更新日:2026.09.29

ー 目次 ー
古物商がインボイス制度の下で中古品を仕入れるとき、相手は一般消費者や免税事業者であることがほとんどです。原則どおりなら、これらの仕入れは適格請求書を受け取れないため仕入税額控除ができません。
そこで設けられているのが「古物商等特例」です。一定の条件を満たせば、インボイスがなくても帳簿の保存だけで仕入税額控除が認められます。
ただし、条件を1つでも欠くと使えません。とくに、フリマアプリでの仕入れや1万円前後の取引では判断を誤りやすく、実務上のつまずきが集中しています。
この記事では、古物商等特例を適用できる4つの条件と、帳簿に書くべき5つの事項を、国税庁の資料をもとに整理します。
先に結論をまとめます。
| 問い | 答え |
|---|---|
| 一般消費者から仕入れた中古品は仕入税額控除できるか | できる。古物商等特例により、帳簿の保存だけで控除が認められる |
| インボイスの保存は必要か | 不要。ただし帳簿に5つの事項を記載して保存する必要がある |
| 仕入先が適格請求書発行事業者だった場合は | 特例は使えない。通常どおりインボイスを受け取って保存する |
| フリマアプリで相手が匿名だった場合は | 1万円未満なら特例を適用できる |
| 自社で使う備品として仕入れた場合は | 特例は使えない。販売用の棚卸資産に限られる |
| 特例が使えないときは | 経過措置により一定割合を控除できる。2026年10月からの割合は70% |
以下、それぞれの条件を順に見ていきます。
古物商等特例とは、古物営業法の許可を受けた古物商が、適格請求書発行事業者以外の者から販売用の古物を仕入れた場合に、一定の事項を記載した帳簿の保存だけで仕入税額控除を認める制度です。
インボイス制度では、仕入税額控除を受けるために適格請求書の保存が原則として必要です。しかし古物商の仕入先は、自宅の不用品を売りに来た個人や、インボイスを発行できない免税事業者が大半を占めます。原則を貫くと古物商だけが不利になるため、インボイスの交付を受けることが困難な取引として例外が設けられました。
根拠は消費税法30条7項および消費税法施行令49条1項1号ハです。国税庁は「古物商等特例」という名称を用いており、古物商のほかに質屋、宅地建物取引業者、再生資源卸売業者も同じ枠組みに含まれます。
対象となる資産には、古物営業法上の古物のほか「準古物」も含まれます。準古物とは、古物営業と同等の取引方法により買い受ける古物に準ずるものを指します。
古物商等特例は、次の4つをすべて満たす場合に適用できます。1つでも欠けると使えません。
| 条件 | 内容 |
|---|---|
| ① | 古物営業法の許可を受けた古物商であること |
| ② | 売り手が適格請求書発行事業者以外であること |
| ③ | 仕入れた古物が販売用の棚卸資産であること |
| ④ | 帳簿に5つの事項を記載して保存していること |
特例を使えるのは、都道府県公安委員会の許可を受けて古物営業を営む古物商に限られます。
古物営業法では、古物の売買や交換、委託を受けた売買などを業として行う場合、公安委員会の許可が必要とされています。許可を受けると古物商許可証が交付され、インターネットで取引を行う場合は許可を受けた公安委員会名、許可証番号、氏名または名称をサイト上に表示する義務も生じます。
許可を持たずに中古品を仕入れている場合、この特例は使えません。その場合は後述する経過措置での対応を検討することになります。
この特例は、インボイスを受け取れない取引を救済するためのものです。そのため、仕入先が適格請求書発行事業者である場合は適用されません。
逆にいえば、仕入先が適格請求書発行事業者でなければ、一般消費者だけでなく免税事業者や未登録の課税事業者も対象になります。
| 仕入先 | 特例の適用 |
|---|---|
| 一般消費者(自宅の不用品を売りに来た個人など) | 適用できる |
| 免税事業者 | 適用できる |
| インボイス登録をしていない課税事業者 | 適用できる |
| 別の古物商(未登録の場合) | 適用できる |
| 適格請求書発行事業者 | 適用できない(インボイスの交付を受けて保存する) |
