更新日:2024.10.04
ー 目次 ー
インボイス未登録の飲食店での接待交際費は経費にできない?領収書のチェック項目は?
「インボイスに対応していないと経費で落とせないから」と言われ、客足が遠のいた飲食店は少なくありません。インボイスに登録すべきなのか悩む飲食店経営者もいらっしゃるでしょう。
本記事では、インボイス登録を躊躇っている飲食店経営者のために次のポイントを詳しく解説します。
▼この記事で解説する内容
|
これを読めば、インボイスに登録すべきか否か、登録する場合の対応方法がわかります。ぜひ参考にしてください。
企業の経費精算では、インボイス未登録の飲食店でおこなわれた接待の領収書を提出されても却下するケースがあります。その理由は会社にとって損だからです。次の2つのポイントに分けて詳しく解説します。
仕入額控除ができず納税額が増えるから 損金計上できる基準額を超えやすく、計算が複雑になるから |
インボイス制度開始以降、免税事業者から仕入れた場合は仕入額控除ができなくなりました。ここで、仕入額控除とはなにかを確認しておきましょう。
事業者が国内で商品の販売やサービスの提供などを行った場合には、原則として消費税が課税されます。 この消費税の納付税額は課税期間中の課税売上に係る消費税額から課税仕入れ等に係る消費税額を差し引いて計算します。 ここで課税仕入れ等に係る消費税額を差し引くことを仕入税額控除といいます。 |
引用元:国税庁「No.6355 課税売上げと課税仕入れ」
つまり、仕入税額控除ができなければ、課税売上にかかる消費税額を全額負担しなければならないということです。消費税率10%と仮定して、例を見てみましょう。
仕入れ先 |
インボイス対応の事業者 |
免税事業者 |
仕入れ額(税込) |
110円 |
110円 |
①消費税額 |
10円 |
10円 |
課税売上額(税込) |
330円 |
330円 |
②消費税額 |
30円 |
30円 |
仕入税額控除 |
可 |
不可 |
納める消費税 |
20円 |
30円 |
表のように、仕入れ先が免税事業者の場合は仕入税額控除できないため、課税売上の30円を納めなければなりません。仕入れ額が同じならインボイス対応の事業者と取引する方が、親事業者にとってお得であることがわかります。
接待交際費もの対象であるため、同額のコース料理で接待するならインボイス対応の飲食店の方がお得だと企業は判断します。インボイス未登録の飲食店での接待を企業が避ける理由の1つです。
企業の接待において、参加者1人あたりの金額が10,000円(※)以下であれば、接待交際費ではなく損金として計上できます。接待交際費と損金の違いは次のとおりです。
税務上の取り扱い |
益金から差し引き(損金算入)できる金額 |
損金 |
10,000円以下の参加費 × 参加人数の全額 |
接待交際費 |
【資本金1億円以下の法人】 |
つまり、損金として計上できれば企業にとってお得だということです。なお10,000円という基準額の厳密な金額は、企業の税務上の処理方法によって差があります。
税務上の処理の種類 |
税込処理 |
税抜処理 |
1人あたりの基準額 |
10,000円(税込) |
10,000円(税抜) |
税抜処理を選択している場合、インボイス未登録の飲食店での接待が、この基準に適うかどうかの判別が難しくなりました。
免税事業者発行の領収書に「税込」と記載されていても、「税抜」として扱われるからです。
参加者4人、飲食代44,000円(税込)の接待を例に、次の表を見てみましょう。
接待場所 |
インボイス対応の飲食店 |
免税事業者の飲食店 |
領収書への記載 |
44,000円(税込) |
44,000円(税込) |
税務上の取り扱い |
税込価格 |
税抜価格 |
税抜価格 |
40,000円 |
44,000円 |
参加者1人あたりの金額(税抜) |
10,000円 |
11,000円 |
免税事業者の飲食店で接待すると、領収書上は10,000円の基準内に見えても実際は超えてしまうため、損金算入できないうえに再計算の手間もかかります。インボイス未登録の飲食店での接待を企業が避ける理由の1つです。
(※)基準額が5,000円から10,000円に引きあがったのは2024年4月1日~
インボイスに登録した飲食店は、領収書に次の項目を記載する必要があります。
適格請求書発行事業者の登録番号は、インボイスに登録すると国税庁から書面で送付されます。すべての領収書に記載が必要です。また、接待がおこなわれた年月日と内容を明記する必要もあります。
