更新日:2022.12.13
ー 目次 ー
情報化およびペーパーレス化が加速する平成初期において、パソコンを使用した帳簿作成が普及しつつありました。そこで、経済界などが電磁的記録の容認を国に求めたことから、1998年に電子帳簿保存法が創設されます。その後もIT化が進み、複数回の改定を重ねて現在の制度になりました。
直近で改正が施行された2022年1月には、これまで負担の大きかった要件の緩和が行われ、事業者にとって電子帳簿保存法を導入しやすい環境へ変わりました。しかし、企業担当者で電子帳簿保存法に対して正しい知識を有している方は少ないかと思います。
そこで本記事では、電子帳簿保存法についてわかりやすく解説します。電子帳簿保存法の改正内容について理解しておきたい企業の担当者は参考にしてください。
電子帳簿保存法は、さまざまな税法で保存義務のある帳簿や書類の電子データ保存に対するルールを定めた法律です。この章では、電子帳簿保存法の概要について詳しく解説します。
電子帳簿保存法の正式名称は、「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿の保存方法等の特例に関する法律」です。端的にいうと、国税関係書類の電子データ保存に関する法律のことです。
電子帳簿保存法は1998年に施行された法律で、時代の変化と共に何度か改正されてきました。直近では2022年1月に改正が行われ、主に電子取引におけるデータ保存の義務化が追加されました。しかし、多くの企業では改正後すぐに対応できる体制が整っていないことが問題として挙げられます。
特に、中小企業や個人事業主などにとって改正後の対応準備期間が短いため、国は2023年末まで従来通りの方式を認める措置を取りました。電子帳簿保存法の対象となるのはすべての法人と個人事業主です。保存方法は「電子帳簿等保存」「スキャナ保存」「電子取引」の3つに分けられ、それぞれで要件が定められています。
電子帳簿保存法の対象となる書類は以下の通りです。
書類 |
保存方法 |
・仕訳帳 ・総勘定元帳 ・現金出納帳 ・賃借対照表 ・損益計算書 ・棚卸表 ・領収書(控え) ・請求書(控え) ・発注書(控え)など |
電子帳簿保存 |
・領収書 ・請求書 ・発注書 ・上記書類の控え など |
スキャナ保存 |
・電子決済 ・メール ・EDI取引 など |
電子取引に係るデータ保存 |
なお、手書きで作成した「総勘定元帳」や「仕訳帳」などの主帳簿、「請求書」や「補助簿」などは対象外です。これらの書類は従来通り原本を紙媒体のままで保存する必要があります。
2022年1月の改正によって、電子帳簿保存法はどのように変わったのでしょうか。この章では、電子帳簿保存法改正による主要な変更ポイント6つについて詳しく解説します。
従来の法律では、電子帳簿等保存やスキャナ保存を利用するには、3ヶ月前までに管轄の税務署長の承認を得なければなりませんでした。課題として、事前承認の申請が手間であることに加え、承認までに時間を要することが挙げられていました。しかし、改正後の法律では事前承認の手続きが廃止され、然るべき保存を行えば誰でも電子帳簿等保存やスキャナ保存が可能となったのです。
帳簿や書類をスキャナで保存する際は、データ改ざんが安易にできてしまいます。そこで、データ改ざんがないことを証明するために、タイムスタンプの付与を行います。従来の法律では、付与期間が3営業日以内と定められていましたが、改正後は最長2ヶ月と7営業日に緩和されました。また、データの修正履歴などが残る会計システムを利用している事業者は、タイムスタンプの付与が不要となります。
電子帳簿保存法では、各書類にそれぞれ検索項目の設定が義務付けられていました。しかし、改正後の法律では、「日付」「取引金額」「取引先名」の3項目に限定されます。事業者は、それぞれの項目設定に手間を費やしてきたことから、この要件緩和により経理作業における時間を大幅に短縮することが可能です。
電子帳簿保存法において、スキャナ保存を行うには、以下の適正事務処理要件を満たさなければなりませんでした。
改正後では、適正事務処理要件が廃止され、容易なスキャナ保存が可能です。これまでは、適正事務処理要件のために、社内規定の厳格な整備が必要であったため手間がかかっていました。事業者は今後それらにかける時間がなくなるため、業務効率化が図れます。
改正前までは、電子取引情報を印刷して紙媒体で保存することが可能でした。しかし、データ改ざんなどの観点から、電子取引におけるデータは電子データとして保存することが義務化されます。対象となるのは、取引先からデータで受け取った注文書や契約書、領収書や見積書などです。
