更新日:2026.08.31

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インボイス制度を機に課税事業者になった個人事業主にとって、2割特例は納税額を抑える大きな支えでした。その2割特例が令和8年分の申告で終わります。
代わりに、個人事業主だけが使える3割特例が令和9年分・令和10年分について設けられました。ここで判断が必要になるのが、3割特例を使うのか、簡易課税制度を選ぶのかという点です。
本記事では、どちらが得かを事業区分ごとに整理し、いつまでに何をすればよいかを年分ごとにまとめます。
3割特例は納付税額を売上税額の3割とする制度です。簡易課税の納付税額は「売上税額×(1−みなし仕入率)」で決まるため、この2つは同じ物差しで比べられます。
| 事業区分 | みなし仕入率 | 簡易課税の納付割合 | 3割特例(30%)との比較 |
|---|---|---|---|
| 第1種事業(卸売業) | 90% | 10% | 簡易課税が有利 |
| 第2種事業(小売業など) | 80% | 20% | 簡易課税が有利 |
| 第3種事業(建設業、製造業など) | 70% | 30% | 同額 |
| 第4種事業(飲食店業など) | 60% | 40% | 3割特例が有利 |
| 第5種事業(サービス業など) | 50% | 50% | 3割特例が有利 |
| 第6種事業(不動産業) | 40% | 60% | 3割特例が有利 |
フリーランスや副業の多くは第5種事業(サービス業)に該当します。この場合、簡易課税の納付割合は50%で、3割特例の30%を大きく上回ります。3割特例が使える令和9年分・令和10年分は、3割特例を選ぶほうが納税額を抑えられます。
ただし、課税仕入れが多い事業では一般課税のほうが有利になることもあります。判断の手順は後述します。
個人事業主の課税期間は1月1日から12月31日までの暦年です。年分ごとに使える計算方法は次のとおりです。
| 年分 | 使える計算方法 | 申告時期 |
|---|---|---|
| 令和8年分 | 2割特例/簡易課税/一般課税 | 令和9年3月 |
| 令和9年分 | 3割特例/簡易課税/一般課税 | 令和10年3月 |
| 令和10年分 | 3割特例/簡易課税/一般課税 | 令和11年3月 |
| 令和11年分以降 | 簡易課税/一般課税 | 令和12年3月以降 |
令和8年分が2割特例の最後の申告です。令和9年分からは3割特例に切り替わり、令和11年分以降は簡易課税か一般課税の二択になります。
つまり判断が必要なタイミングは2回あります。1回目は令和9年分の申告時、2回目は令和11年分に向けた準備の段階です。
3割特例は、令和8年度税制改正で創設された制度です。事務負担への配慮がより必要と考えられる個人事業主を対象としており、法人には適用されません。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象者 | 個人事業主である適格請求書発行事業者(法人は対象外) |
| 対象期間 | 令和9年分・令和10年分の消費税申告 |
| 納付税額 | 売上税額×30% |
| 売上高の要件 | 基準期間(前々年)および特定期間(前年1月1日〜6月30日)の課税売上高が1,000万円以下 |
| 前提 | 免税事業者が適格請求書発行事業者になったことにより、事業者免税点制度の適用を受けられない課税期間であること |
| 手続き | 事前の届出は不要。確定申告書にその旨を付記する |
3割特例には事前の届出がありません。この点は2割特例と同じで、確定申告のときに適用するかどうかを決められます。
注意したいのは、何もしなければ自動で3割特例になるわけではないという点です。簡易課税制度選択届出書を出していなければ、申告書に付記しない限り一般課税で計算することになります。
一般課税では課税仕入れをすべて集計する必要があり、事務負担も納税額も想定と変わってしまいます。
簡易課税制度は、インボイス制度の前からある消費税の計算方法です。実際の課税仕入れを集計せず、売上にかかる消費税額に業種ごとのみなし仕入率を乗じた金額を仕入控除税額とみなします。
