更新日:2025.06.24
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インボイス制度の導入で、多くの個人事業主や小規模事業者が「負担が大きい」や「対応が難しい」と感じています。とくに、免税事業者は取引の減少や消費税納税の新たな負担、経理業務の煩雑化など、大きな影響を受ける可能性があります。
こうした状況から「インボイス 抜け道」や「インボイス 逃げ道」といった検索が増えていますが、法律で定められた制度を不正に回避しようとするのはリスクが高いです。しかし、インボイス制度には正規の負担軽減措置が用意されており、これらを理解して活用することで、制度による影響を最小限に抑えられる可能性があります。
本記事では、インボイス制度の概要や課題について、負担軽減のための正規の制度もあわせて解説します。
インボイス制度は、2023年10月1日から導入された消費税の正確な計算のための制度です。この制度は、複数税率への対応や消費税の計算ミス・不正を防ぐことをおもな目的としています。
インボイス制度では、税率が複数(8%と10%)ある場合でも、事業者が消費税を正確に納められるように設計されています。具体的には、インボイス(適格請求書)をもとに消費税を計算する仕組みとなっており、インボイスには従来の区分記載請求書の記載項目に加えて、以下の項目の追加が必要です。
買手が消費税の納税額を計算する際の「仕入税額控除」を適用するためには、インボイスの入手と保存が必要です。
インボイス制度は、とくに個人事業主や小規模事業者を中心に「ひどい」「やばい」と評価されることがあります。
ここでは、インボイス制度が「ひどい」といわれるおもな理由について解説します。
SNSや口コミサイトなどでは、とくに免税事業者である個人事業主からインボイス制度に対して「やばい」「ひどい」などの声が上がることが多いです。
なかでも建設業の一人親方など、従来免税事業者が多かった業界ではとくに影響が大きいです。
免税事業者のままでいると、取引が減るおそれがあります。買い手の課税事業者が免税事業者との取引を継続する場合は、仕入税額控除が適用されません。したがって、消費税分の値下げの提案が予想されます。
これまで、課税売上高が1,000万円以下の免税事業者は、売上にかかった消費税額を納付せずに利益として計上できました。
しかし、インボイス制度に対応するには、インボイス(適格請求書)発行事業者になる必要があります。インボイス発行事業者になるには、消費税の申告・納付が必要になります。
免税事業者が課税事業者になって、インボイス(適格請求書)発行事業者として登録する選択をすると、確定申告の際に消費税の申告・納税が必要です。消費税の納税額は、取引にかかった消費税額を計算して、取引先から受け取った消費税の合計から仕入れの際に支払った消費税の合計を差し引いて算出します。
消費税額の算出は煩雑であるため、経理業務の負担が重くなることが予想されます。
インボイス制度が導入されると、課税事業者はこれまでの区分記載請求書からインボイス(適格請求書)の様式に変更しなければなりません。請求書のほかに、納品書・領収書・仕入明細書など、取引に関するさまざまな書類をインボイスの要件を満たすよう変更する必要があります。
インボイス制度は法律で決まった制度のため、抜け道はありません。法律の「抜け道」を探すよりも、「負担軽減措置」を活用した対応が推奨されています。
抜け道がないからといって「登録番号を偽装してインボイス(適格請求書)を発行する」などの不正行為をおこなうと、厳しい罰則の対象となるため避けるべきです。
ここでは、インボイス制度における負担軽減のための制度について解説します。
2割特例は、免税事業者がインボイス発行事業者として課税事業者になった場合に税負担を「売上税額×20%」に軽減できる制度です。この特例を利用すると消費税の納税額が売上税額から8割を差し引いた2割だけになります。
2割特例は、2023年10月1日〜2026年9月30日までの各課税期間(計4回)で適用できます。対象となるのは、インボイス制度をきっかけに免税事業者からインボイス(適格請求書)発行事業者になった事業者です。
