更新日:2026.02.10

ー 目次 ー
多拠点展開企業にとって、経理部門は単なる定型業務の遂行にとどまらず、請求・支払処理や帳簿管理の複雑化、円安・物価高騰・金利上昇といった激しい外部環境の変化、慢性的な人手不足、そして電子帳簿保存法対応に代表される証憑管理の複雑化など、多岐にわたる新たな課題に直面しています。
私たちは、これらの課題の根本原因は「仕組み」にあると見ています。従来の属人的な経理体制では、激変する現代の経営環境下で多拠点展開企業が持続的な成長を実現することは困難です。経理業務の仕組みそのものを見直すことが、今最も重要な経営判断といえるでしょう。
本記事では、この前提に基づき、中小企業庁の専門家が多角的に分析した「2025年度版中小企業白書・小規模企業白書」の要点を踏まえながら、多拠点企業の経理がどこから変革を始めるべきかを解説します。最新の統計データと現場の実態に即した知見を交え、あなたの会社の経理体制を再設計するための具体的な方策を提供します。
(出典:中小企業庁 2025年版中小企業白書・小規模企業白書の概要)
こんな方におすすめ
この記事を読むと...
2025年版中小企業白書・小規模企業白書は、円安や物価高騰、構造的な人手不足という厳しい外部環境下において、中小企業や小規模事業者がどのように成長・持続的発展を遂げるかを明らかにしています。専門家の知見に基づき分析されたこれらのデータは、多拠点企業の経理部門が直面する「現実」を客観的に示唆しています。本章では、中小企業白書が浮き彫りにする現代の経理環境の要点を以下の観点から整理します。
中小企業白書は、中小企業庁が毎年まとめて国会に提出する、日本の中小企業・小規模事業者の経営実態や課題、そして政策の方向性を明らかにする年次報告書です。その権威性と網羅性は、経理担当者が経営環境や政策動向を把握し、自社対応を検討するための信頼できる情報源の一つです。主な目的は三つあり、まず現状把握、次に経済環境の変化による影響や課題の整理、最後に国としての支援策や政策の方向性を示すことです。
中小企業白書は中小企業基本法に基づいて作成されており、1年に1回発行されます。この客観的な情報に基づき、自社の経理戦略を策定することが、不確実性の高い時代における競争力維持の鍵となります。
2025年版では、円安や物価高が続く中で、金利上昇や人手不足といった課題が強く強調されています。とくに、従来の経営手法だけでは現状維持すら難しい状況であることが示され、経営者の経営力向上を中心に、成長と持続的発展のための具体策がまとめられています。これは、経理部門が単なる事務処理に留まらず、経営全体を支える「仕組み」としての役割を強化する必要があることを示唆しています。
人材確保や賃上げ余力の制約、労働生産性の停滞、設備投資やデジタル化への対応、価格転嫁の必要性、倒産・休廃業の増加、事業承継、M&Aやイノベーション、海外展開などが、豊富なデータや成功事例を交えて解説されています。小規模事業者については、独自性の発揮や経営計画の策定、地域課題への対応も重視されています。支援機関自体も人材不足や連携強化という課題を抱えており、経理部門にも避けられない影響が及ぶことが見込まれます。
客観的なデータを見ると、中小企業の業況判断DIが2023年上半期に約30年ぶりの水準を記録したものの、その後は回復が足踏み状態です。人材不足が依然として深刻で、賃上げ圧力は高まる一方、対応余力は限られています。
価格転嫁の進展も十分とは言えず、原価や人件費、エネルギーコストの上昇分を吸収しきれていない企業が多いのが現状です。今後については、借入依存度の高い中小企業ほど金利上昇による利益圧迫リスクが高まりやすく、特に宿泊業や飲食業などが影響を受けやすいとされています。
一方で、価格設定の柔軟性や生産性向上の実行力があれば、賃金や利払い増も吸収できる可能性があると中小企業白書は指摘しています。つまり、逆風の中でも経営力の差が企業の業績動向を左右する時代に入ったといえるでしょう。この「経営力の差」を生み出すためには、経理部門の「仕組み」が極めて重要な役割を担います。
多拠点展開企業は、円安や物価上昇、金利の変動といった経済環境の変化に加え、深刻な人手不足や拠点ごとのコスト増加、取引先からの新たな要請など、複数の外部要因に同時に対応する必要があります。これらの外的圧力は経理業務に直接的な負荷をもたらすだけでなく、既存の経理「仕組み」の脆弱性を露呈させ、業務を停滞させる構造的な問題を引き起こします。結果として、効率的な管理体制の構築が喫緊の課題となります。
以下では、多拠点展開企業の経理領域に影響を与える個別の外部要因が、どのように業務を「詰まらせる構造」を生み出すのかを、現場の経験に基づき以下の観点から具体的に整理します。
