更新日:2025.04.30
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電子帳簿保存法への対応に悩み「デメリットしかない」と感じている経理担当者や個人事業主が増えています。とくに、2024年1月から電子取引データの保存が完全義務化され、もはや対応は避けられない状況となりました。
システム導入コストや業務フローの変更など、短期的には確かに負担が大きく感じられますが、長期的な視点では業務効率化やコスト削減などのメリットも少なくありません。しかし、対応しない状態が続いてしまえば、税務調査での指摘や青色申告の承認取消しなど、深刻なリスクも生じる可能性があります。
本記事では、電子帳簿保存法のメリット・デメリットと、効率的な対応方法について解説します。
電子帳簿保存法は、税務関連の帳簿や書類(請求書や領収書、契約書など)を電子データとして保存することを定めた法律です。この法律によって、従来は紙での保存が原則であった税務書類を、一定の要件を満たせば電子データで保存できるようになりました。
電子帳簿保存法は、おもに以下の3つの区分に分けられます。
2024年1月からは「電子取引」で受け取った書類(電子メールの請求書など)を電子データのまま保存することが全事業者に義務付けられました。以前は紙に印刷しての保存も認められていましたが、現在はシステムなどを使って電子データの状態で保存する必要があります。
また、電子データを保存する際には「真実性」と「可視性」の確保が求められ、タイムスタンプの付与や検索機能の実装など、一定の要件を満たすことが必要です。
電子帳簿保存法への対応で、初期段階では確かに導入コストや業務フローの変更など負担を感じる部分もありますが、長期的には事務作業の効率化とコスト削減が実現可能です。
また、法的な要件を満たしながらも、業務改善につながる多くのメリットがあるため、単なる法令対応以上の価値があるといえます。
ここでは、電子帳簿保存法への対応で得られる具体的なメリットについて解説します。
電子データでの保存で、取引日付や金額、取引先名などで瞬時に検索が可能です。紙の書類だと数分から数時間かかっていた書類探しが数秒で完了するため、税務調査はもちろん、日常業務でも大幅な時間短縮が実現します。
また、複数の条件を組み合わせた検索も可能なため「特定の期間の特定の取引先との取引だけを抽出する」といった複雑な検索も一瞬で完了します。これにより、取引分析や経費の見直しも容易になり、経営判断のスピードアップにもつながるでしょう。
電子データはクラウドサービスなどを利用して保存することで、物理的な災害からデータを守れます。地震や火災、水害などで紙の書類が失われるリスクが高い日本では、重要な取引記録を安全に保管できることは大きなメリットです。
また、適切なバックアップ体制を整えることで、システム障害時にもデータを復旧できるため、事業継続性が高まります。
さらに、紙の書類では避けられない経年劣化や変色の心配もなく、法定保存期間である7年間(法人の場合)にわたって鮮明な状態での保存が可能です。
電子帳簿保存法の要件にそったデータ保存をおこなうことで、税務調査時の対応がスムーズになります。
調査官からの質問に対して、必要な証憑をすぐに表示できるため、調査の進行が早くなり、調査期間の短縮につながる可能性があります。紙の書類を探し回る時間が節約できるだけではなく、調査官の待ち時間も減らせるため、全体として効率的な調査対応が可能です。
また、データの真実性が電子的に担保されているため「この書類は改ざんされていないか」という疑惑が生じにくく、より信頼性の高い形で調査に対応できます。タイムスタンプや訂正履歴の記録で、データの信頼性が確保されているため、取引の正当性を客観的に証明しやすいでしょう。
電子帳簿保存法は、導入初期段階で事業者が強くデメリットを感じるため「電子帳簿保存法はデメリットしかない」といった印象を与えてしまうことがあります。ただし、これらのデメリットは短期的な視点や導入初期段階の課題が中心であり、長期的に見ると効率化やコスト削減などのメリットが上回ることが多いです。
ここでは、電子帳簿保存法が「デメリットしかない」といわれるおもな理由について解説します。
とくに中小企業や個人事業主は、システム導入の初期費用や月額利用料などのランニングコストが大きな負担です。専用システムの導入には数十万〜数百万円のコストがかかることもあり、経営資源の限られた事業者にとっては大きな投資です。
