更新日:2025.07.29
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印税収入のあるライター・著者の皆さま、「インボイス制度って自分にも関係あるの?」と迷われたことはありませんか?本記事では、印税と原稿料の違いや制度の背景、そしてライター・著者の方がインボイス登録を判断するうえで役立つ実務ポイントを、やさしく・網羅的に解説していきます。ご自身の状況にぴったり合った対応方針が見えてくるはずです。
2023年10月1日から始まったインボイス制度。ライターや著者、クリエイターの方々にとって、自身の収入がどう影響を受けるのかは大きな関心事です。まずは、制度の基本と、印税・原稿料の言葉の意味をしっかり確認していきましょう。
インボイス制度とは、正式名称を「適格請求書等保存方式」といいます。簡単に言うと、消費税の納税額を正確に計算するための新しいルールです。この制度の核心は「仕入税額控除」という仕組みにあります。
事業者が国に納める消費税は、「受け取った消費税」から「支払った消費税」を差し引いて計算します。この差し引く行為が「仕入税額控除」です。
インボイス制度開始後は、原則として「適格請求書(インボイス)」がなければ、買い手側(出版社など、支払いを行う側)はこの仕入税額控除が適用できなくなりました。つまり、買い手側が支払う消費税の負担が増えてしまう可能性があるのです。
そのため、取引相手(ライターや著者など、報酬を受け取る側)に対して、インボイスの発行を求めるケースが出てきています。インボイスを発行できるのは、税務署に申請し、登録を受けた「適格請求書発行事業者(課税事業者)」だけです。
ライターや著者の収入には、主に「印税」と「原稿料」がありますが、これらは性質が異なり、インボイス制度への影響も変わってきます。両者の違いを明確に理解しておくことが、適切な対応の第一歩です。
印税とは、書籍や電子書籍などの著作物が売れた(あるいは製造された)部数に応じて、著作者に支払われる「著作権の使用料(ロイヤリティ)」です。売上実績に連動する変動報酬であり、消費税法上は「資産の譲渡等」に該当しますが、特殊な取引形態のためインボイスが不要とされるケースが多くなっています。
一方、原稿料とは、雑誌の記事執筆やWebコンテンツの作成など、特定の労働に対して支払われる対価です。こちらは「役務(サービス)の提供」に対する報酬とみなされ、消費税の課税対象となります。
両者の違いを以下の表にまとめました。
項目 |
印税 |
原稿料 |
性質 |
著作権の使用料(ロイヤリティ) |
労働の対価(役務の提供) |
支払いの基準 |
書籍の発行部数や実売部数など(変動報酬) |
記事単位、文字数、ページ数など(固定報酬) |
一般的な消費税の扱い |
非課税または不課税となるケースが多い(詳細は後述) |
課税対象 |
このように、同じライター業の収入であっても、印税か原稿料かによって消費税の扱いが異なります。この違いが、インボイス登録を判断する上で非常に重要なポイントとなります。
結論からお伝えすると、書籍の出版などによって得られる「印税」収入については、著者や作家がインボイス(適格請求書)を発行する必要は原則としてありません。ここでは、その具体的な仕組みについて詳しく解説します。
インボイス制度では、原則として商品やサービスを販売した「売り手」がインボイスを発行する義務を負います。しかし、印税の支払いにおいては、販売部数や売上に応じて出版社(買い手)が支払額を計算し、著者(売り手)に通知するのが一般的です。この商習慣に合わせ、「仕入明細書」という制度が設けられています。
出版社が発行する「支払通知書」や「支払明細書」が、以下の要件を満たしている場合、法的に「仕入明細書」として扱われ、著者が発行するインボイスの代わりとなります。これにより、出版社側は仕入税額控除を受けることができ、著者側はインボイスを発行する手間が省けます。
この仕組みの大きなポイントは、売り手である著者がインボイス発行事業者(課税事業者)であるか、免税事業者であるかを問わず利用できる点です。そのため、著者はインボイス登録をしていなくても、出版社はこの仕入明細書方式で対応が可能です。
項目 |
記載内容 |
発行者の情報 |
仕入明細書を作成した事業者(出版社)の氏名または名称および登録番号 |
取引年月日 |
課税仕入れを行った年月日(例:印税の計算対象期間など) |
取引内容 |
取引の内容(例:「〇〇(書籍名) 印税」など) ※軽減税率の対象品目である場合はその旨も記載 |
取引金額 |
税率ごとに区分して合計した支払対価の額および適用税率 |
消費税額 |
税率ごとに区分した消費税額等 |
相手方の情報 |
課税仕入れの相手方(著者)の氏名または名称 |
なお、仕入明細書として有効であるためには、事前に著者と出版社の間で「発行される支払通知書を仕入明細書とすること」について合意がなされている必要があります。これは、個別の支払通知書ごとに行う必要はなく、多くの場合、契約書などで包括的に合意されています。
もう一つ、印税取引に関連する制度として「媒介者交付特例」があります。これは、著者(委託者)と読者(購入者)の間に、出版社や出版取次といった事業者(媒介者)が入る取引形態で利用できる特例です。
本来、商品やサービスの提供者である著者がインボイスを発行すべきところを、媒介者である出版社が、自社の氏名と登録番号を記載したインボイスを交付できるというものです。
ただし、この媒介者交付特例が適用されるには、委託者である著者自身がインボイス発行事業者(課税事業者)であることが前提となります。そのうえで、著者と出版社の双方で特例を適用する旨の合意が必要です。
著者が免税事業者の場合はこの特例は使えません。しかし、前述の「仕入明細書」方式があるため、著者が免税事業者であっても取引に支障が出ることはほとんどありません。媒介者交付特例は、主に出版社側の経理処理を効率化する目的で、著者が課税事業者である場合に選択されることがある制度と理解しておくとよいでしょう。