近年の中小企業白書でも指摘されている物価上昇や円安、金利上昇などの環境変化は、国内の多拠点企業に大きな負担をもたらしています。特に、複数の拠点を持つ企業では、外部要因によるコストや業務負荷が全体に波及しやすいため、利益の圧迫や資金繰りの困難化といったリスクが高まります。これは、コスト変動に即応できる経理「仕組み」がないと、収益悪化が構造的に固定化されてしまうことを意味します。
また、時代の変化に応じた経営力の強化が求められる中で、現状維持すら難しくなるケースも増えています。変化に対応できない経理の仕組みは、経営判断を遅らせ、企業の存続を危うくしかねません。
多拠点展開企業では、拠点ごとに人件費・エネルギー・原材料・物流費・金利負担などのコストが重なり合います。拠点数が増えることで、これらのコストが加速度的に膨らみます。
経理部門には拠点別の支出管理や、資金繰りの調整といった業務負荷が一層増します。外部環境がコスト増を後押しする中、拠点ごとの「費用可視化の仕組み」が不十分だと、利益の圧縮やキャッシュフローの悪化といった深刻な課題も無視できません。経費管理のボトルネックが、企業の成長を阻害する構造となるのです。
人手不足は現場だけでなく、経理や事務といった間接部門にも影響を及ぼしています。従来型の業務運用では維持が難しくなること、また業務の属人化や透明性の確保が業績に直結することが示唆されています。
多拠点の経理・支払業務は、業務分散や担当者依存が生じやすく、「標準化された仕組み」がないことで人員が減るほど内部統制が弱くなるため、組織全体のリスクも上昇します。これは、人手不足が既存の「仕組みの不備」を顕在化させ、経理業務を構造的に「詰まらせる」典型的な例です。
中小企業白書では、成長戦略としてスケールアップやM&Aが有効とされていますが、拠点新設や統合が進むほど、経理部門の統合負担が重くなります。
新たな拠点やグループ企業の請求・支払処理、取引先台帳や承認フローの統一など、運用の一本化が進まない「仕組み」のままだと、業務のボトルネックやミスの温床となるリスクが高まります。これは、成長戦略の裏側で経理業務が構造的に「詰まる」可能性をはらんでいることを示しています。
サプライチェーン全体でGX(グリーントランスフォーメーション)、人権尊重、経済安全保障、BCP(事業継続計画)などへの対応が求められるようになっています。これらへの対応が不十分な場合、取引機会の喪失につながる懸念があります。
多拠点企業では、全拠点を横断する証跡や文書の整備・保管が求められ、これが経理・購買・総務部門の証憑管理業務の負荷増加につながっています。「電子化された一元的な管理や仕組み」がなければ、法令遵守と業務効率化の狭間で、経理部門は構造的に「詰まってしまう」ことになります。
多拠点展開企業が直面する主要な経理課題を整理すると、拠点数の増加に伴うコストの膨張、業務の属人化による維持困難、統合時の運用ボトルネック、証憑管理体制の強化が必須となります。これらはすべて、既存の経理「仕組み」の欠如や不備が引き起こす構造的な問題であると言えます。
今後は、これらのリスクを見据えた管理体制の見直しと、経理業務の効率化・標準化への取り組みが一段と重要になるでしょう。単なる対処療法ではなく、根本的な「仕組み」の再設計こそが、持続可能な経営を実現するための鍵となります。
2025年度版中小企業白書では、円安や物価高、金利上昇といった外部環境要因が多拠点展開企業へ与える影響が強調されています。とりわけ経理業務は業界ごとに直面する課題や注力すべきポイントが異なり、各業界の特徴に即した「仕組み」の対応が求められます。
製造業では原価管理、飲食業や小売業では店舗・拠点別の収益把握、物流やサービス業では人手不足や生産性向上など、それぞれ経理部門が担うべき役割が具体的に変化しています。ここでは、各業界の経理業務への影響と、それに対する「仕組み」としての注目ポイントを表にまとめ、最後に業界を問わず共通して求められる経理業務の方向性を解説します。
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業界 |
主要な課題・ポイント |
求められる対応 |
|---|---|---|
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製造業 |
・拠点別や製品ごとの原価把握が最重要課題 |
・勘定科目ごとの細やかな費用把握とリアルタイムなデータ連携の仕組み |
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飲食業 |
・拠点数増加に伴う小口・高頻度の請求や支払いの急増 |
・店舗ごとの採算を素早く把握し経営判断に活用する仕組み |
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小売業 |
・多様な取引形態(仕入、販促、物流、委託など)に伴う複雑な費用発生 |
・デジタル化や業務の一元管理を推進する仕組み |
