更新日:2024.10.29
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キャッシュフロー計算書とは、「貸借対照表」「損益計算書」に並ぶ財務三表の1つで、企業の経営成績や財務状況を把握する上では欠かせない会計書類です。しかし、実際にはキャッシュフロー計算書をどのように作れば良いのかを知らない人が多いのではないでしょうか。
そこで、本記事ではキャッシュフロー計算書の作り方を「直接法」と「間接法」の2つに分けて解説します。また、直接法と間接法のそれぞれのメリット・デメリットなどの特徴まで紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
キャッシュフロー計算書は企業の資金の流れを把握する上で欠かせない書類です。この章では、キャッシュフロー計算書の基本的な概要を紹介した上で、貸借対照表や損益計算書との違いまで紹介します。
キャッシュフロー計算書とは、企業の会計期間中のお金の増減(キャッシュのフロー)を示した会計書類です。増減のあったお金の額と、その根拠がわかります。英語で「Cash Flow Statement」と言うため、省略して「C/F」と呼ばれています。
キャッシュフロー計算書は、企業の経営成績や財務状況を表す重要な財務諸表の1つです。貸借対照表・損益計算書とあわせて「財務三表」と呼ばれています。貸借対照表と損益計算書は、すべての企業に作成義務がありますが、キャッシュフロー計算書は上場している大規模法人には作成義務はありますが、一般的な中小企業は作成しなくても問題ありません。
しかし、キャッシュフロー計算書は、自社の経営状況を把握するために有効な書類です。出資を募る際や金融機関から借入を行う際にも役立つため、作成義務がない企業の場合も作成しておくのをおすすめします。
項目 | キャッシュフロー計算書 | 貸借対照表 | 損益計算書 |
目的 | 一定期間の現金・現金同等物の増減を把握 | 一定時点の財政状態を把握 |
一定期間の経営成績を把握
|
期間 | 一定期間(例:1年間) | 一定時点(例:決算日) |
一定期間(例:1年間)
|
構成 | 営業活動、投資活動、財務活動 | 資産、負債、純資産 | 収益、費用 |
主な内容 | - 営業活動によるキャッシュフロー - 投資活動によるキャッシュフロー - 財務活動によるキャッシュフロー |
- 資産:現金、売掛金、棚卸資産、固定資産など - 負債:買掛金、借入金など - 純資産:資本金、利益剰余金など |
- 収益:売上高など
- 費用:売上原価、販売費および一般管理費など |
特徴 | - 実際の現金の流れを把握 - 企業の短期的な支払い能力を評価 |
- 企業の財産と資金の調達源泉を明らかに - 企業の財務構造を分析 |
- 企業の収益性を評価
- 利益の発生源を分析 |
貸借対照表とは、会計年度の終了日時点で会社が保有する資産・負債・純資産を示した会計書類です。
英語で「Balance Sheet」と言うため、省略して「B/S」と呼ばれています。貸借対照表からは、
といった財務状況がわかります。
損益計算書は、会計年度内の経営成績を示す会計書類です。企業がどれだけの収益を上げ、いくらの費用を使い、どれだけの利益が残ったのかを表します。英語で「Profit and Loss Statement」と言うため、省略して「P/L」と呼ばれています。
損益計算書は、収益・費用・利益の3つで構成されているのが特徴です。利益は以下の5つに分けて記載され、損益計算書を確認することで、本業での利益や、本業以外で得た利益を把握できます。
キャッシュフロー計算書は、以下の3つの要素によって構成されています。
この章では、3つのキャッシュフローが何を示しているのかを解説します。
営業活動によるキャッシュフローは、主に本業の営業活動で生じた資金の増減を表し、本業での収入と支出の差額が記されます。例えば、以下のような取引が含まれます。
営業活動によるキャッシュフローがプラスであれば、本業で十分に利益が上がっていることになり、経営としては順調です。マイナスであれば、本業での利益がなく赤字の状態なので、単価を上げたり収益性の高い商品・サービスの販売に注力したりと、早急に改善が必要です。
投資活動によるキャッシュフローは、投資活動で生じた資金の増減を表し、設備投資による収入と支出の差額が記されます。含まれるのは、以下のような取引です。
設備投資のために、固定資産や有価証券を購入すればマイナスに、固定資産や有価証券を売却した場合はプラスになります。マイナスであれば、企業の成長のために積極的に投資活動をしている状態と言えるでしょう。プラスの場合は、本業での赤字を補ったり、経営を維持するために固定資産や有価証券を売却していると考えられます。
財務活動によるキャッシュフローは、金融機関からの借入や投資家からの出資で生じた資金の増減を表します。含まれるのは、以下のような取引です。
財務活動によるキャッシュフローは、借入や出資を受けた場合はプラスに、その返済や配当金の支払いをした場合はマイナスになります。プラスの場合は、経営維持のために借入をしている、もしくは成長のために借入をしているとも考えられるため、企業の状態を正しく把握するためには内容の確認が必要です。
