更新日:2023.06.30
ー 目次 ー
帳簿や請求書といった書類を電子データで保存する際に把握するべきものが、電子帳簿保存法です。電子帳簿保存法はこれまで何度か改正されているため、改訂されるたびに変更後の要件などを把握しておく必要があります。
この記事では電子帳簿保存法とは何か、メリット・デメリット、令和5年度の税制改正による変更点や注意点などを解説します。
電子帳簿保存法とは、1998年に制定された国税に関わる帳簿や対象書類を電子データで保存する際のルールを定めた法律です。国税に関わる帳簿とは仕訳帳や総勘定元帳など、書類とは決算関係書類や請求書、領収書などが当てはまります。本来、これらの書類は原則として紙で保存されていましたが、電子帳簿保存法によって電子データで保存できるようになりました。
電子帳簿保存法では、電子データでの保存方法を次の3つに分けています。(※)
区分 |
方法 |
事例 |
電子帳簿等保存 |
電子的に作成した帳簿や書類をデータのまま保存する方法
|
会計ソフトなどで作った帳簿や書類を保存 |
スキャナ保存 |
紙で受領・作成した書類を画像データで保存する方法
|
紙で受け取った・作成した書類をスキャンしてPDFで保存 |
電子取引 |
電子的にやり取りした取引情報をデータで保存
|
サイトからダウンロードしたPDFの請求書をそのまま保存 |
なお、メールでやり取りした請求書データやクラウドサービスで発行した請求書、契約書なども電子取引です。
電子帳簿保存法とは、国税に関わる書類の電子データ保存を認める法律であるため、紙から電子データ保存に切り替えることで次のようなメリットにつながります。
電子帳簿保存法によって電子データでの保存が認められることで、さまざまなコスト削減が期待できます。例えば、紙で発生していた次のようなコストが削減可能です。
電子データでやり取りすることで、これらのコストが削減できるでしょう。
電子帳簿保存法によって削減できるコストは他にもあります。書類の管理にかかっていた従業員の人件費や、書類の保管場所にかかっていたコストも削減可能です。
電子データで保管することで、紙で管理していたときに発生していたファイリングや封筒への封入作業が不要になります。こまた電子データであれば、パソコンの検索機能を使用してスムーズに必要なファイルを見つけ出せるため、業務効率化が期待できるでしょう。
紙は長時間保存していると、色あせや破れによって文字が判別できなくなるかもしれません。また、紛失や災害による消失などのリスクも考えられるでしょう。一方、電子データであれば退色や破損、紛失などのリスク解消が期待できます。
電子帳簿保存法はコストの削減や業務効率化につながる一方で、システム導入費用の発生や従業員が法律の要件を把握する必要があるといったデメリットもあります。
電子帳簿保存法に対応するには、対応したシステムの導入が欠かせません。さらには紙の書類を電子化するためのスキャナも必要です。電子帳簿保存法の対象となる国税関係書類は、請求書や見積書など多岐にわたります。電子帳簿保存法に対応したシステムの中には、一部の国税関係書類に対応しているものもあれば、すべての書類に対応しているものもあります。すべての書類に対応しているシステムのように、機能や使いやすさを求めると、システム導入費用が高額になってしまうかもしれません。
電子帳簿保存法に則って書類を保存するには、保存の要件などを把握しておく必要があります。そのため電子帳簿保存法に精通した従業員がいれば安心ですが、いない場合は教育や研修の実施が必要です。従業員の教育や研修には時間がかかるだけでなく、教える人員が必要になります。教える人員が自社にいない場合は、セミナーや勉強会に参加することになるため、受講料が発生してしまいます。
電子帳簿保存法は2022年1月に改正されました。この改正によって、税務署長への前もっての承認手続きや、適正事務処理要件などの廃止や検索要件の緩和などが認められました。さらに令和5年度の税制改正によって適用要件や保存要件が緩和されています。
なお、2022年1月の改正についてはこちらの記事で詳しく解説しているのでご覧ください。
電子帳簿保存法では、優良な電子帳簿を運用している企業とそれ以外の企業とで区分けがされています。優良な電子帳簿は以下などの要件を満たすことが条件です。
優良な電子帳簿を運用している企業は、過少申告加算税や青色申告特別控除額の優遇措置を受けられます。
企業が優良な電子帳簿として優遇を受けるためには、すべての電子帳簿で要件を満たす必要があり、企業規模や従業員人数によっては取り組むのが困難なケースがありました。
しかし、令和5年度の税制改正によって優良な電子帳簿の範囲が見直された結果、次のような帳簿を対象にするだけで、優遇を受けられるようになりました。(※)
その他の必要な帳簿とは売上帳や仕入帳、売掛帳、買掛帳などが含まれます。優良な電子帳簿の要件を満たすべき帳簿が明確になったことで、優良な電子帳簿保存が進むことが期待されています。
※出典:国税庁.「電子帳簿保存法の内容が改正されました(P2)」
従来であればスキャナで読み取った国税関係書類は、解像度や階調(色の段階)、大きさの情報を保存しておく必要がありましたが、税制改正によって情報の保存は不要となりました。ただし、スキャナで読み取る際は200dpi以上の解像度、原則カラーといった要件を引き続き守る必要があります。(※)
