更新日:2022.11.11
ー 目次 ー
担当者の知識やスキルが引き継がれないまま、その人にしか業務ができない状態になってしまうことを「業務の属人化」といいます。効率の低下や欠員が出たときに対応できなくなるリスクにつながるため気をつけなければいけません。
本記事では、経理業務の属人化を防ぐ対策法を解説します。経理業務を効率化したい、属人化に心当たりがある企業は、ぜひ参考にしてみてください。
業務の内容や進捗、必要な知識などを特定の担当者だけしか把握できていない状況を「業務の属人化」といいます。属人化が起きると、担当者以外の業務遂行が難しくなります。その結果、退職や異動などの際に知識やスキルが失われてしまう大きなリスクがあるのです。周囲から業務内容が把握しにくく、また専門知識も必要な経理は、業務が属人化しやすい傾向にあります。
一度業務の属人化が起きると、なかなか簡単に解消することはできません。したがって、属人化が起きないようにあらかじめ対策しておきましょう。
そもそも、なぜ経理業務は属人化しやすいといわれているのでしょうか。ここでは、代表的な原因を3つ紹介します。
1つ目は、経理業務歴が長いベテラン社員のみが経験と知識を抱え込んでしまうケースです。このケースでは、とくに決算や予算編成など、企業にとって重要度の高い業務に関して属人化が起きやすくなる点が特徴的です。業務が外から見えにくいため、やり方が担当者の自己流になってしまっていることが珍しくありません。
長年経理業務を担当してきたノウハウと自信があるからこそ、「この業務はほかの人にはできない」と考えてしまい、なかなか業務が引き継がれなくなります。また、ベテラン社員が自分の地位を揺るがないものにする意図で、あえて属人化させている場合もあります。
2つ目は、経験や知識が浅い担当者が特定の業務を遠慮するケースです。経理業務は、「難しそう」「専門知識がないとできなそう」と周囲から思われることが多々あります。実際はそこまで難しくない業務であっても、周囲に自分より経験がある従業員がいると、「あの人の方が詳しいから」と任せてしまうことは珍しくありません。
周囲に頼れる人がいると、経験が浅い人は特定の業務を敬遠しがちになります。結果的に業務の属人化が進み、人によってできる業務がバラバラになってしまう状況に陥るのです。
3つ目は、人手不足や多忙によって業務の属人化が進むケースです。経理担当者が数人しかいない企業の場合、「特定の業務が終了したらすぐに次の業務へ......」と多忙になることは往々にしてあります。これでは周囲が業務の内容を把握できませんし、担当者がノウハウや技術をほかの人に伝えたくても、時間的な余裕が取れません。
また、人手不足や多忙によって業務が属人化すると、ミスの発見が遅れたり欠員が出たときに業務が滞ったりするリスクがあります。
経理業務の属人化には、欠員による業務の停滞やミスの発見が遅れることなどさまざまなリスクがつきものです。こういったリスクを回避するためには、属人化を防ぐ対策の実施が欠かせません。それでは、属人化を対策すると具体的にどのようなメリットが生じるのでしょうか。
経理業務の属人化対策を行うと、すべての従業員が同じクオリティの仕事ができるようになります。「あの人がいないとこの業務は難しい」といった状況が回避できるため、繁忙期などに欠員が出ても業務の質が落ちることはありません。
また、全員が業務の内容を把握できていれば、問題点の発見や改善策についての話し合いを行いやすくなります。常にお互いが確認し合いながら業務をこなせるため、さらに業務のクオリティを向上させられるでしょう。
業務の属人化対策をすれば、社内に経理のノウハウやスキルが蓄積されるようになります。新入社員が入ったときも、スムーズに経理業務について伝えられるようになるでしょう。分からないことは教え合うことができますし、マニュアルを完備しておけば業務で迷うことを大幅に減らせます。その結果、業務の効率化が図れるようになるのです。
業務が属人化すると、急な退職や休職があったときに対応できなくなります。しかし、経理業務のノウハウがある従業員が複数人いれば、退職や休職する従業員が出たときもスピーディに引き継ぎができます。普段の業務を遂行しながら、ゼロから引き継ぎを行うことは難しいものです。普段から業務を共有しておくことで、引き継ぎが必要な情報を最小限に留めることが肝心です。
どれほど気をつけていても、人間が業務を遂行する上でミスを100%防ぐことはできません。とくに、経理は数字を取り扱うためヒューマンエラーが起きやすい傾向にありますが、業務が属人化しているとミスや不足点などに気付きにくくなってしまいます。
反対に、複数人の担当者が業務を熟知していれば、お互いの不足点や改善点を見つけやすくなります。常によりよい業務に向かうために声をかけ合えるため、日々業務のクオリティを高められるのです。
経理業務の属人化を防ぐための取り組みは、決して担当者だけの努力でどうにかなるものではありません。とくに、人手不足や多忙で属人化が起きてしまっている場合、周囲のサポートなしには属人化対策を実現するのは難しいものです。
