更新日:2025.01.30
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個人事業主として軌道に乗ると、法人化の検討も視野に入ります。ただ、個人事業主と守るべき税金のルールが異なるため、その点を懸念している事業者も少なくありません。
法人化した場合、法人化後の2年間は原則、免税事業者として扱われるため、消費税の支払いが不要です。しかし、2023年10月から導入されたインボイス制度を活用すると、同時に課税事業者となることから、消費税の申告・納付が必要です。
本記事では、法人化による消費税の免除について、インボイス制度の影響や選択するポイントを交えながら解説します。
法人化した場合、法人化後の2年間は消費税の申告・納付が不要となります。しかし、以下の条件を満たしていない場合は、1年目から課税対象者として消費税の申告・納付が必要です。
納税が必要になる判断は、2年前の売上高を基準としています。なお、個人事業主での売上は換算されません。
インボイス制度は、消費税に関する書類の記載や保存などの対応方法を決めたルールです。制度が定めた「適格請求書等保存方式」にあわせて、所定の要件が記載された「適格請求書(インボイス)」を発行し、保存が定められています。
これらの要件を満たして取引先が適格請求書を保存することで、消費税の仕入税額控除が受けられます。
しかし、課税事業者になってしまうため、法人化後の2年間の免税が適用されません。取引先からの要請や売上規模などを総合的に考慮した判断をおすすめします。
法人化をした後にインボイス制度に登録すると、2年間の免税が適用されるのみではなく、ほかにもいくつかの影響が発生します。登録前に理解すると、事業として活用するべきか判断ができるでしょう。
ここでは、法人とインボイス制度の影響を紹介します。
企業と取引している場合は、インボイス制度に登録していないと取引が減るかもしれません。インボイス制度に登録していない場合、以下のようなリスクが考えられるためです。
同じサービスを提供する事業者が複数ある場合、取引先は適格請求書が発行できる課税事業者を優先的に選ぶといった影響が発生してしまうでしょう。
課税事業者としてインボイスを発行する場合は以下のような負担が考えられます。
このようにインボイス制度に登録し、課税事業者になると事務負担が増えます。経理担当者が少ない事業者にとっては大きな負担になりかねません。
本来ならば、法人化して2年間は免税事業者として消費税の納税が不要になりますが、インボイスの登録により課税事業者となります。課税事業者になると、年間売上高に応じた消費税の納付が必要です。
具体的には、売上にかかる消費税から、仕入にかかる消費税を差し引いた金額で納めなければなりません。しかし、以下のような方法で負担を軽減できます。
法人化によって2年間の免税期間が用意されます。しかし、取引先の企業によって臨機応変な対応が求められます。免税事業者と課税事業者の特徴を理解して、自社の事業にあっているほうを選択しましょう。
ここでは、インボイス制度の影響による2つの選択肢を解説します。
法人化設立から2年間は、免税事業者として消費税の納付が不要となるため、そのまま免税事業者として運営する選択肢があります。とくに、法人化直後は設立費用や運転資金などのさまざまな支出が発生する時期であり、この2年間の免税期間は貴重な資金繰りの機会となります。
一方、取引先が課税事業者の場合、仕入税額控除を受けられないため、今後の取引が減少するかもしれません。また、企業との新規取引を開拓する際にも、適格請求書が発行できないとマイナスの要因となるでしょう。
インボイス制度に登録して課税事業者になる選択肢もあります。インボイス制度に登録すると、適格請求書の発行が可能となるため、取引先が仕入税額控除を受けられます。ほかにもインボイス制度に登録しておくと、以下のようなメリットが得られるでしょう。
しかし、この選択をすると法人化による2年間の免税特例が適用されなくなり、消費税の納付義務が発生します。
法人化を検討しており免税事業者のままで進めるか、インボイスに登録して課税事業者になるか悩む事業者も少なくありません。インボイス制度に登録するべきかの基準を理解しておくことで、事業の対応が明確になります。
ここでは、法人化後にインボイス制度を利用するかの基準を解説します。
取引先に企業が多い場合、または今後企業との取引拡大を目指している場合は、インボイス制度の登録を検討しましょう。
事業者が仕入税額控除を受けるためには、適格請求書が必須です。新規の取引開拓でも、適格請求書を発行できる事業者であることは、大きなアドバンテージとなる可能性が高いと考えられます。
一方、取引先がおもに消費者である場合や、すでに安定した取引関係が確立している場合は、必ずしも急いで登録する必要はないかもしれません。
免税事業者からの仕入れでも一定割合の仕入税額控除を受けられる経過措置が、2029年9月まで設けられています。受けられる内容は以下のとおりであり、十分にメリットがあるといえるでしょう。
措置の期間 |
控除の割合 |
2023年10月〜2026年9月 |
仕入税額の80%が控除可能 |
2026年10月〜2029年9月 |
仕入税額の50%が控除可能 |
取引先が適格請求書を求めていなかったり、事業の準備期間が必要になったりする場合は、免税事業者として対応を進められるでしょう。
事業の課税売上も検討の材料として考えましょう。課税売上が1,000万円を超えた場合は、2年後に課税事業者として扱われます。そのため、課税事業者になるタイミングでインボイスに登録するのも1つです。
1,000万円を超えてもインボイスに登録していないと、適格請求書の発行ができないため、同じ課税事業者でもできることが狭まります。取引先への適格請求書の発行も可能となることで、新規取引の開拓や既存取引の拡大などにも効果的です。
また、課税事業者になるまでに時間があるため、経理体制の整備や社内システムの調整なども、余裕を持って進められます。
「2割特例」は、インボイス制度の施行によって課税事業者となった事業者の負担を軽減するための経過措置です。この制度を利用すると、課税売上にかかる消費税の納付額を最大2割まで控除できます。
条件 |
概要 |
対象者の条件 |
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適用期間 |
2023年10月1日〜2026年9月30日 |
回数 |
最大4回の申告が可能 |
とくに、法人化後に取引先の影響で課税事業者となった事業者にとっては、初期の税負担を抑えながら事業基盤を固められる重要な制度です。また、2割特例の適用は確定申告のタイミングで判断できるため、事前の準備をしなくても問題ありません。
最大4回の申告で利用できるため、段階的な税負担の増加に対応しやすい仕組みとなっています。
本記事では、法人化による消費税の免除についてインボイス制度の影響や選択するポイントを交えながら紹介しました。
個人事業主から法人化した場合、最初の2年間は免税事業者として扱われるため消費税の支払いが免除を受けられます。しかし、取引先の事業の状況によってインボイスの登録が必要になる場合もあるでしょう。
事業の様子にあわせて、インボイス制度を活用するか選択するのがおすすめです。