解像度、階調などの情報の保存以外にも、スキャナ保存の要件は次のように緩和されました。
※出典:国税庁.「電子帳簿保存法の内容が改正されました(P3)」
スキャナ保存をする際は、スキャンした画像と書類が同一であるかを確認する担当者、さらにはその担当者を監視する監督者の情報を管理して、確認できるようにしておく必要がありました。この条件の例として次のようなことが挙げられます。
しかし、入力者、監督者の情報の管理も令和5年度の税制改正によって廃止されています。(※)
※出典:国税庁.「電子帳簿保存法の内容が改正されました(P3)」
従来であればスキャナ保存する際は、帳簿だけでなく関連する書類も紐づける形で保存する必要がありました。一方、税制改正によって帳簿と紐づける関連書類は以下に限定されています。
そのため、見積書や注文書といった資金・物の流れに連動しない書類を紐づけての保存は不要となっています。(※)
※出典:国税庁.「電子帳簿保存法の内容が改正されました(P3)」
電子帳簿保存法で、電子取引のデータを保存する際の要件として設けられているのが検索要件です。検索要件とは、保存したデータを日付、取引金額、取引先といった条件で絞り込める仕組みを指します。この要件は、税務調査などで税務署員からデータのコピーを求められて、コピーを提出できるのであれば不要とされていました。しかし、検索要件が不要となるのは、前々年度の売上高が1,000万円以下の場合に限られていました。
令和5年度の税制改正では検索要件が不要となる対象企業を、前々年度の売上高が5,000万円以下まで引き上げています。(※)
※出典:国税庁.「電子帳簿保存法の内容が改正されました(P3)」
電子取引によるデータの保存義務は、2023年12月31日まで猶予期間が設けられていました。猶予期間も令和5年度の税制改正で新たに次のように設けられています。(※)
令和5年度の税制改正では具体的な猶予期間がないため、恒久的な猶予期間と考えられます。しかし、電子取引データを要件に従って保存できない相当の理由とは、2023年4月24日時点では発表されていません。そのため、従来の紙での保存ではなく、電子データで保存する取り組みは継続することが大切です。
※出典:国税庁.「電子帳簿保存法の内容が改正されました(P3)」
令和5年度の税制改正によって新たに猶予期間が設けられたため、電子帳簿保存法の要件に沿って保存していなかった場合であっても、すぐに罰則が科せられるという可能性は低いかもしれません。しかし、悪質な場合は確定申告での青色申告の承認取り消しや、重加算税の課税といった罰則が科せられる可能性があります。(※)
電子帳簿保存法は、令和5年度の税制改正によって新たに猶予期間が設けられました。しかし、猶予が認められるには相当の理由が必要です。そのため、自社の状況が猶予相当の理由を満たしていない場合に備えて、電子帳簿保存法に対応しておく必要があります。電子帳簿保存法に適切に対応する一つの方法として、OCR機能をはじめとしたシステムの導入が挙げられます。ここでは電子帳簿保存法に適したシステムの選び方を紹介します。
電子帳簿保存法に適したシステムにはさまざまな種類があり、システムの種類によって対応している書類の幅は異なります。
そのため、導入するシステムを選ぶ際は、システムの対応書類が導入目的に応じているかを確認しましょう。例えば幅広い書類の電子保存を目的としているのであれば、すべての国税関係書類に対応したシステムを選びます。一方、受領した請求書や経費精算での領収書を電子保存するのであれば、請求書もしくは領収書のみに対応したシステムを導入します。
OCR機能とは、画像データに入っている文字を読み取ってテキストに変換する機能です。OCR機能を活用することで、画像データに含まれている取引先名や取引日、価格などを手入力することなくテキストとして保存が可能です。また、OCR機能によって手入力の必要がなくなるため、入力ミスの減少も期待できます。
書類をスキャナで保存する際は、タイムスタンプが付与されている、もしくは修正した履歴が分かる必要があります。そのため、電子帳簿保存法に適したシステムは、どちらかの機能が備わっているシステムを選ぶようにしましょう。
電子帳簿保存法とは、これまで紙の書類での保存が原則だった請求書、領収書などの国税書類を電子データで保存することを認めた法律です。電子帳簿保存法によって、コストの削減や業務の効率化が期待できます。一方で、システム導入費用が高額になる可能性がある、従業員に電子帳簿保存法について教育を施す必要があるといった点がデメリットです。
電子帳簿保存法は2022年1月に一度改正され、さらに令和5年度の税制改正でも要件や猶予期間が変更されています。改正によってスキャナ保存の要件が緩和されるなど、これまでよりも電子帳簿保存法に則った運用がしやすくなりました。国税書類を電子データで保存をする際は、しっかりと改正後の内容を把握して、適切に運用していきましょう。また、電子帳簿保存法に適したシステムを導入する際は、導入目的に適したシステムやOCR機能などが備わったシステムを選ぶようにしましょう。