更新日:2024.06.03
ー 目次 ー
インボイス対応後の端数処理|分割請求の消費税をどう調整する?
インボイスに対応すると、端数処理の方法がそれまでとは変わる可能性があります。
適格請求書(インボイス)では、消費税10%と軽減税率8%に分けて消費税額を記載する必要があるからです。
この記事では、消費税10%と軽減税率8%でそれぞれに1円以下の端数が生じた場合の取り扱い方と、分割請求する場合の処理の仕方を解説します。「割り戻し計算」と「積上げ計算」の違いも解説するので、ぜひ参考にしてください。
▼この記事で解説する内容
|
分割させたときに税込合計はズレることがありますが、税抜の金額が一致していれば問題ありません。
▼ポイント
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事務用品7,833円(税抜)、菓子類6,513円(税抜)の注文に対し、同額ずつ3回に分けた請求書を発行すると仮定してシミュレーションしてみましょう。
【1回で請求する場合】
事務用品 |
菓子類 |
|
代金(税抜) |
7,833円 |
6,513円 |
消費税率 |
10% |
8% |
消費税額 |
783.3円 |
521.04円 |
消費税の端数切捨て |
783円 |
521円 |
代金+消費税 |
8,616円(税込) |
7,034円(税込) |
合計額 |
15,650円(税込) |
3分割で請求する場合
事務用品 |
菓子類 |
|
1回あたりの代金(税抜) |
2,611円 |
2,171円 |
消費税率 |
10% |
8% |
消費税額 |
261.10円 |
173.68円 |
消費税の端数切捨て |
261円 |
173円 |
1回あたりの代金+消費税 |
2,872円(税込) |
2,344円(税込) |
3回分の小計 |
8,616円(税込) |
7,032円(税込) |
合計額 |
15,648円(税込) |
1回で請求した場合の合計額は15,650円(税込)ですが、3回に分けたときは15,648円(税込)で一致しない結果となってしまいました。
しかし、税抜金額は一致しているので問題ありません。消費税を納めるときに再計算するためです。
インボイス制度における消費税計算では、端数処理のルールと計算方式、処理方法の選択という3つのポイントがあります。それぞれを解説します。
▼3つのポイント
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先ほどの例と同様に、消費税率10%と8%でそれぞれに端数処理をおこなうのがルールです。端数を切り捨てる場合で再度確認しましょう。
事務用品 |
菓子類 |
|
代金 |
7,833 |
6,513 |
消費税率 |
10% |
8% |
消費税額 |
783.3 |
521.04 |
消費税の端数切捨て |
783 |
521 |
代金+消費税 |
8,616 |
7,034 |
合計額 |
15,650 |
端数の処理の仕方には「切捨て」「切り上げ」「四捨五入」の3つがあり、企業が任意で選べます。法的な定めはありません。
ただし、取引先と処理方法が異なる場合はトラブルになりかねないため、事前に知らせるか取引の多い相手方の処理方法に合わせるのがおすすめです。
なお、課税標準額を計算するときは1,000円未満の端数を切り捨て、納税確定額からは100円未満を切り捨てて計算します。ここは切り捨てがルールなので、消費税もわかりやすく切捨てで取り扱うことが多いようです。
納税時に、税込価格から消費税を算出するための計算方式です。インボイス制度開始前は「割り戻し計算」しか選択肢はありませんでしたが、インボイス開始時に「積み上げ計算」の選択肢が増えました。
請求額900円(税込)、消費税率8%、消費税額66円と記載されている請求書が3枚あるとします。割り戻し計算と積み上げ計算の計算方法をそれぞれ見てみましょう。
割り戻し計算では税込価格を合計してから消費税額を再計算します。
【割り戻し計算の場合】 900円(税込)×3=2,700円(税込) 2,500円(税抜)× 8% = 200円 |
一方、積み上げ計算では請求書に記載されている消費税額で計算します。
【積み上げ計算の場合】 66円 + 66円 + 66円 = 198円 |
厳密にいえば、900円(税込)の税抜き価格は833.33円、消費税は66.66円です。請求書では端数を切り捨て処理しているため、消費税が66円と記載されています。
つまり、端数を切り捨てずに合計額で計算する割り戻し計算よりも、積み上げ計算の方が消費税額が小さくなります。どちらの計算方法を選ぶかは事業者の任意です。
最後に、インボイス制度の消費税計算でよくある質問3つに回答します。
▼ポイント
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どちらが得かは、売上と仕入れのどちらを重視するかで異なります。表で見てみましょう。
売上 |
仕入れ |
|
割り戻し計算 |
税込売上額が大きい |
税込仕入れ額が大きい |
積み上げ計算 |
税込売上額が小さい |
仕入れ額が小さい |
業種柄、仕入れがほとんどない場合は積み上げ計算方式がお得ですが、仕入れが多いのであれば割り戻し計算がお得な場合があります。
売上と仕入で異なる計算方法を選択することはできないので、前年の売上額と仕入額などからどちらがお得になるかを計算してみましょう。
この記事で解説した端数処理方法や納税時の消費税計算方法の選択以外にも、消費税額を左右するポイントは数多くあります。代表例は次のとおりです。
簡易課税は売上に対する「みなし仕入れ」に対して仕入額控除を計算する方法で、原則課税は実際にかかった仕入額を控除する方法です。
簡易課税を選択した場合、売上区分が第一種事業(卸売業)であればみなし仕入れ率は90%、第4種(飲食店など)では60%です。飲食店経営をメインに卸売業もおこなっている場合は、全売上を第4種で計上せずに、卸売分を第1種に設定するとお得です。
そのほかにも、上記のようにさまざまな節税方法があります。しかし、最もお得な組み合わせをシミュレーションするのは複雑な作業なので、税理士に相談するのがおすすめです。
結論からいえば、その心配はありません。1回で全額を請求する場合と分割で請求する場合では、先述のように消費税額がズレることはあります。
しかし、端数の取り扱いが事業者の任意である以上、このズレは当然起こるものです。
また、請求書を受け取った側が「割り戻し計算」を選択している場合、ここでもズレが生じます。割り戻し計算では請求書に記載された消費税額に関係なく、年間の請求合計額(税抜)から再計算するからです。
さらに、仕入れ額控除をおこなったときに端数が生じれば、端数切捨ての処理をおこないます。各ステップでズレが生じるため、全てを合致させるのは不可能です。
納税時の計算が合っていれば問題なく、ルール違反になる心配はありません。
インボイス対応後の請求書では、税率後ごとに消費税額を分けて記載する必要があるため計算が複雑になります。
端数の取り扱い方法は事業者が任意で選択できるため、計算しやすい方法を選びましょう。取引回数が多い相手方に合わせるのも方法の1つです。
また、納税時の消費税額の計算方法も事業者が任意で選択できます。売上と仕入のどちらにインパクトが大きいかを考えて選択するのがおすすめです。
ただし、消費税をできるかぎり節税したい場合は、上記の選択だけでは十分とはいえません。
課税方式や取引先の選択などを含めた、複雑なシミュレーションが必要となるため、税理士に相談し、自社にあった最適な方法をで節税を目指しましょう。