更新日:2024.07.04
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課税事業者には、消費者から預かった消費税を納める義務があります。納税する際は、預かった分から支払った税額を差し引いて納税するのが基本的な考えです。しかし、取引の中には課税されないものもあるため正確な納税額を算出できない場合があります。
そこで消費税納税額を割り出す際に用いられるのが「課税売上割合」です。今回の記事では、課税売上割合の概要や関連する用語などを解説します。仕入税額控除に関して不安がある方は、ぜひ参考にしてみてください。
課税売上割合は、消費税の納税額を割り出す際に必要な数値です。まずは消費税の仕組みを知り、課税売上割合がどのような関係があるかを理解しておきましょう。
課税売上割合を理解するために、まずは消費税の仕組みを理解しておきましょう。消費税のかかる商品やサービスを販売・提供した課税事業者は、消費者から預かった消費税を納める義務が発生します。しかし、事業者は仕入の時点で納めるべき消費税の一部を支払い済みです。売上にかかる消費税すべてを納税すると、生産・流通のそれぞれの段階において二重・三重に税が課されることになります。
そこで課税仕入れにかかった分の消費税額を、課税売上にかかる分から差し引いて納めることで二重課税の防止が可能です。これを「仕入税額控除」といいます。仕入税額控除における課税仕入れは、課税売上にかかった分のみを指します。非課税売上にかかる分は仕入税額控除の対象とはならないため、原則的には消費税の控除はされません。
課税売上割合とは、該当する課税期間中の売上全体のうち課税売上高が占める割合を指します。課税売上割合の計算式は、以下のとおりです。
【課税売上割合=(課税売上高+免税売上高)/(課税売上髙+免税売上高+非課税売上髙)】
消費税の二重課税を防ぐための措置である「仕入税額控除」において、課税仕入れにかかる税額を正確に判定するために課税売上割合の算出が必要です。消費納税額を割り出す際は、預かった消費税額から支払った分を差し引いて割り出すのが基本です。しかし、取引の中には非課税や不課税など消費税が課されないものもあります。
その場合、事業者も最終消費者も消費税を負担しない取引が成立します。そうなると消費税の「最終的な消費者が負担する」という仕組みが成り立たなくなるため、納税額を正確に割り出すための調整が必要です。課税売上割合は調整が必要かどうかを判断するためと、正しい納税額を算出するために用いられます。
課税売上割合を算出する際、さまざまな用語が出てきます。まずは、これらの用語の意味を理解しておきましょう。
課税売上高とは、消費税の課税対象となる取引における売上と輸出取引など免税売上額の合計から売上値引きや売上返品などを差し引いた金額を指します。課税対象となる取引は、以下の4つです。
課税売上高を算出する際の計算式は、以下のとおりです。
【課税売上髙=(課税対象となる売上と免税売上の合計)-(売上値引き・売上返品・売上割り戻しの合計)】
課税売上高は「課税対象となる売上」であるため、該当取引にかかる消費税額は含まれません。そのため、免税事業者であった場合は売上そのものに消費税が含まれていないので売上金額が「課税売上高」となります。
免税売上高とは、免税取引における売上高を指します。主な免税取引は、商品の輸出や外国事業者へのサービス提供などの輸出類似取引が該当します。免税取引とは、本来課税対象であるが一定の条件を満たす場合に消費税が免除される取引です。輸出証明書の保管など、条件を満たしている場合は課税対象取引として認められます。そのため、免税取引における仕入は課税仕入れとして認められるため仕入税額控除の対象になります。
非課税売上高とは、消費税が課されていない取引における売上です。課税対象となる条件に当てはまっていても、消費税の性格や社会的側面から課税にそぐわない取引は非課税取引に該当します。主な非課税取引は、以下のようなものがあります。
しかし、一部例外があり課税対象となる取引もあるため注意が必要です。例えば、社会保険医療では消費税は課せられないが美容整形や市販の医薬品購入は課税されますので気をつけましょう。
課税売上割合は、消費税の仕入税額控除を正確に判定するために用いられる割合です。仕入税額控除額には、以下の3つの方法があります。
全額控除は商品の仕入れや経費にかかった消費税額すべてを、課税売上高から全額差し引ける方法です。全額控除を選択できるかを判定するのが「課税売上割合95%ルール」です。
仕入税額控除は原則として「課税売上に対する仕入税額を控除する」制度であるため、消費税を負担する人が出ない「非課税取引」は対象外です。しかし、課税売上高と非課税売上高を区分して割り出す方法は事務処理負担が大きいため「課税売上割合」を用いて割り出します。そこで課税売上割合が95%以上の場合に限り、非課税売上高にかかる分も含んだ仕入税額を「仕入税額控除の対象」にできます。
