更新日:2024.06.02
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配賦とは、複数部門でかかる間接費を一定の基準にもとづいて割り振る処理です。光熱費や人件費などの間接費を配賦すると、各部門の費用を正確に把握できます。しかし「配賦基準の設定方法が分からない」「配賦のやり方が分からない」とお悩みの方は多いのではないでしょうか。
今回の記事では、配賦基準や実施手順を詳しく解説します。配賦を行うメリット・デメリット、効率化するツールも紹介しているので、経理部門の方はぜひ参考にしてください。
配賦とは、複数部門に共通してかかる費用を一定の基準で割り振ることです。具体的には光熱費や人件費などが挙げられ、原価を計算するうえで重要な処理となります。ここでは、配賦の定義・目的、按分との違いを詳しく見ていきましょう。
配賦とは、複数部門でかかる間接費を一定の基準で割り振ることです。企業全体に対して発生する間接費は、部門ごとに正確な金額を割り出すことが困難です。企業独自の基準に沿って配賦を行うことで各部門に間接費用が公平に振り分けられるため、正確な原価の把握が可能となります。なお各部門が負担する割合は、後述する配賦基準に基づいて設定するのが一般的です。
企業が配賦する目的は大きく「各部門における費用負担の差をなくすため」「部門に関わらず企業全体の利益や経費を意識させるため」の2つです。複数部門にかかる間接費を一部の部門だけに割り振ると、費用負担が不公平になります。各部門の原価を正確に導き出すためには、稼働人数や作業量を考慮した基準に沿って配賦を行う必要があります。
また企業が安定した経営や持続的な成長を維持するためには、光熱費や人件費などの間接費も重要なポイントです。従業員全員が企業全体の売上に対してかかった経費を把握することで、生産性や利益率向上につながる施策を検討しやすくなります。
配賦と混同されやすい言葉として、割賦と按分が挙げられます。いずれも企業の経理業務に関わるので、担当者は正確に処理するためにも違いを理解しておくことが大切です。
割賦とは、商品やサービスの代金を複数回に分けて支払うことです。一方で配賦は企業が定めた基準に沿って各部門に間接費を割り振る処理であり、第三者に支払い義務は発生しません。また配賦は金利がかからないのに対して、割賦にはかかるのが一般的です。
按分とは、物やお金を一定の基準に沿って振り分けることです。一方で配賦は振り分けたあとに、各部門に割り振る処理までを指します。つまり原価を計算する際は費用を按分したあとに、各部門に配賦する流れとなります。
配賦は各部門に間接費を公平に割り振る処理です。ここでは、配賦を行う以下2つのメリットを見ていきましょう。
原価計算によって利益を明確にすることで、適切な価格設定や中長期的な経営戦略の策定にも役立ちます。
企業が製品やサービスを提供する際は、直接費に加えて間接費もかかります。配賦では光熱費や人件費などの間接費を各部門に割り振るため、高精度な原価計算が可能です。また各部門の費用が明確になり、正確な利益も導き出せます。
売上に対して利益が少ない場合は、人件費や経費など削減できる箇所はないか検討しなければなりません。各部門が利益を最大化に必要な施策を考えるきっかけとなるため、企業全体の収益性の向上を実現しやすくなります。
配賦は間接費含め、企業全体でどれくらいのコストがかかっているのか可視化できます。従業員に組織の実情を伝えることで、経営状態への関心を高められます。その結果、部門内だけでなく企業全体の利益に対する意識向上につなげることが可能です。またコスト管理やコストダウンに向けた取り組みなど、従業員に主体性を持って業務を遂行してもらえます。
配賦はメリットだけでなく、以下のようなデメリットもあります。リスクも把握したうえで、自社で行うか検討することが大切です。
配賦基準は企業が自由に決められる一方で、従業員全員が納得できるようにするのは困難です。各部門の意見にも耳を傾け、できる限り平等性を担保しましょう。
配賦基準は稼働人数や作業量など、さまざまな観点を考慮したうえで設定します。しかし平等性を保つのが難しく、負担の割合が増える部門が出てきてしまうケースは少なくありません。
明らかに不平等な費用負担は、従業員のモチベーションやエンゲージメントの低下につながる可能性が高いです。配賦基準を設定する際は各部門の意見を聞き、必要に応じて決定に至った根拠もしっかり伝えましょう。
利益が出ている部門でも配賦率によっては負担が増え、赤字に転じてしまうことがあります。配賦率は経費計算に大きな影響を与えるため、稼働人数や作業量などを考慮したうえで慎重に比率を設定しましょう。たとえば売上高が配賦基準となる場合、売り上げが増えるほど経費の負担も大きくなるため注意が必要です。
経理部門の方であれば誰でも対応できるように、あらかじめ配賦基準を明確にしておく必要があります。配賦基準は大きく分けて以下の2つです。
配賦基準は各部門の負担金額を決めるため、原価にも影響を与えます。種類による特徴を押さえたうえで、自社に合った配賦基準を設定しましょう。
