更新日:2025.04.30
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2023年から始まったインボイス制度により、青色申告を行う個人事業主やフリーランスには大きな影響が及びます。本記事では、青色申告の基本からインボイス対応の具体的な手続き、実務のポイントまでをわかりやすく解説。制度への対応が、今後の信頼ある取引や節税対策につながる重要な鍵です。
青色申告とは、一定の要件を満たした個人事業主やフリーランスが、正確な帳簿を基に所得と経費を記帳し、その内容を申告する税務申告の方法です。税務署に「青色申告承認申請書」を提出・承認を受けることで、所定の特典を受けることができます。対して、白色申告は特別な申請が不要な簡易的な申告方法であり、帳簿付けや利益の計算が比較的簡単です。
以下は青色申告と白色申告の主な違いを表した表です。
項目 |
青色申告 |
白色申告 |
申請手続き |
税務署への申請書提出が必要 |
申請不要 |
帳簿の種類 |
複式簿記または簡易簿記 |
単式簿記 |
控除の有無 |
最大65万円の青色申告特別控除あり(条件あり) |
控除なし |
損失の繰越控除 |
あり(3年間繰越可能) |
なし |
減価償却の特例 |
有利な特例あり |
特例なし |
家族への給与経費算入 |
条件付きで可能(青色事業専従者給与) |
制限あり |
青色申告を選択することで、次のような税務上のメリットがあります。
これらの優遇措置は、税負担の軽減に直結するため、正確な帳簿付けができる個人事業主やフリーランスには非常に魅力的です。
青色申告を行うためには、以下の手続きおよび要件を満たす必要があります。
これらの条件をクリアして初めて青色申告が可能となり、税制上の特典をフルに活かすことができます。特にデジタルでの帳簿管理が進む今、クラウド会計ソフトの活用なども増えており、効率的な運用が求められます。
インボイス制度とは、2023年10月1日から導入された消費税の仕入税額控除の適格性を確保するための新たな制度です。正式名称は「適格請求書等保存方式」といい、適格請求書(いわゆるインボイス)を発行・保存することで、消費税の仕入税額控除が認められる制度です。
これまでの「区分記載請求書等保存方式」では、取引先が免税事業者であっても、一定の事項が記載された請求書を保存することで仕入税額控除を受けることができました。しかし、インボイス制度により、免税事業者からの仕入では原則として仕入税額控除が認められなくなりました。この制度導入の背景には、帳簿・請求書の透明性を高め、公平な納税を実現する目的があります。
インボイス制度において、インボイス(適格請求書)を発行できるのは「適格請求書発行事業者」と登録された事業者に限られます。適格請求書発行事業者となるには、国税庁に申請して登録を受ける必要があり、税務署に提出した登録申請書が受理されることで登録番号が発行されます。
この登録番号は請求書などに記載され、取引先が仕入税額控除を行う際の重要な判断材料となります。登録された情報は国税庁の「適格請求書発行事業者公表サイト」で公開され、誰でも確認することができます。
インボイス制度の対象は、主に消費税の課税事業者です。以下のような事業者が対象となります。
分類 |
具体的な対象 |
インボイス対応の必要性 |
法人 |
株式会社、合同会社、一般社団法人など |
課税事業者であれば登録が推奨される |
個人事業主 |
フリーランス、副業者、自営業など |
課税事業者であれば登録可能 免税事業者でも取引により登録を検討 |
専門職 |
税理士、弁護士、医師など |
顧問契約や請求書発行を伴う場合は登録の必要性が高い |
小規模事業者 |
年商1,000万円未満の免税事業者 |
取引先の意向により登録を求められることがある |
ただし、非課税取引のみを行う事業者や消費税の納税義務のない事業者については、必ずしもインボイス制度に登録する必要はありません。
消費税法において、課税事業者とは消費税の納税義務を負う事業者を指し、原則として基準期間(通常は2期前)の課税売上高が1,000万円を超える場合に該当します。一方、基準期間の課税売上高が1,000万円以下の場合は「免税事業者」となり、消費税の納税が免除されます。
種別 |
条件 |
消費税の扱い |
インボイスの発行可否 |
課税事業者 |
基準期間の課税売上高が1,000万円超 |
消費税を請求・納税する |
登録申請によりインボイス発行が可能 |
免税事業者 |
基準期間の課税売上高が1,000万円以下 |
消費税を請求しない・納税義務なし |
原則としてインボイス発行不可 |