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物流業 |
・人手不足の影響を最も強く受ける業界の現状 |
・拠点ごとの収益やコストを明確に把握する仕組み |
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サービス業 |
・人件費比率が高く、労働生産性の改善が業績に直結 |
・一人当たりの生産性向上と業務の標準化の仕組み |
これら各業界に共通して、多拠点企業の経理部門には部門別採算性の強化や管理会計の徹底といった「仕組み」の構築が強く求められています。人手不足に備えて少人数でも対応できる体制づくりや、業務の簡素化・一元化、証憑管理の電子化による効率化も不可欠です。
特に証憑管理のデジタル化は、法令対応や監査にも直結するため、業界を問わず今後の経理体制整備の最重要項目といえます。これらを「仕組み」として企業文化に根付かせることが、持続的な成長への鍵となります。
中小企業白書2025年版では、円安・物価高や金利負担の増加、深刻な人手不足といった外部環境の変化が、特に多拠点を展開する企業の経理体制に大きな影響を及ぼすと指摘されています。事業所や店舗が増えるほど、コスト管理や証憑業務などの煩雑さも比例して高まります。
こうした状況を乗り越え、経営の持続的発展を実現するためには、部門単位での収支把握、少人数でも安定運用できる体制、業務の簡素化と一元化、証憑管理の電子化による法令対応など、複合的な「仕組み」の再設計が必須です。各企業が自社の現状を踏まえ、どこから手を付けるべきか順序立てて考えることが、今後の安定経営への第一歩となります。
私たちはこれらの課題を多角的に把握し、現場の運用実態やリスクまで理解したうえで、最適なアクションを提案します。具体策を知り、自社に合った経理体制を再設計したい方は、以下の主要なアクションをご検討ください。
多拠点展開企業では、各事業所や部門ごとの収益・費用を正確に把握することが、コスト削減の根本です。2025年版中小企業白書でも、経営判断を下す基礎として、事業・拠点単位での数値管理の重要性が明言されています。
たとえば、店舗別の損益や工場ごとの原価を可視化できれば、利益を生まない拠点の早期発見や、非効率な業務の改善に直結します。また、部門マスタ設定や仕訳の自動化を進めることで、毎月の経営報告がより具体的となり、財務面からの経営アドバイスや資金繰りの方向性も明確になります。
属人的な集計作業を排除し、部門別損益管理を徹底する仕組みを構築することが、経理部門が攻めの業務へ転換するための第一歩です。
人手不足が加速するなか、経理部門も限られた人数で安定運用できる体制づくりが求められています。中小企業白書では、業務の属人化を解消し、透明性を高める経営体制への転換が業績向上に寄与するとされています。
具体的には、外部委託(アウトソーシング)や経理業務のDX化を検討し、業務プロセスを標準化・自動化することが有効です。これにより、一人当たりの生産性が向上し、急な人員変動にも柔軟に対応できるようになります。
現場任せの処理や担当者依存を減らし、誰が担当しても同じ品質で経理業務が回る仕組みを目指すことが、持続可能な組織づくりにつながります。
多拠点企業では、月末月初に集中する経理業務がボトルネックになりやすい現状があります。中小企業白書でも、効率化・デジタル化による業務負荷の軽減が推奨されています。
特に拠点数が多いほど請求関連業務が複雑化しやすいため、請求書処理の一本化や外注化、支払方法や回数の統一化が有効です。また、債権・債務管理、支払管理も極力まとめて運用することで、事務作業の重複や抜け漏れを削減し、経理担当者の負担を大きく減らせます。
プロセスの見直しによって、業務のスピードと正確性を高める仕組みを構築することが、多拠点経営における安定運用の鍵となります。
2025年版中小企業白書は、脱炭素・経済安全保障・人権尊重といった新たな社会的要請への対応力も企業に求められると示しています。これに伴い、取引証憑の管理は、紙から電子への移行が急務です。
証憑の電子化を進めることで、電子帳簿保存法などの法令対応がスムーズになり、監査や取引先対応の効率も向上します。証憑管理をDX化することは、単なる管理業務の効率化に留まらず、法令対応や内部統制の強化、サプライチェーン全体での信頼性向上にもつながります。
今後の取引拡大、M&Aや海外展開を視野に入れる企業ほど、証憑管理の電子化は避けて通れない分野です。これを「仕組み」として組み込むことが、企業の競争力を高めます。
経理の現場では、効率化やコスト削減のために新たなツール導入を検討する企業が増えています。しかし実際には、ツールの機能やコストの比較に時間をかけるあまり、導入決定が先延ばしになったり、現場に合わないツールを選定してしまうという事例も少なくありません。