部門別配賦は部門ごとに分類し、間接部門でかかった費用を直接部門に割り振る基準です。さらに部門別配賦は以下3つの方法に分けられます。
直接配賦法とは、間接部門でかかった費用をすべて直接部門に割り振る方式です。いくつか直接部門がある場合は、稼働時間や売上などの基準に沿って配賦額を計算します。間接部門は対象外となり、配賦されることはありません。
計算が簡単であるため、担当者の業務負担が抑えられる点がメリットです。ただし間接部門間の配賦は無視するので、他の方式よりも各部門の費用を詳細に把握できません。
相互配賦法とは、間接部門でかかった費用を二段階に分けて割り振る方式です。一次配賦では、すべての部門に費用を割り振ります。二次配賦では、一次配賦で間接部門に割り振った費用を直接部門に配賦します。正確に費用を配賦しやすい一方で、計算が複雑な点がデメリットです。
階梯式配賦法とは、優先度の高い間接部門の費用から順に割り振る方式です。部門費や他部門への用役提供件数などをもとに優先順位を決定します。間接部門同士のやり取りも考慮するため計算過程では配賦先になる場合もありますが、最終的には直接部門にすべて配賦されます。
製品別配賦とは、製造費として計上できない費用を一定の割合で割り振る基準です。製品に対して割り振るのが特徴であり、負担の割合は稼働人数や作業量などを考慮して決定します。製品単位で処理するため部門別の計算が不要となり、作業時間の短縮につながります。製品別配賦は、製品ごとに利益を管理している企業におすすめです。
一般的に配賦は、以下の流れに沿って行います。
配賦は企業が定めた基準に沿って間接費を各部門に割り振るシンプルな処理です。しかし配賦基準によって各部門の負担金額が変わるため、自社の状況を考慮して決定することが大切です。
配賦を行う際に、基準の決定が最も重要となります。配賦基準となる指標や種類を具体的に決めましょう。配賦基準に使用される指標は、稼働人数や稼働時間などさまざまです。配賦基準は各部門の負担額を左右するため、慎重に決めなければなりません。
ただし正確さ・平等さを求めるあまり複雑な配賦基準を設定すると、社内で混乱を招く原因となります。原価計算のミスも起こりやすいため、経理部門であれば誰でも処理できる配賦基準にするのが無難です。
配賦基準を決めたら、部門ごとに配賦率を算出します。配賦率とは、各部門が間接費を負担する割合のことです。たとえば部門A・B・Cで配賦基準を稼働時間とする場合、配賦率は以下のようになります。
部門A |
部門B |
部門C |
合計 |
|
稼働時間 |
60時間 |
30時間 |
10時間 |
100時間 |
配賦率 |
60% |
30% |
10% |
100% |
配賦率の計算が終わったら、各部門が負担する配賦額を算出します。配賦額は「間接費×配賦率」で求めることが可能です。算出した配賦率から間接費100万円を各部門に割り振る場合、以下のようになります。
部門A |
部門B |
部門C |
合計 |
|
配賦率 |
60% |
30% |
10% |
100% |
配賦額 |
60万円 |
30万円 |
10万円 |
100万円 |
稼働時間を配賦基準とする場合は、部門ごとの稼働状況も正確に把握する必要があります。
配賦は時間がかかるため、以下2つの方法によって効率的に行うのがおすすめです。
1つの部署で集計に誤りがあると配賦率にも影響が出てしまうため、計算し直さなければなりません。配賦率と配賦額を手作業で計算するとミスが起こりやすくなるので、ツールの導入を検討しましょう。
すでにExcelを他の業務で使っている企業は、ツールの導入に費用はかかりません。部門数や製品数が少ない場合は、Excelでも配賦率や配賦額の計算が可能です。ただし企業の規模が大きくなると部門数や製品数が増え、間接費の割り振りが複雑になります。Excelでの計算・管理に限界を感じたときは、ERPの導入を検討しましょう。
ERP(Enterprise Resource Planning)とは、企業の経営資源となる「ヒト・モノ・カネ・情報」を一元管理するシステムです。配賦に必要な各部門の売上高や作業量などを簡単に把握できるため、業務効率化につながります。従来は経営資源が別々に管理されており、自社の経営状態を可視化できていませんでした。ERPを導入することで配賦の効率化だけでなく、リアルタイムな経営判断が可能となります。
配賦とは、複数部門にかかる光熱費や人件費を一定の基準で各部門に割り振ることです。各部門の費用負担における平等性を担保することに加え、従業員に企業全体の利益や経費を意識させることを目的としています。また配賦では間接費も経費として加味するため、精度の高い原価計算が可能となります。
その一方で、従業員全員が納得する配賦基準を設定することは難しいです。配賦基準によっては負担が増大し、黒字から赤字に転じてしまう部門が出てくる可能性もあります。そのため各部門の意見も取り入れながら、自社に合った配賦基準を採用しましょう。