更新日:2023.06.28
ー 目次 ー
企業の会計は、経営上発生した費用や売り上げを正しく記録することだけが目的ではありません。社内や社外の関係者に経営状況を公開するという目的があります。
会計の種類の1つである「財務会計」は、外部に経営状況を伝えるために重要な会計方法です。しかし、実際には財務会計の目的や、もう1つの会計の種類である「管理会計」との違いを正しく理解している人は少ないのではないでしょうか。
そこで本記事では、財務会計の目的や管理会計との違いについて解説します。財務会計の業務の内容や業務効率化のポイントまで紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
財務会計は会計の種類の1つであり、企業が経営を行う上で重要な役割を果たしています。ここでは財務会計の定義や目的、管理会計との違いを説明します。
財務会計とは、社外の利害関係者に向けて、「企業にどのくらいの利益が出たのか」といった経営成績や、「現状どのくらいの資産や負債を所有しているのか」といった財務状況を伝えるために行う会計です。ここで言う利害関係者とは、株主や投資家、金融機関、税務署、顧客などが該当します。
企業は定められた基準に基づいて財務会計を行い、決算報告書を作成して利害関係者へ公開しなければなりません。決算報告書には貸借対照表や損益計算書などが含まれ、「財務諸表」とも呼ばれています。
外部の利害関係者は、公開された決算報告書から企業の経営状況を判断します。株主であれば株式の売却を検討したり、金融機関であれば融資を行うべきかを判断したりと、財務会計で作成された決算報告書は企業の今後に関わる重大な判断に用いられる重要なデータです。
財務会計が社外の利害関係者に向けた会計である一方、管理会計は社内に向けて行われる会計です。つまり、経営陣が企業を管理するための会計と言えます。
管理会計でのデータは、社長や役員、管理職の従業員などが意思決定や分析を行う際に使われます。このとき、企業によって必要なデータや参考となる情報は異なります。そのため、管理会計には決まったルールがなく、外部への公表も不要です。管理会計を行うかどうかも、企業の判断に委ねられています。
管理会計を行う際に必要な情報は、長期的な経営戦略を描くための抽象的なデータから、各部門での予算・目標といった具体的なデータまでさまざまです。
財務会計と管理会計の大きな違いは、社外に向いているのか、社内に向いているのかといった点です。他にも、内容や書式など、以下の表のとおりさまざまな違いがあります。
財務会計 |
管理会計 |
|
目的 |
経営成績や財務状況を伝えるため |
経営に役立つ情報を伝えるため |
誰に向けたものか |
社外の利害関係者 (株主・投資家・金融機関・顧客など) |
社内の経営管理者 (社長・役員・管理職の従業員など) |
必要性 |
必須 |
任意 |
内容 |
会計基準に基づく |
企業によって異なる |
対象期間 |
会計期間(四半期・半年・1年など) |
任意の期間(週・月・年など) |
書式 |
財務諸表 |
任意の書式(レポート、資料など) |
単位 |
金額(円) |
任意の単位(金額(円)、個数(個)、期間など) |
財務会計は、企業の経営や存続に関わる重要な機能を持っています。そこで、ここでは財務会計の2つの機能について紹介します。
財務会計の機能の1つに「情報提供機能」があります。情報提供機能とは、財務諸表を用いて、社外の利害関係者に企業の現状について報告する機能です。
投資家が投資を行う際や、金融機関が貸付を行うか判断する際、企業の財政状況の把握が必要です。その際に財務諸表が用いられるため、財務会計は企業の今後の将来を左右する重要な情報と考えられています。
もう1つの機能として「利害調整機能」があります。株主や投資家、債権者などの外部の利害関係者に、利益の配分方法を公開して、もし対立が起こった際には利害を調整する機能です。
利害関係者には経営者や株主、債権者などが含まれ、それぞれの利害が不一致になるケースが多くあります。その際、決まったルールで作られた財務諸表を公開し、利益の分配計画を明確にすることで、利害の調整が図られます。
財務会計は、以下の3つの理論構造に基づいて会計基準が設定されています。
ここでは3つの理論構造の内容について詳しく解説します。
会計公準とは、企業会計の基礎的な考え方を示す前提条件です。すべての企業は、会計公準に基づいて経営を行います。
会計公準は、構造的な枠組みの「構造的公準」と、企業会計の目標を示す「要請的公準」の2つに大きく分けられ、構造的公準はさらに以下の3つに分けられます。
また、要請的公準は以下の2つに分けられます。
会計原則とは、企業が守らなければならない会計処理のルールで、以下の3つに分けられます。
一般原則は、正確に会計処理を行うことを前提として、「真実性の原則」や「正規の簿記の原則」など7つの原則で成り立っています。
貸借対照表原則とは、貸借対照表の表示方法に関するルールです。貸借対照表を確認した人が正しい判断ができるよう、ルールが統一されています。例えば、資産と負債を直接相殺して貸借対照表から削除するのではなく、総額で記載しなければならない「総額主義の原則」などが定められています。
