更新日:2023.07.26
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適格請求書とは、消費税の取り扱いにおいて非常に重要な書類の一つです。取引内容や取引先企業の情報が記載されているため、慎重な扱いを要します。
しかし、適格請求書の発行義務や保存期間、保存方法など留意事項が多く、正確に理解している事業者は少ないのではないでしょうか。
そこで本記事では、適格請求書の概要や発行・発行・保存方法についてわかりやすく解説します。
「適格請求書(インボイス)」とは、売り手が買い手に対して適用税率や消費税額などを伝える書類のことであり、インボイス制度導入をきっかけに発行が義務付けられました。販売額や消費税額、税抜き価格、税込み価格、発行者・買い手の情報などが明確に記載されており、請求書や納品書も適格請求書に含まれます。
適格請求書は、支払われた消費税を還付する際に必要な書類であり、取引の正式な証拠にもなります。そのため、保管には十分注意が必要です。請求書に不備がある場合、消費税の還付が遅れることがありますので、正確な請求書の発行が重要です。
また、適格請求書を発行するには、税務署に申請して、適格請求書発行業者として登録する必要があります。インボイス制度の開始前に登録手続きを行うことが推奨されてます。
適格請求書発行事業者について詳細を知りたい方はこちらの記事も参考にしてください。
【必見】適格請求書発行事業者とは?令和5年度税制改正の内容や登録方法をわかりやすく解説
適格請求書の発行は、インボイス制度の導入によって売り手と買い手の間で必須となりました。インボイス制度を正確に理解することで、適格請求書の取り扱い方や経理業務を適切に行えます。
この章では、インボイス制度が導入された背景や、消費税額を控除するための仕入税額控除について詳しく説明します。
インボイス制度とは、取引相手から要求された場合に適格請求書を発行しなければならない制度であり、2023年10月1日から導入が予定されています。
従来の税務申告では、取引の総額だけでは税額を正確に把握することが困難であり、仕入れと販売において誤りや改ざんが発生していました。そのため、税務行政の効率化や脱税対策の観点から、インボイス制度が導入されました。
インボイス制度が導入されることで、電子化された請求書を使用することで改ざんや脱税のリスクを減らし、税務署への提出・対応工数が減少し、結果として税務行政の効率化が期待されます。
また、正式なインボイスを発行することで、売り手と買い手の間で取引の透明性と信頼性を高められます。
「仕入税額控除」とは、事業者が商品やサービスを購入する際に支払った消費税額を納税額から差し引いて、還付される税制上の措置です
この仕組みは、中間段階で発生した消費税額を最終消費者である顧客に負担させることを回避し、消費税を納税することで、国や地方自治体の税収を確保するためのものです。ただし、仕入税額控除を受けるためには、請求書の適切な処理と保管が必要です。
インボイス制度(適格請求書等保存方式)の導入により、課税事業者・免税事業者それぞれに影響があります。本章では、具体的な対応の変化について以下の5点に絞って説明します。
適格請求書発行事業者は、適格請求書の要求があった際に対応する義務があると消費税法により記されています。この書類を交付するためには、税務署から適格請求書発行事業者の承認を受けなければなりません。
発行しなかった場合、税務署から指摘されるケースがあり、遅延損害金や罰金が課せられる可能性があります。また、適切な発行手続きがなされなかったら、請求された消費税額が受け付けられない可能性があります。
そのため、適格請求書の発行義務を遵守し、適切な対応をすることで、税務上のトラブルを回避できます。
免税事業者等からの仕入れにおいて、インボイス制度実施後6年間は仕入税額相当額の一定割合を控除可能な経過措置が設けられています。また、仕入税額控除を受けるには適格請求書の保存が必須となっています。
適格請求書には取引の詳細な情報が記載されており、仕入税額控除を行う場合には仕入れた商品やサービスの消費税額が記載された適格請求書が必要となります。
適格請求書を保管することで、事業者は仕入れた商品やサービスの消費税額を正確に把握し、仕入税額控除を適切に行えます。税務署からの立入検査や調査に対する対応力を高めるためにも、適格請求書の保管は適切に行いましょう。
従来の請求書では、次の項目を書き込む必要がありました。
インボイス制度に移行すると、適格な請求書には、「登録番号」「適用税率」「税率ごとに分けた消費税額」の3つの項目が追加されます。
■登録番号
登録番号とは、適格な請求書を発行するために、登録を希望する事業者が税務署に申請書を提出し、承認された場合に割り当てられる番号です。
参照元:登録番号とは|国税庁インボイス制度適格請求書発行事業者公表サイト
■適用税率
従来の請求書では、税率ごとに分けて商品やサービスの対価を記載する必要がありましたが、適格な請求書では、適用された税率についても記載する必要があります。
■税率ごとに分けた消費税額など
税率ごとに分けた消費税額なども記載する必要があります。具体的な端数処理方法については後述します
上記の3項目を含めることで、取引が詳細かつ正確になり、消費税の滞納や脱税を防止することが期待されています。
記載事項についてより詳しく知りたい方はこちらの記事を参考にしてください。
適格請求書(インボイス)に必要な記載事項!書き方や留意点についてわかりやすく解説
取引があった場合、適格請求書を発行者は交付し、控えを保存する義務があります。法律によれば、適格請求書の発行者は請求書発行年度から7年間、控えを保管しなければなりません。