個人事業主の場合、基準期間は前々年です。前々年の課税売上高が5,000万円以下の年について適用できます。届出書を提出していても、前々年の課税売上高が5,000万円を超える年には適用できません。
なお、基準期間が免税事業者であった場合、その課税売上高は税込で判定します。
| 事業区分 | みなし仕入率 | 主な業種 |
|---|---|---|
| 第1種事業 | 90% | 卸売業 |
| 第2種事業 | 80% | 小売業、農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡に係る事業に限る) |
| 第3種事業 | 70% | 農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡に係る事業を除く)、鉱業、建設業、製造業、電気業、ガス業、熱供給業、水道業 |
| 第4種事業 | 60% | 第1種・第2種・第3種・第5種・第6種以外の事業(飲食店業など) |
| 第5種事業 | 50% | 運輸通信業、金融業・保険業、サービス業(飲食店業を除く) |
| 第6種事業 | 40% | 不動産業 |
ライター、デザイナー、エンジニア、コンサルタントといった役務提供を中心とする仕事は、原則として第5種事業に区分されます。
簡易課税制度の適用を受けるには、その課税期間の初日の前日までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出します。個人事業主の場合、翌年から適用したいときは12月31日までの提出です。
ただし、2割特例や3割特例を使った翌年については期限が緩和されています。次の章で詳しく説明します。
3割特例は納付税額を売上税額の3割にする制度です。これは、仕入控除税額が売上税額の7割になるということなので、みなし仕入率70%の簡易課税を全業種一律で使うのと同じ効果になります。
この見方をすると判断は単純です。自分の事業区分のみなし仕入率が70%より高ければ簡易課税、低ければ3割特例のほうが納税額を抑えられます。第3種事業(70%)はちょうど同額です。
税込の課税売上高660万円(すべて標準税率10%)、課税仕入れ220万円(税込)の個人事業主で比べます。
売上税額=660万円×10/110=60万円
| 計算方法 | 計算 | 納付税額の目安 |
|---|---|---|
| 3割特例 | 60万円×30% | 18万円 |
| 簡易課税(第2種・小売業) | 60万円×(1−80%) | 12万円 |
| 簡易課税(第5種・サービス業) | 60万円×(1−50%) | 30万円 |
| 一般課税 | 60万円-(220万円×10/110=20万円) | 40万円 |
実際の申告では国税分(7.8%)と地方消費税を分けて計算するため、上記は概算です。
第5種事業のサービス業であれば、3割特例(18万円)が簡易課税(30万円)より12万円少なくなります。一方、第2種事業の小売業であれば簡易課税(12万円)のほうが6万円少なくなります。同じ売上でも業種で結論が逆になります。
課税仕入れが多い事業では、一般課税が最も納税額を抑えられることがあります。目安は次のとおりです。
| 実際の課税仕入率 | 有利になりやすい方法 |
|---|---|
| 70%より低い | 3割特例(令和9年分・令和10年分) |
| 70%より高い | 一般課税 |
| 自分の事業区分のみなし仕入率より低い | 簡易課税 |
また、店舗の改装や高額な機材の購入を予定している年は、課税仕入れが課税売上を上回って還付を受けられる場合があります。還付が生じるのは一般課税だけで、簡易課税や3割特例では還付はありません。
簡易課税は事前の届出が必要な制度で、期限を1日でも過ぎると翌年まで使えないのが原則でした。令和8年度税制改正で、この期限が一部緩和されています。
2割特例または3割特例を使った年の翌年から簡易課税を適用する場合は、その翌年の確定申告期限までに届出書を提出すれば足りることになりました。申告の時点で納税額を試算し、有利なほうを選べます。
個人事業主の場合、年分ごとの届出期限は次のようになります。
| 簡易課税を適用したい年分 | 前年に適用していた計算方法 | 届出書の提出期限 |
