更新日:2024.10.24
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電子帳簿保存法は、国税関係書類を電子的に保存することを義務付ける法律です。改正により、その対象範囲が拡大され、多くの企業にとって対応が必須となりました。
この法律に対応していない場合、100万円以下の罰金刑が科せられる可能性があります。また、青色申告の承認の取り消しや、追徴課税、推計課税といったペナルティを受ける可能性も。企業の信頼性や事業継続性を守るためにも、電子帳簿保存法への正しい理解と適切な対応が求められます。
本記事では、電子帳簿保存法の概要から罰則規定、違反への対策、具体的な保存方法まで、詳しく解説いたします。企業規模や業種を問わず、すべての企業にとって有益な情報となるでしょう。
電子帳簿保存法の正式名称は、「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」といいます。
国税庁の電子帳簿保存法一問一答より、電子帳簿保存法の説明を引用します。
「電子帳簿保存法は、納税者の国税関係帳簿書類の保存に係る負担の軽減等を図るために、その電磁的記録等による保存等を容認しようとするものですが、納税者における国税関係帳簿書類の保存という行為が申告納税制度の基礎をなすものであることに鑑み、適正公平な課税の確保に必要な一定の要件に従った形で、電磁的記録等の保存等を行うことが条件とされています。」
引用: 国税庁.「電子帳簿保存法一問一答【電子計算機を使用して作成する帳簿書類関係】」
電子契約の普及により、取引の記録を電子データで作成したり、受け取ったりするケースが増えてきました。
電子帳簿保存法は取引記録の電子データでの保存を容認し、納税者の負担を軽減するための法律です。
一方で、電子契約は取引記録の保存方法が従来の書面契約と大きく異なります。
そこで、電子帳簿保存法は取引記録を電子データで保存するときの条件やルールを定めています。
電子帳簿保存法の対象は、インターネットや電子メールでの電子取引によって生じた国税関係帳簿書類です。
国税関係帳簿書類とは、所得税法や法人税法で一定期間の保存が義務づけられた決算や、確定申告に必要な書類を指す言葉です。
国税庁の一問一答によると、電子帳簿保存法の場合は次の書類が国税関係帳簿書類に該当します。
区分 | 例 | 関連のある条文 |
---|---|---|
帳簿 | ● 仕訳帳 ● 現金出納帳 ● 売掛金元帳 ● 固定資産台帳 ● 売上帳 ● 仕入帳 など |
電子帳簿保存法4条または5条 |
書類 | ● 棚卸表 ● 賃借対照表 ● 損益計算書 ● 注文書 ● 契約書 ● 領収書 など |
|
電子取引の取引情報 (電子証憑) |
取引に関して受領し、または交付する注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類に通常記載される事項 | 電子帳簿保存法7条 |
企業が電子帳簿保存法に対応することは、法的義務であると同時に、業務効率化やコスト削減にも繋がる重要な取り組みです。電子帳簿保存法は、企業が国税関係書類を電子的に保存することを義務付ける法律です。この法律に対応することで、紙媒体の保管スペースや印刷コストを削減できるだけでなく、書類の検索やデータ分析を容易にすることができます。
2024年1月1日より、電子帳簿保存法の改正により、ほぼすべての企業が電子保存の対象となりました。そのため、**特別な事情がない限り、企業は電子帳簿保存法に対応する必要があります。**対応が遅れると、罰則の対象となるだけでなく、税務調査の際に書類の提出がスムーズにいかず、業務に支障をきたす可能性もあります。
改正により、電子帳簿保存法の対象範囲は拡大されましたが、一部例外も存在します。例えば、以下の条件を満たす中小企業などは、引き続き紙での保存が認められています。
ただし、これらの条件に該当する場合でも、将来的には電子保存への移行が求められる可能性があります。そのため、現状で対応が不要な企業も、電子帳簿保存法の内容を理解し、今後の動向に注意しておくことが重要です。
もし電子帳簿保存法に違反した場合、罰則が科される可能性があります。
例えば、2022年1月の法改正により、国税関係帳簿書類の電子データの改ざんなどが発覚した場合は重加算税が10%加重されます。
そのほか、青色申告の承認が取り消される可能性や違反内容によっては会社法に抵触し、過料が科せられる可能性もあります。
電子帳簿保存法の罰則について知り、最新の法令に対応しましょう。
正しい方法で国税関係帳簿書類を保存していない場合、青色申告の承認が取り消される可能性があります。
承認取り消しのケースとして、例えば次のようなものがあります。[注3]
● 帳簿書類を提示しない場合における青色申告の承認の取消し
