更新日:2024.10.15
ー 目次 ー
請求書に値引き表記をする際、法律に抵触するのか気になる方もいるでしょう。本記事では、請求書の値引きは違法なのか解説し、値引きの種類別に請求書の具体的な書き方を説明します。
適正な値引き処理をしてお客様との長期的な関係性を維持するためにも、ぜひ参考にしてください。
請求書における値引き行為は違法になるのでしょうか?違法にならないケースや抵触する恐れのある法律について解説します。
基本的に、請求書における値引きの記載は、違法ではありません。しかし、行き過ぎた価格交渉による値引きは違法となるケースがあります。
特に、取引先との関係を長期的に保つための「出精値引き」は、注意が必要です。合理性を欠く値引き交渉は、法律違反に抵触するだけではなく、取引先との信頼性を損ねるリスクもあります。
過度な値引き交渉は「下請法違反に抵触する」恐れがあります。下請法とは、発注者による資金力の小さい下請け業者への不当な取引を防止するための法律です。
下請法では、不当な代金の減額や返品、支払を遅らせる行為などが禁止されています。業界の標準価格と比べて明らかに過剰な値引きを要求された場合は、下請法違反に該当する可能性があります。
「不正競争防止法違反」とは、事業者間の不適切な競争を防ぐための法律です。営業秘密の侵害や、コピー商品の販売、原産地偽装などの不正競争を規制します。
事業者への過度な値引き要求は価格破壊行為とみなされる場合があり、「不正競争防止法違反」に抵触する恐れがあるため注意が必要です。
「出精値引き」と「通常の値引き」の違いを解説します。
通常の値引きと出精値引きでは、値引きの目的が異なります。通常の値引きは、商品やサービスを通常価格よりも低く設定することで購買促進を図る目的で使用されます。
一方、出精値引きは、取引先の関係構築や長期的なパートナーシップを維持する目的で行われるのが特徴です。出精値引きは品質やサービスの低下を伴う値引きではなく、企業努力によって実現される値引きとなります。
企業努力による出精値引きは違法なのでしょうか?違法になるケースを確認しておきましょう。
出精値引きは、取引先との関係性を保つために自社が自発的に行うものです。そのため、企業努力としての出精値引きは、通常の値引きと同じく、違法ではありません。
しかし、取引先から理不尽な値下げ要求を受けた場合は、下請法違反の可能性が強まります。値引きの際は合理的な金額であるかを判断し、下請法に該当しないか確認することが重要です。
納得のいかない値引き要求をされた場合は、法的な助言を求めましょう。
規準期間の課税売上高等が1,000万円以下であるインボイス未導入業者は、消費税の納税義務を負いません。しかし、課税業者が免税業者と取引をする場合は、消費税控除が受けられないため、その分納税額が増えることになります。
そのため、課税業者からインボイス未導入業者への一方的な値引き要請や取引の見直しを迫られるケースもあります。このような値引き行為は、下請法や独占禁止法違反のリスクが高まるため、適切な価格交渉が必要です。
ここまでは値引きが違法となるケースを解説しました。値引きがある請求書作成にあたり、適切な記載をしないとトラブルや違法を招くリスクが高まります。
値引きのある請求書の正しい書き方を具体的に解説します。
品目 |
単価 |
数量 |
金額 |
商品A |
10,000 |
1 |
10,000円 |
〇〇のため値引き |
▲1,000 |
1 |
▲1,000円 |
合計 |
9,000円 |
値引き項目の表記方法には特別な決まりはありませんが、減額の事実がはっきりと分かる表記にする必要があります。
上段:値引き前の金額
中段:値引き額
下段:合計額
上段には値引き前の金額、下段には値引き額を分けて記載しましょう。
値引き額を記載する際は、金額の先頭に「▲(黒三角)」「△(白三角)」「-(マイナス)」の記号を用います。これらの記号は値引きを示す記号として、一般的な商習慣に基づくものです。
値引き金額の記載方法は、法律で決められた書式はありませんが、上記のような一般的に認知された表記方法を用いるといいでしょう。
値引きの品目欄には、値引きの理由を必ず記載しましょう。商品の値引き理由は、割引キャンペーンや大量購入、クレーム、納期遅延などさまざまです。
請求書の品目欄に具体的な値引き理由を記載することで、トラブルやミスを防ぎます。さらに、過去の取引の確認や監査時にもスムーズに対応できます。
値引き価格に消費税がある場合は、値引き前に消費税を算出してしまうと経理処理が複雑になります。そのため、消費税がある場合は、値引き後の金額に対して消費税を算出しましょう。
消費税率10%の商品A(税込価格11,000円)に対し、1,000円の値引きがあった場合の
請求書の記載方法は以下のとおりです。
品目 |
単価 |
数量 |
金額 |
商品A |
10,000 |
1 |
10,000円 |
キャンペーンによる値引き |
▲1,000円 |
1 |
▲1,000円 |
小計 |
9,000円 |
||
消費税(10%) |
900円 |
||
合計 |
9,900円 |
こちらの章では、10,000円の商品Aを1,000円値引きした場合の請求書の書き方を、値引き理由別に解説します。
商品の不具合や返品になどによるクレーム値引きの場合は、トラブルが起こりやすいため値引き記載には十分な注意が必要です。
記載例:クレーム値引きの場合
品目 |
単価 |
数量 |
金額 |
商品A |
