更新日:2024.08.22
ー 目次 ー
旅費交通費とは、業務上で発生する移動・宿泊費のことを指します。営業担当が多い企業では旅費交通費を扱う機会が多いため、経理担当の方は扱い方や仕訳の方法について深く理解しておく必要があります。しかし、交通費や出張費等の類似した経費が多く、また制度改正などもあることから正しく扱えている自信がある方は少ないのではないでしょうか。
そこで本記事では、旅費交通費と他経費の違いや仕訳例などを詳しく解説します。インボイス制度導入後の旅費交通費の取り扱いポイントも分かる内容になっているので、経理担当者の方はぜひ参考にしてみてください。
業務上必要なお金を従業員が立て替えて支払った場合、会社が金銭を払い戻すために「経費精算」が行われます。事業運営に必要な経費を正確に把握し、健全な会計処理を行うために必要な業務です。
旅費交通費は似ている勘定科目があるので、仕訳を行う際に混同されやすい経費の1つです。この章では、旅費交通費の概要や似ている経費との違いを解説するので確認しておきましょう。
旅費交通費とは、業務に伴い発生する移動費や宿泊費などの経費です。一般的には、出張や営業活動などで発生する費用を補填できます。旅費交通費の代表例は、以下の通りです。
これらの旅費交通費は、業務上で発生する費用が対象です。そのため、業務上で発生した経費か否かを明確に切り分けて計上する必要があります。また会社によっては出張日当を旅費交通費に含め、交通費と宿泊費以外を補填するケースもあります。出張日当については義務ではないため、就業規則に則った処理が必要です。
交通費は、日常の業務中に発生する移動にかかる経費全般を指す言葉です。自宅から勤務地までの通勤費や取引先へ訪問する際に利用したバス代など、普段の業務で必要な費用が該当します。旅費交通費は出張に伴う移動費であるため、日常業務で発生する費用を指す交通費の目的とは異なります。
出張費は「出張時にのみ生じる費用」を指す一般的な呼び名です。出張に伴い発生する交通費や宿泊費などのほか、出張手当も含まれます。そのため、出張で発生した経費を帳簿に記録する際の勘定科目が旅費交通費となります。なお通勤にかかる費用と出張時の経費を区分する方法もありますが、旅費交通費としてまとめて処理することも可能です。
他にも経費で落とせる費用について詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてください。
■経費で落とすための条件を詳しく知りたい方はこちら
「経費で落とす」ための条件とは?計上できる費用・できない費用やメリットをわかりやすく解説
旅費交通費は従業員が支払いを行う場面が多いため、経費精算を行う必要があります。経費精算を行う方法には「概算払い」と「実費精算」があります。2つの精算方法は経費計上する際の仕訳が異なるため、帳簿に記載する際は注意が必要です。この章では、2つの清算方法の仕訳例を紹介するので、ぜひ参考にしてください。
概算払いとは出張に必要な費用の概算を算出し、事前に仮払い金として従業員に支払う方法です。海外への渡航や長期出張など、費用が高額になると予想される場合に行われます。概算払いで精算する際の仕訳例を、以下の事例で紹介するので参考にしてください。
従業員が出張のため、現金30,000円を仮払いした。帰社後、35,000円の旅費精算が発生したため、不足分の5,000円を現金で支払った。
【仮払時】
借方 |
摘要 |
貸方 |
||
仮払い金 |
30,000円 |
仮払金支払い(出張) |
現金 |
30,000円 |
【精算時】
借方 |
摘要 |
貸方 |
||
旅費交通費 |
35,000円 |
仮払金支払い(出張) |
現金 |
30,000円 |
旅費精算 |
現金 |
5,000円 |
従業員が出張のため、現金30,000円を仮払いした。後日、25,000円分の領収書と現金5,000円が返金された。
【仮払時】
借方 |
摘要 |
貸方 |
||
仮払い金 |
30,000円 |