キャッシュフロー計算書の作り方として、一般的に「直接法」と「間接法」の2つが知られています。この2つの違いは、キャッシュフローにおける営業活動の部分です。したがって、営業活動によるキャッシュフローの中の営業活動の部分(利息の受取・支払、法人税の支払いなどは含まない)の作成方法を知ることで、2つの方法の違いについて理解できます。
まずは直接法による作成の仕方を紹介します。直接法とは、総勘定元帳から必要な項目を集計して作成する方法です。
キャッシュフロー計算書を作成するにあたり、まずは総勘定元帳を用意します。総勘定元帳とは、勘定科目ごとにすべての取引が記載された帳簿です。
まずは収入を把握するために、総勘定元帳から以下の項目を確認します。
上記の項目を集計し、その総額をキャッシュフロー計算書の「営業収入」の欄に記載します。
次に、仕入れによる支出を把握するために、総勘定元帳から以下の項目を確認して集計します。
製造業の場合は、上記の項目に加えて「原材料に関わる現金の支出」の集計も必要です。集計後に、その総額をキャッシュフロー計算書の「原材料または商品の仕入支出」の欄に記載します。
次に、給料や賃金、賞与などの人件費のうち、現金支払い分を集計します。人件費の未払いがある場合は、未払分は計算せず、現金支払分だけを含める点に注意しましょう。集計したら、営業活動によるキャッシュフローの「原材料または商品の仕入支出」の欄に総額を記載します。
最後に営業費の支出を集計するために、損益計算書を準備します。損益計算書の「販売費及び一般管理費」に含まれる項目のうち、総勘定元帳を使って未払分を差し引き、当期に現金で支払った分のみを集計しましょう。その総額を、営業活動によるキャッシュフローの「その他の営業支出」の欄に記載します。
間接法は、損益計算書から必要な項目を集計し、加減などの調整を行ってキャッシュフロー計算書を作成する方法です。この章では、間接法による作成方法を詳しく紹介します。
まずは、損益計算書に記載されている税引前当期純利益を確認します。損益計算書上で「税引前当期純利益」として記載されている金額を、キャッシュフロー計算書では「税金等調整前当期純利益」として記載します。
非資金損益項目とは、現金の増加を伴わない収益や、現金の減少を伴わない費用を指します。減価償却費、貸倒引当金が代表的な項目です。
減価償却費は、損益計算書上では費用として計上されています。しかし、実際にはお金が出ていくわけではないので、「現金の減少を伴わない費用」としてその分の金額を加算します。
貸倒引当金は、受取手形や売掛金が回収できない状態になることに備えて計上する費用です。減価償却費と同様に、貸倒のあった部分を除くため、実際にお金が出ていっているわけではありません。したがって、前期から増えていれば加算し、減少していれば減算して記載しましょう。
損益計算書に以下の項目が計上されている場合は、営業活動外の損益を取り除くために加減調整して記載します。
損益計算書で表示されている売上高や売上原価などは、総額で記されています。したがって、中には現金での取引ではない項目も含まれているため、調整が必要です。
まずは、前期と当期の貸借対照表の以下の項目を見て、それぞれの項目が増加しているか減少しているのかを確認します。
前期と当期の貸借対照表を見比べ、増減を計算して以下のように調整します。
企業は、キャッシュフロー計算書の作成方法を決めるために、まずは直接法・間接法それぞれの特徴を把握する必要があります。
直接法のメリットは、営業活動に関する資金の流れを詳しく把握しやすい点です。企業の営業活動を正確に把握できるため国際会計基準でも推奨され、今後は直接法に統一される流れも出ています。デメリットとしては、作成する際に確認する項目が多く、手間がかかる点が挙げられます。
一方、間接法のメリットは、損益計算書を調整すれば作成可能なので、作成に手間がかからない点です。しかし、取引ごとに記載しないので営業活動が詳しく把握できないというデメリットがあります。
減価償却費は現金の支出を伴わないため、キャッシュフロー計算書には関係ないように思えます。しかし、間接法でキャッシュフロー計算書を作成する場合には、損益計算書の当期純利益を出発点として、現金の増減に影響を与えない項目を調整していくため、減価償却費が登場します。
具体的には、以下のようになります。
損益計算書では費用として計上
キャッシュフロー計算書では加算項目として調整
つまり、減価償却費は、損益計算書上では費用として扱われますが、キャッシュフロー計算書上では 現金の流出がない ため、加算して調整する必要があるのです。
キャッシュフロー計算書(C/F)は、会計期間中の企業のお金の出入りとその根拠を示した会計書類です。企業の経営成績や財務状況を表す財務諸表の1つで、貸借対照表・損益計算書とあわせて「財務三表」と呼ばれます。
キャッシュフロー計算書の作成方法は、「直接法」と「間接法」の2つが代表的です。直接法は、総勘定元帳から必要な項目を集計して作成する方法となり、営業活動に関する資金の流れを詳しく把握できるのがメリットです。しかし、作成に多大な労力を要し、時間がかかってしまうというデメリットがあります。
間接法は、損益計算書から必要な項目を集計し作成する方法のため、手間がかからないのがメリットです。一方、取引ごとに記載しないので営業活動が詳しく把握できないというデメリットがあります。
直接法と間接法は、それぞれにメリットとデメリットがあるため、2つの特徴を把握して、自社に適した作成方法を取り入れましょう。