更新日:2024.12.27
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2023年10月から、インボイス制度が開始されました。仕入税額控除を受けるには適格請求書の発行・保存が必要となりますが、そのなかで領収書の扱いがどうなるのか疑問に思っている企業の担当者の方もいるのではないでしょうか。
領収書・レシートなども必要な項目が記載されていれば、適格簡易請求書とみなして扱うことが可能です。そのため、インボイス制度開始後も領収書を活用できます。
本記事では、インボイス制度開始後の領収書の扱いについて解説します。インボイス制度の概要や変更点、適格簡易請求書として認められる領収書・レシートの書き方なども紹介するので、企業担当者の方は参考にしてみてください。
2023年10月から開始されたインボイス制度下では、領収書・レシートが適格簡易請求書として活用できます。この章では、インボイス制度や適格簡易請求書の概要などを解説します。企業担当者の方は、まずは概要を理解し、どのような対応が必要になるのか把握しましょう。
インボイス制度は、適格請求書等保存方式ともいいます。商品・サービスの売り手が買い手に対して消費税率や消費税額を正確に伝えるための制度で、決められた項目が記載された請求書などの発行・保存が必要です。
現在、食品や定期購読の新聞など一部の商品・サービスに軽減税率が適用されていることから、8%と10%の消費税率が混在しています。そのため、どちらの税率が適用され金額がいくらなのかを明確に取引先に伝える必要があります。
インボイス制度開始後は、仕入税額控除を適用するためには取引先から適格請求書(インボイス)を発行してもらわなくてはいけません。仕入税額控除とは、消費税が二重で課されるのを解消する制度です。売上にかかった消費税から、仕入れ時に必要な消費税を差し引いて計算することをいいます。
ただし、場合によっては領収書・レシートなどを適格簡易請求書と扱うことが可能です。その場合、領収書・レシートを発行・保存しておけば、仕入税額控除を受けられます。
飲食業や小売業、旅行業など不特定なおかつ多数の人に対してサービスを提供している場合は、適格請求書の代わりとして適格簡易請求書の発行が認められています。適格簡易請求書では、相手の事業者(買い手)の名前の記載は必要ありません。不特定多数にサービスを提供している場合、その都度相手の名前を確認していると時間がかかり、営業にも影響が出てしまい現実的ではないためです。
また、適格請求書では適用税率と消費税額の記載が必要ですが、適格簡易請求書はどちらかの記載があれば問題ありません。それぞれの請求書で記載が必要な項目については、後程詳しく解説します。
領収書・レシートを適格簡易請求書と扱うならば、適切な保管が必要です。領収書・レシートなど紙の書類は、そのまま保管することもできますが電子保存も認められています。
電子保存の方法は、電子帳簿保存法で定められたスキャナ保存と電子取引保存の2種類があります。スキャナ保存とは、スキャナやスマホを使って読み取る方法で、電子取引保存とはメールやクラウドサービスなどでやり取りした書類をそのまま電子データとして保存する方法です。
これまでは電子データを紙として保存することも認められていましたが、電子帳簿保存法が改正され、電子保存が義務化されたので注意しましょう。
インボイス制度の開始によって、請求書を発行する側と受け取る側の両方に変更点が生じます。この章では、インボイス制度導入における変更点を解説します。制度開始によってどのようなポイントが変更されるのか把握し、スムーズに導入できるようにしましょう。
請求書を発行する側の変更点は、記載項目の追加と3万円未満の取引でも領収書・レシートが必要になることです。具体的にどのような点が変更されるのか解説するので、請求書を発行する機会が多い方は参考にしてみてください。
インボイス制度開始によって、現在発行している区分記載請求書から記載する項目が3つ追加されます。記載が追加される項目は、下記の3つです。
登録番号とは、適格請求書発行事業者として登録したときに税務署から発行される番号です。ただし、適格簡易請求書は、適用される消費税率と消費税額のどちらか片方のみの記載で問題ありません。
これまでは金額が3万円未満の取引の場合、領収書・レシートを発行・保存しなくても仕入税額控除が受けられましたが、インボイス制度開始後は、金額にかかわらず原則すべての請求書の保存が必要です。また、買い手側も、請求書の控えを保存しなくてはいけません。
取引の金額がいくらであっても、領収書・レシートなどの適格簡易請求書もしくは適格請求書がなければ、仕入税額控除の適用が受けられないので注意しましょう。
ただし、電車賃や自動販売機での買い物など請求書や領収書の発行が難しい場合に限り、これまで通り帳簿への記入のみで仕入税額控除が適用されます。
また、2022年12月16日に公表された令和5年度税制改正大綱では、一定の条件下にある中小事業者に限り、経過措置が設けられました。1万円未満の少額取引について、2023年10月1日から2029年9月30日にわたる6年間は適格請求書の取得・保存が不要となりました。対象となる中小事業者は以下の通りです。
インボイス制度が始まって業務に変更があるのは、請求書を発行する側だけではありません。続いては、請求書を受け取る側の変更ポイントを解説します。どのような変更点があるのか理解し、制度開始に備えましょう。
経費申請をするとき、取引先から提出された請求書や領収書、レシートに必須項目が記載されているか、そして記載内容は合っているかを一つずつ確認しなくてはいけません。書類の記載内容だけではなく、取引先が適格請求書発行事業者に登録されているかのチェックや、適格請求書・適格簡易請求書とその他の書類への仕分も必要です。
このようにインボイス制度開始によって、経理申請時の確認事項や手間が増えることになります。
仕入税額控除を受けるには、適格請求書および適格簡易請求書を保存しておかなくてはいけません。電子データとして保存するときは、電子帳簿保存法の要件に従い保存することが必要です。