インボイス制度の導入により、取引先が課税事業者で仕入税額控除を必要とする場合、免税事業者との取引が避けられる可能性があります。そのため、免税事業者であっても、自ら課税事業者選択届出書を提出し、適格請求書発行事業者として登録することで、取引機会を維持する戦略も検討されます。
なお、2023年(令和5年)10月の制度開始時点で免税事業者が登録を希望する場合、登録の申請は同年3月末までに行う必要がありましたが、今後新たに登録することも可能です。ただしその場合、原則として課税事業者としての義務(消費税申告・納付、帳簿記録等)を負うことになります。
青色申告を行う個人事業主やフリーランスにとって、2023年(令和5年)10月から始まったインボイス制度(適格請求書等保存方式)は、自身が消費税の課税事業者か免税事業者かによって対応が異なります。
インボイス制度では、適格請求書(いわゆるインボイス)を発行できるのは「適格請求書発行事業者」に限られています。青色申告を採用している事業者が課税事業者であり、取引先が経費精算時に仕入税額控除を求める場合には、インボイスの発行が求められるため、制度への対応が必須になります。
とくにBtoB取引における事業者同士の取引では、仕入税額控除の関係上、取引先がインボイスの発行を求めてくるケースが多く、たとえ売上が少額であっても、信用や取引継続の観点からインボイス制度に対応することが求められる場面が増えています。
青色申告の事業者が年間売上1,000万円以下であっても、注意が必要です。なぜなら売上1,000万円以下であれば、消費税の免税事業者として消費税の納付義務が免除されるものの、インボイス制度の施行以降は、適格請求書を発行できないことで取引先からの発注が減少したり、報酬から消費税相当額を差し引かれるといった不利益を受ける可能性があるためです。
一部の業界では、インボイス制度非対応の免税事業者との取引を避ける動きが報告されており、たとえば広告代理業、システム開発、ライター業などのサービス業では、発注側から「適格請求書が出せないと消費税を払えない」と言われるケースも出ています。
このような背景のもと、たとえ消費税免税事業者であっても、課税事業者となりインボイス制度に対応するかどうかの判断が重要になってきています。
インボイス制度に対応するためには、売上時に適格請求書を発行するだけでなく、自身が仕入税額控除を受けるためにも、取引先から受け取る適格請求書を正しく保存することが必要です。
青色申告者にとっては、記帳の内容と証憑(領収書や請求書など)の整合性が問われることになり、日々の帳簿作成・帳票の保管体制がより重要性を増します。
インボイス制度における記帳・請求書保存に関する主な要件は次の通りです。
要件項目 |
概要 |
関連制度 |
適格請求書の発行・保存 |
一定の記載要件を満たしたインボイスを発行・受領し、保存する義務 |
インボイス制度 |
帳簿への記載事項 |
取引日、相手先名、取引内容、金額、消費税額などを詳細に記録 |
青色申告制度 |
帳簿と証憑の整合 |
記帳内容と請求書・領収書などの証憑との内容一致 |
青色申告特別控除(最大65万円)適用要件 |
仕入税額控除の要件 |
帳簿への正確な記載+インボイス(適格請求書)の保存 |
消費税法 |
適格請求書の要件を満たす書類には、取引年月日、取引内容、金額(税抜・税込)、適用税率、消費税額および適格請求書発行事業者の登録番号などが必須です。これらの正確な入力・保存が求められます。
これまでになかった負担として、記帳業務が煩雑になりがちであるため、会計ソフトの活用や、クラウド会計との連携による効率化も検討すべきです。
インボイス制度に対応するためには、まず適格請求書発行事業者としての登録が必要です。この登録は国税庁が運営する「適格請求書発行事業者公表サイト」を通じて行うもので、登録された事業者は消費税の仕入税額控除を顧客に提供することができます。
具体的な手続きの流れは以下のとおりです。
手続きのステップ |
内容 |
注意点 |
1. 事業者の課税区分の確認 |
申請前に、自己が消費税の課税事業者であることを確認。 |
2023年10月以降、免税事業者はインボイス発行不可。 |
2. 登録申請書の作成 |
「適格請求書発行事業者の登録申請書」を税務署に提出。 |
e-Taxまたは郵送提出が可能。 |
3. 税務署による審査 |
提出された情報に基づき、税務署が内容を確認。 |
不備があると時間がかかるため正確性が重要。 |
4. 登録通知の受領 |
審査完了後、「登録通知書」が送付される。 |
登録番号を請求書・帳票類に記載する必要がある。 |
