更新日:2024.10.15
ー 目次 ー
インボイス制度開始後、請求書の端数調整の書き方が変化しています。特に、消費税の端数処理は、さまざまなルールに沿って進めることが大切です。
本記事では、以下の内容を詳しく解説します。
キリのいい数字にするために端数を調整することがあり、その際の端数調整の書き方を解説します。
キリの良い数字にするための端数調整では、請求書の表記方法に特別な決まりはありません。
100,200円の商品Aに対し、200円の端数調整を行い、最終的な請求額を100,000円にした場合の記載方法はこちらです。
品名 |
単価 |
数量 |
金額 |
商品A |
100,200円 |
1 |
100,200円 |
端数調整のための値引き |
▲200円 |
1 |
▲200円 |
小計 |
100,000円 |
請求書の金額は、元の金額と値引き額が分かるように3つに分けて記載します。
キリのいい数字に端数調整する場合は、値引きの項目に「端数調整のための値引き」と具体的な理由を記載します。記載場所は特に決まりはありませんが、上記請求書のように品目欄に記載すると分かりやすいでしょう。
値引きの理由には、端数値引き以外にも、大量購入や納期調整、相殺、企業努力による特別値引きなどさまざまな種類があります。どのような理由で値引きをしたのかを請求書に残すことで、双方の認識のずれを無くし、誤解やトラブルの予防に役立ちます。
端数調整を行う際は、たとえ少額であっても理由と金額を明確に記載しましょう。
端数調整金額を表記する際は、値引き金額と分かるようにマイナスであることを表す「▲または(△)」「-(マイナス)」を金額の前に記載します。これらの記号は法律で定められた書式ではありませんが、一般的な値引きの表記として認知されているため、記号や文字色を変えるなど独自のルールを作らないことが大切です。
独自のルールを採用すると、取引先に値引きの意図が正しく伝わりづらくなるため、値引きの表記は一般的な商慣習に揃えましょう。
請求書の金額には「¥」や「円」マークを用います。値引き金額の前に「¥」マークと▲表記が続くと記が見づらくなるため、端数値引きの場合は、金額の後ろに円表記を記載した方が分かりやすいでしょう。
また、金額には3桁ごとに「,(カンマ)」を付けて区切ります。カンマを付けることで、後から数字が追加されるなど不正な改ざんを予防します。
消費税額の端数を調整した場合の請求書の書き方を解説します。
消費税の端数調整には、3つの記載方法があります。
例えば、1,525円の商品に対して消費税額(10%)を計算すると、次のようになります。
1,525円×10%⁼152.5円
1円未満の端数である0.5円は、以下のように処理が可能です。
このように消費税の端数調整は、処理方法によって1円単位の差が生じます。1円という小さな単位の差ではありますが、取り扱い件数が増えるほど大きな差が生まれるため、消費税の端数処理の方法は、慎重に判断する必要があります。
消費税の端数調整の方法は、法的な取り決めはありません。財務省の指針では、3種類の処理方法のうちどれを設定するかは事業者ごとの判断としています。
多くの企業では、切り捨て処理を採用するケースが多い傾向です。消費税の端数調整は方法が異なると、帳簿に差異が生じるためトラブルの原因になります。
請求書発行前に企業間で取り決めをしておくことが大切です。
インボイス制度は、一定の要件を満たしたインボイス(適格請求書)を売り手が買い手に発行し、双方が保存することで消費税の仕入れ額控除が適用される仕組みです。こちらの章では、インボイス(適格請求書)における端数調整の書き方を解説します。
インボイスの端数調整は消費税の税率ごとに行います。消費税の税率は、標準税率と軽減税率の2種類です。
軽減税率の対象品目は以下の通りです。
標準税率(10%)と軽減税率(8%)が混在する場合は、以下のように異なる税率ごとに端数処理を行い、それぞれを合計して消費税を算出します。
品名 |
数量 |
単価 |
金額(税抜) |
消費税額 |
トマト |
83 |
167 |
13,861円 |
※参考 |
ピーマン |
197 |
67 |
13,199円 |
|
花 |
57 |
77 |
4,389円 |
|
肥料 |
57 |
417 |
23,769円 |
|
8%対象計 |
27,060円 |
2,164円 |
||
10%対象計 |
28,158円 |
2,815円 |
上記の請求書では、野菜であるトマトとピーマンは軽減税率の対象品目であるため、合計金額に8%の消費税額を掛け税額を計算します。
計算式)
13,861+13,199=27,060円(軽減税率対象品目の合計額)
26,980×8%=2164.8円(8%の消費税額)
端数の0.8円は切り捨て処理を行い、2,164円として8%の合計消費税額に記載します。
花と肥料は標準税額のため、10%の消費税額を計算します。
計算式)
4.389+23,769=28,158円(標準税率対象品目の合計額)
