更新日:2024.12.26
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インボイス制度における振込手数料は、原則として買い手側が負担します。一方で、業界の慣習や取引先との合意で売り手側が負担する場合もあるため、負担者についての認識の違いでトラブルが発生する可能性もあります。
本記事では、インボイス制度における振込手数料は誰が負担するのかについて、仕訳のポイントとあわせて解説します。
インボイス制度は、2023年10月1日から新たに開始された消費税に関する制度です。振込手数料は消費税の課税対象のため、適格請求書を保存することでインボイス制度の対象として扱われます。
民法第485条によると、振込手数料は、原則として買い手側が負担することが定められています。(※)ただし、取引する双方に合意があった場合は、売り手側が負担することも可能です。一方で、ビジネスシーンでは買い手側が振込手数料を負担するのが一般的なため、取引先と相談をしたうえでどちらが負担するのかを決めることが重要です。
(※)参考:e-Gov 法令検索「民法第485条」
買い手側が振込手数料を負担する場合は、基本的には金融機関から適格請求書を発行してもらうことで、インボイス制度を利用できます。ただし、支払い方法によっては請求書の発行が不要なケースもあるため、確認が必要です。
ここでは、振込手数料を負担する場合のインボイス上の対応方法と仕訳例について、請求額が10万円、振込手数料が500円であった場合を想定して解説します。
ATMでの支払いは「自動販売機特例」にあてはまります。自動販売機特例とは、ATMや自動販売機などの自動サービス機で、3万円未満の取引をした場合は適格請求書の発行が不要になる措置です。
したがって、ATMで振込手数料を支払う場合は、請求書の発行は不要です。ただし、特例が適用されていても、帳簿の保存は必須のため忘れないようにしましょう。
ATMでの支払いの仕訳例は、以下のとおりです。
借方 |
貸方 |
||
買掛金 |
100,000円 |
普通預金 |
100,000円 |
支払手数料 |
500円 |
普通預金 |
500円 |
銀行窓口で支払いする場合は、窓口で適格請求書が発行されるため、忘れずに受け取って、保存しましょう。
ただし、銀行での入出金や振込が多く、請求書の保存が難しい場合は、以下をあわせて保存するとインボイス制度が適用されます。
税務上の正確な処理にも必要なため、通帳や入出金明細も保存しておきましょう。銀行窓口での支払いの仕訳例は、以下のとおりです。
借方 |
貸方 |
||
買掛金 |
100,000円 |
普通預金 |
100,000円 |
支払手数料 |
500円 |
普通預金 |
500円 |
インターネットバンキングでの支払いの場合も、窓口での支払いと同じように適格請求書を発行してもらう必要があります。
ただし、この場合は、請求書は電子インボイスで発行されるため、その電子データをダウンロードして電子帳保存法にもとづいて保存しましょう。なお、インターネット上でいつでも適格請求書が確認できるのであれば、電子データをダウンロードしなくても、インボイス制度の要件を満たします。
インターネットバンキングでの支払いの仕訳例は、以下のとおりです。
借方 |
貸方 |
||
買掛金 |
100,000円 |
普通預金 |
100,000円 |
支払手数料 |
500円 |
普通預金 |
500円 |
参考:国税庁「電子帳保存法」
売り手側が振込手数料を負担する場合でも、特定の条件下であればインボイス制度が利用できます。ただし、手数料負担の対応方法ごとに条件が異なるため、それらを理解して対応しなければなりません。
ここでは、売り手側が振込手数料を負担する場合のインボイス上の対応方法と仕訳例について、請求額が10万円、振込手数料が500円であった場合を想定して解説します。
振込手数料を売上値引きとして負担する場合は、差し引いた金額を買い手側に請求します。
このように売上値引とした場合に、振込手数料が1万円未満であれば、返金や値引きの際に発行する返還インボイスの交付が不要です。
このような場合は、消費税がかかる売上のマイナスと同じような扱いで処理ができます。売上値引とした場合の仕訳例は、以下のとおりです。
