くなると、経理からは見えにくいところで遅れやミスが増え、結果として請求書の不備、承認停滞、検収遅延のように処理し直しが必要な案件が増えやすくなります。たとえば、店舗で検収が遅れて支払処理が止まる、営業側の値引き・返品の確定が遅れて請求修正が発生する、といったケースです。
多拠点展開の企業ほど、取引条件や運用のばらつきが重なり、前工程の揺らぎが経理へ集約されます。今は影響が限定的でも、余力低下が続けば、例外対応は「たまに」から「日常」へ移りやすくなります。
■多拠点展開の業界例
2024年度の完全失業率は2.5%と低水準で、有効求人倍率も1.25倍と高止まりしており、採用の難しさが常態化しています。労働力人口が過去最高を記録している一方で需給はなお厳しく、企業側の不足感は解消していません。
人手不足感はサービス業や販売・接客など現場寄り職種に先行して表れやすいものの、厚生労働省の分析では、今後は幅広い職種へ不足感が広がる見込みも示されています。言い換えると、局所的な問題ではなく、企業活動全体の前提として捉える必要があります。
経理は「処理が回っている」ほど、属人化や例外対応の蓄積に気づきにくい傾向があります。前工程の揺らぎが続くと、調整やイレギュラー対応が増え、標準化・改善の時間が削られやすい構造になりがちです。
その状態で担当者が急に抜けると引き継ぎが追いつかず、締め遅延や品質低下へ直結します。小さな詰まりが積み重なり、内部統制や監査対応の滞留として表面化する点が見落とされやすいポイントです。
経理部門そのものに欠員がなくても、前工程の余力不足が波及すると、例外対応の増加、調整役としての負担集中という形で影響が出やすくなります。
ここでは、日常業務にどう表れやすいかを具体例で整理します。
経理以外の部門で人手が減ると、発注・検収・売上計上などの前工程で遅れやミスが起きやすくなることから、たとえば検収遅延で支払処理が止まり、経理が督促対応に追われる、取引先への宛名・送付先の誤りが増えて確認・修正が増える、といった負荷がかかります。
営業部門の値引きや返品処理が遅れや、請求書の修正依頼が集中することもあります。特に多拠点運営では例外が増えやすく、結果として経理の処理負担が増大します。
現場で人手不足が顕在化すると、止められない業務が優先され、請求・支払に必要な調整が後回しになりがちです。結果として、月末月初に未解決案件が集まり、経理がまとめて処理する構造が生まれます。
例外処理や調整案件が積み上がると、月次決算や支払タイミングで突発的な業務量増に直面し、分析や改善といった本来の活動が後手に回りやすくなります。
労働市場の変化は、まずフロント部門に表れやすく、経理などの事務職は相対的に安定して見えてしまうため、「今は足りている」と考えてしまいがちです。もっとも、雇用のタイト化が長期化するなかで、いずれバックオフィスも「採りたいときに採れない」局面へ近づきます。
そのため、今回っていること自体を前提にせず、将来の人員制約を織り込んで運用を整えることが欠かせません。
日本の労働市場では、多くの業種で人材不足が慢性化しています。企業規模を問わず、人材確保が難しい局面が続くこと自体が特徴です。
厚生労働省の分析でも、社会全体の高齢化や働く人の意識変化などが背景として示されており、人手不足は一過性ではなく構造的な課題として扱われています。経理を含む各部門でも、人材の確保・維持が難しくなる前提で考える必要があります。
女性やシニア層の労働参加が拡大し、労働力人口は6,957万人と過去最大規模となっていますが、人材不足感は依然として強いままです。これは需給バランスがタイトであることを示しています。
現場寄り職種で先行している不足感が、将来は事務・管理部門にも及ぶと見込まれる以上、「今足りている」という状態だけで安心材料にはなりません。経理も、早めに運用と体制を整える価値が高い領域です。
いま欠員がなくても、将来的に人材確保が難しくなる可能性は高まっています。経理は会計・税務の専門性に加え、社内ルールや取引慣行の理解が必要で、採用しても短期で戦力化しづらい職種です。
この章では、労働供給の制約、事務・管理系への波及、経理特有の育成課題という観点から、将来リスクを整理します。
厚生労働省の労働経済分析によれば、日本では生産年齢人口(15~64歳)が2020年の約7,500万人から2040年には約6,200万人まで減少する見通しです。今後20年間で1,300万人規模の減少となり、働き手そのものが減る構造変化を意味します。
一時的に労働力人口が増えた局面があっても、求人倍率の高さは続いており、「採用で埋める」前提が弱まっています。欠員が出てからの対応では間に合いにくい環境に近づいている点が要所です。
これまで不足感が強かったのは現場寄り職種ですが、将来は事務・管理系にも波及することが分析で示されています。今は管理部門の求人倍率が相対的に低く見え、確保しやすいと捉えられがちです。
ただし人口構造の変化が進むほど、事務職でも必要人員を確保しづらくなり、急な欠員に対応できないリスクが高まります。現状が安定しているほど準備が後回しになりやすい点は注意が必要です。
経理は制度・業務知識・社内運用など、現場で培う要素が多い領域です。新規採用だけで即戦力化しにくく、教育期間を十分に取れない状態で欠員が出ると、業務品質・内部統制・監査対応でトラブルが起きやすくなります。
