更新日:2024.09.30
ー 目次 ー
経理担当者として、正確な財務諸表の作成に日々尽力されていることと思います。しかし、財務諸表は過去の活動を記録したものであり、未来の経営戦略を立案するためには、より詳細な内部情報に基づいた分析が必要となります。
そこで重要となるのが「管理会計」です。管理会計は、企業の内部情報を収集・分析し、経営者が適切な意思決定を行うための情報を提供する会計システムです。しかし、管理会計は財務会計とは異なり、法的な規制がないため、その手法や活用方法に戸惑う方もいるかもしれません。
この記事では、管理会計の基本的な概念から、具体的な手法、さらには学習方法までを包括的に解説します。管理会計を体系的に理解し、業務に役立てることで、経理担当者としての専門性を高め、企業の成長に貢献できるでしょう。
▼この記事でわかること
管理会計は、企業の内部向けの会計情報システムであり、経営者がより良い意思決定を行うための情報を提供します。財務会計とは異なり、
などを通じて企業の目標達成を支援します。
管理会計は、各企業の状況に合わせて柔軟に設計できるため、最適な経営管理のために活用できます。また、管理会計は社内向けの情報であるため、フォーマットや作成方法に関する決まりはありません。企業ごとに分析や管理しやすい形式でまとめることができます。
管理会計は法的な義務はありませんが、経営戦略の立案や業務改善に役立ち、企業の成長を促進する効果が期待できます。
管理会計を作成することで、企業の現状を多角的に分析し、将来に向けた戦略的な意思決定を支援することができます。
経営状態を客観的に把握できることは、管理会計を作成する大きなメリットです。事業規模が大きくなると、各部署の業務内容や財務状況を把握しにくくなり、知らないうちに無駄な費用や仕事が発生しているケースもあります。
管理会計を作成すれば、企業全体の状況を「見える化」して、状況に応じた業務改善を行えるでしょう。非効率な部分を把握した上で、人員配置を見直したり無駄な経費を削減したりすることも可能です。
部署別・サービス別・商品別など、細かい単位で管理会計を作成すれば、より正確な状況把握や成績の評価ができます。利益を生み出しているサービスはどれか、売上が伸び悩んでいる商品はどれかなど、企業全体の会計情報だけでは分からなかった状況も把握しやすくなります。管理会計を作成するときのルールなどはないため、自社のサービスや商品に合わせて分かりやすくまとめれば問題ありません。
現状を細かく把握しておけば、部署ごとに評価をしたり解決策を立案したりもできます。明確な根拠をもとにした計画を立てられるため、社員の納得感を得やすく、モチベーション維持にもつながるでしょう。
財務会計とは、外部の関係者に経営状態などを報告するための会計です。外部関係者には、株主や金融機関、税務署などが該当します。社内向けに作成する管理会計とは異なり、財務会計は会計基準にのっとった形式で作成しなければなりません。財務会計と管理会計の違いをまとめると以下のようになります。
項目 | 管理会計 | 財務会計 |
目的 | 経営者が経営管理・意思決定を行うため |
株主、債権者など社外の利害関係者へ情報開示するため
|
情報の種類 | 企業の内部情報(予算、原価、業績など) |
企業の財務状況・経営成績(貸借対照表、損益計算書など)
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対象期間 | 過去・現在・未来 | 過去・現在 |
作成頻度 | 必要に応じて随時 |
定期的に作成(年次、四半期など)
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作成基準 | 企業独自の基準で作成可能 |
法律や会計基準に基づいて作成
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開示 | 社内のみ | 社外にも開示 |
法的拘束力 | なし | あり |
例 | 予算管理、原価計算、業績評価 |
貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書
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外部の利害関係者に情報を提供することは、財務会計を作成する大きな目的です。金融機関や投資家は、企業が公開する財務状況をチェックすることで、事業の収益性や将来性、企業の信頼性などを判断します。投資すべきかどうか、融資すべきかどうかを判断するとき、財務会計は重要な資料になるのです。
財務会計には、株主と経営者、株主と金融機関といった関係者同士の利害を調整する目的もあります。例えば、株主と経営者の関係について考えてみましょう。株主は、投資した企業が利益を上げることで、より多くのリターンを得たいと考えています。
しかし、投資したお金が適切に運用されるとは限りません。経営者が自分の役員報酬を上げるために使ったり、無駄な事業を展開したりする可能性もあります。財務状況を公開するというルールがあるおかげで、経営者が自分勝手にお金を使うことを防止でき、株主は投資したお金がきちんとした目的に使われているかをチェックできるでしょう。
