更新日:2025.01.30
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インボイス制度により、免税事業者との取引では仕入税額控除が受けられなくなりました。その結果、取引先の免税事業者にインボイス登録してほしいと考える事業者も少なくありません。
しかし、インボイス制度の登録を依頼するときには注意するポイントがあります。もし、誤った方法で依頼してしまうと違法行為に該当し、罰金のみではなく、公正取引委員会により違反内容と企業名が公表されるような会社の信用問題に発展しかねません。
本記事では、下請けにインボイス制度を強制した際に起きるリスクについて、ルールや罰則を交えて解説します。
インボイス制度とは、契約内容や消費税率などの所定の要件が記載された請求書・納品書などを発行し、保存しておくルールです。インボイス制度では適格請求書発行事業者の登録が必要で、登録後に「適格請求書(インボイス)」の発行が可能です。そして、仕入に支払った消費税の控除が受けられる「仕入税額控除」の活用ができます。
このような制度内容であることから、未登録の事業者であった場合には取引先が仕入税額控除が活用できず、消費税の負担を軽減できません。そのため、インボイス制度によって現在の取引に影響が出る可能性があります。
取引先が免税事業者であることを理由に報酬額を支払わない行為や、取引の停止などをすると、以下の法律で違反行為に該当する可能性があります。
事業の運営上、取引先にインボイス登録を希望する場合は、対等な立場で提案し、相手の意思を尊重しながら協議を進めることが重要です。双方が納得する形での対応を心がけ、一方的な行動を避けましょう。
ここでは、インボイスを強制すると違法になるおそれがある「下請法」や「独占禁止法」について紹介します。
下請法とは、企業間において優位な業者が下請け業者に対して本来の目的とは異なる指示をして、一方的に不利益を被らせないために制定された法律です。
インボイス制度に関連して違反になりやすいのは、「下請代金の減額禁止」と「買いたたきの禁止」の2つの規定です。
(親事業者の遵守事項) 第四条 親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、次の各号(役務提供委託をした場合にあつては、第一号及び第四号を除く。)に掲げる行為をしてはならない。 三 下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、下請代金の額を減ずること。 五 下請事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額を不当に定めること。 |
以下は下請法違反の例です。
<例> 事前に報酬の金額を定めて契約を交わした。その後に取引先が免税事業者と判明したため、消費税分の金額を支払わないと通告した。 |
この場合は、下請法の「下請代金の減額の禁止」に該当しています。もし違反が発覚した場合は、以下の罰則が課せられます。
罰金のみではなく、企業名が公表される処罰もあり、会社の信用問題に影響するリスクがあります。
独占禁止法とは、公平で自由な競争を促進させるために制定された法律です。登録を要請するのみは問題ありませんが、取引先が不利益になる条件をつけることは独占禁止法に違反する可能性があります。具体的なケースは以下のとおりです。
<例> 事業者が取引相手に対して、「登録しないなら契約を打ち切る」と脅してインボイス制度への登録を強制した。 |
優位な立場の事業者が相手の立場を不当に弱める行為として、不当な条件で不利益を与える「優越的地位の濫用」に該当する可能性があります。もし独占禁止法に違反した場合、以下の刑罰が課されます。
概要 |
違反に対する罰則 |
公正取引委員会による行政処分 |
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刑事罰 |
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民事訴訟 (私人による民事的救済) |
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参考:公正取引委員会「独占禁止法教室<公正取引委員会の事件審査について>」
このように、インボイス制度を要請するときは、取引先との関係性や法的リスクに気をつけましょう。
取引先に対して立場を利用して、登録を強制してはいけません。しかし、取引先にインボイス登録をしてほしい事業者も少なくないでしょう。
取引先と円満な状態でインボイスを依頼するには、適切な対応が必要です。
ここでは、インボイス制度を強制しないための注意点を紹介します。
免税事業者に対してインボイス登録を依頼するときは、慎重に交渉しなければなりません。取引先に対して、契約後の金銭未払いの通告やインボイス未登録による契約解除の申し出などは、違法になるためです。たとえば、以下の要求は法律違反に該当します。
違反のケース |
違反となる法律 |
契約後に免税事業者と判明した場合、消費税分を減額 |
下請法違反 |
インボイス未登録による支払い拒否 |
下請法・独占禁止法違反 |
インボイス未登録による契約解除 |
独占禁止法違反 |
あくまで、取引先とは対等な関係として話し合いをしなければなりません。取引先の不利益になる条件を提示してしまうと、今後の関係性にも影響するため注意しましょう。
取引先にインボイス登録を促したいときは、適切な方法であれば問題ありません。ポイントは、双方が対等な立場で話し合い、互いの事情を考慮しながら不利益が発生しないよう進めることです。
たとえば、取引先に対して「未登録の事業者は次回以降の契約を停止いたします」と一方的に通告した場合には独占禁止法に抵触します。伝えるときは「弊社の事業状況に応じて、今後の取引について相談したいです」という姿勢で話し合いましょう。
インボイス制度への対応は、取引先との信頼関係を守りながら、法令の観点も踏まえて慎重に進めていく必要があります。
本記事では、インボイス制度を下請けに強制した際に起きるリスクとルールや罰則について解説しました。
取引先の免税事業者に対して、登録させるために不利益な要求をすると、違法になってしまう可能性があります。違反すると罰金のみではなく、公正取引委員会により違反内容と企業名が公表されるなどの会社信用にも影響が出てきてしまうでしょう。
このようなトラブルを起こさないためにも、依頼したいときは双方が対等な立場で話し合い、取引先に不利益が発生しないよう話を進めるのがおすすめです。