仮払金支払い(出張) |
現金 |
30,000円 |
【精算時】
借方 |
摘要 |
貸方 |
||
旅費交通費 |
25,000円 |
仮払金支払い(出張) |
仮払金 |
30,000円 |
現金 |
5,000円 |
仮払金精算 |
現金で経費を精算する場合は、上記のようになります。近年はキャッシュレス決済をするケースが増えているので、ICカードで公共交通機関を利用した場合の仕訳例を紹介します。
ICカードに5,000円チャージした。その後、取引先へ訪問するためにICカードを使って電車代1,000円を支払った。
【ICカードにチャージしたときの仕訳】
借方 |
摘要 |
貸方 |
||
仮払金 |
5,000円 |
ICカードチャージ料 |
現金 |
5,000円 |
【ICカードを利用したときの仕訳】
借方 |
摘要 |
貸方 |
||
旅費交通費 |
1,000円 |
電車代 |
仮払金 |
1,000円 |
ICカードや電子マネーなど、チャージして利用する場合は「使ったとき」に経費として処理します。
実費精算とは、提出された領収書をもとに経費を精算する方法です。以下の事例を使って仕訳例を紹介するので、参考にしてください。
出張時に従業員が立て替ええた新幹線代30,000円とホテル代20,000円を、領収書にもとづき現金で精算した。
借方 |
摘要 |
貸方 |
||
旅費交通費 |
50,000円 |
新幹線代:30,000円 |
現金 |
50,000円 |
ホテル代:20,000円 |
出張から戻ってきた従業員に対して、旅費規定に基づいて出張日当6,000円を現金で支給した。
借方 |
摘要 |
貸方 |
||
旅費交通費 |
6,000円 |
出張日当 |
現金 |
6,000円 |
出張においては、移動費や宿泊費だけでなく手土産代・食事代などの費用がかかります。出張に必要な出費ですが、仕訳する際は勘定科目が異なるので注意が必要です。手土産代は「接待交際費」、食事代はそもそも旅費交通費に含まれないので出張日当や出張手当として支給するのが一般的です。
旅費交通費を経費で処理する際は、主に2つの支給方法が用いられます。事前に必要な費用を算出し先にお金を渡しておく「概算払い」と、実際に業務でかかった分だけを精算する「実費精算」です。この章では、それぞれの処理の仕方やメリット・デメリットを解説します。
出張にかかる旅費交通費を概算で出し、事前に従業員へ支給することを「仮払い」と呼びます。長距離の出張は費用が高額になるため、従業員の負担を減らすのに有効です。仮払いで支給した場合は、実費と照らし合わせて再度精算しなおす必要があります。
不足していれば足りない分を立て替えた従業員へ支給し、仮払い金よりも実費が少ない場合は余剰金額を返金してもらいます。仮払いの場合、経理担当者の手間となる上にミスの可能性も高いのがデメリットです。
実費精算は業務に必要な経費を従業員が立て替えて支払い、後で精算する方法です。領収書をもとに、実際にかかった分を「実費」で精算します。一度で正確な旅費交通費の精算を行うことができるので、仮払より手間が少ないのがメリットです。しかし出張費が高額になる場合は、立て替える金額が大きくなるので従業員の負担が大きくなる点に注意しましょう。
経費控除に関する税制の措置や制度の改正は定期的に実施されています。制度改正があった際には、制度内容の理解と必要に応じた対応が求められます。最近では、旅費交通費が関わる制度改正として、2023年10月1日から適格請求書等保存方式の導入による「仕入れ代金の還付にかかわる旅費等の算入について」が挙げられます。
参照元:消費税の仕入税額控除制度における 適格請求書等保存方式に関するQ&A
この改正により、消費税の仕入れ代金還付申請において旅費交通費が原則として算入対象外となりました。ただし、以下のいずれかに該当する場合は算入対象となります。