電子帳簿保存法の要件は、検索機能の確保や真実性の担保などいくつかあります。要件の詳細については国税庁のホームページに記載されているので、制度開始前にしっかりと確認しておきましょう。
参照元:国税庁「電子帳簿保存時の要件」
領収書・レシートを適格簡易請求書と扱うならば、一定の条件を満たしていることが必要です。この章では、適格簡易請求書として認められる領収書・レシートの書き方について解説します。領収書・レシートを適格簡易請求書と扱う可能性がある企業の方は、どのような記載が必要か参考にしてみてください。
領収書・レシートを適格簡易請求書と扱うならば、下記の規定の項目が記載されていなくてはいけません。
記載事項 |
概要 |
請求書を発行する者の名称もしくは氏名 |
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登録番号 |
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取引を行った年月日 |
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取引の内容 |
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税率ごとに分けた取引価格 |
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消費税額もしくは適用税率 |
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適格請求書と異なり、適格簡易請求書の場合は消費税額と適用税率のどちらか片方が記載されていれば仕入税額控除に利用できます。また、適格請求書と異なり、商品・サービスの買い手の名称や氏名を記載する必要がないため、不特定多数を相手に取引するときもスムーズな発行が可能です。
適格請求書には、下記の項目の記載が必要です。
記載事項 |
概要 |
請求書を発行する者の名称もしくは氏名 |
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登録番号 |
|
取引を行った年月日 |
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取引の内容 |
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税率ごとに分けた取引価格と適用税率 |
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税率ごとに分けた消費税額 |
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請求書を受領する者の名称もしくは氏名 |
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適格簡易請求書以外は、原則この方法での記載が必要です。適格請求書・適格簡易請求書は、特に法律で決められたフォーマットはないので、決められた項目が記載されたものを各自で用意しましょう。
インボイス制度下では、原則としてすべての取引において、適格請求書または適格簡易請求書の保存が必要です。しかし、インボイス制度開始後も、これまで通り領収書は適格簡易請求書として扱われます。
ただし、注意が必要なのは、領収書に税率の記載がない場合です。税率が明記されていないと、仕入税額控除の適用を受ける際に問題となる可能性があります。
領収書に税率記載がない場合でも、以下の方法で税率を確認できます。
最も確実な方法は、領収書を発行した事業者に直接問い合わせることです。電話やメールなどで、取引内容と税率を確認しましょう。
過去の取引記録や契約書に、消費税率に関する記載があれば、それを参考にできます。特に、継続的な取引の場合は、過去の領収書や契約書を確認することで、税率を特定できる可能性が高いです。
同じ事業者との類似の取引があれば、その際の消費税率を参考にできます。ただし、取引内容や時期によって税率が異なる場合もあるため、注意が必要です。
領収書を適格簡易請求書として扱うときには、注意しなければならないことがあります。この章では、領収書を適格簡易請求書として扱うときの注意点を解説するので、担当者の方はしっかりと把握し、制度開始後に困らないようにしましょう。
適格簡易請求書で仕入税額控除を受けるには、一定の条件を満たさなくてはいけません。まずは、請求書を発行する企業が適格請求書発行事業者に登録されている必要があります。課税事業者のみが適格請求書発行事業者になることができるので、取引先が免税事業者の場合は適格請求書を発行できず、仕入税額控除の対象外となります。
また、適格簡易請求書はすべての企業が発行できるわけではありません。以下の事業のみに限られています。
領収書を適格簡易請求書として扱うときには、相手が適格請求書発行事業者に登録されているか、そして発行可能な事業なのかを確認するようにしましょう。
紙で作成した領収書のやり取りから電子データへ切り替えたいときには、取引先の運用にも影響が出ます。電子データでのやり取りへ切り替えを検討していることを伝え、対応可能かどうか事前に確認をしましょう。
企業によっては、システムの準備やワークフローの整理などが必要となり時間がかかる場合もあるため、なるべく早めに取引先に相談することをおすすめします。制度開始後にスムーズに始められるよう、事前に合意も得ておきましょう。
領収書・レシートは、定められた事項が記載されている場合は適格簡易請求書として扱い、仕入税額控除が適用されます。法律で決められたフォーマットはないので、必須事項が記載されたものを事前に用意しておくことが必要です。
適格簡易請求書を保存するときの要件の確認や、取引先とデータのやり取りについて相談するなど、事前に用意を進めて制度開始後にスムーズに始められるようにしましょう。