ただし、全額控除の対象となるのは「課税売上高が5億円以下である事業者」のみです。課税売上高が5億円超えの事業者は、課税売上割合が95%以下でも「個別対応方式」または「一括比例配分方式」で消費税納税額を計算しなければなりません。
課税売上割合が95%未満であった場合は、仕入税額控除額に制限がかかります。その場合の仕入税額控除の計算方法は、以下の2つの有利な方を選びます。
個別対応方式は、仕入にかかる消費税額を3つに分類して割り出します。一括比例配分方式は、仕入にかかる消費税額を課税売上割合分だけ控除する方法です。一般的には、個別対応方式の方が有利になるケースが多いです。
課税売上割合95%未満で課税売上高が5億円を超える事業者は、個別対応方式もしくは一括比例配分方式で仕入税額控除額を割り出します。ここでは、2つの計算方法を詳しく解説します。
個別対応方式とは、該当課税期間中の課税仕入にかかる消費税額を区分して割り出す方法です。具体的には、以下の3つに区分します。
3つに区分した数値を用いて、以下の計算式で算出します。
【仕入税額控除=課税売上につながる仕入+(非課税売上につながる仕入×課税売上割合)】
一括比例配分方式より納税額が少なくなる傾向がありますが、課税仕入れの区分を行わなければならないため事務処理の負担は増えます。
一括比例配分方式とは、該当期間中の課税仕入にかかる消費税額に課税売上割合を掛けて割り出す方法です。一括比例配分方式は、以下の計算式で算出します。
【仕入税額控除=課税仕入れなどにかかる消費税額×課税売上割合】
非課税売上が多い事業者は、一括比例配分方式が有利になる可能性が高いです。個別対応方式と比較して有利な方を選ぶのが一般的ですが、一括比例配分方式を選択後2年間は変更できない点に注意しましょう。
課税売上割合に著しい変動があったときは、実態とは合わない納税額になるケースがあります。そこで個別対応方式で消費税納税額を割り出すときに限り「課税売上割合に準ずる割合」を適用できます。ここでは、課税売上割合の概要と適用要件や算定方法を解説するので参考にしてください。
課税売上割合に準ずる割合とは、以下の内容に共通して必要とされる性質に対応する合理的な基準によって算出された割合です。
仕入税額控除は、原則として「課税仕入れ」に対する分のみです。取引の中には「非課税」「不課税」のものもあり、全額控除はできません。例えば所有している土地の偶発的・臨時的な売却は非課税取引であるため、課税売上割合は急激に下がります。課税売上割合が低くなると、仕入税額控除で控除できる消費税額は大幅に減少します。そこで事業者の消費税納税負担額を軽減するために、課税売上割合に準ずる割合を用いて割り出します。
課税売上割合に準ずる割合の適用要件は、個別対応方式により消費税の税額計算を行っていることです。課税売上割合に準ずる割合適用時はすべての事業に同じ割合を使えますが、一定単位ごとに異なる数値の適用も可能です。
また、通常の課税売上割合と課税売上割合に準ずる割合の併用も可能です。
課税売上割合に準ずる割合を用いる際は、事業全体に統一して使う必要はありません。事業の種類や費用を使う項目ごとに承認申請を行い、それぞれに適用可能です。課税売上割合に準ずる割合を適用できることと、算出方法は以下のとおりです。
【従業員割合=課税業務に携わる従業員数÷(課税業務に携わる従業員数+非課税業務に携わる従業員数)】
【各事業部門の割合=各事業部門の課税売上高÷(各事業部門の課税売上高+各事業部門の非課税売上高)】
【床面積の割合=課税業務専用の床面積÷(課税業務専用の床面積+非課税業務専用の床面積)】
【 取引件数の割合=課税資産の譲渡等にかかる取引件数÷(課税資産の譲渡等にかかる取引件数+非課税資産の譲渡等にかかる取引件数)】
承認を受けたい項目において、一部の割合が合理的でない場合は承認を受けられません。
課税売上割合に準ずる割合を用いる場合は、受けたい課税期間中に「承認申請書」を納税を管轄する税務署に提出して承認を受けなければなりません。申請書の提出期限は、課税売上割合に準ずる割合を適用したい課税期間中です。
なお適用を受けようとする課税期間末日までに提出した場合は、同日の翌日から1ヶ月以内に承認を受ければよいとされています。ただし承認までに時間を要する可能性があるため、土地取引などを予定している場合は余裕を持って申請準備を行う必要があります。申請が却下される可能性も考慮し、3ヶ月以上の余裕を持たせておくと安心です。
課税売上割合とは、該当する課税期間中におけるすべての売上高のうち課税売上が占める割合を指します。仕入税額控除における消費税控除額を算出するために用いられる数値で、計算を間違えると納税額に誤りが生じてしまいます。
また仕入税額控除を受ける際は、課税売上割合の算出に必要な課税売上高や非課税売上高など関連する用語を理解して正しく計算しなければなりません。過不足なく消費税を納めるためにも、記事内で紹介した用語の意味や計算方法を理解しておきましょう。