更新日:2023.06.28
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キャッシュフロー計算書とは、企業の経営成績や財務状況を判断する材料となる重要な会計書類です。しかし、キャッシュフロー計算書の正しい見方や、何が示されているのかを知っている方は少ないのではないでしょうか。
そこで、本記事ではキャッシュフロー計算書の基本的な知識から、ほかの財務諸表との役割の違い、分析方法などを紹介します。経理初心者の方にもわかりやすい内容となっていますので、ぜひ最後までお読みください。
キャッシュフロー計算書とは、企業の資金の流れを示した会計書類を指します。企業に「いくらのお金がどのような理由で入ってきたのか」や、「いくらのお金がどのような理由で出ていったのか」を示します。
キャッシュフロー計算書は、「貸借対照表」「損益計算書」と同様に企業が利害関係者に対して経営成績や財務状況を伝えるために作成する財務諸表の1つです。貸借対照表・損益計算書と合わせて、「財務三表」と呼ばれています。
金融商品取引法が適用される上場企業は、キャッシュフロー計算書の作成義務がありますが、非上場の中小企業や個人事業主には作成義務はありません。しかし、キャッシュフロー計算書によって資金不足の防止や、資金調達の際に活用するため、作成義務がなくとも作る会社は多くあります。
以下の3つの会計書類をあわせて「財務三表」と呼びます。
この章では、上記の3つの書類がそれぞれどのような特徴を持ち、どのような役割を果たしているのかを解説します。
「貸借対照表」は、企業の財務状態を示した会計書類です。企業の資産、負債、純資産が示され、英語で「Balance Sheet(バランスシート)」と言うことから「B/S」とも呼ばれています。
貸借対照表からは、以下の比率がわかります。
自己資本比率とは、返済が必要ない自己資本が全体の資本調達の何%を占めるかを示す数値で、経営の安定性を分析できる指標です。数値が40〜50%以上あれば安心だとされていますが、10%以下だと経営状況が危険だと考えられます。
流動比率は、企業の支払能力を分析できる指標です。一般的には130〜150%あれば支払能力があると考えられ、200%以上なら安心でしょう。100%を切る場合は危険な状態なので、資金繰りの見直しが必要です。
当座比率は、企業の支払能力をより詳細に分析できる指標です。100%以上であれば安全だとされています。これらの3つの比率をそれぞれ確認することで、企業の財務状態を具体的に分析できます。
損益計算書は、企業の経営成績がわかる会計書類です。収益と費用を比較して、その差額である利益が示されています。英語で「Profit and Loss statement」と言い、略称として「P/L」とも呼ばれています。
損益計算書からは、会計期間に会社が費用を何に使い、どれだけ売り上げて、どれくらい儲かったのかという経営成績がわかります。数年分の損益計算書を比較して、事業計画の策定も可能です。
損益計算書からわかる利益は5つで、それぞれ以下のような特徴があります。
キャッシュフロー計算書は、企業の資金状況がわかる会計書類です。英語で「Cash Flow Statement」と言い、その略称で「C/F」とも呼ばれています。
企業の現金・預金などのキャッシュを管理して、増減の原因を表します。営業活動・投資活動・財務活動の3つの区分によってキャッシュの変動を示し、資金状況を把握できるのが特徴です。
会計期間中の利益は損益計算書から読み取れます。しかし、損益計算書上で利益があったとしても、実際にキャッシュが増えているとは限りません。キャッシュフロー計算書があることにより、損益計算書・貸借対照表の2つだけの場合よりも、さらに詳しい経営成績や財務状況を把握できます。
キャッシュフロー計算書は以下の3つの区分によって構成されています。
この章では、キャッシュフロー計算書上のそれぞれの区分で、何が示されているのかを解説します。
「営業活動によるキャッシュフロー」では、主に営業活動による現金の動きが表されます。例えば、以下のような取引が該当します。
営業活動によるキャッシュフローは主に会社の本業の資金状況を表すため、プラスである事が望ましいとされています。プラスの場合は、本業でしっかりと利益を出し、会社に現金を残している状態であるため、経営が順調であると判断できるからです。
マイナスの場合は、利益が出ない商品やサービスの販売や、売り上げに対して現金の回収ができていないといった原因が考えられます。この場合、商品の価格の見直しや、本業以外の投資活動で利益を出すなど、対策を練る必要があるでしょう。
「投資活動によるキャッシュフロー」は、会社の成長のためにどれだけ投資できているかを表します。例えば、以下の項目が該当します。