課税事業者であっても登録していなければインボイスは発行できないため、特例の対象になります。古物商同士の取引でも、売り手側が未登録であれば買い手側は帳簿の保存だけで控除できます。
特例の対象は、古物商が事業として販売する棚卸資産に該当するものに限られます。要するに、売るために仕入れた在庫であることが必要です。
自社で使う目的で仕入れた中古品は対象になりません。たとえば、店舗の陳列棚として使うために中古の什器を購入した場合、それは棚卸資産ではなく固定資産や備品にあたるため、特例は適用できません。この場合は通常どおり、売り手にインボイスの発行を依頼することになります。
同じ中古品でも、売るために仕入れたのか、自社で使うために仕入れたのかで結論が分かれます。仕入時点の目的で判断してください。
特例を適用する場合、インボイスの保存は不要になりますが、その代わりに一定の事項を記載した帳簿の保存が必要です。記載すべき事項は次の5つです。
| 項目 | 記載する内容 |
|---|---|
| ①相手方の氏名または名称および住所 | 買取相手の氏名と住所。法人の場合は名称と所在地 |
| ②取引年月日 | 古物を買い取った日 |
| ③取引内容 | 仕入れた古物の内容。軽減税率の対象である場合はその旨 |
| ④支払対価の額 | 買取金額 |
| ⑤特例の対象となる旨 | 「古物商特例」など、この特例の適用を受ける取引であることがわかる記載 |
①の住所は、通常の仕入税額控除の帳簿では省略できますが、古物商等特例ではこの記載が要件になっている点に注意してください。
古物商はもともと、古物営業法によって古物台帳への記録が義務づけられています。古物台帳には取引の相手方の住所、氏名、職業および年齢を記載することになっており、上の5項目のうち①から④はここでカバーされます。
そのため実務上は、古物台帳と、⑤の「特例の対象となる旨」を記載した帳簿を合わせて保存することで要件を満たせます。総勘定元帳の摘要欄に一言加えるだけで足りるケースが多いでしょう。
総勘定元帳の記帳例は次のとおりです。
| 年月日 | 摘要 | 借方 |
|---|---|---|
| 2026/9/15 | 山田太郎(東京都〇〇区…) 腕時計 古物商特例 | 80,000 |
| (仮払消費税等) | (7,272) |
摘要欄に相手方の氏名と住所、取引内容、そして「古物商特例」の文字を入れておけば、古物台帳と合わせて要件を満たす形になります。
なお、古物営業法上、古物台帳に相手方の住所や氏名を記載しなくてよい取引については、消費税法上の帳簿でもこれらの記載は不要とされています。
古物商等特例の運用は、仕入れの対価の総額が1万円以上かどうかで大きく変わります。境界は「1万円を超える」ではなく「1万円以上」です。
| 対価の総額 | 古物営業法上の扱い | 消費税法上の帳簿 |
|---|---|---|
| 1万円以上 | 相手方の確認を行い、古物台帳に住所、氏名、職業、年齢を記載する義務がある | 住所と氏名の記載が必要 |
| 1万円未満 | 原則として相手方の確認義務・帳簿記載義務が免除される(例外品目を除く) | 住所と氏名の記載は不要 |
1万円以上の場合は本人確認をしなければ古物台帳に必要事項を書けず、結果として消費税法上の帳簿要件も満たせなくなります。特例を使うつもりなら、本人確認は省略できません。
1万円未満であれば確認義務が免除されるのが原則ですが、盗品の流通を防ぐ必要性が高い品目については、金額にかかわらず本人確認と帳簿記載が求められます。
2025年10月1日施行の古物営業法施行規則改正により、この例外品目に4つが追加されました。
| 区分 | 品目 |
|---|---|
| 従来から対象 | 自動二輪車および原動機付自転車(部分品を含む) |
| 従来から対象 | 家庭用コンピュータゲームのソフトウェア |
| 従来から対象 | CD・DVDなどの光ディスク |
| 従来から対象 | 書籍 |
| 2025年10月追加 | エアコンディショナーの室外ユニット |
| 2025年10月追加 | 電気温水機器のヒートポンプ |
| 2025年10月追加 | 電線 |
| 2025年10月追加 | グレーチング(金属製のものに限る) |
銅線ケーブルや金属製側溝ふたの盗難が社会問題化したことを受けた改正です。家電の買取や不用品回収を扱う古物商は、室外機とヒートポンプの外観が似ている点にも注意してください。
