更新日:2026.08.31

ー 目次 ー
電子帳簿保存法への対応を進めるなかで、「事務処理規程は必ず作らなければならないのか」「国税庁のサンプルをそのまま使ってよいのか」と迷う方もいるでしょう。
結論からいうと、事務処理規程はすべての事業者に一律で必須ではありません。電子取引データの改ざんを防ぐための措置は複数あり、タイムスタンプや訂正・削除の履歴が残るシステムを使わない場合に、事務処理規程を定めて運用する方法を選べます。
この記事では、事務処理規程が必要になるケースを整理したうえで、国税庁の法人・個人事業者向けサンプルをもとに、記載項目、作成手順、実務で使える記載例、運用時の注意点まで解説します。
電子帳簿保存法における事務処理規程とは、電子取引で受け取った請求書・領収書などのデータについて、不当な訂正や削除を防ぐための社内ルールです。
電子取引データは紙に印刷して保存するだけでは足りず、電子データのまま保存し、改ざん防止などの要件を満たす必要があります。改ざん防止の方法として、国税庁は次の4つを示しています。
タイムスタンプが付与された電子取引データを受け取る
受け取った電子取引データに、所定の期間内にタイムスタンプを付与する
訂正・削除の履歴が残る、または訂正・削除ができないシステムでデータを授受・保存する
正当な理由のない訂正・削除を防止する事務処理規程を定め、その規程に沿って運用する
つまり、事務処理規程は「電子帳簿保存法に対応するために必ず作る書類」ではなく、電子取引データの真実性を確保するために選べる手段の一つです。
参照:国税庁「電子取引データをルールに従って保存できていますか?」
事務処理規程が必要かどうかは、自社がどの方法で電子取引データの改ざんを防ぐかで決まります。まずは次の表で確認してください。
| 保存方法 | 事務処理規程 | 理由 |
|---|---|---|
| タイムスタンプ付きデータを受領する | 原則不要 | タイムスタンプで真実性を確保できるため |
| 受領後に自社でタイムスタンプを付与する | 原則不要 | タイムスタンプで真実性を確保できるため |
| 訂正・削除履歴が残るシステムで保存する | 原則不要 | システム機能で訂正・削除を把握できるため |
| 訂正・削除できないシステムで保存する | 原則不要 | システム上で改ざんを防止できるため |
| 共有フォルダなどで保存し、上記の仕組みがない | 必要 | 事務処理規程を定め、規程どおり運用して真実性を確保する |
判断のポイント
専用システムを導入していない中小企業や個人事業主でも、事務処理規程を定めて運用すれば改ざん防止措置の一つとして利用できます。
一方、規程を作っただけでは要件を満たしません。実際の訂正・削除手続きまで規程どおりに行う必要があります。
ここでいう「訂正及び削除の防止に関する事務処理規程」は、主に電子取引データ保存の真実性を確保するためのものです。電子帳簿等保存やスキャナ保存にも運用手順を明らかにする書類や保存規程のサンプルがありますが、同じものではありません。
たとえば、紙の請求書をスキャンして保存する場合はスキャナ保存の要件を確認する必要があります。メール添付のPDF請求書やECサイトからダウンロードした領収書を保存する場合は電子取引データ保存に該当します。
国税庁は、電子取引データの訂正・削除防止に関する事務処理規程について、「法人の例」と「個人事業者の例」をWord形式で公開しています。まずは公式サンプルをダウンロードし、自社の運用に合わせて修正するのが確実です。
法人向けのサンプルでは、目的・適用範囲・管理責任者・訂正削除の原則禁止・訂正削除を行う場合の手続などが定められています。個人事業者向けは、組織上の役職を置かないことを前提に、より簡潔な内容です。
以下は、国税庁の考え方を踏まえて実務用に整理した記載例です。会社名、責任者、施行日などを自社に合わせて変更してください。なお、実際の運用やシステム構成によって必要な内容は異なるため、最終的には税理士などの専門家への確認も検討しましょう。
電子取引データの訂正及び削除の防止に関する事務処理規程
第1条(目的)
本規程は、電子帳簿保存法に基づき、電子取引により授受した取引情報の電磁的記録を適正に保存するため、正当な理由のない訂正及び削除を防止するための事項を定める。
第2条(適用範囲)
本規程は、当社が電子メール、クラウドサービス、Webサイト、EDIその他の電子的方法により授受する請求書、領収書、見積書、注文書、契約書その他の取引情報に適用する。
第3条(管理責任者)
電子取引データの管理責任者は[役職・氏名]とする。データの保存および訂正・削除に関する手続を適切に管理する。
第4条(訂正・削除の原則禁止)
保存した電子取引データは、正当な理由なく訂正または削除してはならない。
第5条(やむを得ず訂正・削除する場合)
業務上やむを得ない理由により訂正または削除を行う場合は、申請日、対象データ、取引先、訂正・削除日、内容、理由、処理担当者を記録し、管理責任者の確認を受ける。記録は対象となる電子取引データの保存期間に合わせて保存する。
第6条(保存)
電子取引データは、所定の保存場所に保存し、税務調査等で求められた場合に速やかに提示または提出できる状態を維持する。
第7条(施行・改訂)
本規程は[20XX年XX月XX日]から施行する。法令、システムまたは業務フローの変更があった場合は、必要に応じて内容を見直す。
| 項目 | 法人 | 個人事業主 |
|---|---|---|
| 管理責任者 | 経理責任者や管理部長など、責任者を明記する | 「事業主本人が管理する」といった簡潔な表現でも可 |
| 承認フロー | 訂正・削除時の申請者と承認者を分ける運用も検討 | 本人だけで処理する場合は、理由と変更内容の記録を残す |
| 適用範囲 | 対象部門・拠点・担当者を明確にする | 対象となる電子取引の種類を明確にする |