制度の改正により、一部の事業者にとっては財務面での影響の可能性があるため、改正後の消費税申告については、事前に念入りの確認をしておくと良いでしょう。この章では、旅費交通費における仕入税額控除の取り扱いについて解説するので、ぜひ参考にしてください。
従業員が立て替え精算する場合、企業が仕入税額控除を受けるには原則として会社宛ての適格請求書が必要です。そのため、従業員は適格請求書の要件を満たした会社宛の領収書を提出しなければなりません。会社宛の領収書を出してもらえない場合は、支払った従業員が立て替え金精算書を作成すれば仕入税額控除を受けることが可能です。
なお、公共交通機関での支払いが3万円未満の場合は、インボイス発行義務が免除されています。従業員が立て替え精算を行っても「公共交通機関特例」などと記載することで、適格請求書なしでも仕入税額控除を受けられます。
出張旅費規程とは、出張に係る交通費や宿泊費など諸経費に関する取扱いを定めた規程です。出張旅費規程に従い日当や出張旅費を支給する場合「出張旅費等特例」と明記すれば帳簿のみの保存が認められており、適格請求書は不要となります。なお、仕入税額控除の対象となるのは「業務に必要と認められる範囲」のみです。
業務に必要であることを示す根拠として扱われるのが「出張旅費規程」なので、日当や交通費などの諸経費を定めてあれば適格請求書がなくても仕入税額控除の対象にできます。日当や概算で支払われるガソリン代などは適格請求書を出せないので、出張旅費規定に定めておくことで節税対策になります。
旅費交通費は、経費の中でも頻繁に利用されることが多い勘定科目です。領収書の管理や申請書の作成などの観点からも、管理が煩雑になりやすい業務です。手作業による申請や不明瞭な承認フローなど、さまざまな問題が原因となっています。
効率的な経費管理を行うには、これらの問題を解消させる必要があります。そこで、この章では、旅費交通費を効率的に管理する方法を紹介します。旅費交通費を効率的に管理するためには、以下のような方法があります。
旅費交通費の経費精算でお困りの方は、ぜひ参考にしてください。
紙の領収書は、申請者もしくは経理担当者の不手際により紛失してしまう可能性があります。そこで領収書をスマートフォンなどで撮影し、電子化して保管する運用に変更することが有効な防止策となるでしょう。
また電子保存することで、データ検索が可能です。日付や内容で検索できるので、書類を探す手間がかかりません。ほかにも領収書の整理やファイリングなど、保管作業にかかっていた時間が減らせます。領収書を電子保存すれば、紛失防止や業務効率化のほか保管場所縮小も実現可能です。
現金払いの場合、支払い時の確認や入出金額の管理などの負担とコストがかかります。企業や個人事業主が取得できる法人カードは、事業用口座からまとめて精算できるので大幅な業務効率化が期待できます。
キャッシュレス決済の利用時には、これらの問題が発生しないため不要なコストの低減につながります。また従業員が企業の資金から直接支払えるので、従業員の立て替え払いは不要です。支払いが高額になる場合は、法人カードの利用が有効です。
現金払いの場合、支払い時の確認や入出金額の管理などの負担とコストがかかります。企業や個人事業主が取得できる法人カードは、事業用口座からまとめて精算できるので大幅な業務効率化が期待できます。
キャッシュレス決済の利用時には、これらの問題が発生しないため不要なコストの低減につながります。また従業員が企業の資金から直接支払えるので、従業員の立て替え払いは不要です。支払いが高額になる場合は、法人カードの利用が有効です。
経費の申請や承認フローなど、精算時のルールを従業員に正しく理解してもらうことが大切です。ルールを周知徹底することで、申請書の記入漏れやミスなどを防げます。また経費精算だけでなく上限額や承認の基準など、会社のお金を使用する際のルールを明確にしておきましょう。
経費に関するルールが明確化されれば、会計業務を効率よく進められます。さらに業務の効率化だけでなく、無駄な経費の削減にもつながります。