フリマアプリやインターネットオークションでの仕入れでは、取引の相手方が匿名のままというケースが少なくありません。この場合に特例が使えるかどうかは、対価の総額で決まります。
対価の総額が1万円未満であれば、古物台帳に相手方の住所や氏名を記載する必要がないため、匿名で取引が行われていても古物商等特例を適用できます。
一方、1万円以上の場合は住所と氏名の記載が必要になるため、古物営業法に規定された方法で相手方の確認を行わなければなりません。アプリのメッセージ機能などで確認を取る運用が必要です。
なお、相手が適格請求書発行事業者かどうかを確かめる方法として、国税庁はメッセージ機能等を使った確認方法も示しています。
確認メッセージ例
「適格請求書発行事業者としての譲渡である場合は登録番号を教えてください。連絡がない場合には、消費者としての譲渡と考えさせていただきます」と確認し、連絡がない場合には、適格請求書発行事業者以外の者として取り扱う方法があります。
また、適格請求書発行事業者である個人事業者であっても、消費者として出品している場合は適格請求書発行事業者以外の者として取り扱って差し支えないとされています。
基準期間における課税売上高が1億円以下、または特定期間における課税売上高が5,000万円以下の事業者は、税込1万円未満の課税仕入れについて、帳簿の保存だけで仕入税額控除ができます。これを少額特例といいます。
適用できるのは2029年9月30日までの間に行った課税仕入れです。古物商等特例とは別の制度なので、条件を満たすならこちらを使う選択肢もあります。
古物商等特例が使えない場合でも、控除が一切できなくなるわけではありません。適格請求書発行事業者以外からの課税仕入れについては、仕入税額相当額の一定割合を控除できる経過措置があります。
この経過措置は令和8年度税制改正で見直され、期間が2031年9月30日まで延長されるとともに、割合の引き下げがなだらかになりました。
| 期間 | 控除割合 |
|---|---|
| 2023年10月1日〜2026年9月30日 | 80% |
| 2026年10月1日〜2028年9月30日 | 70% |
| 2028年10月1日〜2030年9月30日 | 50% |
| 2030年10月1日〜2031年9月30日 | 30% |
| 2031年10月1日〜 | 控除不可 |
改正前は2029年9月30日で終了し、2026年10月からは50%控除となる予定でした。古い解説を参照している場合は数字が変わっている点にご注意ください。
なお、経過措置には相手方ごとの上限があります。一の適格請求書発行事業者以外の者からの経過措置対象の課税仕入れが、その年または事業年度で税込10億円を超える場合、超えた部分は対象外です。さらに令和8年度税制改正により、2026年10月1日以後に開始する課税期間からは、この上限が1億円に引き下げられます。
経過措置の適用を受けるには、帳簿にその旨を記載し、区分記載請求書等と同様の記載事項を満たした書類を保存する必要があります。
| 仕入れの区分 | 対価の総額 | 相手方の住所・氏名 | 適用されるもの |
|---|---|---|---|
| 古物商による古物の仕入れ | 1万円以上 | 把握できる | 古物商等特例 |
| 古物商による古物の仕入れ | 1万円未満 | 把握できない | 古物商等特例 |
| 古物商による準古物の仕入れ | 1万円以上 | 把握できる | 古物商等特例 |
| 古物商による準古物の仕入れ | 1万円以上 | 把握できない | 経過措置(80%・7・5・3割控除) |
| 古物商による準古物の仕入れ | 1万円未満 | 把握できない | 古物商等特例 |
| 古物商以外の事業者による仕入れ | ― | ― | 経過措置(80%・7・5・3割控除) |
古物は1万円以上であれば古物営業法上の本人確認義務があるため、住所や氏名を把握できない場面は基本的に生じません。一方、準古物は古物営業法の対象外で本人確認義務がないため、1万円以上でも相手方を特定できず経過措置に回るケースが生じます。
なお、経過措置で保存する区分記載請求書等の「書類の作成者の氏名または名称」および帳簿の「課税仕入れの相手方の氏名または名称」については、フリマアプリ等の名称とそのアカウント名を記載して差し支えないとされています。
