更新日:2024.10.15
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請求書の発行は法律上の義務ではなく、口頭での請求でも取り引きは成立します。実は請求書への押印も同じで、法律によって定められたルールではありません。それでも請求書に印鑑を押す理由は、請求書の改ざんや偽造を防いだり、請求書の発行者を明らかにしたりするためです。現在ではビジネス上の慣習として、請求書への押印は欠かせないものとなっています。
本記事では、請求書に印鑑が必要な理由や請求書に使用する印鑑の種類、請求書に押印するときのポイントを解説します。
請求書は、取引相手に金銭の支払いを請求する際に発行する書面です。請求書の発行は法律によって定められた義務ではなく、双方の合意があれば口頭でも金銭の支払いを請求できます。しかし、電話料金やインターネット料金などの請求書や、公共料金の請求書のように、金銭の支払いがあった場合は書面または電子データの請求書を発行することが一般的です。
その理由の一つは、請求金額などを巡るトラブルを未然に防ぐため「言った」「言わない」の水掛け論にならないよう請求内容を明文化する点にあります。請求書に印鑑を押す理由も同じです。請求書への押印は法的な義務ではありません。しかし請求書の偽造や改ざんを防いだり、請求書の発行者の存在を明らかにしたりするため、請求書への押印はビジネスマナー上当たり前のものになっています。
請求書に印鑑を押す理由の一つは、請求書の偽造や改ざんを防ぐためです。社名に重なるように印鑑が押された請求書は、複製することが難しくなります。また、印鑑が押された請求書を偽造した場合、「有印私文書偽造」の罪で3カ月以上5年以下の懲役が科せられる可能性があるのです。(※)押印のない請求書の偽造や改ざんよりも厳しく罰せられるため、押印された請求書での不正は行われにくい傾向があります。このように請求書の偽造や改ざんの抑止力となるのが、押印のもたらす効果です。
(※)出典:e-GOV法令検索「私文書偽造等(第百五十九条1項)」(参照日:2023-01-27)
もう一つの理由は、請求書に印鑑を押すことで発行者が誰かを証明できる点です。請求書に使用する印鑑には、社名や担当者の氏名などがはっきりと刻印されています。請求書を受け取った人は、請求書に印字された社名と印影を比較し、発行者が誰かを確認することができます。そのため、請求書に押印することで発行者を明らかにし、信頼性を高められます。
2020年に国が行政手続きの押印の原則廃止を目指すと宣言するなど、脱判子の動きは官民問わず広がりつつあるでしょう。しかし、押印文化が根強く残っている企業もまだまだ存在します。そもそも、押印のない請求書を受け付けていない企業も少なくありません。請求書の信頼度を上げるためにも、ビジネスマナーとして請求書に印鑑を押すのが一般的です。
ビジネスシーンで使われる印鑑(社判)は、丸印(代表者印)、銀行印、角印(社印)の3種類です。そのうち、主に請求書や見積書などへの押印に使われるのが、会社の認め印(みとめいん)に相当する角印です。ここでは、それぞれの印鑑の利用シーンの違いや、角印の果たす役割を簡単に解説します。
丸印とは、会社設立時に法務局で印鑑登録を行った印鑑を指します。印面に代表者の役職や氏名が記されているため、代表印とも呼ばれています。通常、請求書に丸印を使用することはほとんどありません。丸印を利用するシーンは、契約書などの重要な書面にサインするケースや、商業登記などの行政手続きを行うケースに限られます。
銀行印は丸印とよく似た形状をしていますが、明確に区別される印鑑です。銀行印は銀行口座を開設する際に登録する印鑑を指します。主に手形や小切手の発行など、金融機関との重要なやりとりの際に使用する印鑑です。丸印と同様に、銀行印を請求書に押印することはほとんどありません。丸印や銀行印を請求書に使用すると、押印の際に紛失したり、摩耗が早まったりするリスクがあります。
請求書や見積書などの社外文書に使われるのは、会社の認め印の役割を果たす角印です。角印は会社名が入った四角い形の印鑑のことを指し、法務局への印鑑登録は必要ありません。角印は頻繁に使用するため、従来のゴム印ではなく、樹脂やチタンなど摩耗に強い印材で作成するケースも増えてきました。丸印と銀行印と角印の3つの印鑑を合わせて、会社設立の3本セットと呼ばれています。
なお個人事業主やフリーランスの場合、法人のように丸印や角印を作っているケースはまれです。そのため請求書への押印は、普段から使用している認め印で行うのが一般的です。請求書の信頼性を高めたい場合は、事業用の印鑑か屋号が記載された印鑑を作成する必要があります。
請求書に印鑑を押す場所は、以下の2つのパターンに分けて考えられます。
請求書に捺印欄が設けられている場合は、その中央に印鑑を押します。捺印欄の位置は請求書によって異なりますが、一般的には右下隅に配置されることが多いです。