借方 |
貸方 |
||
買掛金 |
99,500円 |
売掛金 |
100,000円 |
売上値引 |
500円 |
ー |
0円 |
支払手数料として負担する場合は買い手側が手数料を立替払いをしていると考えましょう。売り手側は、会計上では支払手数料、消費税法上では売上値引に処理ができます。
通常、買い手側は金融機関から交付されるインボイスと立替金精算書を売り手側に送らなければなりません。ただし、ATM振込であった場合は特例によりそれらの送付は不要です。売り手側は帳簿を保存するだけで税額控除が受けられます。
支払手数料とした場合の仕訳例は、以下のとおりです。
借方 |
貸方 |
||
買掛金 |
99,500円 |
売掛金 |
100,000円 |
支払手数料 |
500円 |
ー |
0円 |
振込手数料を買い手へのサービス料金とする場合は、買い手側が立て替えた分を「決済サービスへの支払い」として扱います。この場合は、通常の商品やサービスの請求書に加えて、売り手側へのサービス分の請求書が必要です。
買い手側がインボイス発行事業者であった場合は、売り手側はインボイス制度を利用できます。買い手側は受け取った手数料を売上に計上して、自身が負担した分の消費税は金融機関から交付されたインボイスで控除します。
ただし、少額特例対象の場合はインボイスの保存は必要ありません。買い手側が支払った振込手数料を買い手へのサービス料金とした場合の仕訳例は、以下のとおりです。
借方 |
貸方 |
||
現金 |
99,500円 |
売上 |
100,000円 |
仕入 |
500円 |
ー |
0円 |
売り手側は、買い手側から金融機関で交付されたインボイスと立替金精算書を送付してもらうことで、インボイス制度を利用できます。ただし、ATM振込の場合はこれらの書類は帳簿の保存のみでインボイス制度を利用できます。
振込手数料を買い手側が立て替えて支払う場合は、手数料を差し引いた金額が売り手側に支払われます。この場合の仕訳例は、以下のとおりです。
借方 |
貸方 |
||
現金 |
99,500円 |
売上 |
100,000円 |
仕入(金融機関から) |
500円 |
ー |
0円 |
振込手数料の負担は原則買い手側ですが、双方の合意が得られた場合や業界の慣習によっては、売り手側も負担できます。ただし、事前に取り決めがなかった場合、どちらが負担するかの認識の違いでトラブルが発生するかもしれないため、注意が必要です。
ここでは、取引先に振込手数料を負担してもらう方法について、解説します。
新規の取引先に振込手数料を負担してもらう場合は、契約する際にどちらが負担するかをきちんと決めておきましょう。具体的には、契約書に「振込手数料は発注者側の負担とする」といった文言を明記して、双方で合意のうえ契約を結びます。
このように契約書で明確に定めておくことで、トラブルを避けてスムーズな取引ができます。また、契約書での取り決めに加えて、取引を始める前に口頭でも振込手数料の負担について確認して、請求書への記載方法なども説明しておきましょう。
既存の取引先に振込手数料を負担してもらう場合は、これまで築いてきた関係に悪影響を及ぼす可能性もあるため、慎重な対応が必要です。したがって、必ず事前に直接交渉や相談をしましょう。
交渉の際は、具体的な理由を伝えて、丁寧な説明を心がけましょう。また、取引条件などの総合的な見直しや支払い方法の変更など、代替案の検討も有効な選択肢です。
長期的な視点を忘れずに、双方が納得できる形での合意を目指しましょう。
本記事では、インボイス制度における振込手数料は誰が負担するのかについて、仕訳のポイントとあわせて解説しました。
振込手数料は原則として買い手側の負担ですが、双方の合意があった場合は売り手側が負担できます。そのうえで自身が買い手側か売り手側かによって、振込手数料を負担する際の対応方法や仕訳が異なります。
振込手数料は支払い方法などによっては、適格請求書などの発行が不要な場合もあるため、対応方法を事前に確認する必要があります。また、振込手数料に関して事前に取り決めがない場合、認識の違いでトラブルが生じる可能性があります。
取引先とのトラブルを避けるためにも、事前に振込手数料に関して契約書に明記したり、直接の交渉や相談などで丁寧に説明したりしましょう。