実務でつまずきやすい、特例が適用されないケースを3つ挙げます。
この特例はインボイスを受け取れない取引のためのものなので、仕入先が適格請求書発行事業者であれば適用されません。通常どおりインボイスの交付を受け、保存する必要があります。
取引の場でインボイスを受け取れない場合は、事前に連絡したうえで、後日インボイスの要件を備えた書類を発行してもらう対応を取ってください。
販売目的ではなく、自社で使うために仕入れた中古品は棚卸資産に該当しないため、特例の対象外です。中古の陳列棚、事務机、社用車などが典型例です。
この場合も、仕入税額控除を受けるにはインボイスが必要になります。仕入先がインボイスを発行できないのであれば、経過措置での対応を検討することになります。
2024年4月1日以後、輸出物品販売場(いわゆる免税店)で消費税が免除された物品であることを知りながら行った課税仕入れについては、古物商等特例の適用の有無にかかわらず、仕入税額控除の適用を受けられません。
免税購入品の転売が問題となったことを受けた措置です。買取の現場で免税購入品と判断できる場合は、控除の対象にならない点を踏まえて価格を判断する必要があります。
帳簿の保存だけで仕入税額控除が認められるこの枠組みは、古物商だけのものではありません。適格請求書発行事業者以外から棚卸資産を仕入れる次の事業者にも同様の措置が設けられています。
| 事業者 | 対象となる仕入れ |
|---|---|
| 古物商 | 古物営業法に規定する古物(準古物を含む) |
| 質屋 | 質物 |
| 宅地建物取引業者 | 宅地建物取引業法に規定する建物 |
| 再生資源卸売業その他の事業者 | 再生資源および再生部品(特定金属くずに該当するものを除く) |
| 特定金属くず買受業の届出をした事業者 | 特定金属くず(2026年9月1日以後に行われる仕入れに限る) |
いずれも「その事業者が事業として販売する棚卸資産に該当するもの」であることが条件です。
最後の特定金属くず買受業は、2026年9月1日以後の仕入れから新たに対象となりました。銅線ケーブルなどの金属盗対策として制定された盗難特定金属製物品の処分の防止等に関する法律(金属盗対策法)の特定金属くず買受業に係る規定は2026年6月1日に施行されており、特定金属くずの買受けを行う場合は公安委員会への届出が必要です。
ありません。経過措置とは異なり、期限のない措置です。2026年10月に控除割合が変わるのは経過措置のほうで、古物商等特例には影響しません。
使えません。販売用の棚卸資産として仕入れた古物であることが条件です。自社で使う備品として仕入れた場合は対象外になります。
1万円未満で、書籍やCD・DVDなどの例外品目に当たらなければ、古物商等特例を適用できます。相手方が匿名でも問題ありません。ただし帳簿には取引年月日、取引内容、支払対価の額、特例の対象となる旨の記載が必要です。
その事業者がインボイス登録をしていなければ使えます。判断の基準は課税事業者かどうかではなく、適格請求書発行事業者かどうかです。
古物台帳には「この特例の対象となる旨」の記載欄がありません。そのため、総勘定元帳などにその旨を記載し、古物台帳と合わせて保存する形になります。
簡易課税制度ではみなし仕入率で消費税額を計算するため、実際の仕入れについてインボイスや帳簿を保存して仕入税額控除を計算する必要はありません。古物商等特例を意識する必要はありません。
古物商等特例は、古物営業法の許可を受けた古物商が、適格請求書発行事業者以外から販売用の古物を仕入れた場合に、帳簿の保存だけで仕入税額控除を認める制度です。適用には4つの条件があり、1つでも欠けると使えません。
実務で判断を誤りやすいのは、対価の総額が1万円以上か未満かという境界です。1万円未満であればフリマアプリの匿名取引でも適用できる一方、1万円以上なら本人確認を行って住所と氏名を帳簿に残さなければなりません。また、2025年10月の施行規則改正で、1万円未満でも確認義務が生じる品目にエアコン室外機やヒートポンプなど4品目が追加されています。
特例が使えない仕入れについては経過措置が使えますが、控除割合は2026年10月から70%に下がります。どちらの制度に乗るのかを取引ごとに整理し、帳簿の記載方法を社内で統一しておきましょう。