少額特例は、税込1万円未満の課税仕入れについて、インボイス(適格請求書)を保存していなくても帳簿のみの保存で仕入税額控除が受けられる制度です。この制度は2023年10月1日〜2029年9月30日の期間に適用されます。
対象となるのは、基準期間の課税売上高が1億円以下、または特定期間の課税売上高が5,000万円以下の事業者です。特定期間に該当するのは、個人事業主の場合は前年の1〜6月、法人の場合は前事業年度の開始の日以後の6か月間です。
少額特例は1回の取引で判断するため、1つの商品ごとの金額での適用はできません。
少額返還インボイスの交付免除は、税込1万円未満の値引きや返品などの売上にかかる対価の返還について、返還インボイス(適格返還請求書)の交付義務が免除される制度です。この制度には適用期間に期限はなく、全事業者が対象です。
たとえば、振込手数料を売り手が負担してそれを値引き処理する場合、手数料は通常1万円未満であるため「返還インボイス」を作成する義務が免除されます。
少額返還インボイスの交付免除で、小額の値引きや返品に関する事務手続きが簡略化され、業務負担の軽減につながります。とくに頻繁に少額の値引きや返品が発生する業種には、事務作業の効率化に大きく貢献する制度です。
免税事業者との取引に関する経過措置は、インボイス制度導入後の一定期間、免税事業者やインボイス(適格請求書)発行事業者以外の課税事業者との取引でも、一定割合の仕入税額控除が認められる制度です。
控除割合は、適用期間ごとに以下のように異なります。
経過措置を受けるためには、帳簿と請求書などの保存が義務づけられています。帳簿には、取引相手の氏名や取引日、取引内容(経過措置対象の課税仕入れであること)、支払金額などの記録が必要です。請求書などは、従来求められていた記載内容が記載されていれば問題ありません。
インボイス制度は、事業者によってはさまざまなデメリットがある一方で、メリットも多いです。とくに電子化による業務効率化や、インボイス(適格請求書)発行事業者となることで取引機会が広がる可能性があります。
ここでは、インボイス制度のメリットについて解説します。
インボイス制度では、インボイス(適格請求書)を電子化する「電子インボイス」が認められており、これにより請求書などの処理業務の効率化を図ることが可能です。仕分け入力から仕入税額控除の計算までが自動化でき、莫大な量の過去の請求書も管理しやすいです。
また、印刷・郵送費用・保管スペースの削減などでペーパーレス化を進められて、請求業務の負担を軽減できます。
インボイス(適格請求書)発行事業者として登録することで、新規取引先を開拓するチャンスが広がる可能性があります。買い手が取引先を選定する際に「適格請求書発行事業者かどうか」がポイントになるため、登録している事業者は優先して選ばれる可能性が高いです。
免税事業者と比べてインボイス登録課税事業者は、新規取引先との契約につながりやすいと考えられます。
複数税率(8%と10%)に対応して、商品ごとの消費税率とそれぞれの消費税額が記載されるため、消費税額の正確な把握が可能です。これにより、消費税の計算ミスや申告漏れのリスクが減少して、税務調査などでの指摘を受けるリスクも低減できます。
インボイス制度では商品ごとの消費税率を記載して消費税額の計算をおこなうため、消費税の不正やミスの防止が期待できます。
また、インボイス(適格請求書)の利用で、取引の透明性を高められるため取引先との信頼関係が構築され、取引先との長期的な関係性の形成にプラスに働く可能性が高いです。
本記事では、インボイス制度の概要や課題について、負担軽減のための正規の制度もあわせて解説しました。
インボイス制度は法律で定められた制度であり、不正な「抜け道」を探すよりも正規の負担軽減措置を活用するべきです。さまざまな負担軽減措置が用意されているため、自身の事業に最適な選択をすることが重要です。
また、インボイス制度をきっかけに電子化や業務効率化を進めることで、長期的には事業発展のチャンスにつなげられる可能性もあります。電子インボイスの導入や経理システムの見直しなど、この機会に業務の効率化を図ってみてはいかがでしょうか。