更新日:2024.09.30
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電子帳簿保存法が改定されたことで、2024年1月1日から請求書の保存方法が大きく変わっています。
請求書を紙で受け取った場合や、請求書控えを保存する方法、スキャンする場合の要件などさまざまな対応が求められるため注意が必要です。
本記事では、紙の請求書と電子データの請求書、受領側、発行側の保存方法について詳しく解説します。請求書の保存期間や注意点もまとめましたので、業務効率化にお役立てください。
請求書の保存には、受領側と発行側の2種類の保存が必要です。こちらでは、受領側の請求書について、電子データ(PDF等)及び紙の場合の2通りの保存方法を解説します。
電子帳簿保存法の改正により、2024年1月1日以降、電子で受領したデータは電子データのまま保存することが義務付けられています。
そのため、電子データで受領した請求書も、電子データのまま保存しなければなりません。
電子データの請求書とは、PDFなどデータで受領した請求書を指します。電子データの請求書をプリントアウトして紙で保存することは認められていません。
ただし要件に従って電子データを保存している場合は、社内確認用でプリントアウトした請求書を保存していても問題ありません。
参照:国税庁「電子帳簿保存方法が改正されました」3ページ③電子取引データ保存に関する主な改正事項
紙で請求書を受領した場合は、以下の2通りの保存方法があります。
それぞれ詳しく解説します。
請求書を郵便や手渡しなど紙で受領した場合は、紙のまま原本を保存します。紙の請求書を適切に保存するためには、以下の手順で行いましょう。
受領した請求書は会計処理で記録を残し、企業ごとに請求書を分類します。細かくファイリングすることで、後で検索が必要な際に作業が進みやすくなります。
分類が終わったら請求書の原本を書類庫に保管しましょう。適切な環境で保管することで、紛失や書類の劣化を防ぎます。
紙で受領した請求書は、データをスキャンして保存(スキャナ保存)が可能です。スキャナ保存は以下の手順で行います。
スキャナ保存には「国税関係書類の受領等から最長2カ月とおおむね7営業日以内」という入力期間が定められています。
スキャナ保存した書類データには、原則タイムスタンプの付与が求められます。
タイムスタンプとは、電子取引データが特定の時刻に存在していたこと、また、文書に修正や改ざんが行われていないことを証明する技術です。
訂正や削除の履歴が残るシステムで保存する場合は、タイムスタンプの付与は不要です。
電子帳簿保存法で定められた要件を満たしてスキャナ保存を行った場合は、原本の紙の請求書を破棄しても問題ありません。
データの保存要件を満たしていない場合は違反行為となり、罰則が科せられる可能性があるため、注意が必要です。電子帳簿保存法における保存ルールについては、記事後半で詳しく解説します。
参照:国税庁「電子帳簿保存方法一問一答【スキャナ保存関係】問23」
請求書の控えは、法的に発行が義務付けられていないものの、取引の証拠として重要な役割を持つ書類です。請求書控えを発行した場合は、保存する義務があります。
この章では、発行側の請求書控えの保存方法について解説します。
2024年1月より、電子データで発行した請求書の控えは、電子データのまま保存することが義務付けられています。
ただし、電子帳簿保存法が定める保存要件を満たす場合は、社内確認用としてプリントアウトして保管しても問題ありません。
参照:国税庁「電子帳簿保存法のポイント」③電子データ保存について
紙で請求書を発行した場合、その請求書の控えの保存方法は以下のように2通りあり、どちらを選択しても構いません。
また、紙で発行した請求書控えを必ずしもデータで保存する必要はありません。スキャナ保存の場合は、受領時と同じ方法で画像データに変換し、社内システムに保存します。
請求書控えを電子データで保存する場合も受領時と同様、電子帳簿保存法の要件を満たす必要があります。
2023年10月から開始されたインボイス制度では、適格請求書発行業者に対して請求書控えの発行が義務付けられています。適格請求書の控えは、紙もしくは電子データで保存します。
発行した適格請求書の控えは、以下の期間の保存が定められています。
「請求書を交付した日」、または「提供した日の属する課税期間の末日の翌日から2カ月を経過した日」から7年間
参照:国税庁「適格請求書等保存方式(インボイス制度)の手引き」適格請求書等の写し又は適格請求書等に係る電磁的記録を保存する義務
参照:国税庁「適格請求書の写しの保存期間」問79
電子データで請求書をやり取りした場合は、電子帳簿保存法に基づく電子取引の保存要件を満たす必要があります。電子取引の保存要件には「真実性の確保」と「可視性の確保」が求められるため、十分な注意が必要です。
ここでは、保存要件について詳しく解説します。
真実性の確保とは、保存したデータが削除・改ざんされていないことを示す条件です。
真実性の確保は、以下4つのいずれかを満たす必要があります。
社内で電子帳簿保存法に対応したシステムを導入する場合は、データの修正や削除の記録が残る経費精算システムを選びましょう。
タイムスタンプや記録の残るシステムを使用しない場合は、事務処理規定を作成し運用することが求められています。
参照:国税庁「電子帳簿保存方法が改正されました」電子取引の保存条件
可視性の確保とは、保存したデータを検索・表示できるようにしておくことです。可視性の確保は、以下の条件をすべて満たす必要があります。
さらに、保存データの検索機能には、以下の3つの検索要件が定められています。
電子帳簿保存法の改訂により、電子取引の検索要件が緩和されています。