また、専門知識を持つ人材の確保や教育にもコストがかかります。電子帳簿保存法の要件を理解して、適切にシステムを運用できる人材を育成するための時間と費用は、とくに小規模事業者には重い負担となる可能性があります。
タイムスタンプの付与や訂正・削除履歴の保存、検索機能の確保など、技術的に複雑な要件を満たす必要があり、これらへの対応が煩雑で理解しづらいと感じる事業者が多いです。
また、法改正によって要件が変わることもあるため、常に最新の情報を把握し、対応し続ける必要があることも負担となります。2024年の改正でも要件の一部緩和が実施されましたが、こうした変更への素早い対応は容易ではありません。
長年紙ベースで運用してきた企業には、電子データ管理への移行は業務プロセス全体の見直しを迫られ、社内の混乱や抵抗を招きやすい問題があります。「今までの方法で問題なく運用できていたのに」という声も少なくなく、とくにベテラン社員からの抵抗が強いケースもあります。
また、取引先との関係でも、電子データでのやり取りに対応していない相手先がある場合、二重管理が必要になるなど、かえって業務が複雑化するかもしれません。完全なペーパーレス化が難しい現状では、紙と電子の混在による非効率さが生じることもあります。
電子帳簿保存法への対応を検討する際は、単なる法令遵守の観点だけではなく、経営戦略としての視点が重要です。
2024年1月から電子取引データの電子保存が義務化された現在では、ほとんどの事業者にとって「対応するかどうか」ではなく「どのように効率的に対応するか」が問われています。電子帳簿保存法への対応は避けられない流れであり、これを機に業務全体のデジタル化と効率化を推進する好機と捉える姿勢が必要です。
ここでは、電子帳簿保存法への対応を検討する際のポイントについて解説します。
電子帳簿保存法の対応を検討する際は、まず自社がどの程度電子取引をおこなっているかの把握が重要です。現代のビジネスでは、ほとんどの企業が何らかの形で電子取引をおこなっているため、義務化の影響を受ける可能性があります。
電子メールでの請求書のやり取りやクラウドサービスからのダウンロードなど、すでに電子的におこなわれている取引があれば、2024年1月からの義務化に合わせて対応が必須です。
電子帳簿保存法対応のためのシステム導入コストと、導入後に得られる業務効率化のメリットの比較検討が重要です。初期投資が大きいように感じられても、長期的な視点では紙の保管コストや書類検索の人件費などが削減できるケースが多いため、総合的に判断する必要があります。
短期的には導入コストがかかるものの、長期的には検索性の向上や保管スペースの削減、人的ミスの減少などによる効率化が期待できます。
電子帳簿保存法への対応は一度にすべてを変更するのではなく、段階的な導入がポイントです。急激な変更は混乱を招きやすいため、計画的に少しずつ移行していくアプローチが効果的です。
まずは電子取引データの保存からはじめて、その後スキャナ保存や電子帳簿等保存に拡大していくなど、優先順位をつけた計画を立てましょう。
電子帳簿保存法対応サービスの導入は、ほとんどの事業者が検討すべき重要な課題です。電子帳簿保存法対応サービスの導入で、法的義務に対応できるだけではなく、業務効率化の実現や長期的コストの削減も可能です。
適切なシステム・サービスを選ぶ際は、電子帳簿保存法への対応はもちろん、自社の規模や業種との適合性、既存の会計ソフトとの連携性なども確認しましょう。とくに、中小企業や個人事業主の場合は、コストパフォーマンスの高いクラウドサービスの活用がおすすめです。
多くのサービスでは無料トライアルが提供されているため、実際に使用してみて操作感や機能を確認することも選定の参考になります。
本記事では、電子帳簿保存法のメリットとデメリット、効率的な対応方法について解説しました。
電子帳簿保存法は「デメリットしかない」と思われがちですが、書類の迅速な検索やデータ消失リスクの軽減、税務調査対応の円滑化など多くのメリットがあります。
導入・運用コストの負担や複雑な法要件への対応など短期的なデメリットはありますが、適切な導入計画とサービス選定でこれらの問題は最小化できます。自社の電子取引状況を把握して、コストと効率のバランスを考慮した段階的な導入計画を立てましょう。
また、専門サービスも積極的に活用して、法令対応の負担を軽減しながら業務効率化も実現できるような工夫が大切です。電子帳簿保存法への対応は、単なる法令遵守にとどまらず、デジタル化によるビジネス変革の絶好の機会と捉えることをおすすめします。