管理会計においては、予実管理、原価管理、経営分析、資金繰り管理、セグメント別損益管理といった業務を行います。それぞれの業務内容について詳しく見ていきましょう。
予実管理とは、予算と実績を把握する業務のことです。目標を達成するために設定していた予算と、業務を進めることで得られた実績を比較します。決まったルールなどはありませんが、予実管理表などを作成して数値を比較するのが一般的です。
予実管理を行うことで、予算が足りなくなった原因や目標を達成できなかった理由などを分析できます。分析結果をもとに、課題を把握したり改善案を考えたりすることも可能です。予実管理を実施すれば、現状を把握した上で適切な軌道修正を行うことができ、業績の改善や利益率のアップなどが期待できるでしょう。
原価管理とは、商品を開発したりサービスを提供したりするときに発生するコストを把握する業務のことです。コストの中には、商品を作るための材料費や、サービスを運営するための人件費など、さまざまな経費が含まれます。厳密な原価管理を行うためには関連するコストをしっかりと把握し、原価計算表などを作成することが重要です。
利益率をアップさせるためには、コストを抑えつつ商品やサービスの質を高めなければなりません。原価管理を実施することで、材料費や人件費などを「見える化」して、無駄なコストを削減していきましょう。
設定していた原価をオーバーしてしまった場合は、問題点を探ることも重要です。材料の仕入れに失敗した、設備の老朽化によりパフォーマンスが低下したなど、問題点を把握した上で次の一手を考えてみてください。
経営分析とは、さまざまなデータをもとに経営状態を把握する業務のことです。経営分析には、財務諸表や調査報告書などの資料を活用します。自己資本比率や利益率といった数値を参考にするケースも多いでしょう。
具体的な分析ポイントとしては、収益性や生産性、効率性や成長性などが挙げられます。経営分析を行うことで、安定的に成長できているか、業務効率化が進められているか、といった点を把握できるでしょう。評価できる部分はもちろん、課題を明確にすることも可能なため、解決策の立案にもつながります。
資金繰り管理とは、お金の出入りを把握する業務のことです。会社に入ってくるお金と、会社から出ていくお金を明確にして、運転資金が不足しないように管理します。資金繰り管理においては、単純な売上や支払いだけではなく、未収金や売掛金など、すぐには現金化できない債権についても把握しなければなりません。
計算上は利益が出ていても、手元にある資金が不足し、必要なタイミングで支払いができないケースもあります。材料費を支払えない、給料を支給できない、といった可能性もあるため注意しましょう。資金繰り管理をしっかりと行い、債務の状況や債権を現金化すべきタイミングを見極めることが重要です。
セグメント別損益管理とは、部署やサービスごとに損益を管理する業務のことです。分け方に明確なルールはありません。商品別、チーム別、プロジェクト別など、会社の状況に応じてさまざまな分け方で管理しましょう。
セグメント別損益管理を行うことで、企業の強みや弱みを明確に把握できます。売れている商品や利益を生み出している部署はもちろん、問題を抱えているサービスなども明らかになるでしょう。利益が出ている部署のノウハウを、課題解決のヒントにすることも可能です。
管理会計で注目する指標は企業によって異なりますが、特に重要な指標は損益分岐点と限界利益の2つです。それぞれの指標について簡単に確認しておきましょう。
損益分岐点とは、売上高と固定費(人件費等)や変動費(外注費等)を含んだ係る総費用との損益が同じになる点のことです。赤字と黒字の境界となるポイントといえるでしょう。
費用は、固定費と変動費の2つに分けられます。固定費とは、売上の増減に関係なく常に発生する費用のことです。オフィスの賃料、社員の人件費、水道光熱費などが固定費に該当します。変動費とは、売上の増減に比例して発生する費用のことです。商品を作るための材料費や外注費などは、変動費に該当します。
損益分岐点を求める計算式は以下のとおりです。
損益分岐点=固定費÷{1-(変動費÷売上高)}
売上高が損益分岐点より上であれば黒字ですが、下である場合は赤字であるため、売上を増やしたり費用を削減したり、何らかの対策をしなければなりません。
限界利益とは、売上高と変動費の差のことです。全ての固定費を回収できるポイントを意味します。限界利益を分析することで、商品を販売したときに得られる直接的な利益や、会社に残る最終的な利益を把握できます。損益分岐点と限界利益を理解した上で分析を行うことで、状況に見合った事業計画を立案でき、利益アップを期待できるでしょう。
今回は、管理会計の重要性や財務会計との違いなどについて解説しました。管理会計の作成は法律的な義務ではありませんが、経営状態を客観的に把握したり、課題を明確にしたりできるため必要に応じて作成しましょう。
限界利益や損益分岐点といった重要な指標に注目して、経営計画の見直しや経営判断を行うことで、事業をより良い方向に展開していくことが重要です。