交通費精算を効率化する方法として「ICカードの利用」があります。ICカードを使えばどの区間を利用して、いくら費用がかかったかを自動的に記録できるのがメリットです。精算書への記入は費用の水増しや虚偽の申告などの不正のリスクもありましたが、ICカードを使うことでより正確な経費の算出が可能です。
会社のタブレット端末などに従業員のICカードの情報を記録しておけば、申請書への記入をしなくても経費精算に必要な情報を提出できます。飛行機やタクシーなどICカードが利用できない交通機関もありますが、経費精算の効率化に十分期待できるでしょう。
経費精算には、以下のような業務があり、すべて手作業で行っていると膨大な時間を要します。
これらの業務を効率的に行うには、経費管理アプリやクラウドサービスなどの専用ツールの活用が有効です。ツールの活用により、支出の記録や領収書の管理、経費の自動計算などができるようになります。また、エクセルによる支出管理もできるため、所属企業の予算や方針に合った管理方法を選択することが重要です。
旅費交通費を経理する際には、以下の3つの注意点があります。
健全な会計処理を行うためには、正しく経費を精算しなければなりません。この章では、経費精算を行う際の注意点を解説するので参考にしてください。正しく理解して実践することで、経理業務上の間違いを減らし、トラブルを回避できます。また経費にかかわる注意点やルールを経理担当者だけでなく、社内全体で共有することが適切な経理処理につながります。
経費として承認されるには、領収書や明細書などの証明書が必要です。「何を・どのような目的で・いくら」購入したかを証明するために、出張に行った際は必ず領収書を受け取り経理担当者へ提出しましょう。領収書を紛失した場合には、代替の証拠となる書類を取得できます。
例えば、銀行振込の場合は振込明細書、クレジットカードの場合は利用明細書の発行ができます。ただし、代替の証拠となる書類でも必ずしも経費として認められるわけではなく、会社の規定や法律に基づいた範囲内であることが求められます。なお領収書が出ない場合は、業務と関係のない支出と混同しないように出費の内訳を記録しておきましょう。
企業によっては、旅費交通費の支出に関する規程が定められています。そのため、支払いに際しては規程に沿った範囲内での支出を心がけることが重要です。領収書と旅費精算書を確認する際は、旅費として精算できるかや申請内容が妥当かを入念に確認しましょう。
取引先との飲食代が申請されていた場合は、旅費ではなく会議費や接待交際費で処理します。また高額な支払いを行う場合は事前に上司や経理部に相談し、トラブルを避けるようにしましょう。
支払った費用を経費として申請する場合には、経理担当者へ経費精算書の提出が必要です。従業員が出張旅費規程の内容を十分に理解しないまま申請を行うと、差戻や修正などが多くなるため経理部門の手間が増えます。さらに記入漏れや金額の計算に誤りがあった場合は、支払いが行われなかったり、申請のやり直したりする必要があるため十分に注意しましょう。
申請者に対して経費精算書の記載における注意点を周知することで、修正や差戻が減り、経理業務を円滑に行えます。また精算時に必要な情報を漏れなく記載してもらうよう、マニュアルやテンプレートを作成しておくのもおすすめです。
旅費交通費とは、業務に伴う移動費や宿泊費を含む経費です。経費の中でも発生の頻度が高いため、経理処理時のミスを防ぐために効率的な管理が求められます。旅費交通費を効率的に管理するには、以下のような方法があります。
これらの管理方法を通して、適切かつ迅速な経理業務の実現が可能です。人による作業では、ミスや誤入力が起こる可能性をゼロにするのは難しいです。そこで経費管理専用のアプリやツールを活用することで、正確かつ効率的な経理業務の実現が期待できます。
経理にかかわる書類は記入漏れや記載ミスがある場合は計上できないため、旅費交通費を含む勘定科目に関する理解を深めて適切な管理が重要です。旅費交通費に含まれる経費や仕訳例を参考に、経理業務にお役立てください。