更新日:2026.08.28

ー 目次 ー
インボイスの登録を検討していると、「まず課税事業者にならなければいけない」「そのために消費税課税事業者選択届出書を出す必要がある」という説明に行き当たります。
しかし、インボイス登録のためだけであれば、この届出書は必要ありません。登録申請書を1枚出せば、それだけで課税事業者になれます。
むしろ、不要な届出書を出してしまうと2割特例が使えなくなるなど、不利益が生じることがあります。
この記事では、なぜ原則不要なのかを国税庁の通達にもとづいて示したうえで、それでも提出が必要になるケース、そして誤って提出した場合に何が起きるかを解説します。
本来のルールでは、免税事業者が課税事業者になるには「消費税課税事業者選択届出書」の提出が必要です。しかしインボイス制度の導入にあたり、この手続きを省略できる経過措置が設けられています。
国税庁の消費税法基本通達21-1-1では、次のように示されています。
| 国税庁 消費税法基本通達 21-1-1(要旨) |
|---|
| 登録開始日が令和5年10月1日から令和11年9月30日までの日の属する課税期間中である場合、その課税期間において免税事業者である事業者が適格請求書発行事業者の登録を受けようとするときは、登録申請書のみを提出すればよく、課税事業者選択届出書の提出を要しない。 |
つまり、「登録申請書のみを提出すればよい」と明記されています。二重に手続きをする必要はありません。
適用されるのは、登録開始日が令和11年9月30日までの日の属する課税期間中である場合です。それ以降に登録する場合は、原則どおり課税事業者選択届出書の提出が必要になります。
現時点で登録を検討している事業者は、ほぼこの経過措置の範囲内です。
この経過措置のもう一つの利点が、課税期間の途中からの登録が可能になることです。
登録申請書に登録希望日(提出日から15日以後の日)を記載することで、その日から適格請求書発行事業者になれます。期首まで待つ必要はありません。
たとえば個人事業主が年の途中で登録した場合、期首から登録日の前日までは免税事業者、登録日から年末までが課税事業者となります。消費税の申告は、課税事業者だった期間の取引だけを集計して行います。
例外的に、選択届出書の提出が必要になる場面もあります。
| ケース | 届出書 | 補足 |
|---|---|---|
| インボイス登録はせず、課税事業者にだけなりたい | 必要 | 設備投資や輸出売上で還付を受けたい場合など |
| 登録開始日が令和11年10月1日以降になる | 必要 | 経過措置の適用期間を過ぎるため |
| インボイス登録のために課税事業者になる(経過措置の期間内) | 不要 | 登録申請書のみで足ります |
| すでに課税事業者である | 不要 | 基準期間の課税売上高が1,000万円超の場合など |
実務で該当することが多いのは1つ目です。大きな設備投資を予定していて消費税の還付を受けたい、といったケースでは、インボイスとは無関係に課税事業者を選ぶ意味があります。
「念のため出しておこう」が裏目に出るのが、この届出書の厄介なところです。
2割特例は、インボイス制度を機に免税事業者から課税事業者になった事業者を対象とした軽減措置です。ただし、課税事業者選択届出書の提出によってインボイス制度開始より前から課税事業者になっていた場合、令和5年10月1日を含む課税期間の申告では2割特例を適用できません。
納税額を売上税額の2割に抑えられるはずだった措置を、不要な届出書ひとつで逃すことになります。
課税事業者選択届出書を提出すると、原則として2年間は免税事業者に戻れません。これは「2年縛り」と呼ばれます。
登録経過措置を使って登録した場合にも同様の制限がありますが、開始の起点が異なります。不要な届出書を先に出してしまうと、拘束される期間が前倒しで始まることになります。
見落とされやすいのがこの点です。適格請求書発行事業者の登録を取り消しても、課税事業者選択届出書の効力は残ります。免税事業者に戻るには、別途「消費税課税事業者選択不適用届出書」の提出が必要です。
登録を取りやめたのに消費税の申告が続く、という事態を避けるためにも、そもそも不要な届出書は出さないほうが安全です。
ここからは、実際に提出が必要な方に向けて、書類の内容を説明します。
免税事業者が、自らの意思で課税事業者になることを届け出るための書類です。所轄の税務署に提出します。