店内での飲食・サービス料金の税率は10%、テイクアウトの税率は8%です。税率が異なるものは区分して記載する必要があり、合算して記載することは認められていません。
交付を受ける事業者の氏名または名称は、接待をおこなった企業名を指しますが「上様」の表記も認められています。
最後に、インボイス制度に関する3つの質問に回答します。
▼ここでわかること インボイス登録すべき事業者と必要のない事業者領収書・レシートの発行方法企業が損をするもう1つの理由 |
インボイス未登録によって悪影響が生じるのは、接待に使われることが多い飲食店です。先述のような理由から企業が利用を避け、客数が減る恐れがあります。
接待に使われることがほとんどない場合、つまり領収書を発行することが少ない飲食店なら、とくに影響がないはずです。むしろ、インボイスに登録すると消費税を納めなければならなくなるため、手取り額が減る可能性があります。
ただし、課税売上高が1,000万円を超えると免税事業者を選択できないため、1,000万円を超えそうな飲食店はインボイスへの対応を検討する必要があるでしょう。
客層と取引先、自社の業績を分析してから登録を判断することをおすすめします。
まずは適格請求書発行事業者になるために、国税庁に届け出ましょう。インボイス対応後の領収書には、適格請求書発行事業者の登録番号を記載する必要があるからです。
領収書・レシートの発行方法には、次の方法があります。
方法 |
メリット |
デメリット |
インボイス対応の手書き領収書を買う |
・低コスト |
・登録番号を記載する手間がかかる ・税率の異なるものを計算する手間がかかる |
インボイス対応のレジに変える |
・発行が楽 |
・コストが高い |
インターネット上のフォーマットを使う |
・カスタマイズできる |
・印刷の手間がかかる |
事業者の氏名または名称、登録番号を記載しなければならないため、手書き領収書を選択する場合は記載の手間がかかります。
文具や事務用品の事業者に依頼して作ってもらうか、簡単に印字できるようにハンコを作るかで対応しましょう。
最も手軽なのはインボイス対応のレジに交換することですが、レジ1台の金額で30,000円以上かかります。
インボイス未登録の飲食店で接待して企業が損をする金額は、期間によって異なります。
期間による金額差はインボイスの経過措置期間によるものです。経過措置期間中は免税事業者からの仕入であっても仕入税額控除を適用できます。期間と控除の割合は次のとおりです。
期間 |
割合 |
2023年10月1日~2026年9月30日 |
仕入税額相当額の80% |
2026年10月1日~2029年9月30日 |
仕入税額相当額の50% |
2029年10月1日になると経過措置が終了するため、控除割合が0%になります。
上記の経過措置期間をもとに、税抜処理をしている企業が「参加者1人あたり11,000円(税込)」の接待をおこなうと仮定してシミュレーションしてみましょう。
【免税事業者の飲食店で接待した場合】
接待をした日 |
①1人あたりの基準額 |
②1人あたりの基準額 |
11,000円(税込)-② |
2024年4月1日~ |
9,804円 |
10,785円 |
-215円 |
2026年10月1日~ |
9,524円 |
10,477円 |
-523円 |
2029年10月1日~ |
9,090円 |
10,000円 |
-1,000円 |
【インボイス対応の飲食店で接待した場合】
接待をした日 |
1人あたりの基準額 |
1人あたりの基準額 |
11,000円(税込)との差額 |
― |
10,000円 |
11,000円 |
0 |
11.000円は控除額を前提とした税込価格の基準なので、税抜の基準額は控除額に左右されます。そのため、インボイス登録済みの飲食店であれば、10,000円(税抜)のコースを選べますが、免税事業者の飲食店での接待では9,000円台のコースしか選べません。
企業から出ていくお金は変わらないのにコースのグレードが下がる可能性があるため、損といえるでしょう。
企業が接待をするときに、インボイス登録事業者であるかどうかを基準に飲食店を選ぶケースは増えていくと予想されます。
とくに、経過措置期間が終了するタイミング、あるいは軽減割合が80%から50%に引き下げられるタイミングは要注意です。
接待で使われることが多い飲食店なら、インボイスへの対応を検討しましょう。
登録はもちろんですが、領収書に必要な事項や帳簿の付け方の確認、新たなレジの導入、計算方法のマニュアル化など、できるところから始めることをおすすめします。