また、税務職員による質問検査権に基づいて電磁的記録のダウンロードが求められた場合は、検索要件のうち(2)(3)の要件が不要です。
参照:国税庁「電子帳簿保存方法が改正されました」‐電子帳簿の保存要件の概要・検索要件
紙の請求書をスキャンする場合は、以下の要件をすべて満たす必要があります。
スキャナ保存では、一般書類や重要書類どちらに該当するかによってルールが異なります。請求書は重要書類に該当するため、さまざまな要件を満たす必要があります。
特に、はじめてスキャン保存を行う方は、以下の点に注意してください。
一定以上の解像度、カラー画像の読み取りが可能なスキャナを使用することで、請求書のスキャナ保存が適切に行えます。お使いのスキャナが上記の要件を満たしているか、改めて確認しておきましょう。
参照:国税庁「はじめませんか、書類のスキャナ保存」スキャナ保存を行うためのルール
請求書は紙・電子データいずれの保存方法でも、一定期間の保存が決められています。
ここでは、法人と個人それぞれの保存期間と、保存期間の起算方法について詳しく解説します。
法人の場合、法人税施行第67条の2により、請求書の保存期間は原則7年間と定められています。
保存期間の起算日は、請求書を受け取った日ではなく、確定申告書の提出期限の翌日から起算します。
保存期間の起算例)※3月期決算の法人の場合
なお、欠損金が発生した事業年度の請求書は、繰越欠損金の適用により赤字を翌期以降に繰り越すことができるため、10年間の保存が必要です。
参照:e-Gov法令検索「法人税法|第六十七条第二項」
参照:国税庁「No.5930 帳簿書類等の保存期間」概要(注3)
個人事業主の場合、青色申告者、白色申告者にかかわらず、原則として5年間の保存が必要です。
保存期間の起算日は、法人と同様に確定申告日の翌日から起算します。
保存期間の起算例)
※ただし、3月15日が土曜、日曜、国民の祝日、休日にあたる場合は、翌日(または翌々日)の月曜日が期限日になるため、注意しましょう。
課税事業者の場合、適格請求書は7年間の保存が必要となるため、注意が必要です。請求書の保存が電子帳簿保存法の要件を満たしていない場合は、青色申告の承認が取り消されるケースがあるため、ルールを守って保存しましょう。
参照:国税庁「記帳や帳簿等保存・青色申告」帳簿書類の保存期間
参照:国税庁「申告と納税」主な国税の申告期限および納期限等
参照:国税庁「適格請求書等の記載事項」
副業収入などで、前々年分の雑所得の収入が300万円を超える場合は、請求書を含む現金預金取引等関係書類は、5年間の保存義務があります。
保存期間の起算日は、個人事業主と同様、確定申告日の翌日となります。
参照:国税庁「個人で事業を行っている方の記帳・帳簿等の保存について」白色申告の方の記帳・帳簿等の保存制度
適格請求書の発行者は、法人、個人に関わらず、7年間の保存が定められています。保存期間の起算日は、課税期間の末日の翌日から2カ月経過した日とされています。
適格請求書の場合は、受領側だけではなく発行側の請求書控えも7年間の保存が必要です。
参照:国税庁 No.6625「適格請求書等の記載事項」概要
参照:国税庁「記帳や帳簿等保存・青色申告」
電子帳簿保存法で、請求書を処理する際の注意点は以下の4つです。
請求書の保存方法について取引先と共有しておけば、双方の業務効率化が図れます。
例えば、電子データで請求書を受領する場合、自社で電子保存することを取引先に伝えておくと、請求書の発行や郵送の手間が省けるでしょう。
また、受領側の会計処理もスムーズに進められるのもメリットです。
電子帳簿保存法で請求書を処理する際は、専用システムの導入を検討しましょう。
発行側が専用システムを導入することで、請求書の印刷、封入、発送の手間を削減できます。
また、システム内で請求書が一元管理されているため、再発行や修正依頼にも迅速に対応できるのがメリットです。
一方、受領側では、発行日当日に請求書の受領が可能になり、請求処理業務の効率化が期待できます。
導入する際は、電子帳簿保存法やインボイス制度に対応したシステムを選びましょう。
紙の請求書をデータで保存する場合は、受領後、速やかに電子データ化する必要があります。
国税庁の資料では、電子データ化の入力期間は以下のように定めています。
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上記期間を過ぎて電子データ化した場合は、違反行為に該当します。電子データ化の期間を守り、適切なタイミングで電子データ化処理をしましょう。
参照:国税庁「はじめませんか、書類のスキャナ保存」入力期間の制限
請求書の保存方法は、社内でルールを統一しておくことが重要です。部署ごとに保存方法が異なる場合、電子帳簿保存法の違反のリスクが高まります。
社内ルールは、経理担当者だけではなくすべての従業員に周知しておくことが大切です。データの受け渡し方法や、ファイルの保存場所など社内ルールを整備しておきましょう。
請求書データの改ざんや隠蔽、架空取引など、電子帳簿保存法に違反した場合は、会社法第976条に基づき、罰則として100万円以下の罰金や追徴課税が課せられる恐れがあります。また、個人事業主の場合は、青色申告の承認の取り消し対象となる可能性があるため、電子帳簿保存法の要件はしっかりと確認しておきましょう。
参照:会社法 第976条
参照:国税庁「電子帳簿保存法一問一答」PDF45ページ問57
電子帳簿保存法により請求書の保存は、受領側だけではなく発行側にも適切な保存方法が求められます。特に、電子データで保存する場合は、電子帳簿保存法の要件を正しく理解し、社内ルールを統一しておくことが大切です。
取引先との円滑な会計処理を行うためにも、専用システムの導入や社内体制の整備など、しっかりと対策を進めていきましょう。