ただし、適格請求書の交付が困難な場合、以下の取引については交付義務が免除されます。
適格請求書の交付と控えの保管は、脱税防止や税務調査に必要な情報を適切に保持するために重要です。適切に保管することで、法的な問題を回避することもできます。
適格請求書には、消費税の算出方法として、積み上げ計算と割戻し計算の2つがあります。
■積み上げ計算
積み上げ計算は、消費税率を適用して税抜き金額に消費税額を加算し、税込み金額を求めます。たとえば、商品代金が100,000円で消費税率が10%の場合、税抜き金額は90,909円、消費税額は9,091円、税込み金額は100,000円になります。
■割戻し計算
割戻し計算は、売上や仕入れの額について、それぞれの消費税額を算出し、各取引の消費税額を合算し、消費税額の累計を求めます。請求書ごとに積み上げた消費税額の累計から、仕入れた消費税額を差し引いた金額が、納付すべき消費税額となります
インボイス制度が開始されると、頻繁に適格請求書を交付する必要があるため、事前に準備すべきことや開始時期について知っておくことが重要です。この章では、適格請求書を交付するための準備について、以下の4つのポイントで説明します。
インボイス制度が導入されたことで、適格請求書の有無によって会計処理を分ける必要があります。そのため、事前に取引を整理しておくことが重要です。
適格請求書がある場合、仕入れた消費税額を計上して仕入税額控除を適用する必要があります。しかし、適格請求書がない場合、仕入税額控除が適用されないため、仕入れた商品代金全額を納税する必要があります。したがって、適格請求書の有無によって消費税の納税額が変わるため、適切な会計処理を行うことが重要です。
適格請求書の保管が不要な取引や適格簡易請求書で代用が可能な取引もあります。例えば、以下のような取引があります。
上記の場合、適格請求書の発行が必要ですが、保管は不要です。また、以下のような場合は、適格簡易請求書で代用が可能です。
ただし、取引額が1万円を超える場合や取引先が法人の場合には、適格請求書の発行が必要です。
取引先が免税事業者の場合、適格請求書を交付できないため仕入税額控除が認められず、税負担が増えてしまう可能性があります。また、取引が多く、適格請求書の交付が困難な場合もあるでしょう。その場合、事前に当書類を提出することなどを規定したり、契約内容の見直しを検討しましょう。
ただし、条件見直しなどにより、取引企業との信頼関係が損なわれるリスクもあるため、慎重に検討しましょう。
適格請求書事業者のみが適格請求書の交付を認められています。そのため、インボイス制度の開始前に登録認定を受けておかなければなりません。
申請書は2021年10月1日から提出可能です。以前まで、インボイス制度開始時期の2023年10月1日ちょうどに登録を受けておくためには、2023年3月31日までに申請書の提出が必須でした。しかし、令和5年度税制改正大綱にて9月30日までの提出を認められるよう緩和措置が講じられました。
申請書を提出する際には、以下の3点に留意しておくと良いでしょう。
申請自体は無料で可能ですが、以下の3点には注意しましょう。
申請を行うことにより、適格請求書等保存方式を利用できるようになります。ただし、登録後も厳格な管理体制を維持しておかなければなりません。
適格請求書は7年間保管する必要があるため、長期保管できる方法を事前に考えておく必要があります。特に、電子インボイスの場合は専用のシステムやツールを要する場合があります。
紙媒体と電子媒体、それぞれの適格請求書の保管方法について以下で紹介します。実際の取引を想定して、保管方法について理解を深めましょう。
■紙媒体での保管
適格請求書を印刷して紙媒体で保管する方法です。保管期間は、発行日から7年間です。ただし、紙媒体での保管は、紛失や劣化のリスクがあるため、データ化しておくことをおすすめします。
■電子媒体での保管
適格請求書をPDFなどの電子データで保管する方法です。保管期間は、発行日から7年間です。電子媒体での保管の場合、データの保存についても注意が必要です。保存する場所や方法によっては、データの改ざんや消失のリスクがあるため、バックアップやセキュリティ対策に注意が必要です。
また、適格請求書を保管する際には、保管場所や保管期間については法令に則って遵守する必要があります。特に、税務署に提出する際には、適格請求書の原本が必要になるため、保管場所についても十分に考慮する必要があります。
免税事業者は登録事業者になることを検討することをおすすめします。インボイス制度の導入により、免税事業者は取引先から請求される消費税を支払っても還付されなくなりました。そのため、消費税の負担が増加してコストがかさんでしまいます。
登録事業者になると、仕入税額控除が受けられ、免税事業者に比べて税負担が軽減されます。ただし、登録時、登録後に一定の手続きや書類の提出が必要となるため、管理負担は大きくなります。
課税事業者からの売上が多い場合は課税転換を検討し、そうでない場合は、簡易課税制度の利用による課税事業者の節税や納税の手間削減を検討すると良いでしょう。
「適格請求書」とは、販売者が消費税率や税額を通知する書類のことです。この書類には、以下の3つの項目が従来よりも増えました。
課税事業者は、適格請求書を提供するには、適格請求書発行事業者に登録する必要があります。適格請求書を発行することにより、取引先は仕入税額控除を受けられます。したがって、適格請求書発行事業者に登録することは、持続的なビジネスの機会を得るために必要です。
インボイス制度に備えて、適格請求書について正しく理解し、適切な経理業務を行いましょう。