|---|---|---|
| 令和9年分 | 2割特例(令和8年分) | 令和10年3月31日(令和9年分の確定申告期限) |
| 令和10年分 | 3割特例(令和9年分) | 令和11年3月31日(令和10年分の確定申告期限) |
| 令和11年分 | 3割特例(令和10年分) | 令和12年3月31日(令和11年分の確定申告期限) |
| 上記以外の年分 | 一般課税など | 前年の12月31日(原則どおり) |
提出期限が土日祝日に当たる場合は、翌開庁日が期限になります。
この緩和が使えるのは、2割特例または3割特例の直後の年に限られます。それ以外の年に簡易課税へ切り替える場合は、従来どおり前年12月31日までの提出が必要です。
「一度選ぶと2年間は戻せない」と説明されることがありますが、正確には次のとおりです。事業を廃止した場合を除き、簡易課税制度選択届出書の効力が生ずる課税期間の初日から2年を経過する日の属する課税期間の初日以後でなければ、「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」を提出できません。
3割特例は令和10年分で終わります。令和9年分から簡易課税を選ぶと、この拘束期間の関係で選択の幅が狭くなることがあります。届出の前に、令和11年分以降まで見通して判断してください。
簡易課税では、実際の課税仕入れがいくらであっても仕入控除税額はみなし仕入率で計算します。課税仕入れが課税売上を上回った年でも還付は生じません。大きな設備投資を予定している年は、一般課税のほうが有利になる可能性があります。
個人事業主は、本業と副業で異なる区分の事業を営んでいることがあります。この場合、事業ごとに課税売上高を区分して計算する必要があり、事務負担の軽減という簡易課税の利点が薄れます。
ただし、次の特例があります。
| ケース | 適用できる特例 |
|---|---|
| 2種類以上の事業を営み、1種類の事業の課税売上高が全体の75%以上を占める | その事業のみなし仕入率を全体の課税売上げに適用できる |
| 3種類以上の事業を営み、特定の2種類の事業の課税売上高の合計が全体の75%以上を占める | その2業種のうち高いほうのみなし仕入率をその事業の課税売上高に、低いほうをそれ以外の課税売上高に適用できる |
なお、事業ごとに区分していない部分については、区分していない事業のうち最も低いみなし仕入率が適用されます。区分を怠ると納税額が増えるおそれがあります。
事前の届出は不要です。確定申告書に3割特例の適用を受ける旨を付記することで適用されます。ただし付記を忘れると適用されないため、提出前に確認してください。
一般課税で申告することになります。簡易課税制度選択届出書を出しておらず、申告書に3割特例の付記もしなければ、原則どおり課税仕入れをすべて集計して計算する方式になります。
事務負担が大きく、納税額も想定と変わる可能性があるため、どの方法で申告するかは早めに決めておいてください。
3割特例は令和10年分で終わるため、令和11年分からは簡易課税か一般課税のどちらかを選びます。簡易課税を使う場合、令和10年分に3割特例を適用していれば、令和11年分の確定申告期限(令和12年3月31日)までに届出書を提出すれば間に合います。
簡易課税や3割特例で申告する場合、仕入税額控除は実際の課税仕入れを集計せずに計算するため、受け取った請求書がインボイスかどうかは納税額に影響しません。ただし、所得税の計算上、取引の証憑として請求書や領収書の保存は必要です。
個人事業主の2割特例は令和8年分の申告で終わり、令和9年分・令和10年分は3割特例に移ります。3割特例は事前の届出が不要で、確定申告書への付記だけで適用できます。
3割特例と簡易課税のどちらが得かは業種で決まります。第1種・第2種事業なら簡易課税、第3種事業なら同額、第4種以下なら3割特例が有利です。フリーランスの多くが該当する第5種事業では、3割特例のほうが納税額を抑えられます。
簡易課税へ切り替える場合、2割特例・3割特例の直後の年であれば届出期限が確定申告期限まで延びます。申告の時点で試算してから決められるので、まずは自分の事業区分と課税仕入率を確認するところから始めましょう。