こうした失敗を防ぐためには、まず自社の経理体制や業務環境を客観的に分析し、現状の課題や強みを明確にすることが重要です。本章では、ツール導入ありきの発想から一歩立ち止まり、「経理3C分析」という当社独自のフレームワークを活用して自社の現状と課題を整理するアプローチを、以下の視点から紹介します。
多くの経理担当者は、新サービスやシステムの比較検討に入る前に、自社の経理業務がどのような特徴や制約を持つかを十分に分析できていません。たとえば、拠点ごとに運用ルールが異なっていたり、属人化している業務が残っている場合、いくら優れたツールを導入しても業務改善につながらないケースがあります。
2025年版中小企業白書でも「従来のやり方では現状維持も困難」とされており、激変する経営環境下では、まず自社の現状把握と課題認識が不可欠です。環境分析を行うことで、何が本当に必要なのか、どこに重点を置くべきかが見えてきます。これは、あなたの会社の「仕組み」がどこで機能不全を起こしているかを見つける上で、最も重要なステップです。
経理業務の現状を整理する際、「3C分析」の考え方が有効です。中小企業白書で示された「経営力」の3要素にも通じますが、ここではインボイスが考える独自の経理3C「Company(自社)」「Competitor(他社、業界標準)」「Customer(社内外のステークホルダー)」の視点で検討します。
自社の経理業務プロセス、体制、課題、強みを洗い出します。たとえば、拠点ごとの請求・支払業務の違いや、承認フローの属人化、証憑管理の方法などを細かく確認します。現在の経理「仕組み」の実態を徹底的に可視化することが重要です。
業界内で進んでいる経理業務の効率化施策や、同規模他社の取り組みと自社を比較します。中小企業白書でも、成長企業はデジタル化や管理会計の徹底を推進していることが示されています。業界標準から自社の「仕組み」の立ち遅れを認識することで、改善の方向性が見えてきます。
経理業務の利用者である現場部門や、取引先、経営層のニーズ・要望を把握します。証憑の提出・回収の手間や、リアルタイムな数値把握など、各部署が求める業務水準を明確にします。経理「仕組み」がサービスを提供すべき対象者の視点から、何が求められているかを理解します。
この3つの観点から現状を整理することで、導入すべき施策やツールが自ずと絞り込まれます。
2025年版中小企業白書・小規模企業白書が示す最新のデータや知見をもとに、多拠点展開企業が直面する経理の構造的な課題、そして「仕組み」の重要性について解説してきました。円安や物価高、人手不足、コスト増加といった激しい外部環境の変化は、これまで以上に企業の経営力と経理体制の適応力が問われています。
この厳しい環境下で事業の成長を維持するためには、経理部門の効率化やDX化の推進が不可欠です。しかし、やみくもにツールやシステムの導入に走るのではなく、まずは自社の強み・課題・リスクを冷静に整理し、最適な打ち手を選ぶことが失敗回避の鍵となります。こうした多角的な分析と「仕組み」の見直しこそが、法令対応、コスト削減、生産性向上という具体的な成果につながるのです。
多拠点展開企業の経理担当者として、外部環境を正確に踏まえた上で、自社の状況を正確に可視化することが、今後の競争力強化や持続的な成長を実現するスタートラインとなるでしょう。
新しいシステムやDX化の検討を始める前に欠かせないのが、自社の現状や課題を整理するフレームワークです。資料「経理3C分析」は、経理部門の現状把握、外部環境・内部資源・競合との比較をもとに、失敗しないための分析手順を解説しています。
経理の効率化や体制構築で悩んでいる方、外部要因への備え方を具体的に検討したい方にとって、実務にすぐ役立つ内容です。資料は無料でダウンロードが可能ですので、ぜひご活用ください。自社の立ち位置や課題を整理し、最適な経理戦略を立てるヒントとしてご覧いただければ幸いです。
本記事では、2025年版中小企業白書・小規模企業白書という信頼性の高い公的データを根拠に、多拠点展開企業の経理が直面する外部要因や業界別の具体的な影響、そして今備えるべき体制やアクションについて、「仕組み」の重要性を結論として解説してきました。円安や物価高、人手不足、コスト増加など、厳しさを増す外部環境下では、「自社の現状把握」と「経営力向上」が特に重要です。
経理部門の効率化やDX化の推進は避けて通れませんが、やみくもなツール導入ではなく、自社の強み・課題・リスクを冷静に整理したうえで、最適な「仕組み」の再設計を選ぶことが失敗回避の鍵です。この根本的な見直しこそが、法令対応、コスト削減、生産性向上という具体的な成果をもたらします。
多拠点展開企業の経理担当者として、外部環境を踏まえたうえで、まずは自社の経理「仕組み」を正確に可視化することが、今後の競争力強化や持続的な成長のスタートラインとなります。ぜひ「経理3C分析」を活用し、あなたの会社がどこから変わるべきかを見つけてください。
自社の状況を正確に可視化することが、今後の競争力強化や持続的な成長のスタートラインとなります。