更新日:2022.08.17
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近年の経済社会のデジタル化を踏まえ、令和3年度税制改正では電子帳簿保存法が改正されました。
同改正では電子帳簿保存の要件を大幅に緩和した一方、事業の規模を問わず、電子取引を行った場合にその取引情報を電磁的に記録・保存することが義務づけられています。
電子帳簿保存の義務化は事業規模を問わないため、大企業だけでなく中小企業も電子帳簿保存に対応しなければなりません。そこで今回は、中小企業が知っておくべき電子帳簿保存法の基礎知識や、中小企業が行っておきたい対策について解説します。
まず1つ目は、電子的に作成した帳簿書類をデータのまま保存する「電子帳簿等保存」です。
たとえば、会計ソフトなどを使って作成した帳簿書類を、電子データとしてそのまま保存する方法などを指します。
2つ目は、紙で受領・作成した書類を画像データとして保存する「スキャナ保存」です。
専用のスキャナーやデジタルカメラ、スマホのカメラ機能などを使って撮影した書類の画像を、電子データとして保存する方法を指します。
3つ目は、電子的に授受した取引情報をデータで保存する「電子取引」です。
たとえば、自社と取引先の間で、電子メールやクラウドサービスを使った取引を行った場合、その取引情報を電子データとして保存する方法を指します。
国税関係の帳簿書類や電子取引の情報を電子データとして保存する際は、対象となる書類・取引に合わせて、これら3つの保存方式を使い分ける必要があります。
たとえば、仕訳帳や総勘定元帳といった国税関係の帳簿や、貸借対照表・損益計算書などの決算関係書類、自社で作成した見積書や契約書、請求書などの書類の写しなどは「電子帳簿等保存」、取引相手などから受領した紙の見積書や契約書などは「スキャナ保存」、電子メール取引やクラウド取引などは「電子取引」で、それぞれ保存することになります。
電子帳簿保存法は1998年に制定されて以降、時代に合わせて適宜見直しが行われてきましたが、令和3年度税制改正では、より抜本的な見直しが実施されました。
中でも特に中小企業に大きな影響をもたらすのが、電子取引に関する電子保存の義務化です。
これまで、電子帳簿保存法に基づいた電子保存の実行は任意であり、国税関係の帳簿書類や電子取引の情報を電子保存するかどうかは企業の選択に委ねられていました。
そのため、中小企業では従来通り、紙で書類を保存していたところも少なくないのですが、令和3年度税制改正により、2022年1月からは、所得税(源泉徴収に係る所得税を除く)および法人税に係る保存義務者が電子取引を行った場合、その電子取引の取引情報に係る記録の電子保存が義務づけられることになりました。[注1]
[注1]国税庁|電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/pdf/0021006-031_03.pdf
つまり、確定申告によって所得税や法人税を申告し、納税している事業主は、事業の規模に関係なく、電子取引を行った場合にその取引情報を電子データとして保存しなければなりません。
なお、電子取引に係る情報を電子保存するためには、「記録の真実性及び可視性等の確保に必要となる所定の要件」を満たす方法で保存する必要があります。
ここでいう「所定の要件」とは、具体的に以下のようなものを指します。[注2]
[注2]国税庁|Ⅱ 適用要件【基本的事項】
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/07denshi/02.htm
●電子計算機処理システムの概要を記載した書類の備付け(自社開発のプログラムを使用する場合)
●見読可能装置(14インチ以上カラーディスプレイ等)の備付け等
●検索機能の確保
●以下いずれかの措置を行う
1.タイムスタンプが付された後の授受
2.授受後、遅滞なくタイムスタンプを押す
3.データの訂正削除を行った場合にその記録が残るシステムまたは訂正削除ができないシステムを利用
4.訂正削除の防止に関する事務処理規程の備付け
これらの要件を満たさない方法で保存していた場合、青色申告の承認の取消対象になる可能性があります。
ただ、2021年11月に国税庁が追加した補足説明では、従来と同様に、その取引が正しく記帳されて申告にも反映されており、かつ保存すべき取引情報の内容が書面などから確認できる場合は、特別な理由がない限り、直ちに青色申告の承認が取り消されたり、金銭の支出がなかったものと判断されたりするものではない、としています。[注3]
[注3]国税庁|お問合せの多いご質問(令和3年11月)
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/pdf/0021010-200.pdf
[注4]国税庁| 電子帳簿保存法が改正されました
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/pdf/0021012-095_03.pdf
猶予期間中は、電子取引を行った場合でも、引き続き紙での保存も容認するとしています。
ただ、猶予期間はわずか2年と短く、近い将来、電子取引の電子保存が義務化されることに変わりはありません。
現時点で所定の要件を満たす電子保存に対応できない場合は、2年間の猶予期間中に何らかの対策を行う必要があります。