10,000円 |
1 |
10,000円 |
不具合による値引き |
▲1,000円 |
1 |
▲1,000円 |
小計 |
9,000円 |
値引き理由として「クレームによる値引き」とだけ記載してしまうと、誤解を招く恐れが高まります。クレーム値引きの場合は「〇〇の不具合による値引き」などと、クレームの具体的な原因を明確に記載してください。
端数調整は、請求金額をキリのよい数字にするために行われる値引き方法です。10,200円の商品Bを、200円の端数処理を行い10,000円にする場合の記載方法は以下のとおりです。
記載例:端数調整の場合
品目 |
単価 |
数量 |
金額 |
商品B |
10,200円 |
1 |
10,200円 |
端数調整のための値引き |
▲200円 |
1 |
▲200円 |
小計 |
10,000円 |
値引き理由は「端数調整による値引き」とします。切り捨てによる端数調整は、会計処理を簡潔化し、顧客が支払をスムーズに行うために役立ちます。
相殺処理とは、以前の取引で返金が発生した場合に、販売価格から返金額を差し引いて請求する場合に用いられます。
記載例:相殺の場合
品目 |
単価 |
数量 |
金額 |
商品A |
10,000円 |
1 |
10,000円 |
相殺による値引き |
▲1,000円 |
1 |
▲1,000円 |
小計 |
9,000円 |
相殺処理は双方の合意の下で行うため、取引先に事前に許可を得ることが必要です。また、請求書の取引内容には、第三者が見てもわかるように「相殺による値引き」と記載し、会計処理を行います。
買掛金を請求金額(売掛金)から差し引いて相殺する場合は、「前回取引分の売掛相殺」と記載し、どの取引との相殺なのかを示しておくと分かりやすいでしょう。
大量購入による値引きは、顧客が一定数以上の商品を購入する際に適用される値引きです。
記載例:大量購入による特典値引きの場合
品目 |
単価 |
数量 |
金額 |
商品A |
10,000円 |
1 |
10,000円 |
割戻しによる値引き |
▲1,000円 |
1 |
▲1,000円 |
小計 |
9,000円 |
値引きの理由は「割戻し」と記載します。または、大量購入値引きやボリュームディスカウントと記載しても問題ありません。
大量購入に伴う値引きの場合は、請求書の備考欄に割引率を明記しておくと、より丁寧な対応になります。
納期遅れやスケジュールの変更に伴う割引の場合は、顧客へのお詫びとして値引きが提供されます。値引き理由には「納期調整による特別値引き」と記載しましょう。
記載例:納期遅れによる値引きの場合
品目 |
単価 |
数量 |
金額 |
商品A |
10,000円 |
1 |
10,000円 |
納期調整による特別値引き |
▲1,000円 |
1 |
▲1,000円 |
小計 |
9,000円 |
出精値引きは、コスト削減を顧客に還元する形で行われる特別な値引き方法です。長期的な取引関係の構築を目的とし、企業努力の一環として行われます。
請求書の値引き理由は「企業努力による特別値引き」と記載します。
記載例:出精値引きの場合
品目 |
単価 |
数量 |
金額 |
商品A |
10,000円 |
1 |
10,000円 |
企業努力による特別値引き |
▲1,000円 |
1 |
▲1,000円 |
小計 |
9,000円 |
出精値引きの場合は、値引き理由を明確に記載することで取引の透明性を保ち、法律上の問題を回避できます。また、顧客への感謝の気持ちを表すためにも、請求書に値引き理由と金額を正確に反映させることが重要です。
トラブルや誤解を避けるためには、値引きの理由だけではなく気を付けたいポイントがいくつかあります。値引きを記載する場合の注意点を見ていきましょう。
値引き後の金額だけが記載された請求書は、振込額と請求額が一致しても、どの商品が値引きされたのかが分かりづらく、違法性が高まる可能性があります。このような記載方法は、取引の透明性が損なわれる恐れがあるため注意が必要です。
取引の全体像を明確化するためには、以下の項目を正確に記載しましょう。
請求書の金額には「¥(エンマーク)」や「円」を使用し、3桁ごとに「,(カンマ)」で区切ります。また、数字の末尾には「-(ハイフン)」を用いることで桁数の変更による改ざんを防止できます。
値引きの記載は「▲」や「‐(マイナス)」など、一般的に認知されている記号を使用します。これらの記号は、値引き金額の前に追加することで、数字の改ざんや訂正を防ぐ目的があります。
上記以外の記号を使用すると、値引きの意図が正確に伝わらない可能性があるため、注意が必要です。また、文字色の変更など独自ルールの表記は避けましょう。
値引きを行う場合は、業界の規則や法律に従う必要があります。取引先との値引き行為が不当でないか、下請法に違反しないかなど、慎重に確認しましょう。
値引き後の金額が、原価や人材費などコストに見合った価格なのかを総合的に判断し、適切な値引き額を決めることが大切です。
請求書に値引きがある場合の記載方法や、違法性についてまとめました。請求書の値引き行為は違法ではありません。
しかし、過度な価格交渉による値下げは法律に違反する可能性が高まります。また、インボイス未導入者への行き過ぎた値引き行為も注意が必要です。
請求書に値引き金額を記載する場合は、一般的な商習慣に基づき、値引き理由を明確に記載しましょう。取引先と長期的な関係を築くためにも、透明性のある請求書の作成を心がけてください。