更新日:2024.07.05
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一定以上の売上を得るようになると、消費税を納める義務が発生します。消費税納税の義務を判定に用いられるのが「課税売上高」です。課税売上高は納税義務の判定以外にも、仕入税額控除の計算や簡易課税制度の判定にも用いられます。
しかし、実際に課税売上高が消費税とどのような関わりがあるか分からないという方もいるのではないでしょうか。そこで今回の記事では、課税売上高の概要を詳しく解説します。対象となる取引や算出する目的も分かる内容となっているのでぜひ参考にしてください。
課税売上高とは、事業者が行う取引において消費税がかかる売上高です。事業者が行う取引は、以下の4つに分類されます。
非課税取引と不課税取引は、消費税の課税条件に該当しないものや性質上なじまない取引です。そのため非課税取引と不課税取引は、消費税の課税対象とならないので課税売上高には該当しません。例えば土地の譲渡や貸付は「資本の移転」として捉えられるため、消費税の性質になじまないので「非課税」です。ほかにも、従業員に支払う給与や団体への寄付などは対価に当てはまらないので「不課税」となります。
消費税の課税対象となる「課税取引」と輸出などの「免税取引」の売上を合計した金額が「課税売上高」です。このとき返品や値引きなど売上返還があった分は、課税取引と免税取引の合計から差し引かれた金額が課税売上高となります。課税売上高には消費税は含まないため、課税取引分は税抜額で計算します。また、売上返還分を差し引く場合も税抜金額で計算します。
ただし消費税の納税義務がない期間である免税事業者のときは、税込額が課税売上高となるため売上返還分の差し引きも税込金額で計算する点に注意しましょう。
課税売上高を算出する主な目的は、以下のようなものがあります。
納税に関わることなので、事業を営む方は課税売上高について正確に把握しておきましょう。
消費税は、負担する人と納める人が異なる「間接税」の1つです。事業者は商品販売やサービス提供により購入者から消費税を預かると同時に、商品の仕入れや設備導入などの際に消費税を負担する立場にもなります。つまり、課税対象となる商品は生産や流通など各段階のすべてにおいて消費税が課されています。
そのため事業者が消費税を納税する際は、預かり分から支払い分を差し引いた金額を納めればよいのです。また、消費税はすべての事業者に納税の義務があるわけではありません。実務負担を考慮し、消費税の納税義務の有無は2年前の課税売上高で判定されます。「基準期間または特定期間の課税売上高が1,000万円超え」かで、納税の義務が判断されます。
消費税は、生産から販売までのすべての段階で課税されています。そのため、1つの課税対象に対して二重三重に課税される可能性があります。このような二重課税を防ぎ、消費税を正しく納めるために設けられた制度が「仕入税額控除」です。例えば、卸売業者は商品を仕入れる際に取引先に消費税を支払います。一方で、商品を販売した際に消費者から消費税を預かります。
本来、消費税を負担するのは消費者です。そのため消費者から預かった分を全額納税すると、対象となる取引における消費税を納めすぎることになります。そこで、売上にかかる消費税から仕入にかかった分を差し引いて納税する「仕入税額控除」を適用して二重課税を防ぎます。仕入税額控除の計算方法は、主に以下の3つです。
どの計算方法で算出するかを決める際、課税売上高と課税売上高割合の値が必要です。課税売上割合は、以下の式で割り出します。
課税売上高が5億円以下で課税売上高割合が95%以上の場合は「全額控除」、それ以外は「個別対応式」または「一括比例配分方式」を用いて計算します。
簡易課税制度とは、中小企業の納税負担を軽減するために設けられた制度です。消費税を納税する際は「一般課税」と呼ばれる方法で納めるのが原則で、以下の計算方法で算出します。
【納税金額=売上にかかった消費税額ー仕入時に支払った消費税額】
しかし一般課税で納税するためには、取引を以下の4つに分類しなければならないため手間がかかります。
そこで、納付する消費税額の計算などを行う事務作業の手間を軽減するために設けられたのが「簡易課税制度」です。簡易課税制度を選択できるのは、基準期間の課税売上高5,000万円以下の事業者のみです。基準期間は、個人事業主が前々年で法人が前々事業年度となります。
消費税の納税において、事業者は「課税事業者」「免税事業者」の2つに分けられます。ここでは、課税事業者になる2つの要件について理解しましょう。