● 税務署長の指示に従わない場合における青色申告の承認の取消し
● 隠蔽又は仮装の場合等における青色申告の承認の取消し
● 無申告又は期限後申告の場合における青色申告の承認の取消し
● 電子帳簿保存法の要件に従っていない場合における青色申告の承認の取消し
ただし、国税庁の一問一答によると、取引の事実がきちんと電子データ以外で確認される場合は、直ちに罰則は科されません。
税務調査により、電子データの改ざんや隠蔽が見つかった場合は、通常の追徴課税35%に10%が加重された重加算税が課税されます。
また、国税関係帳簿書類に不備があったり誤記が多かったりする場合は、税務署による推計課税が行われる可能性もあるので注意が必要です。
国税関係帳簿書類を適切に保存しなかった場合、会社法第976条の規定により100万円以下の過料が科せられます。
このように電子帳簿保存法のルールに従って国税関係帳簿書類を保存しなかった場合、さまざまな罰則の対象になる可能性があります。
電子帳簿保存法には、電子データの保存に関するさまざまなルールが定められています。
電子帳簿保存法の違反になりうるケースは大きく分けて、真実性の要件を満たしていない場合と可視性の要件を満たしていない場合の2つです。
これから会計システムや経費精算システムを導入する場合は、真実性と可視性の2つの要件を満たしたサービスかどうか確認しましょう。
電子帳簿保存法の「真実性」とは、電子データの改ざんを防ぐ手立てを講じ、オリジナルのまま保存することを意味します。
電子データの真実性を確保するには、以下のいずれかの条件を満たす必要があります。[注4]
「可視性」とは、電子データをいつでも確認可能な状態にし、必要なときに必要な項目を検索できるようにすることを意味します。
電子データの可視性を確保するには、以下のすべての条件を満たす必要があります。[注4]
電子帳簿保存法違反を未然に防ぐためには、法令の理解、社内体制の整備、業務フローの見直し、そして専門家の活用といった多角的な対策が必要です。これらの対策をしっかりと行うことで、罰則リスクを回避できるだけでなく、業務効率化やコスト削減といった効果も期待できます。
電子帳簿保存法違反を防止するには、まず担当者を設置し、責任を持って対応できる体制を構築することが重要です。担当者は法律の改正情報や最新技術を常に把握し、社内全体に周知徹底する役割を担います。
また、従業員向けに研修を実施し、電子帳簿保存法の目的や重要性を理解させることも重要です。定期的な社内監査を通して運用状況をチェックし、問題点があれば速やかに改善することで、常に適切な状態を維持しましょう。
例えば、ある企業では、担当者を設置し、毎月1回、最新の法改正情報をまとめた資料を全社員に配布することで、常に最新の情報が共有される体制を構築しました。また、年2回、外部講師を招いて研修を実施し、従業員の意識向上を図っています。さらに、四半期ごとに社内監査を実施し、監査結果に基づいて運用方法の見直しや改善を継続的に行っています。
電子帳簿保存法に対応した業務フローを構築することは、違反防止だけでなく、業務効率化にも大きく貢献します。紙ベースでの処理を減らし、電子データを中心としたフローにすることで、業務のスピードアップとコスト削減を同時に実現できます。
業務プロセスを可視化し、無駄な作業を洗い出すことで、さらなる効率化を図ることも可能です。例えば、承認プロセスを電子化したり、書類の保管方法を見直したりするだけでも、業務効率は大きく向上します。
ある企業では、従来、紙で保管していた請求書をスキャナーで読み取り、電子データ化することで、保管スペースを大幅に削減しました。また、OCRソフトを導入し、請求書の内容を自動でデータ化することで、入力の手間を省き、ヒューマンエラーを削減することに成功しました。さらに、ワークフローシステムを導入し、承認プロセスを電子化することで、承認にかかる時間を大幅に短縮しました。
電子帳簿保存法への対応には、専門的な知識が必要となるケースがあります。税理士は、法令解釈や書類の保存方法について適切なアドバイスを提供してくれます。
ITコンサルタントは、システムの導入や運用、セキュリティ対策など、技術的な面でサポートを提供してくれます。専門家の力を借りることで、自社だけでは対応が難しい課題を解決できるだけでなく、より効率的かつ安全な電子保存体制を構築できます。
例えば、ある企業では、税理士に相談し、自社の業務内容に最適な電子保存方法を検討しました。また、ITコンサルタントの支援を受けて、セキュリティ対策を強化したシステムを導入することで、安全な電子保存環境を構築しました。
電子帳簿保存法では、国税関係帳簿書類の保存方法を電子帳簿等保存、スキャナ保存、電子取引データ保存の3つの区分に分けています。
電子帳簿等保存とは、自分が最初から一貫してコンピュータで作成した帳簿や書類をそのまま電子保存する方法です。