電子帳簿保存法は2022年1月の改正によって、さまざまな規制が緩和されることになりました。一方で、隠蔽や偽装などの悪用があった場合の措置として罰則が定められます。罰則により悪質だと認められた場合は、重加算税の請求や青色申告の取り消しなどを実施します。
ただし、厳しい罰則が設けられた今回の改正において、従来から紙の取り扱いが多かったり、人手が足りなかったりして、すぐに対応できない事業者も多いでしょう。そのため、令和4年度における税制改正大綱において、2023年末まで猶予期間が設けられました。その期間までは従来通り、紙媒体の保存が認められます。事業者は猶予期間のうちに、経理体制の確立を目指していきましょう。
電子帳簿保存法では、3つの保存法について記載があります。この章では、「電子帳簿等保存」「スキャナ保存」「電子取引」それぞれの保存要件について詳しく解説します。
電子帳簿等保存の要件は以下の通りです。
加えて、他の要件も満たすことで優良な電子帳簿として認定されます。優良な電子帳簿と認められれば、本来10%である過少申告加算税が5%に免除されます。
電子帳簿等保存の真実性の要件は以下の通りです。
要件 |
概要 |
訂正・削除履歴の確保 |
帳簿をパソコンで作成する際に使う会計ソフトに、訂正または削除履歴が残るものを使用。帳簿に再度入力する場合はその事実が確認できるものであること。 |
相互関連性の確保 |
帳簿のデータと関連する書類のデータにおいて、その関連性を相互確認できること。 |
システム関係書類に備え付ける |
保存する電子データには、事務処理マニュアルやシステムの概要書など、システム関係書類を備え付けること。 |
電子帳簿等保存の可視性の要件は以下の通りです。
要件 |
概要 |
見読可能性の確保 |
電子データの保存場所に電子計算書やプリンタなどの操作説明書を備え付けること。ディスプレイ画面を整頓し、第三者がみてもすぐに出力できる状態にしておくこと。 |
検索機能の確保 |
帳簿に応じた主要項目の設定を行うこと。記録項目では、日付・金額は範囲指定で検索できること。複数の任意項目から検索できること。 |
スキャナ保存の要件は、書類やその重要度によって異なります。つまり、重要度の高い書類は保存の要件が厳しくなる特徴があります。重要書類は、契約書や領収書、借用証書や請求書などです。一方で、資産や物品に直接影響のない検収書や見積書などはさほど重要ではない一般書類として扱います。
スキャナ保存の真実性の要件は以下の通りです。
要件 |
概要 |
入力期間の制限 |
重要書類は受領後7日以内に入力、または業務サイクル(2ヶ月以内後)後の7日以内に入力。一般書類は適時に入力。 |
解像度または読み取り |
重要書類は解像度200dpi以上、加えて赤・青・緑の階調256以上。一般書類はグレースケールでも問題なし。 |
タイムスタンプの付与 |
重要書類は日本データ通信協会が許可したものに限る。2ヶ月と7営業日までに付与し、期間内のデータ改ざんがないことの事実が確認できること。一般書類は記録事項の入力が可能であればタイムスタンプは不要。 |
読み取り情報の保存 |
重要書類は読み取り時の解像度を維持し、階調とサイズも同様。A4サイズより小さい場合は大きさの保持は不要。一般書類は読み取り時のデータの大きさ保持は不要。 |
バージョン管理 |
重要書類は訂正または削除時、履歴および操作履歴が残ること。一般書類も同様。 |
入力者などの情報の確認 |
重要書類は入力者や監督者の情報が確認可能であること。一般書類も同様。 |
スキャナ保存の可視性の要件は以下の通りです。
要件 |
概要 |
相互関係性の確保 |
重要書類は帳簿と帳簿に関連する書類の関連性が相互確認できること。一般書類も同様。 |
見読可能装置の備え付け |
重要書類はカラーの14インチ以上のディスプレイで4ポイント文字の判読ができる装置を説明書と共に備え付けること。該当する書類と同レベルに明瞭で、拡大縮小の上印刷ができること。 |
システム開発における関係書類の備え付け |
重要書類は作成に使った会計ソフトの説明書などを備え付けること。一般書類も同様。 |
検索機能の確保 |
重要書類は取引年月日とその他日付・取引の金額や取引先に限定する。一般書類も同様。 |
電子取引における電子データ保存は、対象書類の範囲が広いという特徴があります。基本的に電子情報を用いた取引は、すべて電子保存する必要があります。ただし、電子取引の情報をあらかじめ紙媒体に変換している場合は保存対象外です。
電子取引の真実性の要件は以下の通りです。
要件 |