消費税の納税義務の有無は、基準期間に課税売上高が1,000万円を超えたかで判定されます。基準期間の定めは個人事業主と法人とで異なり、以下のようになります。
たとえば個人事業主であるA社の2018年の課税売上高が1,000万円超えになると、2020年は「課税事業者」となります。なお2019年に課税売上高が1,000万円以下でも、2020年は課税事業者であるのは変わらないが2021年は免税事業者になります。
課税事業者になるかは、原則として「基準期間」の課税売上高が基準です。基準期間に1,000万円を超えた場合は、課税事業者と判定されます。しかし基準期間における判定要件を満たしていなくても、特例期間に課税売上高が1,000万円を超えたときは課税事業者となるため注意しましょう。特定期間とは、以下のように定められています。
ただし特定期間の課税売上高で納税義務の判定を行う場合、該当期間中に支払った給与等の金額での判定が認められています。例えば特定期間中の判定要件を満たしていたとしても、該当期間中の給与などの金額が1,000万円超えでなければ免税事業者として判定されます。
課税売上高1,000万円以下の免税事業者は、インボイス制度により大きな影響を受けます。ここでは免税事業者に与える影響を解説しますので、課税事業者になるかの判断や今後の対策の参考にしてください。
インボイス制度導入後に仕入税額控除を受ける際は、適格請求書の発行と保存が義務付けられています。適格請求書の発行は、適格請求書発行事業者の登録申請書を管轄の税務署に提出して承認を得なければなりません。インボイス発行事業者として登録できるのは、消費税の課税事業者のみです。買手が課税事業者で売手が免税事業者だった場合、適格請求書が発行されないので仕入れる側の消費税負担が大きくなります。
免税事業者は適格請求書を発行できないため、買手となる取引先は仕入税額控除を受けられません。そのため、取引先は税負担の増加が考えられます。控除を受けられない影響を軽減するために、取引先から減額交渉をされる可能性があります。また税負担増加を避けたい課税事業者は、免税事業者との取引を終了するケースも考えられるでしょう。
免税事業者から課税事業者になり適格請求書発行事業者に登録すれば、取引先に消費税納税の負担をかけなくて済みます。取引をする上で仕入税額控除が不利に働くことはありませんが、自社の消費税納税の負担は増します。課税事業者は消費税納税の義務が発生するため、免税事業者であったときに比べて税負担が増加することを理解しておきましょう。
インボイス制度導入により、免税事業者はさまざまな影響を受けます。事業継続に直結する影響もあるため、インボイス制度導入までに適切な対応をしておくことが大切です。ここでは2つのポイントを解説しますので、免税事業者の方はぜひ参考にしてください。
インボイス制度導入による影響を受けるのは、商品やサービスを提供する相手が「課税事業者」である場合のみです。消費税を正しく納付するため、課税事業者の多くが仕入税額控除を受けているでしょう。インボイス制度導入後は仕入税額控除を受ける際に適格請求書の発行・保存が必須であるため、取引先が免税事業者だった場合は税負担増加の影響が大きいです。
税負担増加を避けるため、免税事業者との取引を見直す企業も増えるでしょう。自社が免税事業者である場合は、今後の取引について検討するためにも取引先が課税事業者であるかどうかを確認しておくことが大切です。
課税事業者となり、適格請求書発行事業者の登録申請を行えば取引先に適格請求書の交付が可能です。適格請求書が発行できれば、従来通り仕入税額控除を受けられるので取引先の税負担増加を避けられます。
ただし、課税事業者となることで自社の消費税納税義務が発生します。自社の納税負担が増すため、課税事業者に切り替えるかの見極めは重要です。主な取引相手が免税事業者であった場合は、適格請求書を発行する必要はないため課税事業者への切り替えは必要ありません。
消費税は、すべての事業者に納税の義務があるわけではありません。「一定以上の売上」がある課税事業者のみ、申告を行い納税します。この「一定以上の売上」の基準となるのが課税売上高です。事業における売上高は、課税されるものだけではありません。
免税や非課税など、消費税のかからない売上もあるため違いを正しく理解しておきましょう。また課税売上高によって「課税事業者」であるか「免税事業者」かが決まります。インボイス制度導入後は、どちらの事業者であるかが納税に大きく影響するため事前準備を行っておきましょう。