通常、課税売上高が1,000万円を超えると自動的に課税事業者になりますが、それ未満でも任意で課税事業者を選べます。その意思表示を行うのがこの届出書です。
| 項目 | 記載内容 |
|---|---|
| 提出日 | 届出書を提出する日 |
| 提出先の税務署 | 納税地を所轄する税務署名 |
| 納税地 | 個人は住所または事業所の所在地、法人は本店所在地。郵便番号と電話番号も記載 |
| 氏名または名称 | 個人は氏名、法人は登記上の商号と代表者名 |
| 適用開始課税期間 | 課税事業者になる課税期間の初日と末日 |
| 基準期間 | 上記課税期間の基準期間(通常は2期前)とその課税売上高 |
| 事業内容 | 具体的な業種 |
| 届出区分 | 事業開始・設立・相続・合併などの該当区分 |
なお、押印は不要です。税務関係書類の押印義務は令和3年4月以降、原則として廃止されています。古い記事や様式の説明では押印が必要とされている場合がありますが、現行の様式に押印欄はありません。
提出期限は、課税事業者になろうとする課税期間の初日の前日までです。個人事業主が翌年1月1日から課税事業者になりたい場合は、その年の12月31日までに提出します。
期限を過ぎると、その課税期間には適用されず、翌課税期間からの適用になります。
提出方法は、税務署の窓口への持参、郵送、e-Taxのいずれかです。e-Taxを利用すれば提出日時が記録として残るため、期限間際でも確実です。
なお、新たに事業を開始した課税期間から適用を受ける場合は、その課税期間の末日までの提出で足りる特例があります。設立初年度や開業初年度に該当する場合は、期限が異なる点にご注意ください。
課税事業者をやめて免税事業者に戻る場合は、「消費税課税事業者選択不適用届出書」を提出します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 提出書類 | 消費税課税事業者選択不適用届出書 |
| 提出期限 | 適用をやめようとする課税期間の初日の前日まで |
| 制限 | 課税事業者となった課税期間の初日から2年を経過する日の属する課税期間の初日以後でなければ提出できません |
| 注意点 | 調整対象固定資産を取得している場合、さらに制限が加わることがあります |
提出後すぐに撤回できる書類ではないため、提出前に数期分の見通しを立てておく必要があります。
簡易課税制度を利用したい場合は、「消費税簡易課税制度選択届出書」を別に提出します。ただしこちらにも経過措置があり、登録経過措置により登録して課税事業者になった場合は、その課税期間中に届出書を提出すれば、その課税期間から簡易課税を適用できます。
通常は課税期間が始まる前日までの提出が必要ですが、この場合は事前届出でなくても間に合います。
登録と簡易課税を同じタイミングで検討している場合は、この特例を押さえておくと選択の幅が広がります。
経過措置の期間内であれば不要です。国税庁の通達で「登録申請書のみを提出すればよい」と明記されています。登録申請書1枚で、登録と課税事業者への転換が同時に完了します。
効力が生じる前であれば取下書を提出できる場合があります。すでに効力が生じている場合は、2年間の継続適用の制限がかかります。個別の状況で対応が変わるため、所轄の税務署または税理士にご相談ください。
登録開始日からです。登録申請書に記載した登録希望日、または実際に登録を受けた日が起点になります。期首まで遡ることはありません。
別のものです。課税事業者は消費税を納める義務がある事業者、適格請求書発行事業者は登録を受けてインボイスを交付できる事業者を指します。適格請求書発行事業者になるには課税事業者であることが前提ですが、経過措置により登録申請書1枚で両方を満たせます。
インボイスの登録が目的であれば、消費税課税事業者選択届出書の提出は不要です。国税庁の通達で「登録申請書のみを提出すればよい」と明記されており、二重の手続きは求められていません。
むしろ不要な届出書を提出すると、2割特例を使えなくなる、免税事業者に戻れない期間が前倒しで始まる、といった不利益が生じます。
提出が必要になるのは、インボイス登録とは別の理由で課税事業者になりたい場合や、登録が令和11年10月以降になる場合です。ご自身がどちらに該当するかを確認したうえで判断してください。