目的:電子取引データを適正に保存し、正当な理由のない訂正・削除を防ぐことを明記します。
適用範囲:メール、クラウド、ECサイト、EDIなど、対象となる電子取引や書類を整理します。
管理責任者・処理責任者:誰がデータ管理を担当し、訂正・削除を判断するのかを明確にします。
訂正・削除の原則禁止:保存後の電子取引データは、正当な理由なく訂正・削除しないことを定めます。
訂正・削除する場合の手続:やむを得ず変更する場合の申請方法、記録項目、承認方法、履歴の保存方法を決めます。
施行日・改訂:規程をいつから適用するか、法改正や業務変更時に見直すことを定めます。
まず、国税庁の「参考資料(各種規程等のサンプル)」から、法人または個人事業者の例をダウンロードします。第三者が作成したテンプレートだけを使うのではなく、国税庁のひな形を基準にすることで、必要な論点を漏らしにくくなります。
メール添付の請求書、ECサイトからダウンロードする領収書、クラウド経由で受領する見積書など、電子データで授受している取引を洗い出します。紙で受け取った書類を後からスキャンする「スキャナ保存」と混同しないようにしましょう。
誰が保存を管理するのか、訂正や削除が必要になったときに誰が申請・確認するのかを決めます。特に「何を記録するか」を曖昧にすると、実際に訂正が発生した際に履歴が残らなくなるため注意が必要です。
電子取引データは、税務調査などで求められた際に速やかに表示・提出できる状態で保存します。システムを使わない場合は、ファイル名を「取引年月日_取引先_金額」などで統一したり、索引簿を作成したりして検索できる状態を整えます。
事務処理規程は、作成しただけでは改ざん防止措置として機能しません。関係者にルールを共有し、訂正・削除が発生した際は規程に定めた手続きを実際に行います。担当者が変わった場合にも運用が途切れないよう、保存場所や申請方法をマニュアル化しておくと安心です。
事務処理規程は「真実性の確保」のための措置です。電子帳簿保存法に対応するには、規程を定めるだけでなく、電子取引データを確認・検索・提出できる状態にしておく必要があります。
| 要件 | 実務上の対応 |
|---|---|
| 改ざん防止 | タイムスタンプ、履歴管理システム、または事務処理規程などで真実性を確保する |
| 見読可能性 | ディスプレイやプリンタ等を備え、データを速やかに画面・書面へ出力できる状態にする |
| 検索機能 | 原則として取引年月日・取引金額・取引先で検索できるようにする |
| ダウンロード対応 | 税務職員からデータの提示・提出を求められた際に応じられるようにする |
なお、検索機能については、税務職員のダウンロードの求めに応じられることを前提に、基準期間の売上高が5,000万円以下の事業者などでは、検索機能の確保が不要となる場合があります。自社が特例に該当するかを確認したうえで保存方法を設計しましょう。
訂正・削除が必要になったときに、元データを上書きしたり、理由を残さず削除したりすると、規程を定めた意味がなくなります。正当な理由、変更内容、処理日、担当者などを記録し、後から確認できるようにしてください。
バックアップの二重化やダブルチェック、経営層の承認などは内部統制として有効な場合がありますが、すべての事業者に電子帳簿保存法上必須というわけではありません。自社の規模やリスクに応じて必要なルールを追加しましょう。
訂正・削除履歴が残るシステムへ移行すれば、改ざん防止を事務処理規程に依存しない運用へ変更できる場合があります。逆に、システムを変更して履歴管理機能がなくなれば、規程による対応が必要になる可能性があります。システム変更時は保存要件と規程をセットで確認してください。
次の項目に複数当てはまる場合は、事務処理規程による改ざん防止措置を検討する価値があります。
メールやクラウド、ECサイトなどで請求書・領収書等を電子データで授受している
受領データにタイムスタンプが付いていない、または自社で付与していない
保存先に訂正・削除履歴を残す機能がない
保存後のデータを削除・上書きできる共有フォルダ等で管理している
訂正・削除が必要になった場合の社内ルールが決まっていない
ただし、タイムスタンプや履歴管理システムなど別の方法で真実性を確保できる場合は、必ずしも事務処理規程を採用する必要はありません。
原則として、事務処理規程そのものを事前に税務署へ提出する手続はありません。ただし、規程を改ざん防止措置として利用する場合は、規程を備え付け、実際にその内容に沿って運用していることが重要です。
ひな形として利用できますが、会社名、責任者、訂正・削除時の手続などは自社の実際の運用に合わせて修正してください。実態と規程が一致していないと、担当者がルールどおりに運用できません。
作成できます。国税庁も個人事業者向けのサンプルを公開しています。従業員がいない場合でも、訂正・削除を原則禁止し、やむを得ず変更する場合の理由や内容を記録するルールを定めておく方法があります。
電子取引データ保存については、事務処理規程を定めて遵守することで、改ざん防止措置としてタイムスタンプを使わない方法を選べます。ただし、検索や見読可能性など、ほかの保存要件まで不要になるわけではありません。
電子帳簿保存法の事務処理規程は、すべての事業者に一律で義務付けられているものではありません。電子取引データの真実性を確保する方法の一つであり、タイムスタンプや訂正・削除履歴が残るシステムを利用しない場合に有効な選択肢です。
作成する場合は、国税庁が公開している法人・個人事業者向けのサンプルを基準に、対象となる電子取引、管理責任者、訂正・削除の禁止、例外時の手続きを自社の実態に合わせて定めましょう。
また、規程を作るだけでは対応は完了しません。電子取引データの検索・表示・提出ができる保存体制を整え、関係者が規程どおりに運用できる状態を維持することが重要です。