タイムスタンプ付与を行った際は、取引先とデータの授受を行うこと。 |
電子データ授受後、7営業日以内にタイムスタンプ付与を行うこと。また、保存者や監督者の情報確認ができること。 |
電子データの内容を後から確認できること。また、操作できないシステムを利用すること。 |
内容の改ざんがないよう、不正防止のための規定を定めること。 |
電子取引の可視性の要件は以下の通りです。
概要 |
電子取引のデータを保存する場所に、ディスプレイやプリンタなど関連機器の説明書を備え付けること。 |
電子データが整頓されており、かつ十分に判読できる状態であること。また、すぐに出力できる状態であること。 |
使用する処理システムの概要が記載された書類を備え付けること。 |
検索機能が付帯していること。 |
電子帳簿保存法によってさまざまなメリットが生まれます。一方で、事業者によってはデメリットとなる場合もあります。この章では、電子帳簿保存法におけるメリット・デメリットについて詳しく解説します。
電子帳簿保存法によるメリットとしては、ペーパーレスな体制が構築できることです。企業としては、用紙代や印刷代などのコスト削減につなげられます。また、国税関連書類は7年間保管する義務があるため、事業者にとっては保管スペースの確保も大きな問題でした。そのため、電子帳簿保存法が導入されることで、多くの書類が電子データとして保存できるため、保管スペースの問題が解消されます。
加えて、、パソコン上で管理できるようになるため、紙媒体で発生するファイリングやそれに付随する作業がなくなります。また、ネットワーク上のセキュリティ対策をしっかり行っていれば、従来の保存環境よりもセキュリティ面で優れているといった利点もあります。
電子帳簿保存法にさまざまなメリットがある一方で、システム導入による初期コストが課題として挙げられます。電子帳簿保存法では多くの要件を満たす必要がありますが、それらに対応するには新しいシステムやスキャナなどの設備導入が必要です。事業者によってはそのコストが重くのしかかるといった問題が発生しています。
また、ネットワーク上で管理する性質上、システム障害によるリスクも避けられません。あらかじめバックアップを取っておくなどの対策が必要です。電子帳簿保存法の改正によって、これまで以上にパソコンに依存した体制を構築する必要があり、従業員へのITリテラシー強化が急務です。特に、安全に運用していくにあたり、セキュリティ面の知識を落とし込むことが肝要です。
改正された電子帳簿保存法に対応するために、いくつかポイントがあります。この章では、改正された電子帳簿保存法に対応するための3つのコツについて詳しく解説します。
電子帳簿保存法に向けて、電子化すべき書類の整理を行いましょう。仕訳帳などの国税関係帳簿や、賃借対照表や損益計算書などの国税関係書類など、対象となる帳簿書類は多いです。また、インターネット取引における請求書や利用明細書なども電子データとして保存する必要があります。
電子帳簿保存法では、帳簿書類の保存状態が重要です。きちんと電子保存していてもデータの読み取りが甘かったり、すぐに出力できない状態であったりすると意味がありません。また、現在改正された電子帳簿保存法に対応できないシステムであっても、2年間の猶予期間があります。この期間中に電子帳簿保存法に対応できるシステム導入を行い、かつ業務フローの構築を図りましょう。
電子保存の方法によって、求められる要件が異なります。保存状態のクオリティが求められることもあるため、電子帳簿保存法に対応した周辺機器の整備を行いましょう。また、会計システムも同様で、多くの企業では既存のシステムでは対応しきれない傾向にあります。直前で焦って対応することにならないよう、然るべき機器やツールの用意をしておきましょう。
電子帳簿保存法は、すべての法人と個人事業主を対象とした、保管義務のある帳簿書類の電子データ保存に関する法律です。法律自体は1998年から施行されており、近年では多くの企業が導入に際して頭を悩ませていました。しかし、2022年1月に一部改正が施行され罰則が規定されたものの、以前よりも要件が緩和されました。保存方法は主に3つあり、それぞれで満たすべき要件が異なります。
電子帳簿保存法によって企業が享受するメリットは大きいですが、デメリットや実施にあたって注意すべきこともあります。導入の手間や初期コストがかかりますが、中小企業や個人事業主は2年間の猶予期間内に現在の電子帳簿保存法に向けた体制を整えることが大切です。電子帳簿保存法導入に際して、企業として経理業務の見える化を図り、課題の早期発見と企業成長につなげましょう。