請求書に捺印欄がない場合は、会社名や住所が記載されている箇所の右側に印鑑を押すのが一般的です。これにより、どの会社が発行した請求書なのかが明確になります。
請求書に社印を押すときのポイントは3つあります。
● 印影に欠けや不鮮明な部分がないか確認する
● 社名の右側に、印影が重なるように押印する
● 失敗したら訂正印は使用せず、請求書を再発行する
請求書に印鑑を押す理由は、請求書の発行者が誰か明確化し偽造や改ざんを防止するためです。正しい方法で印鑑を押すことで、請求書の信頼性をより高められます。
通常のビジネス文書と同様に印鑑は真上からしっかりと押印し、印影がはっきり残るようにしましょう。印影の一部が欠けたり、薄くなったりしていないか確認してください。もし印鑑が不鮮明な場合、請求書の信頼性が下がってしまう可能性があります。押印がうまくいかなかった場合、請求書を再度発行しましょう。
請求書に押印する際は、印鑑を押す位置に注意しましょう。請求書に捺印欄がある場合は、そのまま印鑑を押して問題ありません。捺印欄がない場合は、社名や住所などが記載されている場所の右側に押印するのが基本です。また、請求書の偽造や改ざんを防ぐため、印鑑は印字された文字に被るように押すのがポイントです。
請求書の記載内容にミスや間違いがあった場合、訂正印を使用しても問題ないのでしょうか。一般的なビジネス文書では、記載の誤りがある箇所に二重線を引き、その上から訂正印を押して修正します。
請求書の場合、原則として訂正印は使用しません。請求金額や請求先の住所などに誤りがあった場合は、その書面を一度破棄して、新しい請求書を発行しましょう。請求書に押す印鑑は原則的に角印(認め印)だけ、と覚えておくことで請求業務のよくある失敗を防ぐことができます。
テレワーク普及対応や行政の脱判子の動きに影響を受け、オフィスのペーパーレス化が進んでいます。請求書をPDFファイルやExcelファイルなどの電子データで発行するケースも増えてきました。電子データで作成された請求書を「電子請求書」といいます。紙の請求書と同様に、電子請求書にも請求印を押す必要があります。電子請求書に押印する場合は、電子印鑑と呼ばれるデジタルデータ化された印鑑を利用しましょう。
電子印鑑といっても印影をスキャンして画像データに変換したものと、電子証明書やタイムスタンプなどの識別情報が組み込まれたものの2種類があります。前者を電子サイン(電子判子)、後者を電子署名と呼んで区別する場合があります。
電子サイン(電子判子) | ● 印影をスキャンして画像データに変換したもの ● タブレットなどを操作し、電子データに直接署名を行うもの |
電子署名 | ● 電子証明書やタイムスタンプなどの識別情報が組み込まれたもの |
印影を画像データに変換した電子印鑑は、スキャナと画像編集ソフトがあれば自分で作成が可能です。印影の画像データの透過処理が必要なため、うまくできない場合は電子印鑑の透過処理専用のフリーソフトを利用しましょう。また、オフィスソフトを導入している場合は、WordやExcelの機能(ワードアート機能および図形機能)を活用し、電子印鑑を作成することもできます。
一方、電子契約サービスなどで利用できる電子印鑑には、電子証明書やタイムスタンプなどの識別情報を組み込み、押印した人の本人確認が可能なものもあります。こうした電子印鑑を利用すれば、請求書の作成者や押印の履歴などを可視化することが可能です。請求書のなりすましや不正利用を防げるため、セキュリティ面でも心強いです。
電子印鑑には、通常の認め印と同等の効力があるとされています。2005年に施行された「e-文書法」によって請求書の電子化が法的に認められ、電子印鑑も紙の請求書への押印と変わらない効力を持つようになりました。(※)
また、2001年に成立した電子署名法第3条でも、特定の基準を満たした電子印鑑(電子署名)に対し、記名押印と同等の法的効力を認めています。(※)電子請求書を発行する場合は、「本人による電子署名」を行うことで法的効力を持たせ、偽造や改ざんのリスクに備えることができます。
※出典:e-Gov法令検索「民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律」(入手日付:2023-01-13)
※e-Gov法令検索「電子署名及び認証業務に関する法律」(入手日付:2023-01-13)
請求書に印鑑を押さなくても法律上は問題ありません。しかし、請求書に押印しなかった場合、2つのリスクを抱えることになります。
● 請求書が偽造や改ざんを受ける可能性がある
● 請求書の信頼性が低くなる
請求書を発行するときは、会社の認め印に当たる「角印(社印)」を押すのがビジネスマナーとなっています。請求書を電子データで発行するときも、デジタルデータで作成された電子印鑑を押すのが一般的です。請求書を受け取ったら「印影に不審な点はないか」「正しい場所に押印されているか」を確認しましょう。