属人化が進んでいる場合は、引き継ぎ不足がミスや停滞の連鎖を生み、部門全体のリスクになります。人材確保が難しくなることを前提に、育成計画と標準化に投資する意味合いはさらに増していきます。
今後は、欠員が出てもすぐに埋められない局面が現実味を帯びます。特に事務・管理系職種で採用が思うように進まない場合、経理業務は遅延・品質低下のリスクが高まります。
ここでは、欠員が出たときの停滞、多拠点企業特有の例外増、付加価値業務の後退という観点で整理します。
生産年齢人口の減少により、欠員発生時に採用で素早く穴埋めできない事態が起こりやすくなります。人手不足が進むと、経験者採用が難しいだけでなく、教育や引き継ぎに割ける時間も確保しづらく、社内ルールの浸透が難航します。
すると、締め処理の遅延やミスが増え、社内外の信頼低下につながりやすくなります。担当者の守備範囲が広がるほど負担が偏り、定常業務でも遅れが出やすくなります。
拠点数が多い企業ほど、契約形態や締め日、取引先ごとの運用が異なり、標準化が進みにくい傾向があります。拠点追加・統廃合・M&Aなどが重なると、取引先情報や請求・支払条件の統一が追いつかず、問い合わせや対応依頼が増えます。
検収遅れや宛名・送付先の混乱が頻発すると、月末月初の駆け込み対応が常態化し、経理担当者の負荷がさらに増大するリスクがあります。
例外対応や日々の処理に追われると、資金繰りの最適化、部門別採算の分析、価格転嫁の検討といった付加価値業務に時間を確保しづらくなります。
管理会計や戦略立案が後回しになれば、経理が担うべき経営支援の役割が弱まり、長期的には会社全体の競争力にも影響し得ます。
将来的に事務・管理部門でも人材確保が難しくなる見込みを踏まえると、いま人員が足りている企業ほど、早めの対策が効きます。ここでは、例外対応を減らす、属人化をほどく、受領〜支払の流れを整える、育成を前提にする、という4つの方向性で整理します。
経理の負荷を押し上げる要因の一つが、前工程の揺らぎから生まれる例外対応です。請求書の宛名・送付先の誤り、発注番号の未記載、検収未了などが繰り返されると、調整や差戻しが常態化します。
効果的なのは、差戻し理由を分類し、発生頻度が高いものから順に手当てすることです。適格請求書要件のチェック設計、支払先情報の統一、紙請求書の電子化など、上流の手戻りを減らす施策が負荷の逓減につながります。
経理は担当範囲が固定化しやすく、暗黙知や独自ルールが残りがちです。属人化をほどくには、業務フローを可視化し、誰がどこを担当しているか、止まりやすい箇所はどこかを明確にすることが出発点になります。
承認・検収・差戻し・支払の各プロセスでボトルネックを洗い出し、処理件数や承認回数などを把握することで、標準化の優先順位がつけやすくなります。標準化が進めば、担当変更があっても引き継ぎが滑らかになります。
将来の人員制約を考えるなら、処理のやり方だけでなく、経理が受け止める件数や手戻り自体を減らす設計も欠かせません。受領から支払までの流れを整えることで、工数を削減できます。
同一費目・拠点ごとに請求データの形式を統一する、外部委託やツール導入で自動化を検討するなど、入口の設計を整えるほど後工程の負荷は下がります。
経理は幅広い知識と経験が求められるため、「採用だけ」で不足を埋めにくい職種です。育成を前提に、いなくなって困る業務や属人化領域を洗い出し、OJTチェックシート、業務分解資料、監査観点の共有など、育成の型を作ることが有効です。
マニュアル整備は若手・新卒でも理解しやすい形にし、ツール選定では「誰でも扱える」ことを基準に据えると、将来の運用リスクを下げられます。
経理部門は現時点で人材が揃っていても、労働市場の構造変化が進めば、安定運用が難しくなるリスクが高まります。2024年度は完全失業率2.5%・有効求人倍率1.25倍と、採用環境の厳しさが続いています。
加えて、生産年齢人口の減少により、将来的には事務・管理系でも人材確保が難しくなる見通しが示されています。経理は知識・経験の蓄積が不可欠な分、欠員補充の遅れや属人化が重なると、業務品質と内部統制のリスクが一気に顕在化しやすい点が特徴です。
混乱や負荷の増加を避けるには、例外対応の削減、業務標準化、受領プロセスの見直し、育成体制の整備を平時のうちに進めることが効果的です。できる備えから順に着手し、経理業務が安定して回り続ける環境を整えていきましょう。
経理の安定運用を目指すには、「例外の発生源を減らす」「業務を見える化して標準化する」「受領〜支払の流れを整理する」「育成を前提とした体制へ切り替える」といった対策を組み合わせることが有効です。
たとえば差戻し理由の上位項目を潰すだけでも、作業負荷は下がります。担当者ごとの仕事を可視化し、誰が抜けても回る仕組みを整えることで、急な欠員にも対応しやすくなります。
また、データ形式の統一や外部サービス活用を検討することで、採用環境が厳しくなっても業務停滞を回避しやすくなります。インボイスでは請求書処理の効率化や業務標準化など、支援サービスを提供しています。統一や標準化が難しいとされる通信費や水道光熱費といった請求書も、インボイスのサービスを通じて効率化を実現し、経理部門の工数削減に貢献いたします。
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