例えば、PDFファイルなどのオリジナル電子データで保存するケース(電子帳簿保存法4条)や、電子計算機出力マイクロフィルム(COM)で保存するケース(同5条)があります。
電子帳簿等保存の区分に該当する場合、電子データにタイムスタンプを付与する必要はありません。
なお、手書きで作成した国税関係帳簿は電子保存が認められません。
「電磁的記録等による保存等が認められる国税関係帳簿は、自己が最初の記録段階から一貫してコンピュータを使用して作成するものであることから、手書きで作成された国税関係帳簿については、電磁的記録等による保存等は認められません。」
引用:国税庁.「電子帳簿保存法一問一答【電子計算機を使用して作成する帳簿書類関係】」.p7
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/pdf/0021006-031_01.pdf,(参照 2022-05-27)
スキャナ保存とは、書面で作成または受領した国税関係帳簿書類をスキャンし、電子保存する方法です。
電子データの改ざん防止のため、作成または受領してから2カ月と7営業日以内にタイムスタンプを付与する必要があります。
なお、2022年1月以降に作成した国税関係帳簿書類は、折れ曲がり等がないかの確認ができれば、スキャンした後すぐに原本を破棄しても構いません。[注1]
電子取引データ保存とは、インターネットや電子メールでの電子取引を通じ、相手側から電子データで受け取った取引記録を電子保存する方法です。
国税庁の一問一答によると、電子取引に該当するのは以下の7つのケースです。[注2]
上記の電子取引を行う場合、相手側からメールやファイルなどで受け取った取引情報(請求書や領収書などに通常記載される日付、取引先、金額などの情報)を保存する必要があります。
スキャナ保存を行う場合と同様に、受け取った電子取引データにはタイムスタンプを付与する必要があります。
2022年1月の法改正により電子取引データ保存のルールが変わりました。
取引記録を電子データで受け取った場合は、そのまま電子データで保存する必要があります。
例えば、メールで受け取った請求書をプリントアウトし、書面で保存することはできません。
電子データの保存義務は、2024年1月1日まで2年間の猶予期間が設けられているため、それまでに対応する必要があります。
スキャナ保存や電子取引データ保存を行う場合、原則として電子データにタイムスタンプを付与する必要があります。
ただし、電子データの訂正や削除の履歴が確認できるシステムを利用する場合、タイムスタンプの付与が免除されます。
「電磁的記録について訂正又は削除を行った事実及び内容を確認することができるシステムにおいて、その電磁的記録を保存することにより、その入力期間内に記録事項を入力したことを確認することができる場合にはその確認をもってタイムスタンプの付与に代えることができることとされたこと。」
引用:国税庁.「電子帳簿保存法一問一答【スキャナ保存関係】」.p2
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/pdf/0021006-031_02.pdf,(参照 2022-05-27)
電子帳簿保存法は、売上帳や仕入帳などの国税関係帳簿や契約書、領収書などの国税関係書類を電子保存する際のルールを定めた法律です。
電子帳簿保存法に違反した場合、青色申告の承認の取り消しや追徴課税、推計課税、会社法に定められた過料などの罰則が科される可能性があります。
2022年1月の電子帳簿保存法の改正内容を確認し、最新の法令に対応した会計システムや経費精算システムを導入しましょう。
[注1]国税庁.「電子帳簿保存法一問一答【スキャナ保存関係】」.p5
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/pdf/0021006-031_02.pdf,(参照 2022-05-27)
[注2]国税庁.「通則【制度の概要等】」.
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/07denshi/01.htm,(参照 2022-06-09)
[注3]国税庁.「法人の青色申告の承認の取消しについて(事務運営指針)」.
https://www.nta.go.jp/law/jimu-unei/hojin/000703-3/01.htm,(参照 2022-05-27)
[注4]国税庁.「電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】」.p7
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/pdf/0021006-031_03.pdf,(参照 2022-05-27)