印税収入は原則としてインボイスが不要である一方、同じくクリエイターが受け取る「原稿料」はインボイス制度への対応が必要になる場合があります。ここでは、なぜ原稿料がインボイスの対象となるのか、そして実務上の注意点を詳しく解説します。
インボイス制度は消費税の仕入税額控除に関する制度です。そのため、大前提として消費税の課税対象となる取引でなければ、インボイスの発行は求められません。印税と原稿料のインボイス対応における最大の違いは、この消費税法上の扱いにあります。
下記の表で、両者の違いを整理してみましょう。
報酬の種類 |
税法上の扱い |
インボイス対応 |
印税 |
著作権の使用料 |
原則不要(媒介者交付特例により出版社が対応) |
原稿料 |
役務の提供の対価 |
原則必要(課税事業者の場合) |
このように、原稿料はライターや著者が行う「執筆」という労働サービス(役務の提供)に対する対価です。これは消費税の課税対象取引にあたるため、取引先である出版社が仕入税額控除を適用するには、あなたが発行するインボイス(適格請求書)が必要となるのです。
実務において最も注意すべきなのが、ご自身が「印税」だと認識していた報酬が、税法上は「原稿料」やそれに準ずる課税取引として扱われるケースです。契約内容や報酬の実態によっては、支払いの名目に関わらずインボイスの発行を求められることがあります。
具体的には、以下のような報酬は「原稿料」や課税対象の取引と見なされる可能性が極めて高いです。
これらの報酬を受け取っている場合、たとえ支払調書の名目が「印税」や「著作権使用料」となっていたとしても、取引の実態が優先されます。取引先の出版社からインボイス登録を求められる可能性はじゅうぶんに考えられますので、まずはご自身の契約書を確認し、どの報酬がどの取引に該当するのかを正確に把握することが重要です。
印税収入がメインのライターや著者の方でも、インボイス登録をすべきか迷うケースは少なくありません。ここでは、ご自身の状況に合わせて最適な選択をするための実務的なチェックポイントを解説します。
インボイス登録を検討するうえで、最も重要かつ最初に行うべきなのが「取引先への確認」です。出版社などの支払側の方針によって、あなたの対応は大きく変わります。後々のトラブルを避けるためにも、以下の点について事前にしっかりと確認しておきましょう。
特に、複数の出版社と取引がある場合は、各社の方針が異なる可能性があるため、それぞれに確認することをおすすめします。
課税売上高が1,000万円以下の場合、インボイス登録をせず「免税事業者」のままでいる選択も可能です。その場合のメリットとデメリットを整理しました。
メリット
デメリット
ご自身の意思で「課税事業者」を選択し、インボイス(適格請求書)を発行できるようにする選択肢です。こちらのメリットとデメリットも確認しておきましょう。
メリット
デメリット
印税や原稿料とインボイス制度に関して、ライターや著者の皆様から寄せられることが多い質問をまとめました。具体的な実務対応の参考にしてください。
原則として、インボイス発行事業者の登録を行うと、国税庁の「インボイス制度適格請求書発行事業者公表サイト」で本名(個人事業主の場合)または法人名が公表されます。
しかし、ペンネームや屋号で活動している個人事業主のために、本名と併せてペンネームや屋号を公表サイトに掲載する手続きが用意されています。また、「主たる屋号」や「主たる事務所の所在地等」の公表申出書を提出することで、公表サイト上での表示をカスタマイズし、本名の代わりにペンネームを目立たせることが可能です。ただし、登録情報として本名が完全に非公開になるわけではない点には注意が必要です。
印税は著作権という資産の利用許諾の対価であり、消費税法上「不課税取引」に該当します。そのため、消費税の確定申告においては、印税収入を課税売上として計上する必要はありません。これはインボイス制度の導入後も同様です。
一方で、所得税の確定申告においては、印税収入は「事業所得」または「雑所得」として、他の所得と合算して申告する必要があります。インボイス制度によって、所得税の計算方法や申告手続きに特別な変更が生じるわけではありません。「消費税の課税対象ではない」という点を正しく理解しておくことが重要です。
まず、なぜ出版社がインボイス登録を求めているのか(仕入税額控除のため)を理解した上で、冷静に話し合うことが大切です。インボイス登録をするかどうかは事業者の任意であり、強制されるものではありません。
対応としては、以下の選択肢が考えられます。
もし一方的な取引停止や報酬の減額を提示された場合は、公正取引委員会や弁護士などの専門家に相談することも検討しましょう。
印税ではなく、課税対象となる「原稿料」や「講演料」などでインボイス(適格請求書)を発行する場合、従来の請求書に加えて以下の項目を記載する必要があります。
記載項目 |
内容 |
登録番号 |
税務署から通知された「T」で始まる13桁の番号を記載します。 |
適用税率 |
取引に適用される消費税率(例:10%)を明記します。 |
税率ごとに区分した消費税額等 |
税率ごとに合計した消費税額を正確に記載します。 |
具体的には、以下の6つの項目をすべて満たす必要があります。
国税庁のウェブサイトなどで書式サンプルを確認し、漏れのないように作成しましょう。
本記事では、印税収入とインボイス制度の関係について、基本から実務対応までを詳しくご紹介しました。原則として、印税収入にはインボイス対応は不要ですが、原稿料や講演料などは課税対象となり、インボイス発行が求められる場面も出てきます。名目だけでなく「報酬の実態」によって税法上の扱いが異なることもあるため、まずはご自身の契約内容をしっかり確認してみてください。そのうえで、出版社側の方針や今後の活動方針を踏まえて、インボイス登録を検討しましょう。