それでは、業務の属人化を防ぐために経理部門の方々はどのような対策を講じればいいのでしょうか。ここからは、属人化対策の方法を紹介します。
経理業務の属人化を防ぐためには、業務の種類や内容、手順などを見える化をしなければいけません。現段階で不要なプロセスが含まれている場合は取り除き、改善できそうな部分がある場合は見直したうえで、ほかの担当者にも業務を引き継ぎます。
ワークフローの見直しは、以下の手順で行いましょう。
業務を見える化してPDCAサイクルを繰り返し回すことで、できるだけ業務をシンプルにできます。業務が整理されれば、引き継ぎや知識の共有をしやすくなります。
経理業務の担当者は、定期的に知識を共有する機会を作ることが大切です。
以上のようなことを洗い出し、定期的に情報共有しましょう。マニュアルを作り、共有することも有効です。属人化を防げるだけではなく、個人個人が持っている高レベルな知識やスキルも共有できます。
属人対策で何よりも重要なのは、担当者の意識改革です。多くの経理担当者は「自分がいるうちはなんとかなるだろう」と、属人化を重大な問題としてとらえていません。スキルが高い担当者ほど、言語化が難しい経験や勘に基づいて作業をしていることもあり、そもそも属人化対策が不可能であると考えているケースも珍しくないでしょう。
しかし先述のとおり、属人化を放っておくと企業にとってリスクが生じてしまいます。そのため、「なぜ現状が問題なのか」「属人化対策のメリット」をしっかりと伝え、担当者の意識を改革することが非常に重要なのです。
経理業務の属人化を防ぐためには、ナレッジマネジメントと呼ばれる手法が有効です。ナレッジマネジメントを行うことで、属人化対策に加え、業務の効率化や人材育成といった効果が得られます。この章では、ナレッジマネジメントの概要と活用法を紹介します。
ナレッジマネジメントとは、従業員個人が持っている経験知識や熟練のスキルを社内で共有し、業務の効率化や新しい価値の創造を目指す経営手法です。ナレッジマネジメントの対象となるのは、スキルや知識、ノウハウ、顧客情報など多岐にわたります。業務を遂行する中で身につけたノウハウやスキルをアウトプットして社内で共有すれば、業務の属人化を防げます。
難しく思うかもしれませんが、定例会やメールで情報を共有したり業務マニュアルを作成したりすることも、立派なナレッジマネジメントです。ナレッジマネジメントは、身近なところから始められます。
ナレッジマネジメントを実施するときは、「暗黙知」と「形式知」の2つの知識分類が大切です。ここでは、ナレッジマネジメントの基本の考え方を紹介します。
企業が持つ知識には、以下の2つの種類があります。
暗黙知とは、個人が蓄積してきた経験やノウハウ、長年の勘などといった知識です。言語化が難しく、知識として共有しにくい傾向にあります。
形式知は、文章や図式などで言語化された知識のことです。マニュアルや業務フローなどが形式知に含まれ、誰にでも共有しやすい特長があります。
経理業務が属人化した企業においては、暗黙知が大半を占めることがほとんどです。そのため、知識を共有したくてもなかなかできない点が課題といえます。
ナレッジマネジメントでは、暗黙知を形式知に変えて組織的に共有することが大切です。暗黙知を形式知に変えるときは、ナレッジを共有するための場やツールが必要となります。定期的なミーティングの開催やマニュアルの作成、情報共有ツールの導入なども視野に入れながら、ナレッジマネジメントを進めていきましょう。
ナレッジマネジメントの具体例として、NTT東日本法人営業本部におけるナレッジマネジメントの事例を紹介します。(※1)
NTT東日本法人営業本部には、一部の担当者しか顧客からのお問い合わせに対応できないという課題がありました。そこでナレッジマネジメントを行い、顧客対応のノウハウを共有する場を設けることにしました。
用意したのは、「バーチャルな場」と「リアルな場」の2種類。バーチャルな場では社員全員が自分のページを作成し、そこでノウハウや知識を共有。リアルな場ではオフィスにフリーアドレスのデスクを置いたり、社員の交流スペースを設けたりして、会話の中で暗黙知を共有できる環境を整えました。その結果、ナレッジ共有が手軽になり、お客様対応の属人化解消に成功しています。
(※1)知識管理から知識経営へ-ナレッジマネジメントの最新動向- | 北陸先端科学技術大学院大学 知識科学研究科 梅本研究室
属人化とは、業務の知識やノウハウが共有されず、特定の従業員以外が業務を遂行できなくなってしまう状態のことです。企業の今までの慣例や専門的な知識が求められる経理は、業務の属人化が起きやすいため注意しましょう。
経理業務の属人化対策としては、ワークフローの見直しや知識を共有する場の提供、担当者の意識改革などが有効です。自社での実施が難しい場合は、経理に詳しいコンサルタントや経理ツールの導入を検討してみてもいいでしょう。