登録の申請期限に注意が必要です。たとえば、2023年10月1日からインボイス制度が開始されたため、同日に適格請求書発行事業者となるには、2023年3月31日までに登録申請を行う必要がありました。今後は申請から登録まで原則として2か月前後を要するとされているため、早めの対応が求められます。
青色申告を行っている個人事業主は、すでに一定の帳簿書類の保存義務がありますが、インボイス制度対応後はさらに記帳・帳簿管理の正確性が重要になります。
インボイス制度に対応した記帳実務では、以下のポイントを抑えておく必要があります。
これにより、仕入税額控除の対象とするための要件を満たし、適正な税務処理が可能になります。青色申告特別控除(最大65万円)を受けるためには、複式簿記での帳簿作成とともに、「貸借対照表」と「損益計算書」の提出が必要です。インボイス制度導入に伴う税務業務の複雑化への対応として、市販の会計ソフトやクラウド会計サービスを活用することも有効です。
インボイス制度に対応するにあたり、同時に理解しておきたいのが電子帳簿保存法
電子帳簿保存法の概要と、インボイス制度対応に伴う要点は以下のとおりです。
項目 |
主な内容 |
真実性の確保 |
タイムスタンプの付与や訂正・削除の履歴管理などにより、帳簿・書類の改ざん防止。 |
可視性の確保 |
いつでも帳簿・書類を検索・表示できる体制を確保する必要がある。検索機能の要件あり。 |
電子取引データの保存 |
PDFやXMLなどの電子的に受け取ったインボイスは、原則として電子保存が義務。 |
適用猶予措置 |
2023年12月31日までの間は一部猶予措置があり、一部要件を満たさない保存も可能とされていたが、2024年以降は原則適用。 |
青色申告で控除を受けつつ、インボイス制度にも適切に対応するためには、電子帳簿保存法の要件を満たす帳簿管理体制の構築が重要です。特に電子取引が多い業種においては、法令遵守の観点からも早期の体制整備が求められます。
また、電帳法とインボイス制度双方に対応したクラウド型の会計ソフトは、データの連携や保存、検索機能が充実しており、手作業に比べて保存義務のハードルを下げられる利点があります。効率的な業務改善を図るうえでも、特にIT導入支援などの補助金制度を活用して導入することが推奨されます。
フリーランスの事業者は、消費税の課税事業者か免税事業者かによって、インボイス制度への対応が大きく異なります。インボイス制度は、課税事業者が発行する「適格請求書」(インボイス)がなければ、取引先が仕入税額控除を受けられない仕組みです。つまり、免税事業者であるフリーランスがインボイス発行事業者に登録していない場合、取引先にとっては仕入税額控除ができないため、取引継続に影響が出る可能性があります。
インボイス登録をすることで課税事業者となり、消費税の申告・納付義務が生じます。年間売上が1,000万円以下であれば本来は免税対象ですが、取引先がインボイスを求める場合には登録が必要となることもあります。以下のような判断ポイントがあります。
判断基準 |
登録したほうがよいケース |
登録を見送れるケース |
取引先の属性 |
法人・課税事業者との継続的な取引がある |
主に個人や免税事業者と取引している |
売上規模 |
1,000万円以上または今後超える見込みがある |
短期の副業で収入規模が小さい |
価格交渉の余地 |
価格据え置きで取引維持が可能 |
インボイスがないことによる値下げ要求がない |
将来の法人化予定 |
法人化や事業拡大を視野に入れている |
あくまで副業・小規模運営の予定 |
このように、インボイス登録の有無は単なる義務ではなく、今後の事業運営の方向性にも関係します。そのため、登録の可否は中長期的な視点も含め、戦略的に判断することが重要です。
会社員が副業として個人事業を行うケースでは、青色申告とインボイス制度の両方への対応が求められる場面も増えています。実際にどう対応すればよいのか、具体的なシナリオで見ていきます。
副業でウェブサイトの制作やデザインなどを請け負う場合、取引先が法人であれば、インボイス登録していないと今後の発注に影響する可能性があります。年間売上が100万円程度でも、取引先から「適格請求書の発行可否」を確認されることがあります。
この場合、青色申告でしっかりと帳簿を付けながら、インボイス制度への対応として適格請求書発行事業者に登録し、課税事業者としての申告を行う選択肢が現実的です。
副業でハンドメイド商品をメルカリやBASE、Creemaなどのオンラインプラットフォームで販売している場合、その大部分は個人への販売となるため、インボイス制度による影響は比較的限定的です。