投資活動によるキャッシュフローは、新たな設備購入や有価証券の購入などの投資を行うとマイナスになり、逆に所有する設備や有価証券を売却した際はプラスになるという特徴があります。投資を行えていない企業は現状維持となっているため、企業の成長のためには積極的な投資が必要です。そのため、投資活動によるキャッシュフローがマイナスになっているのは悪いことではありません。
「財務活動によるキャッシュフロー」からは、会社の資金調達の状況が分かります。投資家から出資を受ける場合や、金融機関から借入れを行った場合に、この財務活動によるキャッシュフローに区分されます。該当するのは、例えば以下のような項目です。
財務活動によるキャッシュフローがプラスだと、投資のために出資を受けている状態や、借入れを行っている状態です。マイナスの場合は、借入金の返済を行っている状態だと考えられます。
「営業活動」「投資活動」「財務活動」の3つのキャッシュフローの数字がプラスかマイナスかを見ることで、企業の経営状況を8つのパターンに分類できます。以下の表から企業の状態や必要な対応などを確認して、参考にしてみてください。
タイプ |
営業CF |
投資CF |
財務CF |
特長 |
安定型 |
+ |
+ |
+ |
本業で十分に利益が出ているが、設備投資を行い資金調達もしている。将来投資を行うために資金を貯めたい企業が採用する。 |
改善型 |
+ |
+ |
ー |
本業と資産売却で得た資金を返済に回している。不採算事業があったり、事業縮小を図りたい企業が、財務内容改善のために採用する。 |
積極型 |
+ |
ー |
+ |
金融機関から資金調達をして積極的に設備投資をしている。 |
健全型 |
+ |
ー |
ー |
本業で十分に利益を出し、設備投資や借入金返済に当てている。堅実的な企業だと考えられる。 |
要注意型 |
ー |
+ |
+ |
本業の赤字を、資産売却と借入金で賄っている。銀行の融資姿勢次第で深刻な状況に陥る。 |
やや注意型 |
ー |
+ |
ー |
本業が赤字で、資産売却によって借入金を返済している。金融機関からの融資が止まった可能性があり、売却できる資産があるうちに、本業の回復が必須。 |
勝負型 |
ー |
ー |
+ |
本業が赤字だが、借入金によって設備投資を行っている。再建中の会社に見られる。 |
事業検討型 |
ー |
ー |
ー |
本業が赤字だが、設備投資を行い借入金返済も行っている。過去の実績はあるが現在は低迷している企業に多く、改善が必要。 |
キャッシュフロー計算書の作り方は、主に2つのパターンがあります。この章では「直接法」と「間接法」での作成方法を紹介します。
直接法は、収入や支出などの現金の流れを、主要な取引ごとに総額で表示する方法です。以下のような取引ごとに現金の増減を把握できるのがポイントです。
直接法で作成する場合、すべての取引を勘定科目ごとに分類した帳簿である「総勘定元帳」を使うと良いでしょう。総勘定元帳からキャッシュフロー計算書の項目に関連する金額をピックアップすることで、効率よく作成できます。
直接法は、キャッシュフローを詳しく把握できる点がメリットで、国際会計基準で推奨されている方法です。しかし、取引ごとのデータが必要なため、集計に手間がかかるのがデメリットです。
間接法は、貸借対照表と損益計算書からキャッシュフロー計算書を作成する方法です。税引前当期純利益から、減価償却費、貸倒引当金の増加額、受取利息、支払利息などのキャッシュに関わる部分を増減して表示します。この方法は営業収入や費用を直接計算する必要がないため、「間接法」と呼ばれています。
貸借対照表と損益計算書から作成が可能となり、細かい費用の計算などが必要なく、手間をかけずに作成できるため、間接法を採用する企業は多くあります。しかし、直接法のように現金の取引を詳細に把握できないのがデメリットです。
キャッシュフロー計算書とは、企業の資金の流れとその根拠を示した会計書類で、「財務三表」の1つです。キャッシュフロー計算書は、損益計算書・貸借対照表の2つの情報に加え、詳細な経営成績や財務状況を把握できます。
キャッシュフロー計算書は、「営業活動」「投資活動」「財務活動」の3つの区分に分けられ、それぞれプラスかマイナスかによって、企業の経営状況を分析できます。
キャッシュフロー計算書を作成する主な方法は、直接法と間接法の2つです。直接法は、手間はかかりますがキャッシュの流れを詳細に把握できるというメリットがあります。間接法は、詳しいキャッシュの流れまでは把握できませんが、効率よく作成でき、多くの企業で採用されています。
キャッシュフロー計算書はすべての企業に作成義務はありませんが、企業の経営分析のために重要な書類です。読み方を正しく把握して、経営に役立てましょう。