28,158円×10%=2,815.8円(10%の消費税額)
0.8円の端数は切り捨て処理を行い、2,815円として10%の合計消費税額に記載します。
インボイス制度で端数調整を行う際は、いくつかの注意点があります。請求書を作成する前にしっかりと確認しておきましょう。
適格請求書の場合、端数調整はひとつの請求書につき、税率ごとに1回ずつと決められています。ただし、個々の商品に対して消費税額を表記したい場合は、各品目の消費税欄に「※参考」として表記しても問題ありません。
引用:国税庁「適格請求書等保存方式の概要|2.適格請求書の記載事項・記載の留意点」
インボイスにおける消費税額の計算方式は「割り戻し方式」と「積上げ方式」の2種類があります。インボイス制度導入前は割り戻し計算方式のみでしたが、インボイス制度導入後は2つの計算方式の選択が可能となりました。
しかし、売上税額を割り戻し方式で計算し、仕入れ税額を積上げ方式にするなど2つの計算方法を同時に取り入れることはできません。そのため、インボイス(適格請求書)の場合は、いずれかの方式に統一する必要があります。
下記3件の請求書で、「割り戻し方式」と「積上げ方式」で消費税額を計算した場合の請求書の書き方を解説します。
日付 |
消費税率 |
合計金額(税込) |
消費税額 |
10/1 |
8%軽減税率 |
90円(税込) |
6円 |
10/2 |
8%軽減税率 |
90円(税込) |
6円 |
10/3 |
8%軽減税率 |
90円(税込) |
6円 |
割り戻し方式とは、1年間の課税売上または課税仕入れの総額に対して、最終的な消費税額を計算する方法です。
割り戻し方式の例)
3件の消費税を割り戻し方式で算出する場合
①税込金額を合計する
90円+90円+90円=270円
②次に、税込みの合計金額から税抜き金額を計算する
270円(税込)×100/108=250円(税抜き)
③税抜きの合計額に消費税率(8%)を掛け、3つの請求書を合わせた消費税額を算出する
250円×8%=20円
3件分の請求書を割り戻し方式で計算した場合の消費税額は、「20円」となります。
積上げ方式とは、本体価格(税抜)と消費税額を区分し、消費税額を積み上げて計算する方法です。
積上げ方式の例)
3件の消費税を積上げ方式で算出する場合は、請求書ごとに算出した消費税額を積み上げて計算します。
6円+6円+6円=18円
3件分の請求書を積上げ方式で計算した場合の消費税額は、「18円」となります。
消費税の申告にあたり、割り戻し方式と積上げ方式はどちらの方が有利なのかを解説します。インボイス制度では計算方式を選択することが可能ですが、原則として以下のように定められています。
売上:割り戻し方式
仕入れ:積上げ方式
しかし、売上と仕入れの計算方法は、どちらかの方式に合わせる必要があります。
売上の場合、消費税額が少額になれば納税率が少なくなります。そのため、売上のインボイスの発行回数が明らかに多い事業者は、消費税額の端数が切り捨てられる積上げ方式が有利です。
一方、仕入れの場合は、消費税額分は確定申告で控除されるため、控除額が大きくなる割り戻し計算の方が有利です。どちらが有利になるかは、業種や仕入れ方法など事業スタイルによっても異なります。
どちらを選択すればいいか分からないという方は、税理士などプロの方に相談するといいでしょう。
請求書における端数調整の種類は2つあります。それぞれの処理方法を改めて解説します。
請求書の端数調整には、キリのいい数字にするための端数調整があります。端数を調整してキリのいい数字にすると、金額がひと目で把握しやすくなります。
顧客が振込みを行う際も細かい端数がないため、支払い処理がスムーズに進むでしょう。また、端数のない請求書は金額がシンプルであるため、経理業務の効率化が図れます。
請求書に記載する消費税には、算出過程で端数が生じるケースがあります。切り捨て、切り上げ、四捨五入のいずれかの方法を用いて端数調整を行いましょう。
ただし、すべての取引が消費税の対象となるわけではありません。例えば、郵便切手の購入、国や自治体が行う事務手数料など、一部の取引は非課税となるため、適切に区別する必要があります。
消費税の端数処理は、計算のタイミングで処理方法が異なります。売上や仕入れに関する消費税は1円未満の端数を、切り捨て、切り上げ、四捨五入のいずれかの方法で端数調整を行います。
一方、確定申告で消費税を納税する際は、100円未満の端数は切り捨て処理を行うため、注意が必要です。
引用:国税庁「確定申告書等作成コーナー|よくある質問:納付すべき消費税額などの端数について」
端数調整のある請求書の書き方と、インボイス制度の注意点を解説しました。インボイス制度の導入により、標準税率と軽減税率の区分表記が必須となり、消費税の計算方法は「割り戻し方式・積上げ方式」どちらかを統一する必要があります。
計算方法によっては、消費税額が有利になるケースもあるため、自社にとって最適な方法を選ぶことが大切です。本記事を参考に、正しい端数処理を行いましょう。