このようなケースでは、無理にインボイス制度に登録する必要はなく、青色申告のみを導入して税制上の優遇(青色申告特別控除や専従者控除)を活用する方が経済的なメリットは大きいといえます。
本業の収入が給与所得で、ライターとして副業を行っている場合、ライティングのクライアント(出版・広告代理店など)が法人であると、インボイス対応を求められる可能性があります。
この場合、年の途中からでも「適格請求書発行事業者」の登録申請を行うことで、継続的な取引関係を維持できる可能性が高まります。ただし課税事業者になるタイミングや消費税の納付スケジュールを確認する必要があります。
副業であっても、インボイスの制度が本格的に影響を与えるケースもあるため、以下の点に注意しましょう。
フリーランス・副業者ともに、青色申告の記帳・申告スキルがあると、インボイス対応においても大きなアドバンテージになります。税務署や国税庁の資料、そして認定支援機関の相談窓口を活用しながら、無理のない制度対応を行うことが求められます。
2023年10月から開始されたインボイス制度により、多くの個人事業主、とくに免税事業者であった方も課税事業者への変更を検討する必要に迫られています。これは、取引先が仕入税額控除を受けるために「適格請求書(インボイス)」の発行を求めるケースが増えているためです。特に法人や大規模事業者を取引先に持つフリーランスや個人事業主は、その傾向が顕著です。
免税事業者が課税事業者になる場合の大きな注意点は、消費税の納税義務が発生することです。これにより、売上に対して預かった消費税から、仕入時に支払った消費税を控除した差額を納税する必要があります。これまで消費税を納める必要がなかった免税事業者にとっては、実質的な収入減となる可能性があります。
また、課税事業者としての届出は、原則として「課税期間の開始日前日まで」に税務署へ「適格請求書発行事業者の登録申請書」を提出する必要があります。消費税の申告・納付や、帳簿の保存義務の強化も求められるため、事前にしっかり準備することが不可欠です。
インボイス制度が始まったことで、取引先の方針が、個人事業主の対応に大きな影響を及ぼすようになりました。たとえば、適格請求書を受領できない取引先との取引は、税務上の仕入税額控除ができないため、取引を継続する際に報酬を減額されたり、取引を中止されたりするケースがあります。
特に広告代理店業、出版、IT、デザインなどの業界では、その傾向が見られます。従来は免税事業者でも問題なかったフリーランスが、インボイス制度の導入以後、「適格請求書を発行できること」が発注条件に加えられるケースが増えてきました。
つまり、取引先の方針に応じて、インボイス制度への対応が求められます。個人事業主としての対応方針を決定するうえで、既存及び想定される取引先のインボイスへの対応状況をしっかりと確認しておくことが重要です。
取引先のインボイス方針 |
免税事業者への影響 |
推奨される対応策 |
インボイスを必須とする |
非課税事業者との取引中止や報酬減額の可能性 |
課税事業者になり、登録申請を行う |
インボイス未対応も取引継続 |
報酬は据え置きだが将来的な見直しがある可能性 |
今後の情勢を見ながら適切なタイミングで登録準備 |
取引額が小さいため制度の影響が小 |
大きな影響はないが顧客によって状況は異なる |
都度確認し、必要に応じて対応 |
創業間もない個人事業主にとって、インボイス制度の導入は非常に複雑な課題です。創業初年度は原則として免税事業者となりますが、インボイス制度の観点からは、創業時点での対応を検討すべきケースがあります。特に将来的に取引先が法人となることが想定される場合は、早期に「適格請求書発行事業者」として登録しておくと、ビジネスのスムーズな展開につながるでしょう。
ただし、開業当初は売上が安定しないことも多いため、「納税負担」と「営業上の必要性」のバランスを見極めることが重要です。また、開業時に青色申告承認申請書を提出しておけば、青色申告特別控除などの恩恵を受けつつ、帳簿の整備が義務付けられるため、自然とインボイス制度に必要な会計処理能力も養われます。
創業時に考慮すべき主なポイントは以下の通りです。
創業時から適切な対応をとることで、後々の制度変更にも柔軟に対応できる基盤を作ることができます。
青色申告とインボイス制度は、個人事業主やフリーランスに大きな影響を及ぼします。正確な帳簿管理や適格請求書の保存など、制度対応が求められるため、制度の内容と自らの適用状況を理解し、早めの準備が欠かせません。また、売上1,000万円以下でも取引先の要請によりインボイス登録が必要になる場合があり、事業の継続と信頼性確保には対応が重要です。