更新日:2025.04.30
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電子帳簿保存法にもとづいて書類を電子保存する際、事務処理規程の必要性に悩む経理担当者は少なくありません。
実は、2021年度の電子帳簿保存法改正により、2022年1月1日以降に作成・受領した書類のスキャナ保存は、原則として事務処理規程の整備が不要になりました。
ただし、特定のケースでは依然として事務処理規程が必要です。適切に対応しないと、税務調査での問題や、最悪の場合は青色申告の承認取消しなどの重大な問題につながるおそれもあります。
本記事では、電子帳簿保存法上の事務処理規程の必要性について、必要になるケースや作成方法もあわせて解説します。
電子帳簿保存法は、税務関連の帳簿や書類の電子データ保存を認める法律です。この法律の目的は、業務効率化やペーパーレス化、保存コスト削減などの支援です。
従来は原則として紙での保存が求められていた国税関係帳簿書類について、一定の要件を満たすことで電子データでの保存を可能にしています。
電子帳簿保存法で定められている保存方法は、以下のとおりです。
なお、電子取引データ保存については、2024年1月1日以降はすべての事業者に対して義務化されています。これにより、メールやクラウドサービスを通じて受領した請求書などは、電子データのまま保存する必要があります。
電子帳簿保存法上の事務処理規程とは、電子データの保存・管理に関する社内ルールを明文化したものです。この規程は、電子取引データの改ざん防止を目的とした「真実性の確保」の要件の1つとして位置づけられています。
事務処理規程のおもな役割は、電子データを適切に保存・運用するための手順や基準を定めることです。具体的には、責任者や作業担当者などの運用体制を明確にし、データの訂正・削除の方法や条件を明示します。
電子帳簿保存法では、電子取引データの改ざん防止のために以下のいずれかの方法を選択することが求められています。
参考:国税庁「電子取引デ ータを適切に保存できていますか?」
2022年1月1日以降に作成・受領した書類のスキャナ保存については、事務処理規程は原則として不要になりました。これは2021年度の電子帳簿保存法改正によるもので、事務手続きの簡素化を目的としています。
ただし、事務処理規程が必要なケースでは特定の要件を満たす必要があるため、自社の状況に応じた適切な対応が求められます。
ここでは、電子帳簿保存法の事務処理規程が必要かどうかの判断基準について解説します。
2021年度の電子帳簿保存法改正により、スキャナ保存に関する事務処理規程の整備の要件が廃止されました。これにより、2022年1月1日以降に作成・受領した書類については、事務処理規程を作成しなくてもスキャナ保存が可能です。
ただし、事務処理規程を作成せずにスキャナ保存をおこなう場合は、以下の要件を満たす必要があります。
また、電子取引データの保存においても、別の方法で「真実性の確保」の要件を満たしている場合、事務処理規程は不要です。
事務処理規程が依然として必要となるおもなケースは、以下のとおりです。
事務処理規程の作成を怠った場合は、青色申告の承認取消しのリスクや推計課税・追徴課税のリスク、税務調査での不利益などのさまざまな問題が生じるおそれがあります。とくに、電子データの真実性を証明できないと、税務調査で否認される可能性も高まります。
事務処理規程は、電子帳簿保存法の要件を満たすための重要な文書です。
電子帳簿保存法でルールが定められているため、単に形式的に作成するのではなく、実際の業務フローに沿った実用的な内容にすることが求められます。また、定期的な見直しで、法改正や業務変更にも柔軟に対応できる体制の整備が可能です。
ここでは、電子帳簿保存法の事務処理規程を作成する際のポイントについて解説します。
関連記事:すぐ分かる!電子帳簿保存法の事務処理規程サンプル|作成の流れと注意点ガイド
事務処理規程は、法的要件を満たすだけではなく、実務担当者が実際に運用できる内容であることが重要です。
事務処理規程を定期的に見直すことで、電子帳簿保存法の要件を確実に満たす体制を維持できます。法改正や業務フローの変更があった場合には、速やかな規程の更新も重要です。
なお、基本的な構成項目は、以下のとおりです。
項目 |
内容 |
目的 |
電子帳簿保存法にもとづくデータ保存・管理のルールを明文化する目的 |
適用範囲 |
規定が適用される対象 |
管理責任者 |
規程の管理責任者の役割と権限 |
電子取引の範囲 |
対象となる電子取引の種類 |
電子データの保存方法 |
保存場所や保存期間、保存形式など |
対象となるデータ |
保存対象となる具体的なデータ |
運用体制 |
責任者や担当者の役割 |
訂正・削除の原則禁止に関する規定 |
やむを得ない理由がある場合の詳細な申請・承認フロー |
訂正・削除をおこなう場合の手続き |
訂正・削除の履歴の保存について |
施行日 |
事務処理規程を適用する日付 |
法人と個人事業主では組織構造や業務規模、責任の所在などが根本的に異なるため、電子帳簿保存法における事務処理規程の要件も異なります。それぞれの特徴は、以下のとおりです。
区分 |
特徴 |
法人 |
・目的や適用範囲、管理責任者などの10項目程度と、組織構造を反映した責任体制の記載が必要 ・部門間の連携や役割分担の明確化が必要 |
個人事業主 |
・おもに「規程の内容」「訂正・削除の原則禁止」「訂正・削除をおこなう場合の手続き」「施行日」の4項目の、より簡略化された内容で対応可能 ・シンプルな業務フローにあわせた内容で作成 |
法人も個人事業主も、それぞれの形態に応じた適切な内容の規程を作成して、実際の業務に沿った運用が求められます。
電子帳簿保存法の目的は電子データの「真実性の確保」にあり、事務処理規程は電子データの不正な改ざんを防ぐために作成が必要です。訂正・削除に関するルールが曖昧で、形骸化していると、電子保存したデータの信頼性自体が否定される可能性もあります。
そのため、以下の項目を明確に規定することが重要です。
電子帳簿保存法に対応したシステムの導入で、タイムスタンプの付与や保存要件の確保を自動化できます。また、適切なシステムを導入すれば、事務処理規程の作成が不要になる場合も多いでしょう。
電子帳簿保存法に対応したおもなサービスは、以下のようなものがあります。
とくにスキャナ保存では、タイムスタンプの付与や検索機能の確保といった技術的な要件が多いため、専用のシステムの活用で要件への対応が可能です。システム選定の際には、自社の業務フローに合ったものを選ぶようにしましょう
本記事では、電子帳簿保存法上の事務処理規程の必要性について、必要になるケースや作成方法もあわせて解説しました。
2022年1月1日以降に作成・受領した書類のスキャナ保存は、電子帳簿保存法の事務処理規程は基本的に不要となりました。ただし、過去の書類や入力期間の延長を希望する場合や電子取引データの「真実性の確保」として事務処理規程を選択する場合など、依然として事務処理規程が必要なケースもあります。
事務処理規程を定めなかった場合、税務調査の際に不利になるリスクや最悪の場合は青色申告の承認取消しのリスクもあります。
また、電子帳簿保存法の規定は定期的に見直されるため、最新の情報を確認しながら適切に対応していきましょう。