最後に、損益計算書原則とは、会社の利益を確認できる損益計算書に定められているルールです。取引が発生したタイミングで収益や費用を計上する「発生主義」や、実際に販売代金が支払われたタイミングで収益として計上する「実現主義」などが定められています。
会計手続とは、具体的な会計処理の方法を指します。貸借対照表・損益計算書といった財務諸表は、利害関係者にとって投資や貸付などを行うべきか判断するための重要な情報です。したがって、企業は正しい手続きに則った報告が求められ、その具体的な方法が定められています。
財務会計を行う際には、さまざまな経理業務が発生します。各業務で正しい処理を行わなければ、正確な財務会計の報告書を作成できません。ここでは、具体的にどのような業務が発生するのかを紹介します。
財務会計処理の業務として、資産が動いた際に誰がいつどのような取引をしたのかを記載する仕訳伝票の入力があります。仕訳伝票は、メインとなる振替伝票をはじめ、ほかにも売上伝票・仕入伝票・入金伝票・出金伝票の4つがあります。仕訳伝票には、借方・貸方の勘定科目と金額、取引日、取引内容を示す摘要欄を記入する欄があり、作成者・承認者印も必要です。
また、経理処理の1つのしくみとして、伝票から総勘定元帳に転記する「伝票制」があります。伝票制は、扱う伝票の種類によって以下の3つに分けられます。
3つのうち、どの方法で実施するのかは企業によって異なります。取引状況や頻度にあわせて、適した伝票制を採用する必要があります。
財務会計の業務として、土地や建物・社用車・製造機械など、事業を運営するために所有している固定資産の会計への計上があります。時間が経てば価値が変化する固定資産の場合、減価償却費を計算して会計に計上する必要があります。
減価償却の計算には、毎年同額を減価償却費として計上する「定額法」や、最初に多くの減価償却費を計上し、年数が経つにつれて徐々に計上額を減らしていく「定率法」などがあります。減価償却資産の耐用年数は法によって定められているので、事前に確認しておきましょう。
財務会計の重要な業務として、仕訳伝票や固定資産額・減価償却費などのデータをもとに、外部の関係者に公開するための決算報告書を作成する作業があります。今後の企業の評価にもつながる重要な業務の1つです。
決算報告書には複数の種類がありますが、メインは「財務三表」と呼ばれる以下の3つです。
決算報告書の作成には、領収書をまとめた書類や会社が行ったすべての取引や経理処理を記録した総勘定元帳、社員の給与や社会保険料などを記載した賃金台帳など、さまざまな書類の準備が必要です。
財務会計は企業の経営に関わる重要な会計方法なので、正しく処理を行う必要があります。しかし、企業の経理担当者が日々の業務に追われていては、適切な処理ができずに多くの関係者に対して迷惑をかけてしまうおそれがあるでしょう。
財務会計にまつわる業務を効率化するには、いくつかのポイントがあります。ここでは、業務効率化につながる具体的な方法を紹介します。
ExcelやGoogleスプレッドシートなどの表計算ツールは、会計処理業務を効率化するツールの1つです。無料で使えるツールが多く、コストを抑えられるというメリットがあり、広く知られているため、引き継ぎが発生した際でも教育コストがほとんどかかりません。
また、表計算ツールは独自にカスタマイズできるのも大きな特徴です。会社の状況に応じて、すぐにフォーマットを変更できます。ただ、会計処理の自動化には関数やマクロの習得が必要で、扱ったことのない初心者にとっては大きな負担になります。
昨今、会計業務の効率化のためにさまざまな企業が会計システムを提供しています。会計システムの導入や運用には一定のコストがかかりますが、システム管理や更新などの作業を自動化でき、大幅な業務効率化につながります。また、経理に詳しくない人にとっても扱いやすいように作られているケースが多いため、専門知識を持つ担当者が不要な点もメリットの1つです。
会計システムは、ほとんどの場合カスタマイズ性はありません。しかし、さまざまな業種のニーズに合わせた幅広い機能を備えています。また、会計システムを活用すればリアルタイムで経営状態を可視化できるため、事前の計画どおりに利益が出ていない場合に気づきやすく、迅速な対応ができます。
財務会計は、社外の関係者に向けて行われる会計で、株主や投資家、債権者、金融機関、取引先などの利害関係者に、企業の経営成績や財務状況を伝えるという目的があります。一方、管理会計は、企業を管理するために社内に向けて行われる会計です。財務会計と管理会計には「社外向けか」「社内向けか」といった大きな違いがあります。
財務会計は、利害関係者に対して企業の現状を報告する情報提供機能と、利害関係者の利害を調整する利害調整機能の2つの機能を持っています。
財務会計は社外の利害関係者が経営状況を判断するために重要なデータです。企業の経理担当者は財務会計について正しく把握し、企業の経営や業務効率化に生かしましょう。